第三話-復活の王-
玉座には、ボサボサ茶髪の男が生気の無い顔で座っていた。いや、座っているというよりも、椅子に身を投げ出している感じだ。まさに無気力。原因は想像出来なくもないが…
「はぁ… 見ての通り、あれがうちの王だ。くれぐれも口外無用で頼むぞ」
と老兵士が言う。なるほど、これを知らない国民や部下たちの手前、敬意を払ってはいたが、この隔離された部屋では無礼講というわけだ。もとより、王自身は無関係。勝手にやってろって思っているのかな。
「おい、コルナーク! せめて客人に挨拶くらいせんか! お前の待ち人かもしれんのだぞ!」
(王の名前はコルナークというらしい。そういえば、ニアの父親の名前は聞いてなかったな。というか、呼び捨てですか…)
「まったく… あぁ、驚かせてすまんな。俺はあいつの伯父でな。兵士長のシーザインだ」
あらためて挨拶をされる。その表情からは長年の苦労が伺える。
「では、あの王が20年前に流刑島に来た青年で間違いないんですね?」
王にも聞こえるように、わざとらしく大きな声で聞く。明らかに王がピクリと動き、こちらに興味を示す。今度は王に向かって話す。
「彼女は既に亡くなっている。しかし、娘がいる。あなた方の娘は、貴方に会うために下層へ降りて来ている」
ドダダダッと勢いよく王が駆け寄り、俺の両肩を力強く掴む。そのあまりの勢いに、部屋の従者たちが腰を抜かす。シーザインも目を見開いて固まっている。
「し… んだのか… 彼女は、やはり… 娘、娘がいたのか? 俺の、俺たちの!?」
久しぶりに言葉を発するのか、いまいちぎこちない。しかし、その想いは本物のようだ。
前王の命令により引き離された二人。時期王として、これ以上自由にはさせられないという判断だった。しかし、あまりにもタイミングが悪かった。妃も自分が選んで与えると強引に引き離す。いつか必ず立派な王になり君を妃として迎え入れる。そう言い残して来た。なのに、王はそれを断固として認めず、今まで自由にしてきた変わりに今後は全て自身の思い通りに動くように命じたのだ。それでも諦めなかった。自分が王位に就けば、その時には全てを変えられるはずだと希望を抱いて努力した。しかし、前王は歪んでいた。死の間際に、残る魔力の全てを用いて国の出入口を封印したのだ。コルナークは土や金の魔法ではなく、風の魔法を持って生まれた。自分には封印の解除は出来ない。もう二度とここから出られないとわかったとたんに、生きる希望を失ってしまったのだった。今回の俺の侵入も、もはや国ごと自分のことも滅ぼしてほしいとさえ思っていた。20年という年月は、待たせるには長過ぎたと…
全てを語り終え涙が枯れ果てた頃、そこにいたのはさっきまでの無気力な中年ではなく、希望に目を輝かせた王だった。
「シーザインよ、娘を迎えに行くぞ!」




