第一話-単独行動-
拝啓 向暑の候。親愛なる皆様、少し思うところがありまして、今後は単独行動をさせて頂きます。なるべく、ご迷惑をかけぬよう動きますので、ご安心ください。敬具
そう書き置きを残して、俺は独り旅立った。彼らなら、四国同盟と他二国の壊滅もうまく情報を操作して、円満の大陸統一を果たすだろう。だが、一気に同レベルまで強くなってしまった俺の存在は、なかなかに扱いにくいだろう。なんなら邪魔にすらなるかもしれない。何しろ国を潰した張本人なのだ。敵対するつもりはもちろんないが、今、共にいるのは得策ではないと勝手に判断してしまった。
(やっぱりちゃんと話し合うべきだったよな…)
国を滅ぼすという大それたことをやってしまった。それに対しての罪悪感と、それを可能にした力への恐怖と興奮が混雑して、正常な判断が出来ていなかったかもしれない。しかし、もう遅いだろう。
「前向きに行くぞ!」
最初の目的地はゼモニアだ。魔力残量は十分ある。比較的に距離も近い。ニアのためにも、今後のためにも、最初に接触しておきたかった。
「すごいな…」
近くまで来た俺は、離れ小島に座りゼモニアの国を確認する。絶景である。切り立った岩肌、狭い崖、まるで剣山のような岩山がいくつも連なっている。その岩山たちが塊となって浮いているのだ。
(岩窟と称されるわけだ。それにしても入り口は何処だ?)
入り口を閉ざしたとは聞いていたが、まさか入り口は一ヶ所で外から確認出来ないとか? 外周全てを確認していたら、いくらなんでも魔力が足りなくなってしまう。ひとまず、比較的なだらかな場所まで飛んで降り立つ。なだらかには見えたが、それは他の場所と比べてであり、実際はなかなかの急斜面。それでもなんとか体を固定して休憩をとる。
(ふう… 崖の底に入り口が、ってわけでもなさそうだな… いや、水の供給のために川を引き入れているはず… だけど、それをこの広さから探すとなると…)
正確な地図でもあれば、アタリをつけて探索も出来るが、一からとなるとやはり時間がかかりすぎる。
(時間と魔力を考えると、やっぱ一番確実でコスパいいのはこれだよな~)
ひときわ大きな空間を作り出す。各10mくらいの立方体となり、岩肌を通り抜ける。岩盤の厚さを調べ、薄い場所を見つけたらそのまま削り取る寸法だ。このまま中心に向かって削る方法もあるが、鎖国中の国にテキトーな穴を空けるわけにはいかない。なるべく修復が容易い場所を狙いたいのだ。更に大きく広げて、そのまま移動を開始する。魔法を発動したまま動けば、おそらく中からも丸わかり。侵入した時点で発見され、なんなら攻撃されるだろう。しかし、元々接触する気は満々だ。自分以上の禁呪の使い手でもいないかぎり、攻撃はだいたい防げるだろう。
(以前なら、こんな大雑把な作戦で動いたりしなかったよな… 力を持つっていうのは、やっぱり危険だなぁ…)
自分の変化が少し怖くなった今日この頃。そう思えるうちは大丈夫と自分に言い聞かせるのであった。




