第七話-死都-
(今なら出来るかもしれない)
見える範囲ギリギリの場所を指定して空間を圧縮し、超速移動する。これを繰り返せば、遠方へも短時間で移動可能だ。幸い、消費される大量の魔力もたっぷり補給してある。
(ウッ…)
立ち眩みがして膝をつく。魔力は問題なくとも、それを扱う俺の体が追い付いていない。
(体力回復や身体能力向上はさすがに無理か…)
少しの休憩を取り、ミセラモリシアへと向かう。
町には一時間足らずで到着した。しかし、あまりの悪臭に顔を覆う。奴隷とネクロマンサー… 嫌な予感しかしない組み合わせだとは思っていた。そして、予感は的中する。ファルサクルナの裏町の比ではない。完全な廃墟の中に、あちこちに死体が転がっているのだ。
(これが国か?)
町に入って数分経つが、まだ生きた人間に出会えていない。本来は入り口にいるはずの門番すらいなかった。町の中央には、廃墟街とは思えない立派な城がある。もうさっさとあそこまで行ってしまおう。そう思った時、がさりと音がした。子供だ。食べ物がないかと漁っていたようだ。こちらに気づき逃げる少年を、空間魔法で閉じ込めて足止めする。少しでも情報が欲しい。
「なんだこれ? だせよ!」
と見えない壁をドンドンと叩いて叫ぶ。怯える少年をを、食べ物を渡すから話を聞かせてくれと宥めてお願いをした。
「旅の… 人なの? そん…な人いる…んだ…」
昼飯にと持ってきたパンと肉に勢いよくかぶりつく。水筒の水も一気に飲み干した。
「かーっ!うめー! おっちゃん、ありがとな!」
おっちゃん… 軽くショックを受ける。
「つーか、生きてる人って久しぶりに見たよ。最近は城の連中がたまに交換に来るくらいだからさ」
なに? 何を言っているんだ? 交換? 何を?生きてる人は久しぶり? いったいどんな生活を送っているんだ?
詳しく話を聞くと、この国は元々酷くはあったが、世代交代した辺りから急激に悪化して、財政難に食糧難、治安の悪化が加速と、現在は見ての通りの壊滅状態。王は町を放棄。愚王の世話のための人数確保に、城のネクロマンサーが死体を操ってなんとかしているらしい。そして、死体に限界がくると新しいものと交換しにくるそうだ。
「どこかには生きてる人もいるかもだけど、こんな状況じゃあ一人の方が安心して生きられるよ」
生まれた時には母親しかおらず、その母も病でずいぶん前に亡くなり、その遺体はネクロマンサーが使役して持ち去ったらしい。そして、名前を呼ばれることもなくなってしまい、自分の名前すら忘れてしまったとのことだ。少年は平然とした顔で話す。この絶望的な状況が日常であることに慣れてしまっている。俺は人間の順応能力に恐怖した。同時に怒りも込み上げる。しかし、それを抑え冷静に考えようと大きく深呼吸をする。
(少年が日々食糧探して歩いても、生存者が確認出来ない、か。城の中もどんな状況なのか… つーか、こんな有り様でも従わなきゃならないほどの王なのか?)
「少年、今日一日、町の外に出ていてくれないか。今からちょっと、すごく暴れると思うから」
「ふーん。別に巻き込まれてもいいんだけどさ~」
「そんなことは二度と言うな!」
強い口調で叱る。こんな理不尽を素直に受け入れてやる必要なんてないんだ。
「終わったら、美味いものいっぱい食わせてやるよ。楽しみに待ってな!」
そう言い残して、俺は城へと向かって行った。少年の笑顔が眩しかった。




