第六話-魔王誕生-
「おやおや、こんな所でどうしました? 旅の人」
しまった。いつの間にか魔法が解けていた。姿を見られた。いや、よく考えれば別に問題はないか。うっかり道を間違った風を装おう。
「ああ、よかった。近道をしようと思ったら道に迷ってしまって…」
「そうでしたか。では、私がご案内いたしましょう。いやはや、このような場所をお見せしてしまって申し訳ありません」
目を大きく見開いた、生気溢れる体の大きな男。俺の前を歩き表街へと案内しながら話しかけてくる。
「あの者たちはね、誇り高き神の子孫という身でありながら、神への不敬を犯しましてね。なので、こちらへと送られたわけです。他の国であれば君主への反抗は追放か、悪くすれば死罪なのでしょう? しかしながら、我々は同じ神の子として生まれた家族同然。たとえ罪を犯しても、それでも同じ街の中にいてほしいのです。同じ選ばれた人間なのですから」
言ってることは人権を守っている風ではある。しかし…
「私は他国の人間。選ばれた者ではないのが残念ですね…」
と思ってもないことを言ってみる。すると
「ご安心ください!」
とこちらに振り返り、さらに目を大きく見開いて喋る。
「我が国に入信なさいませ。直ぐに養子縁組、もしくは婿入りの段取りを組ませていただきます! さすれば貴方も我が国の一員。偉大なる神の子孫となれるのです!」
なんか、だんだん胡散臭くなってきた。
「あの、ちなみにさっきの家族は何をしたんですか? 私は、まだ何も知らないので。うっかり失敗するのは怖いので…」
「彼らはね、神への感謝を怠ったのです。我らは神によって繁栄させていただいております。なので、神への感謝は当然。それを怠るなんて言語道断!」
「あの、具体的には…」
「お布施ですよ。当然の行為です。神への感謝を分かりやすく形に示せますから」
「感謝の気持ちを金で示せと。神は金で人を判断するのか?」
話しているうちに表街へと出ていた。だが、回りも気にせず俺たちは話を続ける。
「無論、そうではありません。しかし、我らが神の教えは、未だ世界に浸透しておりません。神の言葉を送り届けるのが我らの務め。世界をひとつにし平和へと導く我らの運営のためには…」
「お前らの神とやらは神官どもの愚行も見て見ぬふりかよ! 国民を見捨てたか! とんだ全能ぶりだな!!」
思わず声を荒げる。神官が目に見えて苛つき出した。兵士も集まってくる。
「旅の人、いい加減になさい。今なら神もお許しに…」
この期に及んで神の名を出す神官に、俺は完全にキレた。もしかしたらと、少し期待していたんだ。ほんとに神へと通じているなら、俺をこの世界に呼んだだろう神にも会えるかもしれないと…
「お前、もう黙れ」
そう言って、男の頭に向かって手を掲げた。次の瞬間、男の頭部が消えた。頭を失った首から血が噴水のように噴き上がる。
「さぞかし裕福な食生活だったんだろうな。血圧が高過ぎだ」
それを見て向かってくる兵士も次々に消滅する。街の人々の悲鳴が木霊する。
(ん。還元吸収はうまく機能してるみたいだな)
魔法を発動した右手を見ながら確認する。空間の中に入ったものを分解し、魔力へと変換し、本人へと流れるプログラム。ロゼクスと共同開発したシステムだ。
「よし、滅ぼすか!」
還元された魔力を元に空間を拡大して取り込む。そうして、さらに還元吸収した魔力を元に、もうひとつ増やしたり、さらに大きな空間を… と城へと向かいながら街を消して歩く。隊列を組んで襲い掛かる兵も、距離を取って撃たれる魔法や弓も、道を阻む巨大な門も、全てを削り取り、飲み込み、自分の魔力へと変えていく。
(予想通りの結果だ。いや予想以上だ。禁呪になるわけだ。カジャの炎の出番すらない)
もう罪悪感はなかった。ただただ、この魔法の威力にうち震えていた。
「神よ! 存在るなら現れてみろ!」
悲鳴の中で俺は叫んだ。
二時間後、ファルサクルナは静かに壊滅した。偽神国家壊滅。後に、魔王カルム最初の功績として語られる事件である。




