第五話-潜入-
宗教国家と奴隷国家、地球でも白い目で見られそうな国だな。しかし、噂と真実は必ずしも同じとはかぎらない。自分の目で確かめたいという好奇心と、能力の実戦運用を兼ねて、潜入を進言した。
「どうですかね? いろいろ試したいことがあるし、最悪、カジャの炎を使えば逃走も容易そうですし…」
一同、渋い顔をする。やはり入国は困難なのだろうか?
「いや、入国は簡単だ。普通に入れるし出れる。ただ、俺たちはあの国が嫌いでしょうがない。近づきたくもない。なんなら、ここから炎を撃ち込んで燃やし尽くしてやりたいくらいだ」
そこまで酷い国なのか…
「何かあっても助けは期待するな。俺らは近寄らないし、手助けするにも下手をすればお前ごと焼いてしまうからな。とりあえず、自己責任で行ってこい」
それから準備を調えて、出発の手続きを取った。手始めに、神の国ファルサクルナへとやって来た。一応は近代国家っぽいので、長期滞在することになった場合を想定してだ。近くまでニアに送ってもらう。
「帰りは大丈夫?」
と聞く彼女に
「大丈夫。帰りは自分でなんとか出来そうだ」
と返す。実際、空間転移魔法は成功していた。距離は長いが、アレがうまく機能すればいけるはずだ。
「じゃあいってくる」
そう言って別れ、街へと向かう。街道が綺麗に整備されている。まるで参道のようだ。
というか、参道だった。街の入口は例えるなら鳥居のようで、門番の代わりに神官が立っていて、街の案内図を渡される。参拝やお祓い、入信手続きの施設、土産屋など、国全体がひとつの神社で観光名所のようだ。パンフレットに添って街を回る。街の人は、悪く言えば目がイッているが、みな活気に溢れている。
(これだけなら、それほど嫌な感じはしないけど… 文化の違いかな? こんな感じなら、戦闘にはならないか)
ふと、パンフレットに無い道が目に入る。パンフをよく見ると、不自然な空間がいくつかあることに気づく。気になった俺は、空間魔法で自分の周囲の屈折率を変化させ風景に溶け込み、その不自然な空間への侵入を試みる。
「ここは…!?」
そこはスラム街だった。表のきらびやかな建造物とは真逆の廃墟。人々もボロボロで目に生気がない。
(これが真実ってやつか…)
裏町を探索していると、違う入口から神官と兵士と、親子だろう若い夫婦と5才くらいの少年が入ってきた。なにやら揉めている。神官が、すがる夫婦を兵士が蹴り飛ばす。
(胸糞悪いもん見てしまったな)
背を向けて立ち去ろうとすると、そこには別の神官がいた。




