第二話-魔法開発-
実験開始三日目、もはや会話は出来なかった。ナノマシンの一斉起動による魔力暴走。体内から、いや血液から与えられる激痛という未経験の痛みに、会話の余裕どころか耐えることすらままならなかった。血液は全身を止めどなく流れ、容赦なく俺を痛め続けた。脇腹から、脳から、生殖器から… 俺は魔力と引き換えに廃人になるかもしれないと覚悟すらした。
「いやぁ、よく耐えましたね」
およそ半日、鎮痛剤すら効果が全く失われた頃、やっと暴走は収まり、そしてそこから丸一日頃休息を経て、俺は容器の中から解放された。
「魔法、使えそうですか?」
目をつぶり両腕を広げて自分の魔力を探る。
「自分の中に魔力があるのはたしかに感じられますね。ただ、肝心のどんな魔法が使えるのかはやっぱりわからなくて…」
「というよりは、何が出来るかが決まっていないのかもしれませんね。禁呪は未知ですから…」
そこから基本的な魔力操作を学び、城にある転移装置の解析と発動などを試す。そして自分オリジナルの魔法の開発へと移行する。と一口に言っても、ここまでに更に数日を要していた。
「あれからいろいろ考えてみたんです。空間魔法の原理、効果とその範囲、理論と現実の矛盾点など」
「ほう。空間魔法で真っ先に浮かぶ強そうなやつというと、空間をねじ曲げて攻撃を相手に返す、などですが?」
「そういうのも考えてみたんです。例えば自分の周りを球体で覆って、そこを通り抜けるものを別の場所に出す。その場合、同じ球体を造り、その『内側』に出現させないと物質の存在に矛盾が生じます」
「!? なるほど。球面で切り取られた空間が、違う形の面から出現するのは確かに無理があるね」
「立方体にした場合は角の部分で矛盾が起きます。霧状の空間も考えたんですが、理論がはっきりしないものを式には出来なくて…」
「化学式やプログラミング言語で簡略化や、より詳細な命令が出来るようになったけど、逆にあやふやだった部分もきっちりしないといけなくなったわけだ」
「それに、俺自身の魔力は弱いので、あまり大きな魔法は使えそうにないですし。でも、その試行錯誤のおかげで通常あり得ないモノを創ることか出来ましたよ。見てください」
俺は掌を掲げ、その上に立方体を出した。
「これは?」
「虚数空間と呼ばれるものです。ここは、この世界とは異なる時空間に存在しています。見えない知らない世界ですが、数学上は存在していて式では表せる世界です。試したら出来ました。俺自体の魔力は弱いんで今は箱しか作れませんが、ここに、例えばカジャ王の炎を入れれば、自由に取り出せて使う事が出来ます。空間は俺の魔力量が増えれば数を増やしたり拡大していけます!」
「他人の魔法を利用するわけか。なんならここに敵そのものを入れたり出来ないか?」
「いいですね! でも、ただ閉じ込めるのも勿体ない… これ、俺の胃袋に出来ないかな…?」
「どういうことだい?」
「この空間に入ったモノを消化して魔力に返還して吸収出来ないかと思って」
「物質の分解とエネルギーへの返還だね。なるべく分解は省エネにしないと効率が悪い。いくつか式を考えて考察していこう」
初めて使う魔法に、時間も忘れて研究にのめり込んでいた。それから二日後、様子を見に来たニアとルーベロッサたちに、空腹で倒れているところを発見されることとなる。俺たち二人は命の恩人である彼女らに頭が上がらなくなってしまうのだった。




