第八話-それぞれの決意-
とんでもない内容だった…
皆、呆然、愕然、放心している。
「とんでもねぇっす…」
「やべぇっしょ… こんなの…」
「ひっく… ぐすっ…」
「なによ… これ…」
「これが… そうなのか…」
それぞれ、心を落ち着かせるので精一杯らしい。俺もそうだ。まだ混乱している。これは、つまり…
「ここは月ってことか? そして、この原因は地球人類? 消された歴史?」
オフェロニス王が「うむ」と呟く。
「おい! ジジイ!!」
一人、カジャ王が怒りを顕にしていた。
「どういうことだ!今まで見せてきたもんと、だいぶ内容が濃くなってんじゃねーかよっ!」
そうだ。彼らは既に見ていたのだ。なのに俺たちと同じ反応をしていた。言葉の内容から、今までは情報の上澄みだけ教えられていたようだ。
「情報だけ持っていてもな、何も進展せんのだよ。それどころか、大した力も無いくせに張り切って、取り返しのつかない失敗をする者もいた。だから、全てを見せるには時期を選んだのだよ」
「俺が失敗するとでも?」
「お前たちだけでは無理だった。だから今なのだよ」
二人がこちらを見る。それを見て、全員が俺を見る。
「俺?」
「ああ、そうだ。この世界が元の星へと帰還するには位置情報が必須。地球の情報と技術が必要だ」
「いや、いやいや、地球の位置情報なんてまったくわからないですよ? そんなのどうやって…」
「君の魔力を解放する!」
ロゼクス王子が目を見開いて、俺の両肩に手を乗せて話す。
「君は禁呪の、空間魔法のナノマシンを保有している。その封印を解く。私が鍵を開く!」
「空間魔法を用いれば、可能性が出てくる。この星も寿命が近い。最後かもしれない、この上ないチャンスなのだ。頼めるか? 地球のお方」
これが俺の役割というものなのか? いきなり壮大になりすぎだろ。冗談じゃない。だけど…
だけど、やらないわけにはいかないじゃないか。魔法が使えるなら使ってみたい。その力で救える人を救ってあげたい。もう、目の前で誰かを失うのは勘弁なんだよ!
「よろしく、お願いします!」
「よい返事じゃ。さて、ではカジャよ、こっちゃこい」
「ん? なんだよ?」
オフェロニス王がカジャ王を体の近くに呼びつける。
「いやな、記憶だけじゃ全ては継承しきれんからの。それに、失敗した時の対策も立てんといかんし」
「失敗前提で話しを進めんなよ」
カジャ王がちょっとイラつく。
「そういうとこだなぁ。お前、自分が人柱になってなんとかしよう、とかしかねんし」
カジャ王がギクリとする。傍若無人で横柄な態度をとってはいるが、この人は人の上に立って然るべき人物なのだ。
「それに、私の寿命もさすがにそろそろでな。というわけで、お前に全てを渡そうと思ってな。ちょうどよいタイミングだろぅ」
「待て待て! 全て渡すってつまりはよ!」
「うむ。今日が私の命日になるの。ちゃんと墓参りしろよ?」
「ふっざけんな!勝手に決めんな!まだ生きてろよ!」
他の魔王たちも一緒に抗議する。しかし
「ありがとな。しかし、ほんとに寿命が来そうでなぁ… 頼むから、お前たちに託させてくれないか? 年寄りの最後の我が儘聞いておくれ」
その後、四人だけ王の間に残し外に出た。しばらくして出てきた魔王たちと共にカジャの城へと戻った。彼らに涙はなかった。
「爺さんは俺の中にいる。想いも野心も善行も悪行も、全部引き継いでやる」
そう意思表明したカジャの背中は、少し大きくなって見えた。




