第一話-魔界への降下-
斯くして、共に旅立つことになった俺とニア。島の端に立ち下層を見下ろす。
「何処がモルスメトスだ?」
下層一巨大な大陸モルスメトス。そこにいるというカジャという名の『協力者』を探さねばならない。だが、途中で移動する島に寄り道になったため、何処が本来の目的地だったかわからない。
「モルスメトスなら下に見えるだろう。あれがそうじゃ」
ロブ爺さんが指を指す。そうだ。下に陸地がなければ『海』が見えるはずだ。よく見れば下に広がる黒いモノは海ではなく陸地であり一面に広がっている。
「デカい…」
降りるだけなら問題はなさそうだが、あまりに広すぎる。目的地がはっきりしないままに行っても危険な気がする。上を見上げても、さすがに落ちてきた上層の穴は見えない。
(この島は風に流されて動いているんだよな…)
「ロブさん、俺が眠っている間の風の動き、わかるだけ教えてくれ」
昨日から今までの風向と風力を、そしてロブ爺さんに教えられた部分を計算し、俺が落ちた時のだいたいの位置を割り出す。学生の時に興味本位で勉強した分野が初めて役に立った。
「おそらく、あの辺りに落ちるはずだった」
噴煙が昇る山脈の辺り。城のような建物と、周りに微かに集落らしきものが見える。直線距離で70kmほどだろうか?
「ふむ、魔界のことはほとんど情報が無いが、カジャという魔界の王は獄炎の魔人と称されていることは知られておる。あの立地、たしかにその名に似合いそうじゃのぅ」
心許ない情報だが、魔力の性質と出生地はリンクすることが多いと聞く。火山と獄炎、大丈夫だと信じよう。一番の問題は、本当にあそこまで行けるのか?ということだ。荒廃した大地を歩くのは、時間も体力も相当持っていかれる。出来る限り、落下中に距離を稼ぎたい。
「おじいちゃん、いってくるね」
下を見て悩む俺の後ろで、ニアが別れの挨拶をしていた。まだ挙動が覚束無い部分が多いが、やる気はあるようだ。
「あ、あの、てて、手を握っていただだければ」
緊張でカミカミだが、手を握れと言ってくれるまでには馴れてくれたようだ。手を握っておけば空中で離ればなれになることはないし、彼女も俺に魔法をかけ続けやすい。
「そ、れじゃ、いきます!」
ニアはそう言うと、魔法を発動させた。肉眼でもはっきりわかる魔力の球体が俺たち二人を包む。
(!? 風の加護なんてレベルじゃない! 移動魔法か!?)
禁呪のような瞬間移動は無理だが、魔法の中には様々な移動用のものがある。しかし、重力に逆らい長距離ともなると魔力の消費も激しいはずだが…
ドンッ!!
一気に飛び出した。最初からトップスピード。時速で100キロは出てるんじゃないか? この娘の魔力の高さが伺える。球体状の結界で守られているので空気抵抗は感じない。が、そのスピードに驚き、目が眩む。
(魔王の娘、ハンパネェ…)




