第三話-理由-
天空都市ルクセリア
浮島で構成されたこの星「レクス」の中でも「天空」と称されるほどの高い位置にあり、上層で最も繁栄している国である。
レクスは「海」と呼ばれる巨大な水の塊が星の中央にあり、空中に大小様々な島が浮いている。大きく分けると三層に分類される。中層が俺たちのいる国「ウィンダリア」がある「地界」。そして、日の光があまり届かず荒廃した土地がほとんどと言われる下層の「魔界」。逆に日の光、恵みを大きく受け自然と魔力の溢れる上層「天界」。
上と下の仲はもちろん険悪、中層も間に挟まれ過去に何度も戦場にされたとかで、階層の差以上に溝は深いと聞いている。
その上の人間がわざわざ降りてきた。しかも救世主だと?
「上で何かあったのかい?」
ソーマが穏やかな顔で問う。木漏れ日に照らされたその顔は、今にも鳥や小動物が肩にとまりそうだ。そして、逆に俺は自分のしかめっ面に気づき反省する。これだからあいつには頭が上がらない。苦笑し視線を外し耳を傾ける。
「まだ何も起きていない。だが、近々戦争になる。」
「なんで!?」
アリシアの言葉を遮るように叫んでしまった。反省したばかりなのに… しかし、そう反応されるのも予想していたのか、直ぐに続きを話す。
「理由は宗教と権力争いだ。ルクセリアは我が国ゼフィス領とロディエル領とで二分されていて、昔から二国は宗教上の理由で不仲だったのだが、数年前にロディエルの領主になった男が好戦的で、うちの領主補佐官とは性格が真逆で、領主会議の度にハラハラしていたが…」
身内の愚痴が入ってしまい、ため息まじりどうやらで渋い顔になってしまい、ハッとして言葉が詰まったようだ。そして、コホンと咳払いして続ける。少しだけ親近感がわいた。
「そんな中、ロディエル側が開戦の準備をしているという情報が入ったのだ。たが、勘違いしないでほしい! 我々が救世主を求めるのは戦争をするためではない! むしろ、それを未然に防ぐためなんだ!!」
矢継ぎ早に言葉を繋ぐ。声を荒げて右手を胸にあて、必死の様相だ。いや、実際に必死なんだろう。単身でボロボロになりながら下に降りるのだ…
疑問がわいた。単身で? そんな重要っぽいことを? その辺は突っ込んでいいのか? なるべく顔に出さないよう考えていると、察してソーマが問いかける。駆け引き上手にも程があるだろと半分呆れる。
「救世主は… 何処にいるかわかっているのかな? 戦争を回避出来るのなら中層の我々にとってもありがたい。望んでくれるなら協力は惜しまないよ。でも、先ずは怪我の治療が先かな?」
アリシアの顔が和らぐ。俺でもわかるくらいに安堵が見てとれる。そうだな。先ずは治療して、詳しいことはそれからだ。焦って聞いたところで警戒が強まるだけ。戦争の火の粉がこちらにも降りかかるかもしれないのだ。情報は引き出せるだけ引き出したい。
「ありがとう。怪我は大丈夫だ。それより…」
急に険しい顔になる。何かを感じ取ったようだ。そして後ろに振り向きながら叫ぶ。
「追っ手だ! 逃げろ!!」