第七話-流刑島-
(ここは…)
何処かの小屋の中で目覚めた。どうやら生きているようだ。とりあえず、身体も問題なく動きそうである。書状も無事のようだ。
「目が覚めたかな」
年配男性の声がする。体を起こして声がした方を見ると、白髪で髭もじゃのガタイのいい爺さんがいた。お湯を沸かしているようだ。その湯でお茶を淹れ、俺に差し出してくれる。
「ありがとうございます」
お礼を言って、お茶をいただく。体も心も安らぐようだ…
「自殺目的で飛び降りたわけではなさそうじゃな。しかし、あの程度の風の加護で下へ飛び降りるのは自殺行為というもんじゃぞ」
爺さんがそう言ってくる。なんと説明すればいいものか…
(ん? 今、下へって言ったよな。ここは何処だ? 下層じゃないのか?)
「ワシはロブ・デアミセル。ここは、下層と中層の間に漂う島。通称、流刑島じゃ」
流刑島、聞いたことがある。その名の通り、昔に流刑となった罪人を送っていた島だ。他の大陸や島と違い、風で流されて一定の位置に留まらないという珍しい島で、入ることも出ることも難しい島だ。流刑の際は転送魔法が使われていたが、かなり昔に使用者がいなくなったことで無くなった刑罰とされている。
「お察しの通り、ワシら島の人間は罪人の子孫。じゃがそれも何代も前の昔のこと。今は自給自足の田舎村。安心するがよい」
村人全員で30人程の集落。そもそも小さな島だ。稀に中層から落ちてくる人がいるが、人が出入りすることもなく、ひっそりと生きているそうだ。そんな島にとっては、おそらく水すら貴重品だろう。それをわけてくれるあたり、少なくともこの爺さんは善人ということでいいのだろう。情報が外部に漏れる心配も無いなら、この恩義に対して素性を明らかにしてもいいかと思った。
上層へ行ってからまともに会話をしていない。誰かと話したかった。誰かに話して楽になりたかった。同情でも説教でもいいから、打算ではない感情での会話をしたかったのだ。
「なるほどな… 中層ではなくて上層からじゃったか。むしろ、よく無事じゃったな。ここに寄らずに下まで一直線だと終わっておったぞ。お前さんは運がいい」
そう言って笑う。しかし、俺の運だけがよくても、他の皆にしわ寄せが行ったら何の意味もない。そう思った。そうとう酷い顔をしていたのだろう。ロブ爺さんが直ぐに宥めてくれる。
「そんな顔をしなさんな。どんなに気をつけていても、不幸というもんは向こうから理不尽にやってくる。大事なのは、その不幸のあとにどれだけ早く適切な対処が出来るかってことじゃ。お前さんは無事で、仲間を助けられる可能性がある。じゃったら、それに向かって前に進むしかないだろ。まぁ、たまには後ろを振り返って後悔するのも悪いとは言わないがな」
年の功、というやつだろうか。俺が欲しい言葉を投げ掛けてくれる。まったく、女だったら惚れてたところだ。感謝の気持ちを言葉にしようとロブ爺さんの方を向くと、扉が開いた。
「おじいちゃん、ただいま。もらってきたよ」
長身の体に似合わぬ、か細い声でそう言いながら入って来た。美しく長い黒髪、体はすらりと細長く、どことなく気品がある。そして、頭には黒い羊のような角が生えていた。黒曜石で出来たようなゴツゴツした感じの、一見飾りかと思うような角だ。思わず注目してしまうと、その娘は慌ててフードを被り外に逃げ出て行ってしまった。
「ニアという。ワシの孫娘だ」




