第五話-王たちの夢-
「もう少し丁寧に説明してもよかったのでは?」
この女の名はクラル。この俺、シン・ロディエル王の副官。直情的な王を唯一止められる人間として、異例の若さで抜擢された。何故止められるのかと言えば、こいつが今は亡き王女の年の離れた妹だからだ。ガキの頃から賢くて生意気で、気付けば数少ない俺が頭の上がらない人物の一人になっていた。
「お仕置きも兼ねてだからな。仮に死んでも知らん」
「書状が届かなければ問題では?」
「誰かが見つけて中を見ればそれでよしだ」
「誰も見つけず、誰にも見られなかったら?」
「ん…」
そこまでは考えていなかった。考えるのは、いつもこいつやドーガ任せだった。ドーガ王、俺と同じく一族から異物扱いされていた変わり者。互いの意見こそ違いぶつかれど、最終的な目標、夢は同じ上層統一だった。征服ではなく統一。数少ない時間を利用しての対話は昔からの楽しみで、夢が同じだと知った時の嬉しさと言ったら…
異端の俺たちが意気投合して統一を謀っても、おそらく誰もついてはこない。有力者たちが徒党を組んでクーデターで終了、元の木阿弥だ。そのうち、ドーガは自分の身体が病で長くないことを知った。それからは自身を犠牲にする計画を立てるようになった。もちろん俺は反対しまくった。統一の後、王に成るべきはドーガだと思っていたのだから。
「初代の王が短命では、後々で問題が起きる。お前がしっかりと地盤を作れ」
そう言って俺に全てを託そうとしてくれた。最愛の娘のことも…
「まぁ、どうにかなるだろ。いつもの手紙も一方的に送りつけていただけだからな。それより、こっちのが厄介だ」
思い出すと泣けてくる。たまたま話した『もしも』の話。それが直後に起こるとは… ともかく、こいつの前で涙を流すのは勘弁だ。二度とやらん。
「お供の男性の方はともかく、救世主は危険が予想されますね。マディラ派は洗脳すら厭わない人間もいますから」
過激派貴族のマディラ、たしかに有り得る話だ。洗脳した咎人を使い捨ての兵士にする程の鬼畜ぶりと聞く。ドーガも最後まで手こずっていたやつだ。救世主を洗脳して手駒に、か…
「考えたくもないな。まったく、せっかく柄にもなく努力っつーもんをやって禁呪まで習得したってのに。予想外なことが多すぎる」
下位七属性、中位五属性、そして、その上に存在する禁呪、上位三属性。そのうちの一つに適正があることがわかり、少ない情報ながらも、なんとかその末端の力を手に入れたのだ。空間魔法の力。古代文明の機器を使わずに単独で行える瞬間転移魔法。そして、外界との完全遮断を行う上位結界。その結界を破るには禁呪を用いなくては不可能と聞いていた。実際に試しても破壊、解除出来る部下はいなかったのだ。まさか、その結界が破られるとは。
「あの青年、禁呪の才能があったのでは?」
「かもしれん。であれば、あいつがほってはおかないだろう。どうなるか楽しみだな」
下は全て運次第。俺は俺でやることをやる。あいつから受け継がれたもんを、ちゃんと繋いでいかなくては行けないんだ!




