第三話-炎帝ロディエル-
そこにいたのは、燃えるような赤色の短髪を逆立てた、金色の瞳を持つ男だった。ゼフィス王より一回りは若く見える。年齢のわりに、どこか幼さも残るような、例えるならワルガキがそのまま成長したような…
(ワルガキで赤髪で金の瞳!? ルティナの父親!? シン・ロディエル王か? いや、こんなとこにいるわけが!?)
突然に現れた大きな魔力の気配に、大臣も兵士も、侍女すらも目覚めて、城内は騒然としている。王の姿が見えないことも拍車をかけているのだろう。もうすぐここにも誰かがやってくるはずだ。状況が飲み込めないで混乱していると
「くそっ! どうする!?」
赤髪の男が小さな声で怒鳴る。ゼフィス王は
「やるしかあるまい…」
と言った。
「いいんだな? 今、ここで!?」
再度、男が問うと、ゼフィス王は男の目を真っ直ぐ見て小さく頷いた。そして懐から短剣を取り出す。
(殺される!?)
そう思った。しかし、王はその短剣を男へ渡し、男はそれで王の胸を刺した。
(なっ!?)
夢でも見ているようだった。王は出血もなく、刺された部分から身体がみるみる白くなっていく。目の前の出来事に思考が追いつかない。俺はただ見ていることしか出来なかった。
「あとは任せろ」
赤毛の男はそう囁き、ゼフィス王は小さい頷いた。そしてこれまるで石像のように白く固まってしまった。
「王!?」
兵士たちが入ってくる。すると、男は俺の手を取り
「ご覧の通り、ドーガ・ゼフィス王は我が魔力により石の像へと成り果てた。お前たちの王はもういない。親愛なるゼフィス領の諸君よ、この私、炎帝の配下に下るがいい。地位も財産も保証するぞ? 答えは一月待ってやる」
国中に響くのではないかという大声で、そう叫んだ。片手を取られていた俺は耳も塞げず、頭がくらくらした。いや、このくらくらは魔法のせいだったかもしれない。次の瞬間、視界が歪み一瞬で景色が変わっていた。城の外、どこかの岩場のようだ。
「おかえりなさいませ。シン様」
女性の声がした。前髪パッツンの黒髪で、ボブで眼鏡の神経質そうな女性だ。おそらくは、この男の側近だろう。あちらの補佐官といい、こういうタイプが多いのか?
いや、そんなことを考えている場合ではない。たしかに「シン様」と呼んだ。やはりこの男がシン・ロディエル王、ルティナの父親なのか!
「城が騒がしくなりましたが、問題ですか」
女性が問う。
「ああ、やってくれたよ!」
と王がこちらを見る。女性は不可解な顔をしている。
「普通の人間のようですが… 何を失敗されたんです?」
「俺のミスじゃない。もちろんドーガでもない。こいつが結界を破ってしまったんだよ。禁呪だぞ? それをこんなやつが? 救世主ならともかく! くそっ!」
王は先程までの冷静さを失い、荒れている。女性も無理に宥めることはせずに様子を見ている。少しして落ち着きを取り戻したロディエル王は、再び俺に話しかける。
「よし。お前、責任取って下に行け。そこから飛び降りろ」




