第一話-審問-
俺たちは捕らえられ、何処かの城へと連れてこられていた。俺たちの誰も抵抗出来る状態ではなかったが、平常時であったとしても無抵抗ではあったと思う。下手に争う必要はない。何しろ争いを治めるための救世主として来たのだから。
城は簡素な造りのようだ。少しずつ頭が晴れてくる。
(質素な城… じゃあ、ここはゼフィス領? アリシアの国か!?)
三人とも腕を後ろに、手首をロープで縛られ、やや広めの部屋の真ん中で床に座らされる。尋問室だろうか、正面には強化ガラスのような仕切りがある。ロープには魔力が込められているのか、動こうとすると締め付けがキツくなり痛みが走る。
「控えよ」
兵士の一人がそう言うと、両脇の兵士が槍を突きだし牽制する。仕切りの奥の扉が開き、一人の初老の男が入ってきた。豪華ではないが、王位を示す刺繍が施されたローブを纏い、杖を突いて歩いてきた。ツヤのある長い白髪。同様の髭を顎にたくわえていて、翡翠の瞳は眼光鋭い。
(あの目、やっぱりアリシアの…)
その姿を見て、だんだん頭が軽くなってきた。
質素な装いながらも王の威厳は溢れ出ている。真正面の椅子(これも質素な)に腰を下ろし、こちらをしっかりと見据える。何もしていないのに空気が圧を感じる。初めてガルド王と対面したときもこんな感じだったと思い出す。その後ろからは、髪をピッチリ固めたインテリ風の男が着いてくる。王の補佐官だろうか。
「静粛に。王の御前である」
補佐官が低く響く声で言い場を静める。俺たちを品定めする人々が一斉に口をつぐむ。辺りが静かになり、俺の脳もやっと正常に働きだす。
「そなたたちは何者だ」
王が問う。
(何者だと?俺たちは、ケイトはあんたの娘が…)
冷静な顔でいる王に怒りが湧く。危なく怒鳴り散らしてしまうところだ。そう、俺たちは、ケイトはアリシアが命を賭したからこそここにいる。感情に任せて暴れて処刑でもされたら、彼女の死が無駄になってしまう…
いや、そもそもまだ死んだと決まったわけではない。アレクもそうだ。ルティナは…
(今は現状打破に集中だ!)
気持ちを無理矢理に切り替えて王へ返答する
「私たちが何者かは、既に御存知なのでは? 転送装置、ここからそれなりに離れた場所にあるのに、周囲を多くの兵士が囲んでいた。予め『何か』が来るのを予測していなければ、あれほどの兵は動かせないでしょう」
冷静に、状況から論理的に推測し、こちらに興味を持たせる。下手に出てはいけない。何しろ、救世主を軍事利用したいと思っている派閥があるのだ。こちらの狡猾さも見せていかねばならない。
「ふむ…」
少しの沈黙の後、王が話し出す。
「確かに我らは、君らが何者か、は知っている。だが、我らはそれを君らの口から話してもらわねばならぬ。理由はわかるな?」
そう、重大な理由がある。俺たちを連れてくるはずのアリシアがこの場にいない。俺の対応次第では、俺たちが彼女を… 問答無用でそういう罪を与えられかねない。
(俺たちも冷徹で薄情な人間に見えているのだろうか)
平静を装う俺とこの王様は、実は今、同じ思いでいるのではないか? ふと、そんなことが浮かんだ。
(だったとしたら、ちゃんと説明しなきゃだな。あいつの想いを、ちゃんと伝えなきゃな)
俺は、彼女が落ちてきたその時からのことを、王に語り始めた。俺の、彼女に対する表現し難い感情は省きつつ、俺の見ていない一部をケイトに代わってもらいながら、他の人間に変に思われない程度に、しかし王には伝わるように彼女の思い出話を、先の遺跡爆発のその時までを語った。




