第八話-それぞれの役割-
命と引き換えの力
なんだよ!なんでだよ!どういうことだよ!?
あいつは、いつそんな覚悟を決めた?あの夜か?もっと前から?そんな薬を持ち出した時?
最初からそのつもりで?そこまでする理由ってなんだ?
怒りと悲しさと悔しさと疑問とで頭がぐちゃぐちゃになる。熱を持った頭に右手で爪を立てる。そんな俺の横を
「やっぱり私たちは似た者同士だな」
そう言ってアリシアはルティナの方へと駆け出す。
「ヴォード、三人を連れて中へ!」
そう言いながらヴォードを追い越し、ルティナへ攻撃を仕掛ける。しかし、その刃も力の障壁を阻まれる。ルティナは魔力の渦の中心で、身体の至るところから血が吹き出していて、もう長くは持たないのは明らかだった。
「ルティナ… 私が止めてやるぞ…」
精一杯の力を込めて槍を突き立てる。が、少しずつ押し返され、そして弾き飛ばされる。かろうじてそれを受け止める。
ぐちゃり
衝撃で傷口が開いて、俺の体も赤く染める。そんなことも気に止めず、彼女のことだけを見ている。
「もうやめろ! あとは俺がやる! お前にはまだやるべきことがあるだろ!」
(ここで止めなければ、俺がなんとかしなきゃ、きっと二人とも…)
「ヴォード、アリシアを中へ! 転送装置を起動させて言ってくれ!」
俺はそう叫んで前へ飛び出そうとする。しかし、アリシアが止める。後ろから俺に抱きついて…
「ごめん、これが私のやるべきことだと思うから。だから、あとはよろしくね…」
背中でそう話すのが聞こえた。それが聞こえたのかはわからないが、目の前のルティナが微かに笑ったように見えた。もう感情が爆発しそうだ。涙を堪えて歯を食いしばる。力が全く出てこない。手足が震える。
ガクン
その隙を突いて、アリシアが俺の膝を折り、その勢いのまま後ろへ投げる。
「ヴォード、頼んだ!」
ヴォードは意を決し、俺を抱えて装置の中へ走る。腕を外そうにも力が入らない。頭も回らない。何か言っているようだが、もはや自分で何を言っているのかもわからなかった。そして俺たちが中に入ると、アレクが入れ違いで外に飛び出す。もう俺には何が何だか理解出来なかった。
「アレク!?」
「いや~中から動かせないみたいだし、鍵持って帰らなきゃだし?」
「時間を稼ぐ。頼んだ」
「最後まで付き合ってもいいっすよ?」
「鍵、持って帰るんだろ?」
ガラスの向こうで、そんな感じの会話がされていたように思う。ルティナがこちらを見てホッとしたように見えた。そして脱力し、光が辺りを包んだ。
装置が起動し、俺たち三人は立方体の空間に守られ上へと高速で飛んだ。不思議と重圧は感じない。遺跡全体を包む爆発が眼下に見えた。ケイトは声もなく泣いていた。ヴォードさんはすごく悔しがっているようだった。俺はただ座っていた。
上には、ほんの一瞬で到着した。記憶が確かなら、一度上層の上空まで上がって、その後に遺跡の上部から中に入ったと思う。ガラス面の一部が広がり出入口が出来る。ヴォードさんが俺たち二人を支えて外へ出る。動きが止まる。眩しい…
目が慣れてくると人影が見えた。数人、いや数十人。俺たちはルクセリアの兵士たちに囲まれていた。もう何も考えたくなかった。




