第七話-凶刃-
「逃げろ!!」
俺は咄嗟に叫んだ。しかし、気付くのが遅かった。アリシアが苦悶の表情でその場に崩れる。腰の当たりから血が流れている。その後ろにはルティナが無表情で立っている。右手の短剣は血に濡れていた。
アリシアは動けず踞っている。ケイトが泣きながら傷口を押さえるが、血は止まらず溢れ続ける。
「回復魔法を!」
俺は叫んでルティナに向かって飛び出す。ヴォードは裏拳を繰り出すもかわされる。が、拳から炎が出て追撃する。ルティナはさらに下がって距離を取る。
「アレク、二人を頼む」
とすれ違いざまに言う。
「了解!」
とアレクが応える。
ケイトは涙こそ止まっていないが、回復魔法で傷口を治療している。さっきより出血量は減っている。
問題はこっちだ。ヴォードさんが強いとは言え、連携は不利。どう仕掛けるか…
「不覚だ!気配に気付けんとはっ!」
ヴォードは音が聞こえる程に歯を食いしばり
「拙い連携は隙を突かれる。ここは俺に任せてくれ!」
と飛び出した。短剣に対して鉄甲装備の拳、普通ならリーチ負けだが、手足が長い上に魔法の追撃もある。タイミングよく発動することで防御にも使えている。ルティナと変わらず無表情だが、こちらが圧しているのは明らかだ。
(さすがだよ…)
俺は感心しながらも、標的がアリシアたちに向いたら直ぐに対処出来るように集中する。
「おい、リドルの村長の件、やったのはお前か?」
ルティナに語りかける。どうしても問いただしておきたかった。
「……噂を流しただけ… 本人は無事…」
と話す。どこか苦しそうだ。
「まだダメです!」
後ろでケイトの声がする。大丈夫、とか細い声が聞こえた。その後に、ゆっくりとした足音が俺の横を通り、そして止まる。
「もう少し休んでたらどうだ?」
色白の顔が更に白く、いや青ざめている。むしろ、寝てろと怒鳴りたいくらいだ。
「これは、私の、責任だから…」
まだ話すのもやっとのようだ。ケイトが駆け寄り魔法をかけ続ける。少しずつ荒い息が落ち着いていく。
ルティナがこちらをチラリと見て、ヴォードと再び距離を取る。
(くるか?)
と身構えると、ルティナが急に苦しみ出す。
「う… ぐ… があぁぁぁあーっ!!」
叫び声と共に魔力が暴走する。魔法を使えない俺でも見てわかる程の力が、暴風となって辺りを吹き飛ばす。
「なんだよこれ!? おい、ルティナ!」
俺が問いかけるも、ルティナは頭を押さえ絶叫し、身体を激しく揺らしている。
カラン…
何かが彼女の懐から出て落ちた。
なんだ?小瓶のようだが…
「お前… まさか…」
アリシアがよろめきながら呟く。
「魔力を爆発的に高める薬がある。しかし、あれは開発途中で、不完全で、あれは… 力が暴走して命を落とす危険物のはずだ」




