第六話-遺跡と歴史-
「これが鍵だ」
手渡されたのは機械の球体だった。天辺だろう場所には宝石のような、レンズのような透明な物質が埋め込まれている。
「いわゆるオーバーテクノロジーってやつだ。機械文明が遅れているこの世界で、俺たちがいた世界よりも進んだ技術で作られた機械だよ」
メンテナンスと言っても、中身は全くわからない。軽く分解して清掃して戻すだけの仕事。昔から伝えられてきた内容なのだとか。過去は機械文明も発展していたのだろうか? 歴史に想いを馳せるも、さあ行くぞと急かされるのだった。
転送装置は、この町からさらに南の遺跡にあるという。昔はそこに城があったらしいが、時代の流れには逆らえず、大陸の中心であり利便性の高い現在の場所に王都が移転。始めは人もいたらしいが、「鍵」がなければ使えない機械、そして使う機会もない。そのうち誰もいなくなったそうだ。
「年一で見廻りはしてんすよ。遺跡の掃除も兼ねて。獣もあんまりいない砂漠だから、被せてるシート退けて、砂払って、また被せておしまいの簡単な仕事っす」
息子のアレクが、頭の後ろに手を組んで歩きながら言う。髪の毛は母親譲りだろうか、父親よりはるかに毛量がある。顔立ちは父親似だが面長だ。職人として父親の元で修行中、親子関係は良好なようだ。
「異世界のことも聞いてましたよ。小さい頃はおとぎ話だと思ってたっす」
と、それほど気にしてはいないようだ。
町を南に1kmくらい進むと、そこからは砂漠が広がる。カラハリ砂漠のような感じで、所々に植物も生えているが、遠くの空に鳥が見えるだけで他の生物は見られない。すぐ近くに水も食糧も豊富な土地があるのだから、よほどの生物しかいないのは当然だなと思う。うっすら見える建築物があるが、あれがそうだろうか?
「あそこに見えるのが遺跡っす。砂もそんな歩きにくくないんで、30分くらいっすよ」
やはりそのようだ。
そして、予定通り30分程度で到着した。やはり彼女は姿を見せなかった。
遺跡はピラミッドの頂上が削り取られたような、メキシコのチチェン・イッツァのような形をしている。黒のような、深緑のような色の金属製。大きな扉があり、その中に装置があるそうだ。遺跡の周りは鉄格子で囲まれている。
「ここの鍵、じゃあないよな」
ポツリと呟くと
「そりゃそうっす。てか、これには鍵は付いてないっすよ」
と突っ込まれた。盗難されるよう物もないので、獣の侵入防止程度の役割だそうだ。大きな扉の前に近づく。3mくらいの高さで装飾はなく、黒一色である。
アレクが鍵を近づけると、壁の模様のような線に光が走り、扉が横にスライドして開いた。おお、と感心していると
「これの鍵ってわけじゃないんすけどね。連動してるみたいっす。ほんとはアレに取り付けて動かすらしいっすよ」
と奥の機械を指差した。ガラスのような立方体があり、その手前に胸の高さくらいの金属製の直方体があって、それに使うそうだ。なるほど、たしかに球体をはめるような窪みがある。観察していると、アレクが俺に鍵を手渡してきた。え?俺?という顔で見回すと、皆が黙って頷いた。嬉しさ半分、恐怖半分、緊張しながら鍵を受け取り、前に進んで機械へと嵌め込む。
ヴイィィーン
建物全体が唸りを上げて、先程同様に模様のような線に光が走る。さながらラピュタのようだ。そういう作品を知っているだけに、まさか壊れる!?と少しビビってしまい、皆に笑われてしまう。
「まったく、驚きすぎたぞ」
そう言ってアリシアがからかってくる。それを尻目にに全体を見渡そうとすると、ガラスの一部が空いていた。入口が出来ている。仕組みをなんとなく理解して、皆の方に振り返る。
「逃げろ!!」




