第二話-来訪者-
「ねぇ、あれ!?」
ソーマが空を指差す。淡い青の光に包まれた何か…
枝が大きく開けた空間に「それ」は見えた。徐々に近いてくる。方向的に「それ」はこの森の中央、世界樹へと向かっているようだった。
「行こう!」
言うが早いか、二人は馬に飛び乗り世界樹へと走らせる。ここからの距離は直線で500mといったところか。右へ左へ木々を避けながら馬が走る。それぞれ思うところがあるのだろう。道中、二人とも無言になる。聞こえるのは馬たちの足音と呼吸音だけだ。
「俺と同じか?」
そう考えるのは当然だ。俺の事情とあちらの世界のことはある程度話してある。村長たちは理解して受け入れてくれたが、快く受け入れられる人間ばかりではない。それはどちらの側でも、だ。
あと100m。世界樹が近づくにつれ、「それ」の姿も鮮明になってくる。人… 女性…か? なんとなく髪が長いような… いや、それは判断基準にならないか。
胸のモヤを払うようにそんなことを考えていたが、払われることのないまま、俺たちは世界樹付近に到着した。世界樹の周りは広場のように開けている。馬たちは空気を読んでか、いつもより静かにしてくれている。離れた場所に馬を繋ぎ、静かにゆっくりと近づく。
いた!
彼女?は樹に背中を預けたままうごかない。気を失っているようだ。
乱れた銀色の長い髪、銀ベースに緑の装飾が施された簡易な鎧を身に纏い、シンプルな槍を抱えている。先ほどの淡い光、おそらく防御系の魔法だろう。原理はまだ理解出来ていないが、この世界には魔法が存在している。機械文明は中世のそれに近いが、この魔法のおかげでトータルの文明力は間違いなく上だ。
しかし、俺の時とは違いその魔法で守られているはずの体が至るところ傷だらけでボロボロだ。
(どう見ても何かから逃げてる途中だろ…)
その「何か」はわからない。しかし、緊張が高まるには十分な材料だ。悪党を追われているのか、それとも彼女が悪党なのか。そう感じ武器を手に取った瞬間、彼女は目覚めた。と同時に身構え、翡翠の瞳でこちらを睨み、槍をこちらに向けて叫ぶ。
「新たな追っ手かっ!?」
俺たちは(やっぱり…)と思い顔を見合わせる。武器を下ろし、敵意が無いことを示す。相手がやや警戒を解いたことを確認し、ソーマが一歩前に出て現状の説明をさせてくれないかと提案する。俺は圧迫感を与えないため、少し離れて座り込む。手負いの兵士で女性。下手に刺激しないのが一番。話し合いで解決出来るなら、それに越したことはない。厄介事ならば早々にこの森から立ち去っていただきたいのだ。
彼女も徐々に警戒を解き、話が終わる頃には武器を下ろしてくれていた。
「そうか… すまなかった」
現状を理解したようだ。どうやら彼女自身は危険人物ではないらしい。穏便に話が進みそうだ。そう信じたい。そして、彼女が話しだす。
「私の名はアリシア。上層の国ルクセリアより救世主を求めて降りてきた。」