第三話-石と刃の町-
テルムスの町は元々は違う名前の鉱山町だったが、鉱石の産出量が年々減ってきていた上に、当時は山道が荒れていて不便であり、町はこのまま廃れると思われた。しかし、20年程前に凄腕の職人が現れ、少ない鉱物から数々の高品質の武具を生み出し、その品質に感動した王が新たに街道を整備して街の名称を改名。そうして武具産業で復興したのである。
「あの王様にそこまでさせた職人か。どんな人なんだろな?」
俺に会わせたいと王が言う人物。いったい何者なのだろう… 王都を出て少しの辺り。気になっていたことを、まだ朝日に慣れぬ目を擦りながら、ふと呟いた。
「会えばわかるよ」
とソーマが応えた。何か知ってるのか? と問い詰めると、楽しみは後にとっておけと窘められる。
「それより、テルムスまでは一本道。街道途中で前後に落石でもあったらアウトだよ?」
流通の利便性向上のために念入りに整備されてるとはいえ、山を削り、くり貫いて作られた道。落石や崩落を『されたら』詰みだ。しかし…
「この辺の地理を知らない、ましてや転移装置の場所すら知らない敵さんが待ち伏せは無いだろ」
と反論意見を出す。俺たちは、何か行う時は必ずこうして反対意見をわざと出してぶつけ合っていた。穴を、隙を、探して埋める。どんな些細なことでも。成功率を少しでも上げるために。犠牲なくやりとげるために。
「ケンカが始まったのかと焦ったぞ」
とアリシアがこっそり言ってきた。
「だが、楽しそうに討論するのを見て、こちらもついつい割って入ってしまった」
アリシアだけでない。最後には皆で対策を練っていた。絆が深まっていく感じに胸が熱くなる。こうやっていられるのもあと少し、決壊しそうになる涙腺を必死で抑えていた。
しかし、道中は何事も起こらずに町に到着した。あまりにも順調で、まだ昼前だった。
「どういうことだ… 何かあったのか…」
アリシアは別の意味でも心配なようだ。だが、それを咎めはしない。皆、優しいのだ。俺だけがアリシアと同じ心配をしていた。
「ふむ、まぁ何もなかったのは悪いことではない。あれこれ考えても答えは出ない。ならば先へ進もうではないか」
ヴォードさんの提案は最もだ。町の最奥、大きな製鉄所の隣、小さな武器屋が目的地だ。そこの店長が件の人物らしい。僻地だろうから、自分たちのような集団は目立ってしまうのではと心配していたが、最近は武具目当ての商人や旅人の往来も増えているようで、俺たちも悪目立ちはしていないのが幸いだ。そして、その場所はすぐに見つかった。




