第一話-祝勝会-
「何故ですか? いったいどういう…」
身を乗り出して抗議するアリシアを、まあ待てと王が制する。
「説明するとな、転移装置には鍵がかけられていて、その鍵は今はここにはない。定期のメンテナンスに出してるんだよ」
なんだただのメンテナンスか、と呆れていると
「鍵は特殊なんだ。だから、信用出来る然るべき所へ依頼している!」
ちょっとムスッとしてしまった。困ったものだ。
(いや、話す順番をミスってますよ王様…)
見かねて大臣が入ってくる。
「これを持って、テルムスに行きなさい」
王家の印で封じられた書状だ。テルムスとは王都から南東にある町、山を削って作られた街道を通る。場所的にはリドル村とちょうど反対側に位置する。
「テルムスに優秀な職人がいてな。なかなか面白いやつなんだ。カルム、お前にいつか紹介しようと思っていたんだよ」
と王がニコニコしながら言う。むしろニヤニヤに近くて何か怪しい。
「で、転移装置はテルムスから更に南の遺跡にある。取説も貸してやろう」
今度は技師らしき人が小冊子を持ってくる。
「取説だ。写本だが、内容が内容だ。本来は門外不出。鍵と一緒に即返却な」
と王が言う。
(即返却か…)
即ということは、転送される人間とは別に返却に帰る人間がいなければならない。が、兵をよこす素振りは見せない。
(誰が、は決まっているよな。ソーマはここまでか…)
俺は村長たちに別れを言ってきた。しかし、ソーマは違う。保留にしてきていた。決めてはなかったが、どこかで帰ることになるとは思っていた。きっとそこが別れになるのだろう。チラリとソーマを見ると、少し寂しそうに笑って頷いた。
「今からの出発では危険だ。二度と泊まれんだろう自慢の宿のもてなし、たっぷり味わってから行け!」
という王の『命令』に従い、ありがたく宿泊させてもらうことにした。謁見が二日後と思っていたのが今日になったおかげで心に余裕が出来た気がする。今日は本気で良い酒を味わえそうだ♪
「おお! そなたらもここに泊まりでしたか!」
宿に着くなり声をかけてくる人物が。ヴォードさんだった。準優勝の副賞で一泊二日券を頂いたらしい。俺たちも武芸話は嫌いじゃない。時間に余裕が出来たので快く招き入れ、お互いの健闘を祝して宴会となったのだった。
男たち三人がほろ酔いで武芸自慢。自分の技の効率のよさ、その素晴らしさについて論じ、違うそうじゃないと異議を唱え合う。アリシアが一段上の立場から理論の穴を指摘する。今日はアリシアも少し飲んでいて饒舌だ。ケイトは四人のやり取りを真剣に聞いて、感心したり笑ったりしている。楽しそうで何よりだ。
「そうだ。そういえば!」
ヴォードさんが突然思い出したように叫んだ。
「すみません。盗み聞きするつもりはなかったのですが、帰り際に聞こえてしまって…」
全員ぎょっとした。成人三人は酔いが覚めてしまった。王との謁見のあとトイレによった彼は、王の間の前に戻った時に聞こえてしまったらしい。俺たちが救世主御一行であることを。
「王様のアホー! 声デカ過ぎなんだよー!」
と叫び、ハッとしてそれぞれ扉や窓を開けて辺りを見回した。アリシアは耳をすませて隣の部屋の動向を伺う。と同時にホッと一息つく。ヴォードさんもすまんと謝罪する。そして真剣な目で語りかけてくる。
「頼む。お前たちの旅に同行させてくれないか!?」




