第五話-サプライズ-
街は賑わっている。飲食店は特別メニューを出し、雑貨屋は掘り出し物を展示して、舌や目の肥えた人々を引き入れようと張り切っている。出店は普通の祭りよりは少ないが、厳しい審査を通過しただけあって、どのジャンルのどの店も素晴らしいの一言だった。ケイトとアリシアは銀細工店のクジで当てた装飾品を身につけている。ケイトは指輪、アリシアはネックレス。ご機嫌でお互い見合っては笑っている。こちらもつられて自然と笑う。
「お前たちもやればよかったのに。お揃いでチームって感じで、なんかいいのにな~」
アリシアは第一印象とはもう別人だ。楽しすぎて語彙力が残念になっている。
「いや、さすがに女性用だから!」
とカルムが突っ込む。楽しい。全てが何事も無く終わり、二年後もこうして会えたら…
そう願わずにはいられなかった。
「そういえば、武術大会の組み合わせっていつ決まるんです?」
ケイトが聞いてきた。午前中いっぱいの受付で15時に発表の予定になっている。俺たちが登録した時点で200人以上はいたから、下手すると300人規模になるかもしれない。
「例年通りなら、たぶん明日は10人くらいにグループ分けして予選かな。バトルロイヤルで一人通過とか、総当たりとか、その年によっていろいろだね。そして勝ち上がった人でトーナメントをやるんだ」
思い返すと、舞台はひとつしかなかったようだ。
(あの人数を予選で総当たりやトーナメントとかあり得ないな。おそらくはバトルロイヤルだろうな)
戦場での判断力も見るためか?即戦力を求めて?中層でも戦争の準備が?
などと余計なことまで考えてしまう。
「サプライズがあるって言ってたよな」
帰り際、アグラス様が「サプライズがあるぞ。楽しみにしておけ」とこっそり教えてくれたのだ。
「あの人が笑って言うんだから絶対に面白いことだよな~気になるな~」
「そろそろお昼にしようか。それから城へ行けばちょうどいい感じかもよ?」
時間はもう一時近くになっていた。みんな遊びに夢中で時間が経つのを忘れていたようだ。どうせ並ぶならと、女性たちの強い希望で人気の店の前でしばらく待つことになった。結局、食事が終わったのは15時を回っていたが、別に急ぎではないし、二人の満足げな笑顔にこちらも満足したのであった。
城門前、武術大会組み合わせ発表。すごい人集りだ。例年以上に人が多くざわついている。サプライズの影響だろうか。集まった人々が何やら話しているが、聞き取れないほどに騒がしい。やっとのことで前にたどり着くと、まさに衝撃のサプライズだった。
一日目 予選リーグ
20人グループでバトルロイヤル、それぞれのグループを勝ち抜いた一名ずつが決勝トーナメント進出
二日目 決勝トーナメント
前日に勝ち抜いた16名でトーナメント
優勝者は騎士団幹部候補生の権利と賞金50万ハル
(ハルはこの世界の共通通貨の単位だ)
賞品に幹部候補が明記されるのもサプライズだが、ほんとのサプライズはAグループにあった。
「Aグループにレオンがいる…」
カルムは唖然としている。俺も同じだ。騎士団員が出場すること自体これまでなかったのに、いきなりトップが、しかも予選から出るなんて…
カルムはGグループ。レオンと当たるには準決勝まで進まねばならない。俺はKグループ。二人のどちらかと当たるには決勝か? いや、決勝トーナメントは抽選!? 当日までわからないってことか!
「おもしれーじゃねーか! そりゃ盛り上がるわ! いっちょやってやろーじゃねーか!!」
カルムが気合いを入れる。周りの出場者だろう人々が一斉にこちらを向き、そして共に声を上げる。最後はエイエイオー!と全員で互いの健闘を祈って別れた。なんとも不思議な光景だったが、明日からは大変な二日間になりそうだ。
「なんかすごい雰囲気だったね」
「ああ、だが、なんと言うか… 悪い感じではなかったな。皆、真剣に楽しんでるというような…」
「実際、妙な興奮はあるね。何しろ、あの若獅子と戦えるかもしれないんだ」
カルムは真顔で下を向いていて、話に入ってこない。
「今夜は壮行会だね。体力つけなきゃ!」
ケイトがむんと息巻く。こりゃ食べ過ぎ注意だなぁとカルムを見ると
「あ、ごめん。俺、今夜は行くとこあるんだ。夕食はいらない」
と言いだした。残念そうなケイトと、空気読めと怒るアリシア。慌てるカルム。やれやれとなだめる俺。
「いや、だからごめんて。行きつけの店に顔出したいんだよ。たぶん今夜しか時間無さそうだから」
しぶしぶ納得する二人。それじゃと出掛ける時にも「すごく楽しんでやるんだからね」と怒りのだめ押しをされるのだった。壮行会じゃなくて愚痴会になりそうだな。貸し一つにしておこう。
予想通りカルムへの愚痴を聞かされた。ケイトは疲れて早々に寝てしまい、途中から酒の入ったアリシアの相手を深夜までするとこになってしまった。俺もいつの間にか疲れて眠っていた。カルムは朝帰り。寝惚けた顔に冷たいタオルを思い切り投げつけてやった。




