第一話-世界樹の森-
「カン!カンカンッ!!」
木と木がぶつかる乾いた音が新緑の森に響く。二人の青年が木製の武器を交えているようだ。すぐ側には美しい毛並みの栗毛の馬が二頭、もう見飽きた光景なのか意に介さぬ様子で草を食んでいる。
「カンッ!」
肩まである金髪をふわりとなびかせ、双剣の青年は踊るように剣戟を重ねてくる。小太刀程度の長さの剣を自在に操り、右で一撃、左で一撃、その流れで回転しつつ足払いをかけながら右で追撃。
俺は身長程ある棒を使い、得意の棒術でそれらを捌く。
「ガンッ!」
鈍い音と共に体を崩される。左の剣で棒ごと左前方に倒される。華奢に見えて、なかなかのパワーだ。そして半回転しつつ右の剣で斬りかかってくる。
(よしっ!)
俺は倒れつつあった体をさらにひねってバランスをとり、剣をかわしながら棒の逆端で突く!
「カーンッ!!」
一際大きな音が辺りに響きわたる。俺は突いた棒にを軸に下半身を滑らせ安定させる。相手は打ち込んだ剣にもう一方の剣も重ねて、がっしりと防いでいた。剣と棒がぶつかり合い膠着している。
「取ったと思ったんだけどな」
と俺が言うと
「カルムの崩れかたがちょっとわざとらしく感じたからね」
と笑って返す。どうやら読まれていたようだ。木漏れ日に二人の汗が光る。
カルムというのは俺の名前。3年前、この森に落ちた俺は厳しくも優しい村長様(本当に様をつけたいくらい感謝と尊敬しているが、本人は嫌がるので言えない)の一家に拾われた。当時、ショックで一時的に記憶喪失だったこともあり「空から落ちてきたからカルム。この星で空という意味だ」と名付けられたのだった。今は記憶のほとんどが戻っているが、改名も面倒なのでそのままにしている。
そして、この稽古相手の青年は村長の息子で名はソーマ・シルヴァ。当時、年が19と同じだったことと、この柔らかな性格もあり直ぐに意気投合。今では二人でこの《世界樹の森》の警備と稽古が日課になっていた。
世界樹、そう呼ばれるこの巨木の枝葉がクッションとなり、俺はなんとか生き延びることが出来た。村長一家は代々この樹と森を守ることを王国から命じられているのだとか。
「相変わらずの腕だねぇ。今年も騎士団の誘い、蹴ったのか?」
柔らかな風が吹き抜け、体の熱を冷ます。
王国騎士団入団試験、実力のある者は試験免除の「お誘い」がある。いわゆる幹部候補生としての入団だ。将来安泰、この国の男子のエリートコースだ。ソーマは2年連続で誘いが来ているが断っていた。そして、今年も断ったのだった。
「俺はここでの仕事があるからね。親父の下で学ばないといけないことも、まだまだ多いし」
からかったつもりが真面目に返してくるあたり、人柄が出ている。根っからのいいやつだ。頭も良いし腕も立つ。顔も良くてうらやましいかぎりである(笑)
「それに、嫌いだろ?騎士団」
ドキッとした。見透かされている。いや、驚くことはなかった。こいつも同じだ。あの事件以来、俺たちは騎士団という存在に怒りを感じている。ソーマは時期村長という立場もあり、その感情は抑え、それどころか度々衝突する俺との間に立って仲裁すらしてくれている。
「まあね… わりぃ…」
なんとなくバツが悪くなり思わず謝る。視線を反らすと太陽の光が目に刺さる。益々格好が悪い。いいよと笑ってソーマが馬に向かって歩き出す。俺は頭を掻きながら後ろをついて歩く。いつも通りの流れだ。今日も平和な一日だ。そう、ここまでは平和な一日だったんだ…