第三話-城下町~ソーマ-
騎士団に状況を説明したあと宿泊先がないことを伝えると、レオンが宿を紹介してくれた。祭りの最中ではどこも満室なので、王様が王室御用達の宿を用意してくれたとのことだ。
「救世主と天界の要人、どちらも国賓級ではあるが、スケジュールに空きがなくてな。せめて宿くらいはこちらで用意した。すまんが大会が終わるまで待っていてくれ。」
だそうだ。
新人だろうか、若い兵士の一人(と言っても自分たちと同じくらい)が案内をしてくれた。城の東側、離れて見れば城の一部とも見える立派な高級宿だ。というか、俺も今日まで城の一部だと思っていた。宿の前に到着したときには、しばらく動くことが出来なかった。内装も素晴らしい。ほとんど城と同じ造りのようだ。
「アリシアはお姫様だよね? 慣れているんじゃないの?」
俺たち同様に動揺しているアリシア、ちょっと疑問に思い聞いてみる。
「いや、うちは質素倹約主義みたいなとこがあったから。一応城は立派にしてたけど、自分たちの住む場所は別で地味だったんだ。他の国でも、ここまでのはなかったよ。ちょっと侮ってたわ…」
廊下を歩きながら、キョロキョロびくびくしながら話すアリシア。ケイトはアリシアと手をつないで一緒にキョロキョロしながら歩いている。カルムはというと、税金の無駄遣いとイヤミのひとつでも言いたそうだが、国賓の誰かに聞かれてはヤバいかも…とやきもきしていた。
部屋も豪華。テーブルには高級そうなお菓子と紅茶が置いてある。女子二人はテンションが上がり、眼下に広がる祭りの街を見ながらティータイムに入った。四階の部屋からだと街もよく見渡せる。申請基準が厳しいために出店こそ少ないが、普段から比べるとすごい混雑だ。裏町をよく見ると、おそらく無許可で出店していたのだろう、兵士に囲まれている商人も見えた。
(あれはカムさんか? 相変わらずだなぁ…)
よく見れば見知った顔だった。
(やれやれ、助けてあげようかな)
「ちょっと出掛けてくるよ。夕飯までには戻るね」
カムさんことカムランさんは、小さい頃からの顔馴染みで、裏にも顔のきく商人だ。まさかこちらの現状については知らないだろうが、ルティナは珍しい有翼人、彼女のことは耳に入るだろう。助けのお返しに一報を貰えるようにしておこうと思ったのだ。
「いや~坊っちゃん、お久しぶりです。助けられてしまいましたね」
派手な紫のスーツに色眼鏡の恰幅のよい中年男性。商人でありながらも修羅場をくぐった人間独特のオーラも持つ。話のわかる人なので、手短に要件を告げた。
「有翼人ですか。そりゃ地層では珍しい。欲しがる金持ちも集まっているし、うまく捕獲したいものですね」
などと言うので睨んでやると
「もちろん冗談ですよ。人身売買や違法薬物はやりませんからね。私は人道に沿った悪さしかしません」
と胸を張る。(人道に沿った悪さって)とは思ったが、そこはスルーしておく。
「それにしても」
半分呆れたようにこちらを見て言う。
「相変わらず、坊っちゃんの周りには変わった人が集まりますね」
と笑顔のカムさん。俺は何も言い返せず、笑って「頼んだ」としか言えなかった。
今も昔も周りに振り回されっぱなしだ。しかし、今はそれが少し心地よかった。




