第八話-覚悟の差-
ケイトを中心にし、後方にアリシア。ケイトを守りながら援護しつつ寄らば攻撃を。前方右にソーマが。右利きのルティナに対し手数で崩しを狙う。前方左にカルム。リーチの差で圧をかける。他の二人もいるので、簡単には懐には潜り込まれないだろうという考えだ。
ジリジリと間合いを詰め、タイミングを合わせて斬り込む!
しかし、それを読んだルティナが一瞬速く前に飛び出す。二人は空振りしたが、その勢いで後方を向き、追いかける。突進して来るルティナに対し、アリシアはケイトを後ろに下げて迎え撃つ。
「ドンッ!!」
という爆発音と共に土煙が上がる。ルティナが足元に魔法を放ったのだ。煙に隠れて回り込みケイトに手を伸ばす。が、
「バチッ!」
ケイトが張っていた結界に阻まれる。怯んだ隙を、気配を読んだアリシアの槍が襲う。が、上体を軽く仰け反らせ、肩の辺りを掠める程度でかわす。
土煙の外側から回り込み、その姿を捉えた二人。今度は先ずはカルムが棒術で攻める。自身も回転しつつ、巧みに棒を回転させての、読みづらい連続攻撃。それに合わせてソーマが一撃離脱で斬撃を入れる。それをルティナが両の短剣で反らし、かわし、後方へ退避していく。
(くそっ、もう少し後ろに行けていれば…)
両手に短剣を持ちながらも魔法を発動させた。なので、次もいつ撃ってくるかわからない。ほんの一瞬の時間が命取りになりかねない。だからこそ陣取りよりも攻撃を優先した。しかし、そのせいで決め手に欠ける。
振り出しに戻る。いや、今度は左右が逆だ。ケイトの結界強度も把握された。
(それにしても、俺たち三人、いや四人を相手にこれとはな…)
アリシアと同クラスの戦闘能力と思っていた。余裕で立ち回れると思っていた。彼女の全力は知らないが、あの時とは違い体力万全なアリシア込みで戦っているのだ。
(覚悟の差、ってやつか?)
未熟な救世主を守り、無事に国へ送り届ける義務がある以上、無茶は出来ない。そして、知り合って間もない俺たちは、どうしても連携に隙がある。
対してルティナは…
(命を捨てに来てるな)
アリシアか救世主を止める。それで勝ちだ。自分が死ぬことで、この優しい二人にトラウマを与える可能性も計算しているかもしれない。そう思わせる迫力があった。同時に、また怒りが沸いた。
カルムがおもむろに一歩前に出る。皆が「え?」と固まる。
そして、棒をルティナに向けて突きだし言った。
「こっちも覚悟は決まってんだ。お前が死んでも、誰が死んでも、止まらねーぞ」
ルティナの表情が歪む。やはり、そういう考えもあったようだ。ならばとケイトに視線を向けるのを一歩横に動いて遮り、さらに言った。
「もちろんケイトは最優先で守る。何がなんでもだ。それと…」
一呼吸おいて
「…出来ればお前も救ってやりたい」
その一言は彼女の強く固められた覚悟にビビを入れた。ケイトを視界に捉えようと、ゆっくりと体を動かしていたルティナだったが、その動きは止まり左目から一筋涙が流れた。
それに気づき、自身の感情の揺らぎに混乱したルティナは何も言わずに逃げ出した。四人とも、その後ろ姿を見つめしばらく動けなかった。無事に済みはしたが後味の悪い終わりかたになってしまった。少しして、誰からともなく王都へ歩き出したが、しばらく無言だった。
彼女も王都方面に向かって行ったことが不安だったが、誰もそれに触れることはなかった。




