第七話-偽りの姿-
およそ15mの距離だろうか、こちらが馬を止めて全員が降りるとルティナが言った。これまでの二回とは違って、落ち着き堂々とした雰囲気に、こちらが飲まれそうになる。ルティナは腕を組んだまま、ケイトをちらりと見て語りかけてきた。
「一人、増えているな。まだ幼いようだが油断はいかんな。救世主のボディーガード… のわけはないな。どちらにしろ離れていろ」
なるほど。どうやら、まだ勘違いが続いているようだ。無理もない。そしてありがたい。このまま…
「無礼者! この方こそが救世主、ケイト様だ!!」
アリシアがケイトの前に立って半身をずらし、手をかざして大声でご紹介してみせた。どや顔のアリシアを、三人ともやっちまったなと虚ろな目で見た。アリシアもはっとして、遅れてやってしまったという顔をしてこちらを見る。兎に角、バレてしまったものは仕方ない。こいつをなんとかしなければ…
「はー? ははっ… はーっはっはー いや、嘘だろ? さすがにそれは…」
おいおい、と腕をこちらに向けて振り、もう片手で顔を覆っている。これはいけそうか? と思ったが、今日の彼女は一味違っていた。
「いや、待てよ。確か装置の反応は12年前。ならば救世主は現在12才…?」
顔を覆った手の指の間からこちらを睨む。空気が張り詰める。高く上った太陽の光が発汗を促す。一呼吸おいて、ルティナが片膝をつき頭を垂れて語りかける。
「救世主様、無駄な争いは好みません。こちらへ。私と共にいらしてくだされば、誰にも危害は及びません」
意表を突く、今までの印象とは真逆の行動。出会いの場面を思えば別人のようだ。二回目に会った時は、どこにでもいそうな面白い女の子という印象だった。そして三回目、アリシアの話を聞いての今回。彼女がわからない。これが本来の姿かもしれないし、そうではないかもしれない。別人が化けた可能性は?
考えはまとまらない。しかし、アリシアが動かない以上、俺たちも動くことは出来なかった。
「ルティナさん」
ケイトが前に出て話しかける。
「話は伺っています。あくまでアリシアさん目線の話ではあります。でも、彼女は信じるに値すると思いました。」
咎人を諭す神父のような優しい口調。
「だからこそ、あなたの話も聞きたい。あなたの話も聞いてお互いに歩み寄ることは出来ないか、共に未来を探してみませんか?」
見習いの中でも優秀だったというケイト。このまま落とせそうにさえ見える。しかし
「すみませんが救世主様。今は私が質問しているのです。共に来ますか?」
頭を垂れたままだが、声が一段大きくなる。その威圧感に、さすがのケイトもビクッと反応し後ずさる。交渉決裂、そしてそれが戦闘開始の合図となったのだった。




