第六話-別れと旅立ちと-
朝起きると、既に朝食の準備と出立の準備が終わっていた。寝過ごしたわけではなかった。ケイトと司教は「いつでも」対応出来るように準備していたのだ。それぞれの覚悟、俺がこの世界にやってくるよりもずっと前から… そう思うと、この10才近くも年下の少女が、既に自分より遥かに立派な存在なのだと思えるのだった。
「アリシアさん、どうぞ」
ケイトは笑顔でお茶を注ぐ。アリシアもありがとうとにこやかだ。昨夜、俺達が酒の飲みつつ暗い話をしていた時に、この娘たちは親睦を深めるべく女子会を催していたのだった。お互い年齢層が高めの社会で生きてきた。8つ離れているとはいえ、ほぼ同年代、もしくは姉妹のような気持ちなのかもしれない。何はともあれ、仲がよくなるのは良いことだ。救世主と従者の旅がギクシャクしていては救えるものも救われない。
こちらを見てニヤニヤしてるのが気になるが、気にしないでおこう。
「司教様… いってきます」
ケイトが涙を浮かべながら、震える声をしぼり出す。ハルミヤさんがいってらっしゃいと言いケイトを抱き寄せる。とたんにケイトが我慢しきれずに声をあげて泣き出した。見送りに出てきた人たちももらい泣きしている。
「お待たせしました」
赤く腫れた目は潤んでいる。そんな彼女を、アリシアは馬上から慈しむように見つめ手を差し出した。ケイトがその手を取ると、アリシアはそのまま引き上げ自分の前に乗せて、ゆっくりと馬を歩かせた。俺たちも合わせて歩かせる。ケイトは手綱を持つアリシアの腕の間から顔を出して、何度も振り返っていた。アリシアはうっかり落ちないようにと支えているようだった。馬は歩く速度を上げる。徐々に、ゆっくりと…
街が完全に見えなくなった頃、ケイトが体をしっかりと前に向け、よしと気合いを入れた。もう大丈夫だなとアリシアが言うと、ケイトも両の拳を握って力強くはいと返事をする。少しずつ会話が増えていく様子に馬たちも足取りが軽くなる。そんな情景を見て、俺は(12才の少女が世界を救う旅の始まり… だとするならば、そこに立ち会えただけでも自分は特別になれているのかな?)などと考えていた。
「そろそろかな?」
ふと、ソーマが言う。俺たちは頷く。ケイトも未熟ながらも気を引き締め辺りの気配を探る。とはいえ、王都までの街道のど真ん中。周辺は木々もまばらな草原地帯。襲ってくるにも場所は限られるはず。樹上からの強襲、そう思っていた俺たちは意表を突かれた。徐々に見えてくる人影。道の真ん中でルティナは俺たちを待っていた。仁王立ちで腕を組み、こちらをしっかりと見据えていた。
「待ちくたびれたぞ!」




