第五話-和解と密談-
教会の応接室へと戻ると、そちらも話は終わっていたようで静かに座って帰りを待っていた。ケイトが椅子から降りてアリシアの前に立つ。お互いに覚悟を決めた顔。一瞬が沈黙の後にケイトが言った。
「あの、よろしくお願いします!」
深々と一礼するケイトに、予想外といった様子でアワアワするアリシア。あまりの慌てぶりに皆が笑う。
(ソーマが差し金だな)
俺も笑いながらアリシアの背中をポンと叩いてやる。ちょっとだけ流れた涙を拭いて握手した。先程とは違う笑顔で包まれた。
その夜、俺たちは夕食をご馳走になる。旅立つなら早い方がよさそうだと、明日には王都へ向かうことになっていた。ケイトの好物だというエビのフリッターがメインに並ぶ。この日は久しぶりに笑顔と涙でいっぱいの一日になった。
深夜、俺たちは状況の擦り合わせを行っていた。楽しい会食中にわざわざする内容ではなかったからだ。
「なるほどね。やっぱり正式な命令で動いていたわけではなかったんだ。でも、思っていたより深刻な状況になってる可能性が高いね…」
テーブルの上の小さなランプの光は、より深刻そうな雰囲気を醸し出す。
「で、そっちは? そもそも、教会はケイトがそうだと知っていた感じだったが…」
声が漏れぬよう響かぬよう配慮して話す。
「教会はね、救世主の魂を感知する魔法具を所有しているらしい。12年前に中央教会所有の魔法具が作動。その反応を辿りルベリアへとやって来たそうだ。その時の中央からの使者が現司教のハルミヤさん。」
救世主の生まれ変わりと教えられ育てられたケイト、救世主として教育を義務付けられたハルミヤ。互いに他人に押し付けられた擬似親子のような人生。しかし、二人の関係は本当の親子のように信頼し合っているようだった。
「いい人たち、なんだな…」
どんな運命でも、出会った人によって救いがある。彼女たちからもそれを感じ取ることが出来て心穏やかになる。
「ん? ということは、最低でも二つあるってことか? その魔法具は」
アリシアもなんらかの装置で知ったと言っていた。この分だと下層も所有していそうだ。中層では教会が秘密裏に『正しく』育てる方針を取っていたようだが、上層は存在の利用を考えるものもいた。下層はどうだろうか…
「いろいろ不安要素はあるけど、とりあえず向かうのは上だから大丈夫じゃないかな。ここの王様も政治利用するような人じゃないし。」
その通りだった。関係のないことで考え過ぎても仕方ない。夕食で進められた酒も効いてきたようで、眠気が出てきていた。あくびをひとつする。
問題は2つ、1つは追っ手だ(この国は飲酒は18才から認められているので問題ない)。ルティナだけならなんとかなるだろうが、なぜ彼女が追ってこれたのかも気になるところ。たまたま知ったのか、ロディエル側にも魔法具があるのか。どちらにしろ、ルティナが他の誰かに話していれば、追加がくる可能性は高い。
そして、もうひとつの問題は上への行き方だ。王が転送装置の起動を許可するか、装置は動くのか、そもそも現存しているのか… こちらの方は、それこそ考えても仕方ないことだった。当面は追っ手への対処が優先事項。増員があった場合も考慮して立ち回りの段取りをする。最悪の場合、命の奪い合いになる…
眠気が増してきた。覚悟を決め、俺たちは眠りについた。




