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ワールドリンク  作者: さばみそ
第二章-湖の街ルベリア-
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第四話-カタルシス-

「そんな… バカな… いや、外見で人を判断するのはよくないな。そうだ。まだ幼くとも救世主。きっと私など足元にも及ばない力をお持ちに違いない。いや、まったく失礼なやつだな。私は。」


目は泳ぎ、滑舌もおかしくなっている。そして相手の反応もお構い無しにベラベラしゃべる。相当、気が動転しているのだろう。冷静さを保とうと、自身を納得させようという必死さが痛々しい。だが、救世主だという少女から発せられた言葉は、アリシアにとっては何よりも鋭い刃となって心を切り裂く。


「あの… すみません! 私、救世主… の転生… らしいんですけど… あの、特別な力も無いし、魔力も平凡で…」


窓から差す光は変わらず照らすのに、先程までの興奮が嘘のようにアリシアの顔がどんどん青ざめていく。俺たちもどうしていいやら対応も出来ずに固まってしまっている。ケイトという少女も、話す度に空気が不穏になっていくのを感じたのだろう。どんどんと、しどろもどろになっていく。ハルミヤさんも口を真一文字に俯いている。


「あの… 私、何をすればいいんですか?」


意を決して言ったのだろう。しかし、ケイトその言葉は、かろうじて保っていたアリシアの心にトドメを差すことになってしまった。


「君に何が出来るというのだっ!!」


そう叫ぶと、アリシアは部屋を飛び出した。俺がどうすべきか迷っていると、たぶんアリシアは君の方がいいとソーマに追いかけるよう指示される。目に涙をうかべ下を向くケイトに、ちょっと行ってくるからと声をかけて追いかける。


追いかけるまでに一瞬の時間が空てしまったのでアリシアを見失ってしまい探し出せるかと不安に思ったが、外に出て辺りを見回すと教会の隣の公園にその姿を見つけた。公園の中央、小さな噴水のある池の前で呆然と立っている。お昼前の時間帯、周囲に人はいない。まだ何と声をかけていいか迷っていた俺は、とりあえず存在をアピールするように咳払いをし、足を摺って歩行音を出しながら近いた。そんな自分が情けなくなり頭を掻きむしる。そういえば、彼女自身がどういう経緯で救世主の話を聞いたのか、そして捜索に任命されたのかは聞いていなかった。そもそも、救世主の所在を、転生をどうやって知ることが出来たのか、次々に疑問が頭に浮かぶ。俺たちはこの状況に浮き足だっていたのだ。おそらくソーマですら。年不相応な少年の心、とも言うのだろうか、もっと冷静になり確認すべき点は沢山あったのだ。(事前に考えを巡らせておけば、彼女もあの少女も無駄に傷付かずに済んだかもしれないのに)と自責の念が溢れる。

ため息をひとつこぼすとアリシアが呟いた


「可能性のひとつとして想像はしていた…」


意外な言葉だった。あんなに前向きな発言と行動、確固たる自信があると勝手に思っていた。アリシアは背中を向けたまま語りだした。ゼフィスには代々救世主の魂を感知する装置があること、それが12年前に動き出したこと、それをきっかけに過激派と呼ばれる連中がロディエル領への不信感を募らせていったことを…


「そしてここにきてのロディエルの戦争準備の一報。過激派は穏健派の大多数を取り込んで、開戦へ向けての準備を始めてしまった。穏健派である父王には動かせる人間がほとんど残っていなかったんだ。」


救世主という存在は戦争の前触れ。それが現れたとなれば、何処かで誰かが戦争を企てている。その考えは自然だが、過去の戦争とは世界大戦、上層での隣国間の戦争で?と疑問が浮かぶ。


「過去の戦争は世界各国を巻き込んだ大戦、隣国との小競り合いで救世主が顕現するはずがない。そう父王が説いても「あいつらは下層の国を配下に付けたに違いない。あいつらはそういう下賎な連中だ!」と勢いを増すばかり。救世主の存在などそっちのけで戦争をする気満々なんだ」


どこの世界のどこの国の人間も同じなのだ。ただそこにあるという小さな事実でも、着色し、付属し、肥大させ、元のモノとは違うものになったとしても関係なく、それを中心に人は攻撃的な感情をまとって動き出す。祭りの神輿のように、それは辺りを巻き込みながら進んでいく。奉っているものが何であっても…


「もう動ける人間が私しかいなかった。私は居ても立ってもいられす、救世主を探してくると父王に告げて走っていた。止められはしなかった。しかし、任せたとか頼んだというような声もかけられなかった。わかっていたんだろうな。希望ではあるが、まだ… その時では ないと…」


声が途切れ途切れになる。悔しさなのだろう。さっきまでとは違い、両の拳がしっかりと握られていた。痛々しいほどに…



思いの丈を吐露とろしたことで落ち着きを取り戻した様子のアリシア。背中を向けたまま、脱力し両の腕を垂らす。と、大きく深呼吸をした。腕を広げ、音を出しながら大きく息を吸い、そして大きく息を吐いた。体が丸まり、一回り小さくなったように見える。

「うん!」

自分なりに納得したのだろう。声を出して頷き、顔を上げる。そして、やっとこちらに振り返る。


「情けないところ見せてごめんね。もう大丈夫。」


納得し受け入れはいたが、問題は解決したわけではない。憂いを帯びたその顔は艶かしくも見え、ドキリとして立ち尽くしてしまった。なんかドキドキさせられっぱなしのような気がする。それに気づいてか、イタズラっぽい笑顔で話す。


「さぁ、戻ろう。皆に謝らなきゃ」

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