第三話-救世主、その姿-
ルベリアには程なく到着した。道中、アリスというあだ名をからかおうかとも思っていたが、あの表情が目に焼き付いてしまったようで、とてもそんな気分にはなれなかった。街が近づくにつれ、だんだん緊張の方が大きくなっていくようであったが、こちらはもう緊張を解してやる気分ではなかった。
「す、星道教会はどちらでありますか?」
と、ガチガチで俺たちにも敬語になる。その姿がルティナと重なる。
(似た者同士… 親友、だったんだろうなぁ…)
殺すという言葉とは裏腹に、なるべく傷つけないように立ち回っていた彼女を思い出す。そして大切な人を失う辛さを思い出す。
(止めなきゃな、戦争)
ソーマに示された、街の中央に位置する小綺麗な教会。馬を厩舎に預け金を支払い、さらに緊張を高めるアリシアを間にして、俺たちは歩いた。
「あのっ! 救世主様は御在宅であらせられますかぁ?」
ますますポンコツなアリシア。対応した女性、フードの横から流れてる髪には何本か白髪が混じる。年の頃と雰囲気からこの教会の幹部クラスだろうか?一瞬ハッとした表情を見せたが、すぐに「ええと…」と困った顔をして見せた。あぁ、「知っている」んだなと理解した俺たち。いつものようにソーマが上手く対応に出る。
「………そうですか。立話もなんなので、どうぞ中へ… 申し遅れました。司教のハルミヤと申します。」
どこまで理解しているのだろうか、司教だと名乗った女性は、観念したというような面持ちで教会内へ案内してくれた。訝しげな俺たちとは真逆に、緊張と興奮で今にも壊れそうなアリシア。
(こいつ、俺たちに会わなかったら終わってたのでは?)
と呆れさてくれた。
「では、少しお待ちください…」
そう言って、応接室に通して部屋から出ていった。
救世主誕生の地として、少しは名の知れている街ではあるが、救世主自体の伝承がはっきりしたものがなく、聖地としての盛り上がりがいまいち低く、その認知度に反してこじんまりとした街である。そんな事情もあるのだが、地味な外観とは逆に、教会の内装は実に立派で、絢爛豪華な飾り物などはないが、この応接室に至っては王城にも匹敵しそうである。聖地の教会としての面子であろうか…
裏を読もうとするのは俺の悪い癖だ。ソーマならこんな下衆な思考を巡らせずとも直感的に理解するだろうか。アリシアは待ちきれずに飛び上がりそうな勢いである。大きな窓から差し込む光を浴びて、その顔はますます熱を帯びていくようだ。
コンコン
扉をノックする音だ。失礼しますという声と共に、先ほどの女性と…
身長約150cmくらい。透き通った黒い瞳、肩甲骨程の長さの輝く黒髪を三つ編みにした女の子が部屋に入ってきた。理解が追い付かず、三人とも無言で微動だにせず少女を見つめていた。
「あの、はじめまして。ケイト・サルバートです。救世主の生まれ変わり… です」
少女は言った。アリシアはその場に崩れ落ちた。




