子猫 学校③
前回の続きです。
【修正】
りょう がところどころ,りゅう になっているので修正しました。
正しいのは,りょう です。
「やめろ‼︎」
大声を出したのは,時雨の兄だった。
いつのまにか人だかりが二人の周りにできていたが,時雨の兄・結城がりょうを睨みながら二人に近づく。
「ねぇ,また僕のいとこいじめてんの?」
兄と一緒に来た男の子がりょうにそう言う。
「ゆぅにぃ,かずにぃ。」
時雨は二人の人物の名前を言った。
もう一人の男の子は時雨の従兄弟の兄だった。
名前を深和一希
結城が小学六年生の十二歳に対し,一希は十一歳の小学五年生だ。
二人は時雨とりょうの間に割って入って,無理やり止めさせる。
「大丈夫か?時雨。保健室行くか?」
一希が時雨に手を差し伸べる。
「う,うん。ありがとう。かずにぃ。」
時雨は一希の手を取って立ち上がった。
結城と一希はそんな時雨の様子に安心したように笑うと,今度はりょうの方を見た。
冷たい眼差しで。
「いい加減にしろ。またお前か。何度俺の弟をいじめれば気がすむんだ。」
「結城兄,無駄だよ。そいつバカだから学ばないんだよ。そんなことより,時雨を保健室に連れてこ。」
結城が怒りをあらわにしているのに対して,一希は時雨の方を優先させるように言いつつ,りょうに対してさらりと暴言を口にする。
騒ぎに慌てて駆けつけた先生の一人が状況を察したものの,一希の言葉に苦笑いを浮かべた。
一希の言葉に一瞬注意すべきか迷ったが,さらに揉めそうだと思い,事態の収拾を図ることにした。
そして,野次馬の生徒が散ると同時に,さっきまで時雨とかくれんぼをしていた時雨のクラスメイトが駆けつけて口々に「だいじょうぶ?」と,声をかけてきた。
時雨は全員に律儀に「だいじょうぶ」と答えつつ,結城と一希に連れられて保健室に向かった。
結果,あちこち殴られたものの,特に目立った怪我はなかった。
りょうは時雨と別に職員室に連れられて,担任の先生に説教されたようだがおそらく時雨へのいじめは止まらないだろう。
なんだかんだありつつ,今日の学校が終わった。
家に帰ると,兄ちゃんが両親に今日のことを話したらしい。
父さんが「ちょっとそのガキ,シメてくると暴走しかけたのだが,母さんとゆぅ兄と,三人で止めてかかりなんとか思いとどまらせた。
…まぁ,殴りかかりに行くのを止めただけでまだ怒っているらしいけど。
缶ビールをがぶ飲みしている。
そんな様子を時雨眺めていると,母親が時雨に話しかけてきた。
「時雨,痛かったね。でも,偉かったよ。殴り返さなかったのでしょ?時雨は強いね。」
そう微笑みながら時雨の頭を優しく撫でる。
「あいつ…今度時雨をいじめるのを見たら靴の中に尖った石入れてやる。それで地味に痛い思いすればいいんだ。」
兄ちゃんがそう言ってまだ腹を立てていることをあらわにする。
母さんは,微笑しながら
「やめなさい。」
と,言った。
そして,俺の怪我の様子を確認しつつ,特に問題がないことがわかったのか安心したような笑みを浮かべる。
「でも,ちょっと,悔しい…。」
おれはやられっぱなしだったことを思い出してそうつぶやく。
母さんの言いつけは守ったものの,兄ちゃん達が来るまで何もできなかったのだ。
「何で?」
母さんが優しくそうきく。
「だって…なにもできなかった。」
すると母さんは俺に急に質問してきた。
「…時雨は確か,父さんみたいに強くなりたいのよね。じゃあ,時雨。強い人ってどんな人?」
俺と同じ,ライトブルーの目をじっと俺に向けて母さんは俺の答えを待つ。
俺はしどろもどろに自分の考える答えを口にした。
「えっと…,ちからがつよくて,まけなくて,じぶんだけじゃなくて,たくさんのひとをまもれるひと。」
俺が話し終わって,しばらくして,今度は母さんが話し始める。
「そうね。たしかに,時雨の考えるそんな人も強いと言えるわ。でもね,強いといえる人は他にも言えるわ。」
数秒の間,再び口を開いた。
「母さんの思う強さはね,時雨のいう力とかだけじゃなくてね,精神の強さもあるのよ。」
「…せいしん?」
「えぇ。精神。例えば,力が強くても,その力をわがままを押し倒すために使うのは,強い人だと思う?」
しばらく考えたあと,俺は答えた。
「…つよく…ないとおもう…。」
「そうね。母さんはね,たとえ力が弱くても強い人はたくさんいると思ってるわ。結城のように,大切な人を守ることも強いと思うし,一希くんのように時雨の身を案じるのも強さの一つだと思うわ。」
そして,微笑んで時雨の頭を優しく撫でながら,
「そして,時雨のように耐えるのも強さの一つだと思うわ。感情に任せて暴力を振るわないことも大切なことなのよ。」
「……。」
思わず目を見開く。
それを見て母さんは,ふふっと笑って
「だからね,時雨は誇っていいのよ。」
そう言って,「偉かったね。」と,再び頭を撫でてくれた母さんの手はいつもより暖かく感じた。