子猫 六歳の時
「とーさん,とーさんのしごとってなに?」
学校から帰ってすぐに,俺は父さんにきいた。
それは学校で先生から,仕事の話を聴いたことがきっかけだった。
クラスメイトは「しょーぼーし」や「ぱんやさん!」と,すぐに親の仕事の名前を言えてた。
でも,俺はすぐに答えることはできなかった。
俺だけ何も知らないことが嫌で,気になって帰ってすぐにきいてみたのだ。
「ん?俺の仕事?」
父さんはテーブルでつまみを食べながら,数秒何かを考えた後,口を開いた。
「時雨,俺の仕事はな,今は異能捜査官学校の講師をしてるんだ。」
「…こうし?」
俺は初めて耳にした言葉にきょとんとする。
「…こどものウシさんのこと?」
俺がそう言うと,父さんは笑った。
「ぷっ,はっはっはっ!子牛じゃなくでだな。あー,時雨にも分かりやすく言うと先生だ。」
「へー。」
とりあえず,父さんの仕事は俺の担任の先生と同じ(?)先生なのだと知った。
「じゃあ,おれもとーさんのいるがっこうでべんきょうできるの?」
俺がそう言うと,父さんは優しい笑みを浮かべて,俺の頭を撫でながら言った。
「んー,時雨にはまだ早いかな。」
「えー,なんで。」
「時雨が今勉強してるのはひらがなやカタカナや足し算引き算とかだろ?それらをマスターしないと難しいぞ。」
「むー。」
俺は納得出来なかった。
家族で一番年下だから,兄ちゃんやいとこの兄ちゃんはできるのに俺だけ出来ないのが悔しかった。
そんな俺の心情を察してか,父さんはまた話し始めた。
「こらこら,そう頬を膨らませんな。時雨は俺の息子だから焦らんくても,すぐにいろいろできるようになるさ。」
「いろいろ?」
「あぁ。知ってるか?父ちゃんはな,昔は異能捜査官の頂点だったんだぞ?」
「いのーそーさかん?」
その言葉がわからずハテナを浮かべても父さんは気にせず話し続ける。
「分かりやすく言うと,魔物や犯罪者から人々を守るヒーローだ‼︎」
「ヒーロー!」
俺は父さんがヒーローだったことに興奮した。
でも,ふと思ったことを口にする。
「でも,とーさん,せんせーじゃないの?」
なんで今はその〝いのーそーさかん″ではないのか。
俺がそう言うと,父さんは「あぁ」と言って話し始めた。
「捜査官だった頃,多くの人や同僚を助けるために少し無理をしてな。ヒーローとして活動するのが難しいほどの大怪我を負ってしまったんだ。」
「けが?」
父さんは頷くと,右足のズボンをまくって,中身を見せた。
…そこにはあるはずの普通の足はなく,金属でできた足があった。
父さんが言うには〝義足″と言うらしい。
まるでロボットのようなその見た目に俺は純粋にかっこいいと思った。
それと同時に,
「いたい?」
と,父さんにきく。
「いや,今は全然痛くない。生活ににも不便はあまりないよ。それにこれはな,父さんが大切な人を守った証でもあるんだ」
「あかし…」
「あぁ。だから,ヒーローを辞めてしまった今でも後悔はないよ。それにな,俺の今の仕事はまさにそのヒーローになる若者を導く先生なんだぞ!」
そう父さんはドヤ顔で言う。
「とーさん,ヒーローのせんせーなんだ!」
「あぁ,そうだぞ!父さんはヒーローの先生だ。」
かっこいいと思った。父さんのことが。
最強のヒーローを辞めても,たくさんのヒーローのことを導いていることが。
そして,俺に将来の夢ができた。
「おれ,とーさんみたいになりたい!」
「おっ,ほんとか?」
父さんは嬉しそうに笑うと,俺の頭をくしゃくしゃと撫でながら言った。
「なれるさ,時雨なら。父さん,時雨が父さんの学校に来るのを楽しみに待っとくよ。」
「ほんと⁉︎」
俺は父さんが喜んでくれたことが嬉しかった。
聞けば,俺の兄ちゃんもいとこの兄ちゃんも,父さんのように将来はその異能捜査官になるのが夢だという。
だから,俺は兄ちゃんたちに負けないようにその日から勉強や運動を頑張ることにした。
その日から,誰もが憧れ,信頼し,目標にしている異能捜査官最強の男だった父さんに,俺も憧れるようになった。