表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第二話 芽生え


「―――!?」


傷を負った動物や危険度の低い小型の魔物に、何度目かの回復魔法を掛けていると、『気配察知』に一つの大きな生物の気配が入り込む。


「魔物…Bランクくらいか?セルバの言う通りだったな」


「強い魔物がいないとも限らない」と言ったセルバの言葉が当たった事に苦笑いする。


ちなみにランクというのは、人が作った危険度の目安のことで、高い順からSSS〜Gランクの計10段階に分けられる。

大まかな危険度はこうなっている。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

SSSランク…人類滅亡すらあり得る神災レベル

SSランク…単位で国が滅ぶ天災レベル

Sランク…単位で町が滅ぶ災害レベル

Aランク…一般的な戦闘職の者が数百人で倒せるレベル

Bランク…一般的な戦闘職の者が数十人で倒せるレベル

Cランク…一般的な戦闘職の者が数人で倒せるレベル

Dランク…一般的な戦闘職の者が倒せるレベル

Eランク…大人なら倒せるレベル

Fランク…子供が数人で倒せるレベル

Gランク…子供でも倒せるレベル

ーーーーーーーーーーーーーーーー


基準としては、勇者や魔王はSSランクで、前世の俺の様な英雄はSランク程度の強さだと思ってもらった方が良い。


そして今回はBランク。

一般的な戦闘職の者が数十人単位で倒せるレベルの魔物になる。が、あくまで倒せるというだけで、そこに犠牲が出る事など計算に入っていない。

つまり、倒せたとしても生き残った人数が一人という事もあり得るうえ、上位の魔物はそもそも傷付けるだけでも難しいので正確とは言いづらい。

前世ならともかく、まだ子供の今の俺には厳しい相手だ。


「まあ、正面から戦った場合だけどな」


そこまで言って、俺は《アルカナ》を使う。

その瞬間、俺の気配が忽然と消える。


《アルカナ》の能力には、似ているものはあるかも知れないが同じものは決して存在しない。

レナの能力が【未来予知】であった様に俺にも別の能力がある。

そして、俺の《アルカナ》は【(おぼろ)】。

効果は名前の通り“何かを曖昧にする”という能力の詳細すら曖昧なもの。

俺はこれを気配を曖昧にすることに使い、この技を『朧・隠行』と呼んでいる。


「···ああ、そういえばネーミングセンスがないってレナに笑われたんだったな」


そう懐かしそうにぼやきながら、俺は魔物から遠ざかるのではなく、逆に近付いて行く。

竜人は高い魔力を持っているが、里のいるのは元魔王軍の生き残りであり、その殆どが非戦闘員だ。

里の誰かが遭遇する可能性がある以上、ここで仕留めるのがベストだ。


それから数分。

俺は目的の魔物が見えた所で、セルバの目を盗んでこっそり持って来た竜人の秘宝と呼ばれている美しい光沢を放つ漆黒の剣を抜く。

目的の魔物は全長3mを軽く超える巨大な体躯の熊の魔物だった。

腕は丸太の様に分厚く、爪は刃の様に鋭い。更に全身は針金の様な厚い毛に覆われており、生半可な攻撃は通じそうにない。

俺が英雄と呼ばれていた頃には何度も戦った事があるが、身長が1m程度しかない今の俺には、更に大きく見える。


「(悪いが里の皆の為に死んでもらう)」


俺は心の中でそうつぶやき、闘気で身体能力を強化して一瞬で近付く。

そして闘気を剣に纏わせて威力を強化する『気功剣』や闘気を集中させる事で通常の数倍に筋力を強化する『剛力』といった複数の《アーツ》を同時使用し、剣を一閃する。

すると、斬っているとは思えない程の軽い感触を手に感じると、数秒後にドサリと重量感のある音を立てて、巨大な熊の魔物の首が落ちる。


「まあ、Bランクと言っても不意打ちと俺の《アーツ》ならこんなものか」


そして、俺は魔物に興味がなくなった様に歩き出そうとして、顔を歪ませる。

視線を下げれば、黒剣を持つ手が軽く痙攣していた。


「やっぱり『剛力』はまだ早かったか」


『剛力』には一つランクを下げた『怪力』という技がある。

その上に複数の《アーツ》の同時使用だ。俺のまだ幼い体が耐え切れず、ダメージを受けたのだ。

たとえ前世の技術や知識があっても、それを十全に使えるとは限らない。

俺はその事を改めて実感しながら、痛めた腕に回復魔法を掛ける。

「(早く大きくならないと…今の俺じゃ里の皆を守れない)」


そう思った直後だった。


グオオオオォォォッ!!!


辺り一帯に、そんな鼓膜を破れそうになる様な何かの鳴き声が響き渡る。

そして俺はそれが何なのか瞬時に理解した。


「(今のはドラゴンの咆哮!?方角は里の方か!?)」


その事実に全力で走り出しながら、俺は先程のドラゴンの咆哮のことを考える。

竜人には一握りの限られた者だけが使える特殊能力がある。

その名を『竜化』。

自らを竜へと変化させる事が出来る竜人の奥義だ。

そして、里の中で『竜化』を使えるのはたった一人―――かつて竜人の魔王軍の元幹部であるセルバだけだ。


「···セルバが『竜化』を使う程の相手が現れたのか」


思わず口から出た言葉に、俺は改めて状況の悪さを実感させられる。

セルバは『竜化』を使わなくてもAランク相当の実力がある。そんなセルバが『竜化』を必要とする事態。

それは、Sランク以上の脅威の知らせであった。

そのことに焦りが大きくなるが、俺は直ぐに冷静さを取り戻す。


「(焦るな!落ち着け!『竜化』したセルバなら相手がSランクであっても簡単に負ける事はないはずだ)」


俺はそう自分に言い聞かせ、無理やりにでも焦りを押し止めて、ひたすらに全力で走る。

相手がSランクよりも更に上、勇者や魔王などのSSランクだった場合などは考えない。もしも相手がSSランクなら、今の俺が足掻いた所でどうにかなる問題ではないからだ。

今は体力や闘気の消耗など考えず、何よりも早く里に着く事が最優先だった。



 ✻ ✻ ✻



「嘘だ···」


口からそんなか弱い声が漏れる。

やっとの事で森を抜け、ようやく里に辿り着いた時には全てが終わっていた。

それなりの大きさがあった里全体は燃え上がり、中にあった家々は燃え崩れ、もはや里の原型を(とど)めていない。

里で今尚も燃え続ける炎は余程高温なのか、森の入り口付近にいる俺にも熱が伝わってくる。


「···みんな···避難したんだよな···?」


認めたくなかった。いや、認める訳にはいかなかった。

先程まで『気配察知』に反応していた里の皆の気配が、今は一切感じられないのだ。

『竜化』したはずのセルバの気配も、他の数十人の竜人達の気配も何ひとつとして掴めない。

俺がその事実を認め始めた時、俺の中でレナの時にも感じた激情が再び溢れ出す。


「ふざけるなっ!何が英雄だ!何が姫だ!結局また何も守れていない!あの時と同じだ!俺が来た時には全てが遅い!生まれ変わっても何ひとつ変わっていない!あの時と同じ弱いままだ!もっと―――」


そして俺はその言葉の続きを、心の中で自分に言い聞かせる様に叫んだ。


(―――力が欲しい!理不尽を覆せる力が!手が届かないはずの者を守れる力が欲しい!)


「っ!?」


その瞬間、俺の中で何かが芽生えた気がした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ