漫才『小説家になろう』
二人(2人とも)、ボケ(ボケ役)、ツコ(ツッコミ役)
二人「どうもー」
ボケ「(コンビ名)です。名前だけでも覚えて帰ってくださいね。覚えてもらえましたかー。ではお帰りはあちらです」
ツコ「いや、まだ始まって間もないのにお客さんを帰そうとするな」
ボケ「さあどうぞ」
ツコ「さあどうぞ、じゃねえよ。帰そうとすんなって言ってんだろ! それより相談があるって言ってたよな。早くそれを話せよ」
ボケ「そうですか? いやー、相談というのも最近副業を考えてまして。ほら、芸人一本だと将来も不安ですし、なにより僕のありあまる才能を生かしきれないでしょ」
ツコ「まあまあまあ、言いたいこともあるがとりあえず聞いてやるよ。それで何をするつもりなんだ?」
ボケ「ずばり、小説家ですね」
ツコ「ああー、最近は芸人が書いた小説がベストセラーになったりするしな」
ボケ「そうなんですよ。僕も趣味で日記を書いているし、いけると思うんですよね」
ツコ「日記と小説は違うと思うけどな。ちなみに日記ってどんなことを書いてんだ?」
ボケ「いやいや、さすがに日記の内容は話せないよ」
ツコ「いいだろ。文章力とかもわかるかもしれねえし。ちなみに昨日はどうだったんだよ」
ボケ「昨日か~。ええっと、劇場でのライブの最中に思いついた僕の最高のアドリブボケに相方が反応出来なかった。あんなに簡単な突っ込みさえ出来ないなんてお笑いのセンスがないのか?」
ツコ「おっ、おお……ちなみに一昨日は?」
ボケ「僕がネタを飛ばしたと勘違いした相方がフォローに入ったせいで変な空気になった。あともうちょっとで絶妙な間だったのになぜか僕が悪い感じになった。お笑いの間も読めないのか? 正気を疑う」
ツコ「日記って言うより俺への愚痴じゃねえか!」
ボケ「この他にもたくさんの被害者の方からの声が……」
ツコ「誰だよ、そいつら!?」
ボケ「個人情報保護のため、お教えできません」
ツコ「って言うかお前しかいねえじゃねえか、お前の日記なんだし」
ボケ「まあそれは良いとして小説家ですよ、小説家。話の構想も既に出来ているんですよ。主人公は駆け出しのお笑い芸人にしようと思っているんですよね」
ツコ「無視かよ。……まあほぼ自分たちのことだからリアリティは出るだろうな」
ボケ「売れない芸人の主人公が花火大会で出会った先輩芸人に条件付きで弟子入りしてお笑いの極意を教わっていくのが始まりで……」
ツコ「何か聞き覚えがあるんだが気のせいか?」
ボケ「その後ネタに関しての衝突やすれ違い、コンビの解散やなんやかんやあって最終的には2人がコンビを組むって感じですね」
ツコ「ちなみに題名は?」
ボケ「花火」
ツコ「アウト!」
ボケ「芥川賞は本家がもらったからのれん分けした僕は直木賞かな」
ツコ「ラーメン屋みたいに言ってもごまかせないからな。結局はパクリじゃねえか!」
ボケ「冗談だって冗談。ちゃんと考えたのがあるから。やっぱりリアリティを出すためには自伝に近いものが良いと思うんだよね」
ツコ「嫌な予感しかしないが、まあ聞こうか」
ボケ「佐賀に住んでるばあちゃんの話でさ。幼少期の僕がばあちゃん家に預けられるところから始まるんだ。貧乏でも強く生きていくばあちゃんの姿から生きるということについて教わるって話」
ツコ「完全に黒だが、一応聞いておく。題名は?」
ボケ「佐賀の……」
ツコ「ああ、やっぱり」
ボケ「ホームレスばあちゃん」
ツコ「なんでそれをくっつけるんだよ! ホームレスばあちゃんって、家族なら助けてやれよ! というかホームレスのばあちゃんに子供を預けんな!」
ボケ「花見の時期はシマ争いが厳しいんだよなぁ」
ツコ「シマ、ホームレスにもシマってあるのか!? っていうか実話なのかよ!?」
ボケ「そんな訳ないだろ。何考えてるんだ?」
ツコ「お前ちょっといい加減にしろよ」
ボケ「有名作2作をパクッ……ミックスさせたんだから売れない訳がない」
ツコ「いやお前パクったって言いかけたよな! ミックスって言い換えてもパクッてることに変わりはないからな。お前小説家の才能ねえよ!」
ボケ「じゃあどうすれば良いんだよ! 僕に出来ることなんてお前との漫才のネタを考えることぐらいしか出来ないんだぞ」
ツコ「じゃあ俺とお笑いのテッペン取ればいいじゃねえか!」
ボケ「相方…………って流れを小説の山場にしようと思うんだけど」
ツコ「もういいわ」
二人「ありがとうございました」