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第八十六話 救世の女神と星の溶けた世界④

「よーし、みんな、一気に行くよ!」


鞭を閃かせたと同時に、花音は勇猛果敢に床を蹴った。


「ーーっ」


先陣を切った花音はてきぱきと鞭を動かし、『カーラ』のギルドメンバー達を翻弄する。

だが、相手は高位ギルドのプレイヤー達だ。

容易く攻撃を喰らってはくれない。

『カーラ』のギルドメンバー達は、花音が振るった鞭を身体を反らし紙一重でかわした。


「あっ……」


完全に虚を突いたはずの攻撃を避けられて、花音は足を踏み止める。


「賢様の戦いの妨害をさせるな!」


その隙に、隼が闊達(かったつ)豪放(ごうほう)な態度で指示する。

千差万別な武器を構え、『カーラ』のギルドメンバー達は一斉に花音に迫ったーーその時だった。


「花音、多少のダメージは堪えろ」

「うわっ!」

「なんだ?」


花音に迫り来るプレイヤー達に合わせて、奏良が放った銃の弾が全方位に連射される。

放たれた弾は、対空砲弾のように相手の攻撃にぶつかり、『カーラ』のギルドメンバー達を怯ませた。


「マスターを渡すわけにはいきません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を迫ってきたモンスター達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、召喚されたモンスター達は焼き尽くされたように消滅していった。


『元素還元!』


有はその隙に、床に向かって杖を振り下ろす。

有の杖から、放射状の光が放たれる。

その光が、避雷針がある場所に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

避雷針が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。


「全て解除するまで、先行きは長そうだな」


有の切羽詰まった声は再度、ぶつかり合った望と賢の剣戟に吸い込まれて消える。


「くっ!」


望が波状攻撃を放てば、賢は手にした剣で軽々と全ての連撃を受け止めた。

だが、望は負けじと攻撃をさらに繋いでいく。

蒼の剣の特性を生かした、水の魔術の付与効果の攻撃。

そして、望と愛梨の特殊スキルが込められた流星のような斬撃。

しかし、望の緊密な連携を前にしても、賢は重厚な剣で軽々と対応しきった。


「なっ!」


鋭く声を飛ばした望の疑問に応えるように、賢は冷静に目を細めて告げる。


「君達も、クエスト達成の報告をした時に聞いたはずだ。カリリア遺跡のクエストの報酬の目玉であった、伝説の武器の数々。それを手に入れたギルドの名を」

「ーーっ」


その賢の言葉を聞いた瞬間、望は息を呑んだ。

最初に、ボス討伐を行ったギルドのみに配布される伝説の武器。

そして、花音とともに語り合った、光の魔術の付与効果がある伝説の剣の噂。


「『星詠みの剣』……」

「そういうことだ」


望の驚愕に応えるように、賢が嗜虐的な笑みを浮かべた。


「しかし、特殊スキルが込められた剣の威力さえ、耐えることができるとはな」

「伝説の武器は、明晰夢の空間を切り裂いた、あの一閃さえも凌ぐことができるのか……」


今の状況を冷静に分析する賢をよそに、望は苦痛と不可解が入り交じった顔でつぶやいた。


「そうかもしれないな」

「ーーくっ」


完膚なきまで叩き潰すために迎撃態勢に入った賢の斬撃に、望は次第にHPを減らしていく。


「蜜風望。君がこの状況を覆るためには、特殊スキルの力を高めるしかない」


賢の平坦な声に、望は何も答えられない。

望の頭の中では、ずっと同じ問いが空転していた。


ーーどうすればいい?

ーーどうすれば、この状況を覆すことができるんだ?


「望、惑わされるなよ!」


疑念の渦に沈みそうになっていた望の意識を(すく)い上げたのは、かなめと向かい合っていた徹の声だった。


「伝説の武器でも、特殊スキルの力を凌駕することはできないからな」

「徹?」


望は不思議そうに、徹の真偽を確かめる。


「手嶋賢が『星詠みの剣』に付加したのは、スキルの複合。つまり、アイテム生成のスキルと天賦のスキルを使って、武器を無理やり強化させたんだ」

「複数のスキルを合わせて使うことができるのか!」

「多数のプレイヤーさえいれば、それは可能になる」


確信を持ってその結末を受け入れている賢の静かな声が、受け入れがたい事実を突きつけてくる。

そこでようやく、望は複合スキルによる変革の恐ろしさを目の当たりにしたのかもしれない。


アイテム生成のスキル。

それは、様々な道具を作り出す力で、錬金術に近いスキルとして用いられていた。


天賦のスキル。

それは、自身の武器が持つ特性を最大限に生かして、技を放つスキルだ。


この二つのスキルが複合したことによって得た恩恵は、特殊スキルの力が込められた武器にも対抗することができるという想像を絶する結果として導かれた。


「伝説の武器に施した効果さえも見据えるか。椎音紘の特殊スキル、やはり厄介だな」


無感情な賢の声が、望達の耳朶(じだ)に否応なく突き刺さったのだった。

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