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第七十七話 太陽の祠③

天井には、豪奢なシャンデリア。

広い窓辺には、白いレースのカーテン。

大きな長方形のテーブルには、人数分のポットとティーカップ、そして、豪華な食事が置かれてあった。

美しく飾り立てられた部屋で、望は隼に付き添われて、かなめの向かいの席に座らせられる。


「メルサの森では、ご挨拶をすることは叶いませんでした。ですので、改めて名乗りを上げます。私は『カーラ』のギルドマスター、吉乃かなめです」

「有達はどこだ?」


かなめが祈りを捧げるように両手を絡ませると、望はあくまでも率直に訊いた。


「ご協力を頂けたら、仲間の方はすぐに解放します」

「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」


かなめの懇願に、望は胸中に渦巻く色々な思いを総合して、先程と同じ言葉を返した。

見え透いた挑発に、かなめは目を伏せると静かにこう続けた。


「誤解があるようですね。私達は、女神様による世界の安寧のために、特殊スキルの使い手を欲しています。そのために、あなたの力をお借りしたいのです」

「……だから、あのクエストを提示したのか?」


かなめの嘆願に、望は不満そうに表情を歪める。


「私達は、特殊スキルの使い手である、あなた方にお会いしたかった。それだけのことです」

「何で、そこまで愛梨のデータの集合体である美羅の覚醒を望むんだ?」


不可解な空気に侵される中、望は慄然と問う。


「私達の目的は、美羅様を覚醒させて、神にも等しい叡知を宿した存在を産み出すことです。そして、美羅様のご加護の下、幸せの約束された理想の世界を築き上げたいのです」

「そもそも、データの集合体である美羅を覚醒させることはできないはずだろう」


望は徹が告げた言葉を思い返して、険しい表情を浮かべた。


「あなたは、機械人形型のNPC、ニコットをご存知ですね。彼女には、美羅様と特殊スキルの使い手を繋ぐことができる『シンクロ』という力が備わっています。その力を使えば、美羅様は覚醒することができます」

「シンクロ……?」

「あなた方と美羅様を繋ぐ希望です」


望の問いに、かなめは懐かしむように沈痛な面持ちを浮かべる。

望の意識が一時的に、愛梨のデータの集合体である美羅を動かした現象。

それは、愛梨としても生きている望が、美羅と意識を同調させたことによって起きた出来事だったのかもしれない。

美羅が目覚めた同時刻、望自身もまた、美羅と同様の言動をおこなっていた。


望、または愛梨の意識を美羅に同調させれば、美羅は覚醒することができる。


それはメルサの森で、ニコットが二度に渡り、シンクロをおこなったことで実証されている。

『レギオン』のギルドメンバー達によるメルサの森での実験データをもとに、望と愛梨の特殊スキルのプロセスの解析も順調に進んでいた。


「理解して頂くためには、実際に体験して頂いた方が分かりやすいと思います」

「体験?」


かなめのその反応に、望の背筋に冷たいものが走る。

意味は分かるのに、意味を成さない言葉。

望は意を決したように、先程と同じーーだけど、別の言葉を口にした。


「シンクロとは、どういう意味なんだ?」

「時間を一致した同時進行になります。つまり、あなたの意識が、美羅様に共鳴して、同じ動作を引き起こさせるのです」

「同じ言動を引き起こさせる……」


かなめの説明に、望は呆然とつぶやいた。

敵である望と同じ言動を引き起こさせても、美羅は味方とはいえない。

それなのに、かなめ達は、望達と美羅の意識を繋げようとしているという不可解さ。

そこには、望達の知らない決定的なピースが欠けている。


「それってーー」


望がさらに疑問を口にしようとしたその直後、背筋に突き刺すような悪寒が走った。


「あ、頭が痛い……っ」


異常な寒気と倦怠感。

まるで脳を直接触られるような不快感に、望は頭を押さえる。

だが、望のただならぬ様子を見ても、かなめ達は表情を一切変えない。

まるで始めから、それは仕組まれていた出来事だったかのように。


ーー今、この場で、俺と美羅をシンクロさせるつもりなのか。


静観しているかなめ達の様子を見て、望は最悪の予想を確信に変える。


「望」

「……シルフィ」


すんでのところで、シルフィが弾かれたように姿を見せる。

矢面(やおもて)に立った彼女が、咄嗟に電波を遮断したことで、望は電磁波の支配から逃れられたのだった。

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