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第ニ十七話 二人の姫君③

湖畔の街、マスカット。

地平線まで続く金色の麦畑を風が撫でていく。

のぞかな田園の真ん中を貫く道の奥に、有達のギルド『キャスケット』はあった。


「愛梨ちゃん。ここが湖畔の街、マスカットだよ」


花音は感慨深げに、マスカットの街並みを見渡しながらつぶやいた。

だが、花音のその声が聞こえていないのか。

愛梨は目を閉じたまま、愛おしそうに風を感じている。


「……優しい風」

「うん、風が気持ちいいね」


愛梨の言葉に応えるように、花音は相打ちする。


「ねえ、お兄ちゃん。愛梨ちゃんと一緒にウインドウショッピングして来てもいいかな?」

「妹よ、問題ない。報酬の件は、俺達の方でもらっておくからな」


喜び勇んで願い出た花音の頼みに、有はあっさりと承諾した。

ウインドウショッピングと聞いて、奏良は不意を突かれたように顔を硬直させる。


「有、悪いが、僕は愛梨を守らないといけない。報酬の件は、有達に全面的に任せよう。僕は、愛梨の護衛をする」

「奏良よ。本音がバレバレだぞ」


期待を膨らませたような奏良の声に応えるように、有はやれやれと呆れたように眉根を寄せた。






『キャスケット』のギルドから出て、田園通りを進んでいくと、店の立ち並ぶ通りに出た。

整然とした造りの様々な店を前にして、花音は興味津々な様子で歩いていく。


「あっ、愛梨ちゃん、この店、入ってみようよ?」

「お店……?」


花音に呼ばれて、周囲を見渡していた愛梨は振り返る。

花音に招かれた店は、アクセサリーショップだった。


「いらっしゃいませ」


店内に入った花音達を、NPCの店員が応対する。

棚には、幾つもの装飾品が並べられていた。

指輪、腕輪、ブローチ、ガントレット、アンクレットなどの装備品から、ぬいぐるみやギルド専用のアイテム収集鞄もある。


「愛梨ちゃん、このブローチ、可愛いよ」

「……綺麗」


花音の薦めに、愛梨はしばらくブローチを見つめーーやがて優しい手つきでそっと触れる。


「ペンギン男爵さんのぬいぐるみ、可愛いね」


スポットナビゲーターのぬいぐるみを発見して、花音は両手を広げて歓声を上げる。

花音は楽しげに後ろ手を組んで、棚に並ぶ商品を見渡した。


「うーん。このアンクレットは可愛いけれど、効果はいまいちかな」


花音は、気になる商品に向かって指を動かし、視界に浮かんだ商品名と効果、値段などを確認する。


「愛梨と買い物、いいな」

「何故、僕はいつものように、愛梨を見守っているだけなんだ」


そんな中、花音達の様子を窺っていた二人の声が揃って、店内に響き渡った。

その途端、店内に不穏な空気が流れる。


「おまえ、どうしてここにいるんだよ? 何で、愛梨達の様子を見ているんだ」

「君に話す必要はない。僕は、あの髪飾りのような彼女に似合うものを探しているだけだ」


徹が非難の眼差しを向けると、奏良はきっぱりと異を唱えてみせた。


「あの星の髪飾りは、俺が愛梨に似合うかなと思って買ってきたんだ!」

「なっ、あの髪飾りは、君が渡したのか!」


激しい剣幕で言い争う徹と奏良をよそに、花音と愛梨はお目当ての装飾品を購入して店内を去っていく。

残されたのは、険悪なムードで睨み合う二人の少年だけだった。

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