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第十話 始まる世界と落ちる星屑②

がらんとして広い山道を、辻馬車がカラカラと音を立てて進んでいる。

キャリッジは上等な布張りの椅子で、車窓はガラス製だ。

NPCの御者に、天蓋には(ふさ)飾りがちりばめられている立派な威風の馬車である。


「よし、妹よ、行くぞ! 上級者クエスト!」

「うん。お兄ちゃん、先手必勝だね!」


公式リニューアルの当日、望達は時間限定クエストに挑むためにカリリア遺跡へと向かっていた。

有と花音はクエストへの意気込みを語りながら、車窓から風景を眺めている。


「お兄ちゃんの転送アイテムがあったら、すぐに遺跡に着いたのに」

「レベルやスキルはそのままデータを引き継ぐことが出来たとはいえ、旧バージョンのアイテムは全て初期化してしまったからな。転送アイテムを作成するための素材を集めてから、目的地に向かっては遺跡攻略が間に合わない可能性がある」

「……上級者クエストか」


有と花音が熱い議論を交わす中、望は顎に手を当てて深く大きなため息をつくと、こうなってしまった原因の出来事をふと頭の片隅に思い浮かべていた。






『創世のアクリア』の公式リニューアル前に、望には一つの難関が待ち構えていた。

旧バージョン時に使った自身の特殊スキル、『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』。

それを使用したことで発生した望と愛梨の入れ替わり現象。

もっとも、片方が目覚めている時は、もう片方は眠っている状態になるため、望の意識が移動することで発生する入れ替わり現象と言った方がいいのかもしれない。

ただでさえ、一ヶ月ものの間、帰還不能状態に陥っていたというのに、今度は一日ごとに意識を失ってしまう現象。

『アルティメット・ハーヴェスト』の手配により、病院側から家族に説明があったとはいえ、予測不能な突拍子もない話だ。

望は改めて、病院に見舞いに来た両親にゲーム内で起こった出来事をかいつまんで説明した。

話が進むにつれ、望の両親の表情が深刻さを増していく。

望が全てを話し終えた後、望の両親は複雑な表情で互いに顔を見合わせる。


「……ここに来る前に、病院の先生から事情を聞いていたが、そんなことになっていたとはな」


一瞬の静寂の後、感想をそのまま口に出したのは、望の父親だった。


「本当のことなんだ」


望にそう告げられても、望の父親はあまりの滑稽無稽さに正気を疑いたくなった。

頭を悩ませ、望の父親は机に置いてある望の携帯端末を手に取る。


「それが本当だとしたら、このゲーム自体、危険な代物ではないのか?」

「それは……」


望の父親の鋭い指摘に、望は返す言葉を失い、視線を落とした。

そんな望の反応に、望の父親は表情を緩めて軽く肩をすくめてみせる。


「まあ、もっとも、病院の先生からゲームの続行への許可は出ている。先程、西村さん達からも、望をこのまま、続けさせてほしいと頼まれたからな」

「有と花音から!?」

「それに、一緒に入院している西村さんのお母さんからだ。西村さんのご家族は全員、このゲームをされているからな」


望の父親の言葉に、望は呆気に取られたように顔を上げる。

有と花音の両親も、『創世のアクリア』をしており、望達がクエストに向かう際には、ギルドの管理を任せている。

だが、望達がログアウトできなくなった日、ギルドの管理をしていた有の母親も同じように帰還できなくなっていた。

二人のやり取りを見守っていた望の母親は深々とため息をつき、こう告げてきた。


「本来なら、もう二度とこのゲームはしないでほしい。でも、そしたら望は無理やりにでもゲームをしようとするでしょう?」

「……ああ」

「だったら、これからはこのゲームをする前に、私達にきちんと話してほしいの」


望のその言葉に、望の母親は胸に両手を当てて訴える。


「……分かった。父さん、母さん、心配かけてごめん」


望のその声は、驚いたような、でもどこか嬉しいような、複雑な感情が入り交じっていた。

そのことに気がついた望の父親は、決まり悪そうに顔を俯かせる。


「これから、いろいろと対応が大変だな」

「一日置きに入れ替わるっていうことは、学校にも伝えておく必要があるわね」


文字どおり一日で生活が一変した望の両親は疲れたようにため息をつく。

しかし、穏やかな表情で胸を撫で下ろすいつもどおりの息子の姿を見て、望の両親は胸に滲みるように温かな表情を浮かべていたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと難しい話かなと思いました。普通の両親なら是が非でもゲームを止めさせるところでしょうが、事情が事情だけにと言うのと息子の性格を把握しての決断なところが家族かなと感じました。 後はこの…
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