キニナルアノ子
翌朝、昨日と同じでとても天気が良い。
「すぅ…はぁ…いい天気だなぁ…」
「あかりん!おはよっ!!」
「あ、橘くん!おはよっ!朝から元気だねぇ」
「俺はいつでも元気だからな♪」
「あはは、橘くんって風邪の時でも元気そうだね」
「さすがに体調悪い時はテンション上がらねぇよ!」
昨日の今日でこれだけ気軽に話せるというのは亮太のおかげであり、コミュ力はかなり高いのが解る。
朱里は彼のそんな所を尊敬しているが、そんな彼でも打ち解けれない桜葉と、自分も仲良くなれるのかと思うと不安になってきていた。
「あ…」
そうこう話していると教室に着いてしまった。
隣の席の桜葉ももかはもう席に着いて昨日と同じように頬杖をしながら外を眺めていた。
朱里は急に緊張してきた。
(今日は大丈夫、昨日みたいにはならない、けどなんだろ、すごく緊張してる…)
「…よしっ!!」
「えっ?」
なかなかその場から動かなくなった朱里を見た亮太は覚悟を決めたかのようにどんどん歩いて行き桜庭に近づいて行った。そして、
バンッッッッッ!!!!!!
「桜葉あぁぁぁっ!!おはよおぉぉぉぉっ!!!」
「橘くん!?」
ももかの机を叩き、中々の大声でももかに挨拶した。
教室内では急に静かになり、みんな亮太とももかを注目している。
その光景を見た朱里は動揺してその場であたふたし始めた。
(そ、そんな挨拶じゃ仲良くなんておろか怒られちゃうよ!?)
だがそんな不安をよそ目に、ゆっくり桜ももかは挨拶をした方を向き、瞳に相手を映した。
少しビクッとした亮太の顔は強ばっていた。
1秒が数分に思えるほどの沈黙が流れた。
「…おはよ。」
「っ!…んあっ!?おっおはよ!!!桜葉っ!!!!!」
「…それで何か用?」
「え?なにって…」
「用があるから机まで叩いて挨拶してきたんじゃないの?」
「あ、ぃ、いゃぁ…」
「何の用もなくてさっきの挨拶って、君やばいよ…」
やってしまったっと言うように頭をかく橘に対して少し呆れた様子だが頬をゆるませたももか。
教室内もクスクスと声が聞こえまた、いつもの様な空気に戻っていた。
そんな2人にほっとした朱里はよしっ!と亮太のように気合を入れて早足でももかの方へ向かった。
「桜葉さん!おはよぉ!!」
亮太より控え目に挨拶をした。
そしてももかはまたゆっくりと頬杖をしたまま席の横にいる朱里の方を向き、初めてその瞳に自分が映った。
亮太の時とは違い時が止まったように思った。
(あぁ…やっぱり…)
癖毛でふわふわの腰まである薄桃色のロングヘア、雪のように白色の肌、くっきり二重に宝石のような大きな金色の瞳。
(すごく…綺麗だ…)
「おはよう、天野…さん?」
「桜葉違うって!あかりんだよ♡」
「あか…りん…?」
「ちょっと!橘くん!」
「いいじゃん。私は遠慮して天野さんって呼ばせてもらうけど。」
「えええええ!!!桜葉ノリわりぃ!!!!!」
「君、うるさい。」
「うん、橘くんちょっとうるさいかな。」
「あ、あかりんまでぇ…」
わざとらしくしょんぼりする亮太にももかはまた呆れた顔をして、朱里は笑った。
朱里は亮太のおかげで1歩を踏み出すことが出来た。
そのおかげで今、念願のももかと話が出来ている。
(やっぱり橘くんってすごいな…ちょっとその性格が羨ましいよ)
朱里は心の中で橘を尊敬した。
そして少し惹かれていた。
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ーーーーあれから3ヶ月が経った。
学校にも慣れて、アンノウンが出て緊急出動になったりもしたが、いつもと変わらない平和な日々が流れている。
ももかちゃんとはあれからよく話すようになり、名前もお互い下で呼んだり、移動教室でも一緒に行動したり、放課後に遊んだり、オレオールでの事も話したりして、親友と呼んでいいほど仲良くなった。
今ではどんな相談事もももかちゃんにするほどだ。
亮太くんとも、ももかちゃん同様仲良くしている。
まぁ、どこが変わったかというと多分亮太くんは私に好意を持ってると思う。
それは友達としての好きではなく、異性としての…多分だけどね。
私はと言うと…まだよく気持ちがわからないのが本音だ。
「ももかちゃん!お昼食べよ!」
「いいよ。」
「なぁなんで毎回一緒に食べてるのに俺も誘ってくれないんだよ!」
「亮太くん、誘わなくても毎回来るでしょ?」
「確かにそうだけど!!ちょっと気持ち的に誘われたいじゃんか!!」
私はいつも通りわーわー話してるこの時間が大好きだ。
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「そういえば、あかりんはなんでオレオールがある組織に入ったんだ??」
「確かに、聞いたことないね。」
「え?そうだっけ?んーと、私は小さい頃から教団に入ってたんだけど、組織に入ったのはその教団の集会の時にスカウトされたからだよ。君には才能があるって言われて、お父さんもお母さんもすごく喜んでくれたんだよね。それがすごく嬉しくて、もっと沢山喜んで欲しくて、入ったんだよね」
「そーなんだ、親思いだなぁ…。それで直ぐにオレオールになれたのか?」
「オレオールの力は才能があってもだれでも簡単に手に入るわけじゃないの。たくさんの試練をクリアしなきゃだめなんだ。だから色んな訓練をして、いろんな試練を乗り越えたんだ。」
ご飯への手を止めるほど聞き入っていた亮太はへーっと感心した。
「あかりんは努力したんだなぁ…」
「たくさん努力したよ!そのおかげで最後の試練でも選ばれてオレオールになれたんだもん。実は私、最後の試練の鍛錬中にさ、まだ力も授かってない状態で、アンノウンに遭遇しちゃったの。」
「まじで!?」
「本当だよ、しかもそのアンノウンは当時の私より小さい女の子を抱えていたんだ。」
ピクっとももかが反応した。
「女の子?攫われそうだったのか!」
亮太もかなり驚いた。
アンノウンには知性がほとんど無いものと考えられており、人を攫うなど今まで聞いたことがなかった。
「女の子は意識がなかったみたいで、全く抵抗してなかったの。私は直ぐに教団に連絡して、追跡してたんだけど途中で音を立てちゃってね。アンノウンも気がついて…もうダメだと思ったんだけど、そのタイミングでオレオールの人達が来てくれて……」
「すげぇヒーローみたいじゃん!!じゃあ女の子も助かったんだ?」
「ううん、隙をつかれて逃げられて、すぐ追いついて何とか倒したんだけどもう女の子はいなかったの…」
「そんな…」
亮太は先程までのテンションとは打って変わって、声のトーンも表情も暗くなった。普段感情を表に出さないももかも、軽く下唇をかみ目線を下げ、伏せ目には少し涙を貯めているようだった。
(ほんと亮太くんもももかちゃんも…優しいな…)
そんな二人を見て朱里は優しい気持ちになった。
「それがあってから私、絶対オレオールになってやるっておもったんだ。もうあんな悲しい事にはなりたくないし、2人に悲しい顔なんてさせたくないからね。」
「あかりん…うぅ、ほんとにあかりんはいい子だああああああああぁぁぁ!!!!」
「わぁっ!!ちょ、ちょっと!いきなり叫ばないでよぉ!!」
「あかりいいいいいいんんんんんんんんんッッッッ!!!」
「私、ちょっと御手洗行ってくるから、橘お願いね。」
「え!待ってももかちゃん!!わたしには手が負えないおぉぉぉっ!!」
朱里の呼び掛けも虚しく、ももかはすたすたとトイレに行ってしまった。
「…うっ…おぇ……ぐすっ………」
少しの間トイレでは声を殺した嗚咽がかすかに聞こえた。
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あっという間に放課後になった。
「ももかちゃん!今日は訓練も集会もないから一緒に帰ろう!」
「うん、いいよ」
「いいなぁ~、俺も行きてぇよォ~」
「亮太くんは部活頑張って!」
「あかりんに応援された!!!!これは頑張るしかねぇっ!!!!うおおおおぉいってきまああああああす!!!!」
うおおおぉっと叫んだまま走っていく亮太の背中を手を振りながら見送った。
途中、先生に見つかり、首根っこを捕まれて説教されて居たのは見なかったことにしよう。
「あはは…相変わらず元気だなぁ…」
「あかり、いまから遊びに行かない?」
「え?今から?いいよ!!何か見たいの?」
「いや、特にないけどね。あかりはある?」
「私?あ、新しい雑貨屋さんできたから行きたいなぁ!」
それから2人でこのあとの話をしながら雑貨屋に向かうことにした。
あかりは内心すごく喜んでいた。
「あかり、すごく嬉しそうだね。」
「え?そりゃそうだよ!!ももかちゃんからお誘いされたの初めてだもん!」
笑顔でももかに答えた。今まであかりがももかを誘い、予定が合えば遊ぶという流れで、ももかからの誘いは全くなかった。
頬が緩んでいて笑顔と言うよりにまにましているように見える。
ももかはその顔を見てフッと鼻で笑った。
「あー!!今鼻で笑ったでしょ!!」
「笑ってないよ。」
隣でぶーぶーと文句を楽しそうに言っている朱里を尻目に急にももかの顔が暗くなった。
それに気が付かずまだ文句を垂れているあかりは呑気に「あっ!雑貨屋着いたよ!」とももかの方を向いた。
「結構近かったね。入ろっか。」とそこにはいつも通りのももかがいた。