第6話 ~散恋(Last moments of...)~
紅正義――レックスデスの出現により、『HE-RUDA Golden mission』のロケは中止を余儀なくされた。
「あの男……どこまで我々に迷惑をかければ気が済むのだ……!」
ヒルーダのチーフプロデューサー・下里太地は怒りをあらわにしていた。
そんな中、太地のところに『F-Resh!』の柴山香住と重安美祢から報告が飛び込んできた。
「大変です。タカヒラが見当たりません! 携帯も通じません!」
「タカヒラ??」
「ましろです! 『F-Resh!』の高平ましろ!! 私たちは彼女のことを『タカヒラ』って呼んでるんです」
「そうか……。なにっっ!?」
太地は驚きの声を上げた。
「この大変なときに……ましろは何を考えているんだ……!!」
いらだつ太地に向かって、ヒルーダの『女帝』・朝霧舞子は静かに言葉をかけた。
「……たぶんあの子は男のところに走ったのでしょう。この行動は、ヒルーダの掟のひとつである『特定の異性との交際禁止』に反するものです。……もしこのことがマスコミに知れたら、『F-Resh!』はもちろん、ヒルーダ全体のさらなるイメージダウンは避けられません」
そして舞子は『F-Resh!』のメンバーである香住と美祢に向かって命令を下した。
「香住、美祢。マスコミに感づかれるよりも早く、ましろの居場所を探し出し、戻ってくるように説得するのです。……ですが万が一、ましろが説得に応じなかったときは、後のことはあなたたちに任せます」
『女帝』からの厳命を受けて、香住と美祢はましろの居場所を探し出すべく飛び出していった。
「あの……マジェスティ」
太地が恐る恐る舞子に問いかけた。
ヒルーダの中では、『女帝』と呼ばれている舞子の方がチーフプロデューサーの太地よりも立場が上であり、舞子は太地やヒルーダのメンバーから敬意と畏怖とを込めて『マジェスティ』と呼ばれているのだ。
「マジェスティ。さっきおっしゃった『男』というのはいったい何者なのですか?」
「おわかりにならなかったの? 下里さんならご存知だと思ったんですけど。……私のいなかったときにヒルーダを利用してサキバサラの首長になったあの男よ」
太地の問いかけに対し、舞子はきっぱりと答えた。
「……ロケの最中にあの男が現れたとき、ましろだけは、あの男に対する敵意を表情に出さなかった。むしろ、好きな男が目の前に現れて胸をときめかせていたような感じだったわ」
果たして、舞子の言葉は正しかった。
ブレイゾンと狼虎によって深い傷を負わされたレックスデス――紅正義を救出したスワンデスの正体は、『F-Resh!』の高平ましろだったのである。
ましろは正義をサキバサラの街はずれの廃工場に運び、献身的に傷の手当てをした。
かつてましろは看護師を目指していたこともあり、ブレイゾンに撃ち抜かれた左眼や正義自身が噛みちぎった右腕の傷の処置を適切に行っていた。
しばらくして、イクサバイバーとの闘いで深く傷つき、疲れ果てて眠っていた正義が目を覚ました。
機能を保持している右眼に、どこかで見たような女性の顔が映る。
「お前は……」
「ヒルーダのユニット『F-Resh!』の高平ましろです」
ましろの言葉に、正義は厳しい表情を浮かべた。
「俺はお前たちヒルーダを憎んでいる。俺にとってヒルーダは倒すべき敵のひとつであり、ヒルーダにとっても俺はかかわりたくない奴のはずだ。……なのに……どうして俺を助ける……?」
正義の問いかけに対して、ましろはその唇を静かに正義に重ねることで答えた。
ましろのこの行動は、正義がまったく予想していなかったものであった。
「何のつもりだ」
正義は再びましろに問いかけた。
ましろは『ヒルーダの』高平ましろとしてではなく、『ひとりの女の子』である素の高平ましろとして、正義の問いかけに答えた。
私……、いいえ。素のうちの思いを伝えたいから、生まれた土地の言葉使わせてもらうわ。
うち、『ゼファー』での正義さんの選挙運動ライヴを見て、一発で正義さんのことが好きになったんや。そんでもって、ライヴが終わった後、正義さんは香住ちゃんや美祢ちゃんにしたのと同じように、うちに握手してくれはった。正義さんの手、ものすっごく熱かった。正義さんの革命に燃えるエネルギーが、びんびんうちに伝わってきたんや。うち、ファンとの握手会でたくさんの人の手を握らせてもらったけど、正義さんの手がいっちゃん熱かった。正義さんの手から伝わってくるものが、うちの心を激しく揺れ動かしたんや。
うちね、ヒルーダのトップメンバーの中では成績がいっちゃん悪いんや。一緒にユニット組んでる香住ちゃんや美祢ちゃんの足を引っ張ってばっかりで。ヒルーダの研修生っちゅう位置づけのサテライトに降格っちゅう話も何回かあったんや。でもそのたびに、うちは水着とかセミヌードのグラビアを出して、「B90、W58、H91の見事なプロポーションの肢体をあられもなくさらけ出すグラビアアイドル」としてトップメンバーの地位を守ってきたんや。……せやけど、そういうの、うちの本意やあらへん。肌の露出の多い仕事ばっかりあてがわれることに、『高平ましろの肢体』だけを売り物にすることに、うちは嫌気がさしていたんや。かといって、うちは歌もお芝居も下手で、肢体を売り物にするしか方法がない。どないしたらええんねん。うちの心の中では、ずっとそういう葛藤が続いていたんや。
そんなときに、正義さんが現れた。正義さんは自分の目指す革命へとまっしぐらに進んでた。うちは正義さんのそんな生き方にあこがれた。そんな生き方のできる正義さんのことが好きになったんや。
せやけど、正義さんは住民投票でサキバサラ首長の座から引きずり下ろされた。そして正義さんは行方不明になった。うち、ごっつ心配したんや。正義さんはどこへ行きはったんやろうか、と。
でも、正義さんはまたうちの前に姿を現してくれた。そして正義さんは『デス』になった。……うちな、心の中ではむちゃくちゃうれしかったんや。正義さんがうちと同じ『デス』やった、ってことに。
正義さんはむちゃくちゃ強かった。二体のイクサバイバーを相手に、たった一人で闘いはったんやから。でも、左眼をつぶされ、右腕を切り落とさなきゃあかん状況に追い込まれたとき、うちは「うちが正義さんを守らなきゃ」と思って、『デス』になって、傷ついた正義さんをとにかく安全な場所へ逃がそうって考えたんや。だって、そうしなきゃ、正義さんはうちの目の前でイクサバイバーに殺されてた。うち、そんなの絶対にイヤやった。うち、正義さんのことが好きやから……
「ありがとう。お前の気持ちは十分わかった」
正義は左手を掲げながら言った。
「しかし、人間の進化した存在であるはずの『デス』が、人間と同じように恋心を抱くというのは意外だったな。『デス』にはそんなこと無縁だと思ってたんだが」
「そんなことあらへん」
困惑を隠せない正義の目を見つめながら、ましろは笑顔で答えた。
「『デス』は元々人間やったんや。人間と同じ感情を持ったっておかしくあらへん。……うちが正義さんのことを好きなのが何よりの証拠や」
そのとき、正義とましろの耳に、足音が聞こえてきた。
二人がその足音の方に顔を向けると、そこには、『F-Resh!』の香住と美祢の姿があった。
「タカヒラ見ぃ~っけたっ☆」
腕組みをして香住がお茶らけた口調で言った。
「私たちはトップメンバーに上る前のサテライト時代、つらいことがあったときはここで三人一緒に泣いて、三人一緒に明日への夢を語り合ったりしてたからね。たぶんタカヒラはここにいるんじゃないかな、って思ってたんだけど、まさか紅正義と一緒だったなんて……。こんなのが知れたら、私たち全員、下手したらヒルーダ追放だよ」
左手を腰に当てた美祢が深刻な表情をして言った。
そして二人は同時にましろに向かって呼びかけた。
「タカヒラ。今からでも遅くないから私たちのところに戻っておいで。マジェスティや下里さんには私たちからも謝るからさ」
だが、ましろは二人の呼びかけをきっぱりと拒んだ。
「いやや。うちは正義さんと一緒にいる」
そしてましろは二人の前にひざまずき、両手をついて頼みこんだ。
「香住ちゃん、美祢ちゃん。お願いやからうちと正義さんを見逃して! ……うちらはサキバサラを出て、どこか遠くの町で、二人で静かに生きていくから。もちろん、『デス』の秘密は誰にも言わへん。せやから……お願い! この通りや!!」
だが香住と美祢はそんなましろに対して冷たい視線を向けていた。
「タカヒラには悪いけど、それはできない相談だね。タカヒラを見逃したとなったら、私たちが何されるかわかんないから。……あんたもそうだと思うけど、私は自分のことがいちばんかわいいからさ」
香住はきっぱりと言い切った。
「実はさ、タカヒラが私たちの説得に応じなかったときは、後のことはマジェスティから一任されてるんだ。……タカヒラがあくまでも紅正義と一緒にいる、って言うんなら、私たちがタカヒラを消さなきゃいけなくなる。サテライトのときからずっと一緒だったタカヒラを消さなきゃいけないってのは私たちもつらいんだよ。……だけど、さっきも言ったけど、いちばんかわいいのは自分だからね。自分の身の安泰を保つためなら、私と美祢はタカヒラを殺すよ」
香住がそう言った次の瞬間、香住と美祢は心を黒い闇で満たし、香住は鶴に似た形態の『デス』――クレインデスに、美祢は鳳凰に似た形態の『デス』――フェニックスデスに姿を変えた。
それを見たましろは覚悟を決めたかのようにゆっくりと立ち上がった。
「どうしてもあんたらはうちと正義さんを見逃してくれへんのやね……」
ましろは心を黒い闇で満たし、スワンデスの姿になった。
「せやったらうちはあんたらを倒す。正義さんのために。そしてうち自身のために!」
スワンデスはクレインデスとフェニックスデスに向かって猛然と突進していった。
正義に対する思いが彼女を強くしているのか、スワンデスはクレインデスとフェニックスデスの二体を相手に、まったく互角の闘いを展開していた。
この展開に、クレインデスとフェニックスデスは驚きを隠せなかった。
「なんで!? 私たちの能力はほぼ同じはず。だったら、私と美祢の二人の方がタカヒラより有利なはずでしょ!?」
「タカヒラにこれだけの力があったなんて……信じらんない!」
クレインデスとフェニックスデスはスワンデスの猛攻の前に数歩後退した。
そこへ、スワンデスの両の手のひらからエネルギー弾が発射され、クレインデスとフェニックスデスの胸元をとらえた。
エネルギー弾を被弾した二体の『デス』は大きく吹き飛ばされ、腰から崩れ落ちるかのようにダウンした。
「香住ちゃん、美祢ちゃん。うちは『F-Resh!』で一緒にやってきた二人をこれ以上痛めつけとうない。……せやから、もううちらには構わんといて」
ここにおいても、スワンデス――ましろは平和的解決を望んでいた。
しかし、クレインデスとフェニックスデスにとって、それは無理な話であった。
「さっきも言ったけどさ……それは無理。タカヒラを殺さなきゃ私たちが殺されることになるからね」
クレインデスはそう言いながら再び立ち上がると、裏切り者であるスワンデスに向かって身構えた。
だが次の瞬間、フェニックスデスは思わぬ言葉を放った。
「!! ……イクサバイバーがこっちに向かってくるわ」
フェニックスデスは人間でいうところの五感が非常に発達しており、ブレイズストライカーとシリウスライナーのエンジン音を、ブレイゾンと狼虎の匂いを、その発達した感覚で捉えていたのである。
「この場にいたら私たちまで巻き込まれちゃうわよ」
「……タカヒラと紅正義の『始末』はイクサバイバーに任せちゃおう」
「そうね」
クレインデスとフェニックスデスはそう言葉をかわすと、スワンデスには何も告げずにその場から飛び去っていった。
(「香住ちゃん……美祢ちゃん……うちと正義さんのこと、見逃してくれたんかな……?」)
スワンデスはクレインデスとフェニックスデスの飛び去っていった方向をぼんやりと見つめていた。
だがそれから数十秒後、彼女は現実に引き戻されることになる。
ブレイズストライカーとシリウスライナーがスワンデスの前で止まり、ブレイゾンと狼虎、二人のイクサバイバーが彼女に向かって詰め寄ってきたのである。
「お前は……紅正義を助けた『デス』だな!?」
ブレイゾンの問いかけにスワンデスは静かにうなずくと、イクサバイバーの二人に向かって、先ほど『F-Resh!』の仲間だった者たちに対して頼んだのと同じことを頼んだ。
「お願いや。うちと正義さんを見逃して。……うちらはこれ以上、人間に危害を加える気はあらへん。どっか遠くの町へ行って、二人で静かに生きていきます。せやから……お願いや。うちと正義さんを見逃して下さい!」
スワンデスはイクサバイバーの警戒を解くべく、『デス』形態から高平ましろの姿に戻った。
「お前……」
「あなたは『F-Resh!』の高平ましろさんだったのですか!?」
イクサバイバーの二人は、スワンデスの正体が『F-Resh!』の、ヒルーダの一員である高平ましろだったということに衝撃を受けた。
スワンデスから高平ましろに戻ったましろは、後ろで腰を下ろしている正義のところへ駆け寄ると、再び二人に懇願した。
「正義さんのこの姿、見て下さい! 左眼が見えなくなり、右腕を失ってます。今のこの人に、サキバサラ首長の頃のような悪意はもうありまへん。……うちは正義さんが好きなんです。愛してるんです。この人とずっと、一緒に生きていたいんです!!」
「あなたの気持ちはわからないでもありません」
狼虎がましろに向かって言った。
「しかし、紅正義が今まで行っていた所業を見逃すことはできません。……彼の配下の革命党員による事件、そして彼自身が行ったという革命党本部での猟奇殺人など、警察としては取り調べたいことが山のようにあります。そして、彼の犯した罪は法に基づいて裁かれなければなりません。……自分はサキバサラ警察署『連続猟奇殺人事件対策班』に所属する刑事として、彼を署に連行しなければならない。そこをどいてもらえませんか」
狼虎はそう言うと、紅正義を『人間』として逮捕するべく、スマートセルラーに手をかけて『変進』を解こうとした。
だが、ましろは狼虎の言葉に従わず、正義を守るかのように狼虎の前に立ちふさがった。
「いやや。うまいこと言って、うちと正義さんとを永遠に引き離そうって魂胆やろ。……うちは騙されへんで!」
ましろはそう叫ぶと、再び心を黒い闇で包んでスワンデスの姿になった。
狼虎は『変進』を解くのを止め、『デス』に対して身構える。
スワンデスはブレイゾンと狼虎に向かって手のひらからエネルギー弾を連射した。
「うちと正義さんとを引き離そうとする者は、たとえ誰であっても許さへん!!」
スワンデスのこの激しい攻撃の前に、ブレイゾンと狼虎はじりじりと後退を余儀なくされた。
「なっ……!」
「つ……強い……!」
スワンデスは激しい闘志をむき出しにしてイクサバイバーを攻め立てる。
「うちが正義さんを守るんや!!」
そんなスワンデス――ましろに向かって、正義が声をかけた。
「もういい。やめるんだ。お前には未来がある。……俺のやったことは俺自身で始末をつける。俺なんかのためにお前の人生を無駄にする必要はない」
しかし、スワンデス――ましろは正義の方をチラリと見やると、きっぱりと言い切った。
「うちは正義さんと一緒にいるときがいっちゃん幸せなんや。正義さんと一緒にいられるんやったら、『F-Resh!』なんか、ヒルーダなんか辞めたって構わへん!」
そこに一瞬の隙が生じた。
「あなたが『デス』として自分たちの前に現れる以上、自分たちは『デス』であるあなたを狩らなければなりません」
狼虎はその隙を逃すことなく、ブリザーベルショットでスワンデスに反撃を加えた。
銃撃はスワンデスの体を撃ち抜き、スワンデスはダメージを受けた。
スワンデスが膝をついたのを見て、狼虎はスマートセルラーの『BLAST END』アイコンをタップした。
スマートセルラーから聞こえてくる「Blast End」の機械音とともに放たれた月光のような光が、スワンデスの動きを封じた。
狼虎は左半身の姿勢を取ると、ブリザーベルにクリスタルエッジを出現させ、その切っ先をスワンデスの胸元に向ける。
次の瞬間、狼虎は右足で踏み切り、右半身の姿勢に移行しながらブリザーベルで突きを放った。
「クリスタルスラスト!!」
クリスタルエッジはスワンデスの胸を刺し貫いた。
「……!!」
スワンデスは氷細工のような冷たい塊と化し、ピクリとも動かなくなった。
「閃壊」
狼虎はスワンデスに背を向けると、感情を押し殺した声で死の宣告を放った。
次の瞬間、スワンデスの全身はガラス細工にひびが入って割れるかのように、細胞レベルで崩壊を始めた。
全身が崩壊していく中、彼女は『高平ましろ』の姿に戻り、彼女が出した唯一のソロシングル曲『But』を口ずさんだ。
――ずっと遠くにいるあなた
あなたの影にも追いつけない
もっと近くにいたいと思う
あなたのぬくもり感じるくらいに
But あなたに近づけない
あなたがとてもまぶしいから
But あなたに近づきたい
あなたに「好き」と言いたいから
今はまだ遠い あなたへの距離
だけど一歩、一歩、近づかなくちゃ
いつかは言いたい 「好きです」と
私の気持ち……打ち明けたい――
そしてましろは笑顔を浮かべながら、
「正義さん。うち、あなたに出会えてよかった。おおきに」
と、正義に向かって最後の言葉を残し、その体はテーブルから床に落ちたグラスのように粉々に砕け散った。
「ましろ……?」
正義はましろのいた場所へにじり寄ると、キラキラ輝く破片を左手で受け止めた。
だが、正義が受け止めたその小さな破片は、淡雪のように彼の手のひらの中ですぐに消え去っていった。
「ましろ……」
正義は左の拳をぐっと握りしめると、ましろの名を呼びながらゆっくり立ち上がった。そして天に向かって絶叫した。
「ましろぉぉぉぉぉぉ……!!!」
しばらくの間、正義は天を仰いでいた。
そして正義は怒りに全身を震わせ、右眼から赤い血の涙を流しながら、憤怒の炎をブレイゾンと狼虎に向けた。
「なぜだ……! なぜましろを殺した!!? ましろに罪はないはずだ!!」
正義は心を深くどす黒い闇で包み、レックスデスに姿を変えた。
「お前たちは俺のことを『殺戮者』だと言った。だが、お前たちの方が『殺戮者』じゃないか!! ……なんの罪もないましろを、『デス』であるという、ただそれだけの理由で殺しやがって!!」
レックスデスはそう叫ぶと、ブレイゾンと狼虎に向かって突進していった。
ブレイゾンと狼虎は突っ込んでくるレックスデスに向けて、ブレイズトリガーとブリザーベルショットの連射を浴びせた。
「ぐはぁあ!!」
傷だらけのレックスデスは大ダメージを受け、その口から緑色の血液が吐き出された。
それを見たブレイゾンは、ブラストエンド・メモリカードをブレイズチャージャーの右メモリスロットにセットし、「ブレイズエクスプロージョン!!」の叫び声とともに、レックスデスの胸板に必殺のキックを打ち込んだ。
「Five」「Four」「Three」「Two」「One」「Blaze-on!!」
今回のキックはレックスデスの胸板を完全にとらえた。その衝撃でレックスデスは後方へと大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
しかし、レックスデスの闘う気持ちはまだ折れていなかった。
右眼でブレイゾンを鋭く睨みつけながら、レックスデスは立ち上がった。
「まだだ……俺は……ましろを殺したお前たちを絶対に許さない……」
レックスデスは全身がぼろぼろになりながらも、なおもブレイゾンに迫ってくる。
「……そろそろ終わりにしようぜ。紅正義」
ブレイゾンはレックスデスに向かってそう言うと、レックスデスに背を向けて「爆散」と死の宣告を放った。
レックスデスは紅正義の姿に戻り、自分を愛してくれた女性の名を呼びながら左腕を弱々しく天にかざした。
「ましろ……!!!」
紅正義の最後の叫びとともに、彼の肉体は爆発し跡形もなく消え去った。
イクサバイバーは紅正義に勝った。だがその勝利の味は、非常に苦いものであった。
「藤原さん」
『変進』を解いた烈人は、同じく『変進』を解いた殉義に問いかけた。
「紅正義と高平ましろ、あの二人はこういう結末を望んでいたのでしょうか」
殉義はうつむいてしばらく無言であったが、自分の中で心の整理がついたのか、ゆっくりと顔を上げると、おもむろに口を開いた。
「望んでいたのかどうかはわかりませんが、こうするより他に、彼らを『自由』にする手段はなかったと思います。……あの世で、二人仲良く暮らしてくれることを今は祈るしかありません」
「なんか……悲しいですね」
烈人はひとりごとのようにそうつぶやくと、イクサバイバーの使命の重さとつらさをかみしめながら空に目をやった。
真夏を過ぎ、秋の気配が感じられる青空だった。
その青空に、恐竜のような形をした雲と白鳥のような形をした雲が浮かんでいた。その二つの雲は、やがてひとつに重なり、そして風の流れの中で静かに消えていった。