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第5話 ~没落(Fall of "JUSTICE")~

 ブレイゾンに続く新たなイクサバイバー・狼虎が『デス』との戦いに加わった数日後のことである。

 前サキバサラ首長・長船香登の支持者と先日の首長選挙期間中に不可解な事件により行方不明となった浜風みなみの支持者とが手を組んで、紅正義をサキバサラ首長の座から引きずり下ろすべく、リコールのための署名活動を開始した。

 住民投票実施のために必要な、有権者の三分の一以上の署名はわずか2日で集まり、紅正義首長リコールのための住民投票が行われることになった。


 住民投票の日程が決まったその日、正義は三輪明輝良のところを訪ねていた。

 そこには、ヒルーダのチーフプロデューサー・下里太地の姿もあった。

「あれだけの支持を集めながら、たった数週間でリコールですか」

太地は上から目線で正義に向かって吐き捨てた。

 だが、今の正義はなりふり構っていられる状況にはなかった。太地の皮肉にあらがうこともなく、床にひざまづき、両手をついて明輝良と太地に懇願した。

わたくしは何としてでもサキバサラ首長の地位を守りたいのです。どうかお願いします。今一度、わたくしに力を貸して下さい……!!」

 しかし、太地の返答は正義にとっては冷たいものであった。

「お断りです。……あなたのせいで、ヒルーダの人気はガタ落ちしてしまったんですよ。『冷酷非情な独裁者・紅正義を首長選挙でヒルーダは全面的に応援した』という事実は、ヒルーダというブランドに大きな傷をつけたのです。その責任、どう取ってくれるのですか!? ……いや、何の力も持たないあなたに責任を取ってもらおうと考えること自体が無茶な話でした。失礼失礼。……まぁ、何はともあれ、今後ヒルーダはあなたや革命党には一切関与しませんから」

太地はそう言い切ると、お前の顔など見たくないとばかりに、窓の外を向いた。

 太地に、ヒルーダに見捨てられた正義が頼りにできるのは、もはや明輝良だけであった。

「三輪さん。お願いします。どうか……どうかわたくしを助けて下さい!! お願いします……!!」

 土下座して懇願する哀れな男の姿を、明輝良は椅子に深々と腰掛け、右手に持った水割りのグラスをゆっくりと動かしながら見つめていた。

「首長。どうかお顔をお上げ下さい。『今の』あなたはサキバサラ首長なのですよ」

『今の』というフレーズを強調した以外は感情も抑揚もない声で明輝良は言った。

 そして顔を上げた正義に向かって、明輝良は冷たく言い放った。

「サキバサラ首長としてのあなたの手腕、拝見させていただきました。あなたの政策には、僕もおおむね賛同しています。ですが、やり方があまりにも強引すぎた。……僕は『しらはす』の件があったときに忠告したはずですよね。『過激すぎる改革はお控え下さい』と。しかし、あなたは僕の忠告に従わず、いや、僕の忠告に逆らって、力ずくで物事を押し通していった。……そんなあなたのために、僕がしてあげられることはもう何もありません。お引取り下さい。『首長』」

明輝良は最後の『首長』というフレーズをことさら強調して言った。

「ま……待って下さい!! どうか……どうかお願いします……!!」

 なおも懇願を続ける正義の姿に、明輝良は激しい不快感をあらわにした。

「くどい!!!」

 明輝良は怒声をあげると、右手に持っていた水割りのグラスを机の上にドンと強く叩きつけた。

 激しく叩きつけられたグラスの中で、氷がグラスとぶつかって鋭く高い音をあげている。

「……自分の蒔いた種くらいは自分で刈り取れ」

明輝良は冷ややかな目線を正義に向けながら決別の言葉を放つと、後ろに控えているガードマンに向かって「『首長』を外までお連れしろ」と目で合図を送った。

 正義はガードマンたちに両脇を抱えられるかのようにしてエレベーターに押し込められた。そしてエレベーターで1階まで下ろされると、正義は裏口から外に放り出された。

 空は今の正義の心を写し取ったかのように暗く、やがて雨が激しく降り出してきた。

 激しい雨の中で全身を濡らしながら、正義は天に向かって絶叫した。

「俺はサキバサラの支配者、紅正義だ!!」

 しかし、激しい雨音は正義の叫び声をあっけなく消し去るのであった。


「……よかったのでしょうか、これで」

正義が追放されたサキバサラセントラルビルディング最上階の明輝良の部屋で、太地は明輝良に尋ねていた。

「あの男、追い詰められると何をしでかすかわかりませんよ」

 明輝良は右手に再び水割りのグラスを持ち、ゆっくりと動かしながら答えた。

「別にいいじゃありませんか。あの程度の男に、僕の理想を壊すことなど不可能です。それに、紅正義が怒りの矛先をイクサバイバーに向け、奴らを倒してくれれば、僕らにとってはもうけものですよ……」

 明輝良は水割りを一口含むと、窓ガラスの向こうの雨空に視線を送った。


 数日後、紅正義首長をリコールするための住民投票が行われた。

 ほとんどすべての有権者が「紅正義首長を罷免すべし」という意思を示し、紅正義はサキバサラ首長の地位を失った。

 革命党党首でもある紅正義がサキバサラ首長を罷免されたという結果を受けて、あるじを失った革命党所属のサキバサラ議員16名は全員議員を辞職した。

 後任のサキバサラ首長には、前首長である長船香登が無投票で当選した。また、欠員となった議席については、前の議員選挙で革命党の候補者に敗れて失職した元議員たちが復帰した。

 長船首長ならびにサキバサラ議会は、革命党政権の行った改革をすべて白紙に戻し、革命党政権が成立させた改革に関する条例のすべてを廃止した。

 ここにおいて、サキバサラの行政は革命党が政権を握る前の状態に戻った。


 サキバサラ行政が革命党政権下から元に復して数日が過ぎた。

 サキバサラ警察署『連続猟奇殺人事件対策班』に所属する刑事・藤原殉義(イクサバイバー・狼虎)は、革命党本部にて発生した猟奇殺人の現場検証にあたっていた。

 左腕に赤い腕章を巻いた、革命党員とおぼしき人物が十数名、その体を肉食動物に食いちぎられたかのようにして死んでいる。

「紅正義がサキバサラ首長の座を追われ、政治的には死に体となった革命党の中で、粛清でも行われたんじゃないのか」

「おごれる人も久しからず、だな」

 同僚の刑事たちがそうつぶやく中、殉義はあることに思いをはせていた。

(「……サキバサラ首長を失職後、紅正義は行方不明になっている。あの男はいったい今、何を考えているのだろうか? 自分のものにならなかったサキバサラへの復讐を企てているとしたら、一刻も早く彼の身柄を確保しないと大変なことになる」)


 殉義たちが革命党本部で現場検証をしている頃、サキバサラ最大のテレビ局であるサキバサラ中央チャンネルでは、ヒルーダのトップメンバー全員が記者会見に臨む様子が報じられていた。

「……まずは皆様にお詫びしなければなりません」

チーフプロデューサーである下里太地が会見の口火を切った。

「先日のサキバサラ首長選挙ならびにサキバサラ議会議員選挙において、ヒルーダは革命党とその党首である紅正義氏を全面的に応援しました。その結果として、革命党がサキバサラの政治の実権を握ることとなり、革命党政権による悪政の影響はサキバサラの街全体に波及してしまい、多くの方々に多大なるご迷惑をおかけすることになってしまいました」

 続いて、ヒルーダ結成当時からのメンバーであり、南東エリアを主な活動拠点としているユニット『Maximumマキシマム Heartハート』の森田もりた春江はるえ速星はやほし千里ちさとがマイクを握った。

「もしヒルーダが革命党を応援しなかったら、革命党政権は誕生しなかったかもしれません。……革命党による悪政の責任の一端は私たちヒルーダにあります」

「私たちが革命党を応援した結果、多くの皆様にご迷惑をおかけしたことを、この場でお詫びします。……まことに申し訳ございませんでした」

 千里の「まことに申し訳ございませんでした」の発言に続いて、ヒルーダの面々は深々と頭を下げた。

 カメラのフラッシュが何度もきらめき、この若きアイドルグループの謝罪の様子を記録していく。

 だが、重苦しい雰囲気はそこまでであった。

 顔を上げ、再びマイクを持った春江は、

「……話は変わりますが、活動を休止していた『女帝エンプレス』、朝霧あさぎり舞子まいこがヒルーダに復帰します」

と報道陣に話した。

 報道陣の中に驚きのどよめきが起こった。


 ヒルーダの『女帝』と呼ばれている朝霧舞子は、ヒルーダ結成時からリーダーとして縦横無尽に活躍し、厳しいアイドル生存競争の繰り広げられているサキバサラに『ヒルーダ』の名を深く刻み込ませた。

 そしてヒルーダは徐々にメンバーを増やし、さらに、2~3名でユニットを組ませて各エリアに密着した活動を行わせることによって、ヒルーダはサキバサラの住人だったら誰もが知っている、という存在にまで成長していった。

 だが、ヒルーダが全員での活動から各ユニット単位での活動に重点を置くようになっていったのと時を同じくして、舞子は自ら活動休止を宣言する。それによって、ヒルーダのメンバーひとりひとりは、舞子がいなくても自分たちだけでサキバサラのトップアイドルの地位を守り抜くんだ、という思いに目覚め、今まで以上に熱い活動を展開していくことになった。

 つまり、今のヒルーダがあるのは舞子がいたからである。

 その当時の舞子の活躍ぶりは伝説と化しており、ゆえに、舞子は『女帝』と呼ばれるようになったのである。


「『女帝』の復帰を記念して、ヒルーダトップメンバーが総出演する映画が製作されることになりました。タイトルは『HE-RUDA(ヒルーダ) Golden(ゴールデン) mission(ミッション)』。サキバサラの街全体をヒルーダのメンバーが縦横無尽に駆け回る一大アクション巨編です。……オープニングはヒルーダトップメンバー全員がサキバサラ中央通りを行進するシーンです。そのシーンの撮影は明日の午前中を予定していますが、サキバサラ警察署の協力を得て、サキバサラ中央通りを全線通行止めにして撮影を行います。もちろん、撮影の邪魔にならない限りにおいて、見学は自由です。……復帰した『女帝』の姿を、久々にトップメンバーが全員揃うヒルーダの姿を、ぜひ見に来て下さい!!」

 千里の言葉に、報道陣は再びどよめいた。

 そしてヒルーダの会見の様子をテレビで見ていた街の人たちは大いに歓喜した。

 その中に、ひとりの男がいた。

「活動を休止していた朝霧舞子を含め、ヒルーダのトップメンバーが全員出てくるとは好都合だ。俺が観衆の目の前でヒルーダを血祭りに上げれば、俺はサキバサラの支配者の地位に返り咲くことができる」

この暑い季節には似つかぬボロのフードつきコートを引っ掛け、顔を隠すかのようにフードを深くかぶった背の高いその男は、電気街ビルの巨大テレビモニタに映し出されるヒルーダの姿を見据えながら、フードの下でほくそ笑んでいた。


 翌日。『女帝』の復帰とヒルーダの新たなる旅立ちを祝福するかのように、空は雲ひとつない晴天となった。

 『HE-RUDA Golden mission』のロケ地となるサキバサラ中央通りは通行止めとなり、久しぶりに全員揃うヒルーダのトップメンバーたちを一目見ようと、多くの人々が中央通りの歩道を埋め尽くしていた。その中には、応援するメンバーやユニットの名前を書いたプラカードや応援ボードをかざしているファンに混じって、昨日の謝罪会見を踏まえてか「君たちは悪くない!」「悪いのは革命党だ」といったプラカードや応援ボードをかざしているファンの姿も見られる。

 そんな中、殉義は会場の整理にあたっていた。

 そこへ、ひとみと烈人が現れた。

「ごくろーさんです。藤原刑事」

敬礼ポーズをしながらひとみが殉義に声をかけた。

「ありがとうございます、ひとみさん。でも今の自分は職務の最中ですので声をかけないで下さいませんか」

殉義はそういい残すと、そそくさとその場を後にした。

 そんな殉義の言動にひとみはフグのようにほっぺたをふくらませ、怒りの矛先を烈人に向けた。

「まったく、警察の人ってどっかの誰かさんとおんなじくらいお堅いよね」

「どっかの誰かさんって俺のことか?」

「レッド以外にいないじゃないの! ……だいたい、ヒルーダのトップメンバーが全員集合する映画のロケなんて、めったに見られるものじゃないのよ。なのにレッドってば全然行く気なかったし」

「俺はヒルーダなんかに興味ないんだよ」

「あーっ! 今の発言! サキバサラの住人として許せない!!」

ひとみはそう言いながら烈人の胸をポカポカと叩き始めた。

「おい……落ち着けって。ヒトミンは今日ここへ何しに来たんだよ? 藤原さんを冷やかしに来たのか? 俺を叩きに来たのか? ……違うだろ。トップメンバーが全員揃ったヒルーダの映画のロケを見に来たんだろ??」

 烈人の言葉に、ひとみは我に返った。

「そうだったよ。『女帝』が出てくるなんてずいぶん久しぶりだもんな」

 ひとみは視線を遠くに送りながら烈人に問いかけた。

「……そういえば、レッドのお姉さんも『舞子』って名前だったよね?」

「ああ」

「『女帝』とレッドのお姉さん、なんか関係あるのかもね」

ひとみは空想の翼を広げた天使のような口ぶりで烈人に問いかけた。

 だが、ひとみの思わせぶりな、ある意味メルヘンチックな問いかけに対し、烈人はそっけない反応を示した。

「それはない。……姉さんは今年37歳になるんだ。女帝だかなんだか知らないけどさ、37歳でアイドルやってます、だなんてありえないぜ」

「レッドぉ、あんたね、せっかく人が場を盛り上げようと思っていろいろ話のネタを考えてるのにさ、なにKYなレスして場をしらけさせようとしてんの!?」

ひとみが口をとがらせて烈人に迫ってきた。

 そのとき、向こうから撮影スタッフの声が聞こえてきた。

「今から撮影を開始します。皆さんは車道に出ないようにして下さい!」


 サキバサラ中央通りのど真ん中に、『ヒルーダドレス』と呼ばれる華やかで威厳のあるユニフォームに身を包んだヒルーダトップメンバー10人が横一列になって登場した。

 カメラから見て左から順に、北西エリアを主な活動エリアとしているユニット『マリンブロッサム』の総社清音、常盤草江、北東エリアを主な活動エリアとしているユニット『スタースプラッシュ』の能登川のとがわ稲枝いなえ香芝かしば志都美しずみ、復帰した『女帝』朝霧舞子、南東エリアを主な活動拠点としているユニット『Maximum Heart』の森田春江、速星千里、南西エリアを主な活動拠点としているユニット『F-Resh!(エフ・レッシュ)』の柴山香住、重安美祢、高平ましろの順に並んでいる。

 10人はヒルーダのデビュー曲である『Hi-tension!!!』のリミックスヴァージョンを口ずさみながら、一歩、また一歩と、列を乱すことなく前に進んでいく。


――空を見上げれば 輝く太陽

  足元を見れば 野に咲く草花

  みんな生きているんだ 一生懸命

  涙をぬぐって 笑顔で歩こう


  Hey! 今日もsmile

  Yeah! 一緒にdream

  気分は上々よ

  Hey! 今日もsmile

  Yeah! 一緒にdream

  Any time Hi-tension!!――


 だが、元気に行進するヒルーダの前に、ボロのフードつきコートを着た怪しい男が突然姿を現した。

 行進していたヒルーダのメンバーは足を止め、その男に目をやる。

「あなた! 撮影の邪魔です。どきなさい!!」

 事態に気づいたスタッフがその男を捕らえにかかった。

 しかし、ボロのフードつきコートを着た男はあっさりスタッフを蹴散らすと、フードを取ってヒルーダの面々の前にその素顔をさらした。

「……ご機嫌はいかがかな? ヒルーダの諸君」

 その瞬間、ヒルーダのメンバーは言葉を失い、場は凍りついたようになった。

「俺はあんたたちのおかげでサキバサラの首長になれた。そのことには感謝している。だが、サキバサラの街は俺を支配者とは認めなかった。なぜだかわかるか? ……それは、サキバサラには『ヒルーダ』という絶対的な存在がいたからだ」

フードを取って素顔をさらしたボロのコートの男――前サキバサラ首長にして革命党党首・紅正義――はヒルーダの面々に向かって静かに話しかけた。

 紅正義の出現に、ロケを見に来たヒルーダのファンから一斉にブーイングが浴びせられた。

 しかし、正義はそのブーイングを心地よく聞きながら、ヒルーダのメンバーに向かって話を続けていた。

「『ヒルーダ』という絶対的な存在がある限り、俺はサキバサラの支配者にはなれない。……だから俺はお前たちを皆殺しにする。そのために、俺は革命党の同志たちの血肉をその体内に取り込んで強くなったのだからな……!!」

 天を仰いで絶叫する正義の周辺に、どす黒い闇が出現した。そしてその闇の中で、正義はティラノザウルスのような灰色の『デス』形態――レックスデス――へと姿を変えた。

 この展開に、ロケを見に来ていた人々はパニックに陥った。

 しかし、レックスデスとなった正義は周囲の喧騒などお構いなしに

「俺はお前たちを食らい、その血肉を我が体内に取り込んでサキバサラの支配者になるのだ……!!」

と冷酷に言い放つと、ヒルーダのメンバーに向かって襲いかかっていった。


 だが、レックスデスによるヒルーダへの襲撃を烈人は許さなかった。

 正義がレックスデスになるや否や、烈人は怪物の出現に慌てふためき逃げ惑う人ごみを押しのけつつブレイズチャージャーを起動させて車道に飛び出すと、すかさずブレイゾンに『変進エヴォルチェンジ』してレックスデスの右斜め後ろ方向からスイクルバーニングを放ち、レックスデスをヒルーダから引き離した。

 ブレイゾンは当惑した表情を浮かべているヒルーダのメンバーに向かって「早くここから逃げるんだ」と目で合図を送ると、レックスデスに向かって、

「紅正義。あんたが『デス』だったとはな。驚いたよ」

と言った。

 そして次の瞬間、ブレイゾンはいつものように左肩を前に一回転させてコキリと左肩を鳴らすと、

「「闇より生まれし邪悪な生命いのち、熱き炎で焼き払う。……覚悟はいいな? 殺戮者!!」

の決めゼリフを放った。

 一方、レックスデスとなった正義はゆっくり起き上がると、ブレイゾンに向かって言い返した。

「なにが『殺戮者』だ。俺は俺の生命いのちを維持するために人間を食っているだけだ。……それともなにか。お前は人間の食卓に並ぶ肉や魚、野菜や穀物を提供する連中も『殺戮者』と呼ぶのか? ……食う対象が人間か否か。俺たちの違いはただそれだけだ。俺を『殺戮者』と呼ぶのであれば、お前は『殺戮者』の片棒を担いでいる存在だ。お前も俺と大差はない」

 そこへ、左手にスマートセルラーを持った殉義がレックスデスとブレイゾンの話に割って入ってきた。

「ずいぶん自分勝手な論理ですね。……紅正義。革命党本部で革命党員を襲って食ったのはお前のしわざか!?」

「ああその通りさ。だが、それがどうした? 党首の野望を達成させるために党員が犠牲となるのは当然のことじゃないか」

 正義――レックスデス――の言葉に殉義は怒りを感じた。

「お前は……自分の欲望を満たすためならば同志をも食らう、鬼畜にも劣る存在だな!」

 殉義はスマートセルラーの『EVOLCHANGE』のアイコンをタップし、スマートセルラーを耳元へ持っていくと「変進!!」とコールし、腹部に出現した狼虎チャージャーにスマートセルラーをセットした。

 殉義はスマートセルラーから発せられた「WolfTigerヴォルフティーゲル」の機械音とともに氷のオーラに包まれた。そして数秒後、氷のオーラが砕け飛び、イクサバイバー・狼虎が姿を現した。

 狼虎はレックスデスに向かって言い放った。

「『デス』は法では裁けぬ存在。ならば自分がお前に判決を言い渡す。……死刑だ」

 レックスデスとなった正義は、狼虎の言葉に激しく立腹した。

「俺が『死刑』だと? お前らが俺を裁くだと? ……ふざけんじゃねぇ! イクサバイバーども!! お前たちもヒルーダ同様、俺の野望を邪魔した憎むべき存在だ!!」

(「気をつけろ、レッド」)

リスターの言葉が烈人の脳裏に響いてきた。

(「あの『デス』の体内から巨大なエネルギー反応を感じる。……おそらく奴は、体内に溜めたエネルギーを破壊ビーム砲のようにして攻撃してくるぞ」)

 リスターの予想は的中した。

 レックスデスは口を大きく広げると、体内にチャージしていた破壊エネルギーを口の中から一気に外に向かって放出し、ブレイゾンと狼虎を攻撃してきたのである。

「ハウリングボンバー!!」

 レックスデスの口から、ブレイゾンと狼虎に向かって強烈なエネルギー波が放たれた。

 リスターからの警告を受けていたブレイゾンはこの一撃を横に飛んでかわしたが、狼虎は直撃を受けてしまった。

「藤原さん!!」

 ブレイゾンがあわてて狼虎のところに駆け寄ってきた。

 ブレイゾンは大ダメージを受けて倒れた狼虎の肩を抱きかかえると、

「藤原さん! ……大丈夫ですか!?」

と問いかけた。

 体のあちこちから白煙を噴きながらも、狼虎は自分の足でぐっと地面を踏みしめて立ち上がりつつ返事をした。

「自分は大丈夫です。だけど、油断をしてしまい烈人君に迷惑をかけてしまいました。……申し訳ない」

「謝らなくちゃいけないのは俺の方です。……俺はリスターから紅正義の攻撃について警告を受けていたから今の攻撃を回避できたんだけど、俺は紅正義がエネルギー波を発射してくることを藤原さんに伝えなきゃいけなかったのに伝えなかった。だから藤原さんは紅正義の攻撃をモロに……」

 ここでレックスデスが不快そうに、そして二人を挑発するかのように声をあげた。

「おいおいおい。なに男同士でイチャイチャしてんだよ。腐女子向けの同人誌かぁぁぁぁぁ??? ……キモいぞ、おめーら」

 ブレイゾンは狼虎に「今は俺一人でなんとかやってみます。藤原さんのダメージが回復したときに俺が紅正義に苦戦してたら、そのときは援護をよろしくお願いします」と言うと、レックスデスに向かって猛然と突っ込んでいった。

 だがブレイゾンの攻撃は空を切るばかりで、レックスデスには一発もヒットしなかった。

「ほぉ。なかなかいいセンスしてんじゃねぇか。……ただし、お前の持っているのは『ケンカ』のセンスだ。『殺し合い』のセンスは、お前はまったく持ち合わせていない」

ブレイゾンの攻撃を余裕でかわしながらレックスデスはブレイゾンに言い放った。

「俺たち『デス』とお前らイクサバイバーとの闘いは『ケンカ』じゃねぇ。るかられるかの『殺し合い』だ。……ちょっとだけ見せてやるぜ。俺の『殺し合い』のセンスをな!!」

 レックスデスはそう叫ぶと、ブレイゾンに対して猛反撃を開始した。

 レックスデスの両手両足、さらには第五の攻撃用器である尻尾から繰り出される怒涛の攻撃の前に、ブレイゾンは防戦一方であった。

 そしてレックスデスはブレイゾンの一瞬の隙を見逃さず、口を大きく開き、最強の武器である牙をブレイゾンの左胸に突きたてて、ブレイゾンの左脇の方向から思い切り噛みついた。

「ぐ……ぐわぁぁぁ!!」

ブレイゾンは空を仰いで苦悶の叫び声をあげた。

 レックスデスの牙はブレイゾンのアーマーを突き破り、烈人の肉体にも食い込んでいたのである。

(「レッド! 早くこいつを引き離せ!!」)

「やっている!!」

 リスターの指示を聞くまでもなく、ブレイゾンは胸と背中とをはさむように噛みついているレックスデスをなんとか引きはがそうと、レックスデスの顔に肘打ちやパンチを何度も打ち込んでいた。

 だが、レックスデスはブレイゾンの攻撃など全然効かないとばかりに、さらに口に力を込め、ブレイゾンの体を食いちぎらんとしている。

「このままじゃ……俺は……負ける……」

 ブレイゾンは、いや、烈人は、イクサバイバーとしての戦いの中で初めて、敵である『デス』に対して恐怖を感じていた。

 そんな烈人の心の変化を、リスターは敏感に感じ取って烈人に檄を飛ばした。

(「レッド! 『負ける』とか『やられる』なんてことを考えるんじゃない! 不安や恐怖はイクサバイバーの能力を低下させる。イクサバイバーのパワーの源は、人類の天敵になろうとしている『デス』への怒りだ。……『デス』を『狩る』運命を背負った以上、お前に負けは許されない。お前が負けることは、人類が『デス』に屈することを意味しているんだ! 弱気になるな!! しっかりしろ! 垂水烈人!!」)

(「……そうだ。俺は『デス』を狩り、鹿羽根博士とともに行方をくらませた姉さんを探し出すために戦っているんだ。こんなところで足踏みしているわけにはいかないんだ!」)

 リスターの激しい叱咤の言葉を受けて、烈人は自分の中に巣食い始めていた弱気の虫を一気に蹴散らした。

 ブレイゾンはメモリカードホルダーからブレイズトリガー・メモリカードを取り出すと、ブレイズトリガー・メモリカードをブレイズチャージャーの右のメモリスロットにセットしてブレイズトリガーを出現させた。そしてレックスデスの無防備な部分――『眼』に照準を合わせ、炎の光弾を放った。

 ブレイズトリガーから放たれた炎の光弾はレックスデスの左眼を直撃し、レックスデスは左眼がつぶされ失明状態になった。

 この攻撃に、ブレイゾンの体に噛みついていたレックスデスは噛みつき状態を解き、苦悶の悲鳴をあげつつ、両手で左眼を押さえながら数歩後ずさりした。

 追撃するなら今しかない。

 ブレイゾンは右のメモリスロットにセットされたブレイズトリガー・メモリカードを抜き、ブラストエンド・メモリカードを右メモリスロットにセットした。

「Blast End!」

 ブレイズチャージャーから発せられた光がレックスデスの動きを止め、レックスデスから1、2、3、4、5のホログラフがブレイゾンに向かって現れた。

「ブレイズエクスプロージョン!」

 ホログラフを突き破りながら、ブレイゾンの必殺の飛び蹴りがレックスデスに迫る。

「Five」「Four」「Three」「Two」「One」「Blaze-on!!」

「……いい気になってんじゃねぇぞ!! 俺はサキバサラの支配者・紅正義だ!!!」

「なにっ!!?」

 ブレイゾンの飛び蹴りがレックスデスの胸板をとらえようとしたその瞬間、光に包まれて動けないはずのレックスデスが、右腕でブレイゾンの飛び蹴りを払いのけたのである。

 ブレイゾンは左方向に大きく振られ、腰から地面に叩きつけられた。

 ブレイズエクスプロージョンを打ち破ったレックスデスは、ブレイゾンの足が当たった右前腕部を左手で押さえながら大きく肩で息をしていた。だがその全身からは、ブレイゾンをるという悪意のオーラが今もあふれ出ている。

(「レッド」)

リスターの声が烈人の脳裏に響いてきた。

(「ブレイズエクスプロージョンは不完全だがあいつにヒットしている。蹴られた右腕を押さえているのがその証拠だ。……キーワードを言え。通常よりも時間はかかるが奴を葬り去ることができるはずだ」)

 ブレイゾンは「わかった」と言って立ち上がると、レックスデスに向かって「爆散」のキーワードを放った。

 次の瞬間、レックスデスの全身がビクンと一回震え、ブレイズエクスプロージョンを受け止めたレックスデスの右前腕部が激しい熱を放ち始めた。リスターの言うとおりに、不完全ではあるがブレイズエクスプロージョンはレックスデスにヒットしていたのである。

 そしてブレイズエクスプロージョンの影響は徐々に右腕の上部へと広がりつつあった。このままいけば、レックスデスの全身に破壊エネルギーが伝達され、レックスデスの肉体は粉々に砕け散ることだろう。

 しかし、レックスデスはブレイゾンがまったく予想だにしなかった方法で、ブレイズエクスプロージョンの効果を打ち消したのである。

「俺を……俺様をなめるな!!」

レックスデスはそう絶叫すると、自らの牙で、ブレイズエクスプロージョンの影響を受けている右腕を噛みちぎったのだ。

「……!!!」

 ブレイズエクスプロージョンの影響を受けたレックスデスの右腕は細胞レベルで爆発を起こしその場から消え去ったが、右腕を失いながらも、レックスデスは今なおブレイゾンと闘う意思を持ち続けていた。

 左眼を失い、右腕を失い、それでもなおブレイゾンと闘おうとするレックスデス。一方、ブレイゾンは必殺技のブレイズエクスプロージョンでもレックスデスを倒すことができず、万策尽きたという状況であった。

 そんなブレイゾンに向かって、レックスデスは言い放った。

「わかるか、ブレイゾン。……お前は『狩り』というゲーム感覚で『デス』と戦ってきたのだろうが、『デス』にとっては、いや、今の俺にとっては、お前との闘いはゲームなんかじゃねぇ。さっきも言ったが『殺し合い』だ。『デス』はお前に狩られるために存在してるんじゃねぇ。少なくとも俺は、お前に殺されるために存在してるわけじゃねぇ。俺は俺自身のために、目の前にいる敵を殺す。それ以外に俺が生きていく手段はないのだからな……!」

 レックスデスはブレイゾンに向かって猛然と突っ込んでいった。

 しかし、横からの連続銃撃を受けて、レックスデスは大きく吹き飛ばされた。

「烈人君。お待たせしました。自分の受けていたダメージは回復しました」

烈人の左斜め後方で、ブリザーベルショットをレックスデスに向けている狼虎からの声が聞こえた。

 レックスデスはゆっくりと立ち上がった。

「……そういえばもう一人いたんだったっけな。まぁ、俺がまとめて返り討ちにしてやるぜ」

 レックスデスの言葉を狼虎はそっくりそのままレックスデスに返した。

「返り討ち? 冗談はよしたまえ。ブレイゾンとの闘いで深手を負っている手負いの『デス』など、自分の敵ではありません」

 狼虎はスマートセルラーの『BLAST END』アイコンをタップし、月光のような光でレックスデスの動きを封じると、左半身ひだりはんみの姿勢を取り、ブリザーベルにクリスタルエッジを出現させた。

 だが狼虎がクリスタルスラストをレックスデスに放とうとしたちょうどそのとき、何者かが上空からエネルギー弾を連射して狼虎を攻撃してきた。

 狼虎のクリスタルスラストは不発に終わり、レックスデスは行動の自由を取り戻した。

 そんなレックスデスの前に、レックスデスを守るかのように、背中に天使のような羽をつけた白鳥のような姿の『デス』――スワンデス――が降り立った。

「正義さん。ここはひとまず撤退しましょう。あなたは深い傷を負っていらっしゃいます」

スワンデスがレックスデスに向かって言った。

 レックスデスはスワンデスが自分のことを『正義さん』と呼んだことに激しい疑問を抱いた。

「なぜお前が俺の正体を知っているんだ!?」

 しかし、スワンデスはレックスデスの問いかけには答えず、右手でレックスデスの体を抱え、背中の羽を羽ばたかせて空に舞うと、左の手のひらからエネルギー弾を連射してイクサバイバーの動きを封じ、その隙にこの場から脱出した。

 ブレイゾンと狼虎が気づいたときには、『デス』の反応はもうなくなっていた。

「どうやら逃げられてしまったようですね」

殉義はそう言うと、スマートセルラーを狼虎チャージャーからはずして『変進』を解いた。

 烈人もブレイズチャージャーの左メモリスロットにセットしているエヴォルチェンジ・メモリカードを抜き取って『変進』を解いた。そしてすかさず殉義に向かって礼を言った。

「藤原さん……ありがとうございます。藤原さんの援護がなかったら、俺、やられてました」

 殉義は「礼にはおよびません」と言うと、続いて、

「『デス』となった紅正義の強さは自分たちの想像をはるかに超えていた。……奴はイクサバイバーと『デス』との戦いを『殺し合い』と言っていましたが、その言葉は間違っていません。 ……口では何とでも言えましょうけど、自分たちが『デス』との戦いを甘く見ていたことを痛感させられました」

と厳しい口調で言った。

 烈人も奥歯をぐっとかみ締めながら、殉義の言葉に大きくうなずいていた。

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