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最終話 ~終焉(An end is a new beginning)~

 屍怨呪博士のサキバサラ全住民『デス』化計画は、ブレイゾンブラスト(垂水烈人)、狼虎ロワイアル(藤原殉義)、ゲヘナ(久々野渚)の三体のイクサバイバーとエンプレスデス(朝霧舞子)、クノイチデス(紫翠さくら)の二体の『デス』によって打ち砕かれた。

 激怒した屍博士は、心をどす黒い闇で覆って『デス』化し、己の野望を打ち砕いた者たちに向かって激しい怒りをぶつけようとしていた。

「私の実験が失敗に終わったのはすべてお前たちのせいだ。許さん。人類史上最初の『デス』、つまり『ファーストデス』の力を解放した私が、お前たち全員を地獄に送り込んでやる。まずはお前だ。……舞子!!」

 ファーストデスは舞子を指差した。

 と同時に、舞子を指差した右人差し指の爪が急速に伸びて、何もかも刺し貫く槍のようになって舞子を襲った。

「母さん!」

「ママ!」

 ブレイゾンブラスト(烈人)ゲヘナ()はあわてて舞子のところに駆け寄った。

 だが結果的には、ファーストデスのこの一撃が舞子を刺し貫くことはなかった。

 クノイチデスが舞子の前に立ち、己の身を盾にしてファーストデスの一撃を受け止めていたのである。

「……舞子はあなたが愛した女性ひとでしょ。どうして殺そうとするの?」

体に突き刺さったファーストデスの爪に手をかけながら、クノイチデスはファーストデスに問いかけた。

 ファーストデスはきっぱりと答えた。

「私の野望を邪魔する者は誰であっても許さん」

「じゃあ、あなたの舞子への愛情は、あなたの野望を実現させるために舞子を利用するための嘘偽りだったのね……。少しは私の気が晴れたわ」

クノイチデスはそう言うと、さくらの姿になってがっくりとその場に膝をついた。

「さくら!!」

舞子がさくらのところへ駆け寄る。

 さくらは痛みに耐えながらも会心の笑みを浮かべてみせた。

「私、舞子に負けたと思ってたけど、舞子も鹿羽根恩慈の手の中で踊らされていただけだったんだね。……今の私の本音、言わせてもらうわ。『ざまーみろ』」

「……わからない。どうしてさくらが私をかばって鹿羽根博士の攻撃を受けなくちゃいけないの!?」

「勘違いしないで。私は恋敵だった舞子をかばったつもりは少しもない。渚ちゃんと垂水さん――烈人君のお母さんを守ろうとしただけ。藤原さんとひとみちゃんが幸せに暮らせる世界にしたいと思っただけよ」

「でも……!」

「そしてこれは、愛してはいけない男を愛してしまった報い。私はかつての恋敵をまもるために、かつて愛した人の刃によって果てる哀れで愚かな女……」

 さくらはかつて彼女の愛した男の放った凶刃の前に、赤いバラの花びらのような血を流し、その魂を昇華させて命を終えたのであった。

「さくら……ごめんなさい。そして……ありがとう」

 さくらの遺体を抱きしめる舞子の目から、涙がひと筋頬をつたった。この涙は、恩讐を越えた、かつての仲間の最期を見届けた者が流す、純粋な輝きを持つ涙であった。

 そして舞子の横で、ブレイゾンブラストもゲヘナも奥歯を噛み締めるかのようにして悲しみにうつむいていた。


「つまらん芝居はやめろ!!」

ファーストデスが不快そうに声をあげた。

 そしてファーストデスの右人差し指の爪は、さくらの遺体を突き刺したまま元の長さに戻っていき、ファーストデスはさくらを自分の糧として衣服ごとバリバリ食らった。

「うまいぞ……さくらの血肉が私の細胞一つ一つを生き生きとさせてくれる……!」

ファーストデスは美食家が素晴らしい料理に出会ったときのように、うれしげな声をあげた。

「ふざけるな!!」

 この現状に対して最初に怒りの意志を示したのは、ブレイゾンブラスト――烈人だった。

「人間を牛か豚のように食いやがって……。俺の中にてめえの血が半分流れてると思うと腹が立ってくる」

「なに身勝手なことを言っているんだ? 人間を食うのはダメだが牛や豚ならいいのか。そういう発想こそ人間の思い上がりだ!」

唇の周りについていたさくらの血を舌で舐めとりながら、ファーストデスは言い返した。

「……文明とかいうものに目をふさがれている人間どもにはわからないかもしれんが、『生きる』ということは、自分の命を保持するために他の命を奪って喰らい、自分が他の生物から喰われないように命を守り抜くとともに、自分の遺伝子を受け継ぐ者を一体でも多く次の世代に遺すための『戦い』なのだ。人類はその『戦い』を有利に進めるために『文化』や『文明』を作り出した。そして人類は、他の生物に襲われるかもしれないという本能的恐怖から生じる『闇』を押さえ込み、自分たちが作り出した文化や文明という『光』の中にその身を置いた。……だが、人類が押さえ込んだ『闇』は、今度は人類自身に向かって牙をむいた。今日こんにちまでに、人類は同じ人類を、そして他の生物をどれだけあやめてきたことか! 『闇』は生物としての人類誰しもが本能的に持っているもの。……私は、その本能を解き放つための手助けをしているだけだ」

「確かに……」

心の奥底から、ブレイゾンブラストはファーストデスに対する反論の言葉を発した。

「確かにあんたの言うとおりかもしれない。あんたの言う『闇』に心を奪われる人間も数多くいる。……だけど、人間は己の心の闇を制御することもできる。そして時には『光』を放ち、周囲の存在を明るく照らすこともできるんだ! ……俺は、人間の心の中にある『光』を信じる!!」

 ブレイゾンブラストの言葉を、ファーストデスは鼻でせせら笑った。

「いかにも『よい子』の発言だな。きれいごと過ぎて反吐へどが出そうになる」

 そしてファーストデスは次の攻撃目標をブレイゾンブラストに定めた。

「貴様の考えが激甘なガキの寝言に過ぎないことを教えてやる!!」

 だがファーストデスが攻撃を開始せんとした瞬間、狼虎ロワイアルとゲヘナがブレイゾンブラストの横に立ち、彼とともに戦うという意志を示した。

「人間の心の闇から生じる悪しき行いを正し、その心に光を照らす。それが自分の、警察官の務めだ!」

「うちはあんたとママの遺伝子を持った『デス』だ。だけど、『デス』であるうちでも、あんたの考えにはついていけねーよ。……この力、あんたがくれたものだ、ってことは事実だし感謝もしてる。だけどさ、ま、ぶっちゃけた話、裏切らせてもらうぜ、ってことなんだけどさ」

 ブレイゾンブラストは後ろにいる舞子にチラリと目をやった。

「母さん。屍怨呪、いや、ファーストデスは、藤原さんと渚と俺、この三人のイクサバイバーが狩る。……母さんはここで俺たちの闘いを見ていてくれ」

「そうはいかないわ」

舞子はブレイゾンブラストにそう言い返すと、エンプレスデスへと姿を変えた。

「……屍怨呪はさくらの仇。そして私にとっても敵よ」

 ブレイゾンブラストはエンプレスデスに向かって静かにうなずいた。

「わかった。一緒に戦おうぜ。母さん」

 そしてブレイゾンブラストはファーストデスの方へ顔を向けると、いつものように左肩を前方向へ一回転させてコキリと肩を鳴らし、エクスレイヤーの切っ先をファーストデスに向けた。

「闇より生まれし邪悪な生命いのち、熱き炎で焼き払う。……覚悟はいいな? 殺戮者!!」

 続いて狼虎ロワイアルも、エースランザーの先端をファーストデスに向けた。

「『デス』は法では裁けぬ存在。だから自分がお前に判決を言い渡す。……死刑だ」

 そしてゲヘナも、ソード・オブ・ルシファーを正眼に構えた。

「我の中で燃える怒りの業火、我の前に広がる闇を滅ぼす」


「藤原殉義や渚、烈人だけでなく舞子まで私に敵対しようというのか。お前たちには完全に失望したよ……」

ファーストデスはうめくようにそうつぶやいた。

 そして次の瞬間、ファーストデスは鬼神のような形相になって絶叫した。

「皆殺しだ! お前たち全員、私の糧となれ!!」

「黙れ!!」

 ブレイゾンブラストはエクスレイヤーを振りかざしてファーストデスに突進しようとした。

 だが、そんなブレイゾンブラストをエンプレスデスが制した。

屍怨呪(ファーストデス)の爪はエクスレイヤーやソード・オブ・ルシファーに相当する切れ味を持っているわ。しかもリーチは烈人たちの武器よりはるかに長い。……まともに突っ込んでいっては返り討ちに遭うのがオチよ」

「じゃあどうすりゃいいのさ?」

「私と藤原さんとで屍怨呪(ファーストデス)の動きを牽制する。屍怨呪(ファーストデス)に隙ができたら、すかさず烈人と渚とで屍怨呪(ファーストデス)を攻撃しなさい。……私は空から屍怨呪(ファーストデス)を攻撃します。藤原さんはブリザードマシンガンで攻撃をお願いします」

エンプレスデスはブレイゾンブラスト、ゲヘナ、狼虎ロワイアルに向かってそう指示を出すと、自身は空に浮かび、手のひらから閃光弾を放ってファーストデスに対する攻撃を始めた。

 それを見た狼虎ロワイアルはブリザードマシンガンを構えると、ファーストデスに向かって銃撃を開始した。

 ファーストデスはエンプレスデスと狼虎ロワイアルの遠距離からの攻撃に対し、目の前の虫けらを追い払うかのように両手の爪を振り回して応戦した。

「今だ!!」

 ブレイゾンブラストとゲヘナはファーストデスの懐に飛び込むや否や、ファーストデスを切り裂いた。

「よし! 会心の一撃!!」

 ブレイゾンブラストとゲヘナの攻撃は、ファーストデスに大ダメージを与えたはず……であった。

 しかし、ファーストデスは斬られた傷口をあっさり自力でふさぐと、何事もなかったかのようにイクサバイバーたちとエンプレスデスの前に立ちはだかった。

「こんなしょぼい攻撃で私を倒せると思っているのか? 私は全知全能。私は不死身だ!!」

 ファーストデスの勝ち誇る声が響き渡る。

 一方、イクサバイバーたちは万策尽きたかのようにその場に立ち尽くしていた。

 ファーストデスは冷たく言い放った。

「やっと私の偉大さに気づいて平伏する気になったようだな。……だが許しはしないぞ。お前たち全員、この手で処刑してくれる!!」

 ファーストデスはイクサバイバーに向かって十本の指の爪を一気に放った。


「……!!」

 イクサバイバーに向かって放たれたファーストデスの十本の指の爪すべてを、エンプレスデスがその全身で受け止めていた。

「母さん!」

「ママ!」

ブレイゾンブラストが、ゲヘナが不安げに母親を呼ぶ。

 だが舞子は、自身の全身に突き刺さったファーストデスの爪を押さえながら、厳しい口調で子どもたちに声をかけた。

「攻撃するなら今よ! 爪は全部押さえておく。……だから今のうちに屍怨呪(ファーストデス)を攻撃しなさい!!」

 その言葉に最初に反応したのは狼虎ロワイアル――殉義だった。

「舞子さんは烈人君と渚さんにとってかけがえのない存在。……さくらさんのようなことにはさせない!」

狼虎ロワイアルはそう言いながらスマートセルラーの『BLAST END』アイコンをタップして飛び上がった。

「ジャッジメントハンマー!!」

 狼虎ロワイアルは絶叫とともに、光の鉄槌をファーストデスの指先に向かって振り下ろした。

 狼虎ロワイアルのこの一撃は、ファーストデスの十本の指を完全につぶした。

「ぐわぁっぁあぁぁぁぁ!!」

 ファーストデスが苦悶の表情を浮かべて絶叫する声が響く中、エンプレスデスはその場に膝をついた。

 ブレイゾンブラストとゲヘナはすかさずエンプレスデスのそばに行き、母親に刺さっている十本の爪をすべて抜き取った。

 十本の爪に刺されながらも、エンプレスデスは驚異的な治癒能力を発揮してすぐさま傷口をふさぎ、生命の危機を乗り越えた。

 しかし、彼女の体に刺さっていた十本の爪がもたらした傷は、彼女から『永遠に近い寿命』を奪い取った。

 ブレイゾンブラストとゲヘナの前には、『24歳の朝霧舞子』ではなく『37歳の垂水舞子』がいた。

「烈人。渚。ありがとう」

舞子は子どもたちに向かって呼びかけた。

屍怨呪(ファーストデス)の不死身の体は、『永遠に近い寿命』を持つエンプレスデスである私の血液を摂取していた効果によるもの。私から『永遠に近い寿命』が失われた今、屍怨呪(ファーストデス)も不死身ではなくなったはず。……私のことなら大丈夫だから、闘いに集中しなさい」

 ブレイゾンブラスト(烈人)ゲヘナ()は母の言葉に対して同時に「はい」と返事をすると、武器を持って立ち上がった。


「貴様ら……よくもやってくれたな……。許さん。絶対に許さんぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ファーストデスは狂ったように叫びながら、イクサバイバーたちに向かって突進してきた。

 突撃してくるファーストデスを最初に迎え撃ったのはゲヘナであった。

「……ま、あんたなんかノーサンキューなんだけどさ!!」

 ゲヘナは最上段に構えたソード・オブ・ルシファーを一気に振り下ろした。

「ダークネスカリバー!!」

 振り下ろした剣筋から衝撃波が起こり、地面を割って炎がファーストデスに向かっていく。

 そして数秒後、ファーストデスの足元まで達していた炎が爆発に変わり、ファーストデスの全身を紫色の炎で包み込んだ。

「もう一発!!」

 ゲヘナはすかさず二発目のダークネスカリバーを放ち、紫の炎に包まれたファーストデスの巨体を宙へと吹き上げた。

「兄貴!! フィニッシュは任せた!」

 ゲヘナの声を聞きながら、ブレイゾンブラストはエクスレイヤーのトリガースイッチを3回押した。

「Triple Blast!!!」

 ブレイゾンブラストはその場でジャンプし、エクスレイヤーを右脚に装着した。

 右脚にセットされたエクスレイヤーの剣先から、ファーストデスに向かってマーキングの光線が伸びる。

 そしてブレイゾンブラストは、マーキングの光線に導かれるようにして、ファーストデスに向かって渾身の力で必殺の一撃を放った。

「カイザーエクスプロージョン!!!」

 紅蓮の閃光と化したブレイゾンブラストがファーストデスを蹴り破る。

「ぐわぁぁぁぁっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!」

 断末魔の叫びとともに、ファーストデスは空中で大爆発を起こした。

 そのとき、時計の針は午後3時ちょうどを指していた。

「おい、あれ見ろよ」

 ファーストデスがサキバサラ中央チャンネルのパラボラアンテナ上空で爆発する様子は、サキバサラのほぼ全域で見ることができた。

「なんかのイベントかしら?」

「花火……にしてはおかしいよな」

「さっきは一瞬空が真っ暗になったし」

「そういえばさっきシカバネなんとかって奴が俺たちを改造するとかなんとか言ってたよな。あれっていったいなんだったんだろう?」

 人々は口々に、この現象について語り合った。だが真実を知る者はごく少数であった。


 AHDU(アーデュ)のアジトには、殉義から勝利の連絡が入ってきた。

 AHDUのメンバーは大喜びしたが、さくらの死を聞いた瞬間、喜びは悲しみに変わった。

 しかし、勝川――パイレーツデスの

「さくらさんは俺たちのために命を投げ出してくれたんだ。俺たちが『人間』として生きていくこと、それをさくらさんは望んでいるはずだ」

という言葉に、AHDUのメンバーは大きくうなずいていた。


 屍怨呪――ファーストデスが爆発する様子は、東西南北新科学研究所からも見ることができた。

 その光景を目にした東西博士は、何かの終わりを直感的に感じた。

 それからしばらくして、ブレイゾンブラストから「屍怨呪は俺たちイクサバイバーが倒しました。母さんも無事です」との連絡が入った。

 それを聞いていたひとみは、東西博士から通信機を奪い取るようにすると、ブレイゾンブラストに問いただした。

「殉義さんは、殉義さんは大丈夫なの!?」

「自分なら大丈夫ですよ。ひとみさん」

狼虎ロワイアルはブレイゾンブラストのそばへ行き、ひとみに優しい声をかけた。

 ひとみはもう有頂天で、部屋中を舞台のようにして踊りまくっている。

 そんな中、東西博士は東西博士、垂水博士、鹿羽根博士の三人が写っている写真を手に取ると、安堵したかのような表情で静かにつぶやいていた。

「あんたもようやく悪しき野望の呪縛から解放されたんじゃな。……鹿羽根博士」


 イクサバイバーの三人は『変進エヴォルチェンジ』を解いた。

「よくやったわ。……お疲れ様。烈人。渚」

舞子は自分の子である烈人と渚にそう言うと、殉義の前で頭を下げた。

「それから、私の子どもたちをよく支えて下さいました。ありがとうございます。藤原さん」

「お礼を言わなければならないのはこちらの方です。自分たちだけの力では屍怨呪を倒すことはできませんでした。ありがとうございました。……『デス』がらみの事件については、舞子さんたちに迷惑がかからないよう自分が処理しておきます。ですから舞子さんは烈人君と渚さんとともに、三人仲良く暮らして下さい」

「ありがとうございます」

舞子はもう一度、殉義に向かって礼を述べ、頭を下げた。

 ここで烈人が話に入ってきた。

「それはそうと、藤原さん、ヒトミンに藤原さんの気持ち、伝えて下さいましたよね?」

 殉義はその問いかけに答えるかのように、さわやかな笑顔を浮かべた。

 そこへ渚が割り込んできた。

「ちょっとちょっと! なにみんなだけで盛り上がってんのさ。超スーパースターのうちのこと、みんな忘れてない?」

「忘れるもんですか」

舞子は優しく答えた。

 舞子のその答えに、渚は笑みを浮かべた。

 ここで烈人が渚に問いかけた。

「でもヒルーダのトップメンバーは事実上お前ひとりだけになったんだ。これから先、お前はどうするつもりなんだ?」

「決まってんじゃん。うち、ひとりでやっていくよ。……ま、ママ譲りの歌のうまさを思う存分活かしてさ、サキバサラを、いや、世界を代表するアーティストになってやるつもりだけどさ」

「渚ならきっとできるわ」

「俺も母さんの言うとおりだと思う。応援するよ。渚」

「サンキューな。ママ、兄貴」

 烈人は、殉義は、渚は、そして舞子は空を見上げた。

 抜けるような青い空がどこまでも広がっていた。


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 イクサバイバーが屍博士の野望を阻止してから数ヶ月が経過した。

 垂水烈人、舞子、渚の三人は、ごくごく普通のマンションで三人暮らしを始めていた。

 烈人は今も東西南北博士の研究助手として働いている。

 渚は芸名を『NAGISA』に変え、ヒルーダから独り立ちしたシンガーソングライターとして、サキバサラの人々に希望を与える歌を提供し続けている。

 舞子はそんな二人を家で見守っている。

 反ヒルーダ『デス』同盟・AHDUのメンバーたちはそれぞれ元の仕事に戻り、『人間』として暮らしている。

 そして藤原殉義は、『サキバサラにおける連続猟奇殺人事件』に関する報告書をまとめ、本庁に提出した。それを受けて、サキバサラ警察署に置かれていた『連続猟奇殺人事件対策班』は正式に解散となり、殉義は一介の刑事に戻った。その一方で、プロポーズした相手である東西ひとみとの関係はさらに深まり、ひとみの祖父である東西南北博士からは「殉義君なら間違いなくひとみを幸せにしてくれる」と、結婚の許しを得ていた。


 そしてこの日、殉義とひとみは結婚式を挙げることになった。

 会場はAHDUのアジトであったバー。かつてAHDUのアジトであったそのバーは、今はおしゃれなカフェ『Suite'in(スイーティン)』に生まれ変わり、AHDUの神領が店長となって店を切り盛りしている。また、AHDUのメンバーだった者の一部はこのカフェで従業員として働いているが、そこにはもう、『デス』の持つ血なまぐささは微塵も感じられない。

 会場には大勢の人(『デス』となる能力を持つ者を含む)が二人の門出を祝福するべく詰めかけていた。

 もちろん、そこには烈人、渚、舞子の姿もあった。

「こんな服、今まで着たことないから落ち着かないな」

「烈人。ネクタイが曲がってるじゃないの」

舞子はそう言いながら、着慣れないスーツを着た烈人のネクタイの位置を直した。

「ありがとう。母さん」

 渚があきれたように烈人に声をかけた。

「……ったく、しっかりしてくれよ。兄貴ぃ~」

「しょうがないだろ。こんな服、着たことないんだから」

烈人は言い返した。

「……それはそうと渚、お前、この結婚式のために作った曲を歌うんだろ? 準備はできてるのか?」

「ま、そんなこと、兄貴に言われるまでもなく準備オッケーなんだけどさ。……じゃあうちは控室に行くから」

渚は烈人と舞子にそう言うと、控室となっているスタッフルームへと向かった。


 司会を務める神領が、集まった人たちに対して結婚式の開会を宣言した。

「ただいまより、藤原殉義君と東西ひとみさんの結婚式を挙行いたします。……新郎新婦の入場です。皆さん、盛大な拍手でお迎え下さい!」

 荘厳かつ華やかな音楽に合わせて、純白のスーツ姿の殉義と、純白のウエディングドレスに身を包んだひとみが、腕を組んで人々の前に現れた。

 集まった人々は盛大な拍手で新郎新婦を迎え入れる。

「それでは、新郎新婦に結婚の宣言をしていただきます」

 神領よりマイクを渡された殉義とひとみは、

「自分は東西ひとみを妻とし、一生(まも)り抜くことを誓います」

「私は藤原殉義を夫とし、一生愛することを誓います」

と、集まった人々に向かって宣誓した。

 ここで再び、集まった人々から盛大な拍手がわき起こった。

 ウエディングケーキへの入刀、ひとみから東西博士へのお礼のメッセージの朗読(その言葉に東西博士が感極まったことは言うまでもない)、結婚指輪の交換と、厳粛でありながら温かい雰囲気の中、式は進行していく。

 そして渚の出番がやってきた。

「今日は、殉義君とひとみさんの門出を祝うべく、NAGISAさんがこの日のために新曲をプレゼントしてくれます。曲名は『Love forever』」

 神領の紹介を受けて、渚が姿を現した。

 渚は静かにキーボードの前に座ると、いつもの破天荒さとは打って変わった、しとやかさを漂わせながら前奏をひき、歌い始めた。


――君を初めて見たときは ただの普通の子に見えた

 だけどそれが運命の出会いであったことに気づいた

 なぜ僕は君を好きになったのだろう?

 言葉では言い表せないよ

 引力にひかれるみたいに 僕は君に惹かれてた

 そして僕は君と一緒に生きるんだって決めた


 あなたを初めて見たときは どこにでもいそうな男性ひとに見えた

 だけどそれが運命の出会いであったことに気づいた

 なぜ私はあなたを好きになったの?

 言葉では言い表せないよ

 赤い糸をたどっていって 私はあなたにたどり着いた

 そして私はあなたと一緒に生きるんだって決めた


 楽しいときうれしいときつらいとき悲しいとき

 どんなときも二人は一緒

 二人で同じ道を歩むんだって決めたんだ


 引力にひかれるみたいに 僕は君に惹かれてた

 そして僕は君と一緒に生きるんだって決めた

 赤い糸をたどっていって 私はあなたにたどり着いた

 そして私はあなたと一緒に生きるんだって決めた


 I love you, You love me...

Love forever――


 曲が終わった瞬間、割れんばかりの拍手が起こった。

 殉義とひとみも、自分たちのために渚が贈ってくれた曲に対して、大きな拍手で応えていた。

 そして式は終わりに近づきつつあった。

 店のドアを開いた先には、殉義とひとみがハネムーンに向かうために乗り込む車が用意されている。

 集まった人々からのライスシャワーを浴びながら、殉義とひとみは車へと近づいていく。

 ここで、烈人が殉義に声をかけた。

「藤原さん。ヒトミンを幸せにしてやって下さい」

 殉義は自信ありげな顔をしてきっぱりと言い切った。

「任せて下さい」

 烈人はすかさずひとみにも声をかけた。

「ヒトミン。俺が初めてサキバサラへ来たときのように殺虫剤と消火器を間違えるようなドジすんなよ」

「な……なんでこういうときにそんな話するのかな!? レッドってば」

ひとみは不満げにそう言ったが、顔は笑みを浮かべていた。


 二人は車に乗り込み、殉義がエンジンを始動させた。

 そのときである。

 いかにもガラの悪そうな三人組の男が、殉義とひとみの車の行く手をさえぎった。

「お前らこれからハネムーンかよ」

「幸せ絶頂ですわ~って感じ、すっげーむかつくんだよな」

「そうそう。他人ひとの幸せそうな様子を見ると、それをぶち壊したくなっちゃうんだよね」

 三人組の男は口々にそう言うと、心を黒い闇で覆った。

 次の瞬間、三人組の男は灰色の皮膚をした怪人――『デス』――に姿を変えた。

「ママ! 屍怨呪はうちらが倒したはず。なのになんで『デス』が姿を現すんだよ!?」

渚は舞子に問いただした。

 舞子は静かに答えた。

「『デス』は人間の心の闇が作り出した存在。ある特定の人物が作り出したものではないわ。……極端に言えば、人間は誰でも『デス』になりうるのよ」

 三体の『デス』は、殉義たちの乗る車へと徐々に近づきつつあった。

 だがそこに、「待て!!」という声が響いた。

「幼稚園か小学校で習ったはずだぞ。『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』って。お前ら、まさにそういう奴だよ」

声の主である烈人は、三体の『デス』に向かって言い放った。

「なんだとぉ……!?」

 『デス』たちの怒りのベクトルが烈人に向けられた。

 烈人は『デス』たちの怒りを感じながら、左手首に装着していたデジタル腕時計の外周部を回転させ、デジタル腕時計をベルトの形に変えて腰に装着させた。

 そして烈人は赤い仮面の戦士の絵の下に『Evolchange』と書かれたトレーディングカードのようなものを右手に持ち、両腕を胸の前でクロスさせて前に突き出した。

 そこへ渚が割って入った。

「兄貴ばっかりにいいカッコさせやしないよ。……ま、こいつらマジ邪魔なんだけどさ」

 渚はそう言うと、握りしめた右の拳にキスをした。そして右前腕部が地面とほぼ垂直になるかのように構え、左手は拳を握って肘をわき腹につけ、拳の手の甲側を下にして構えた。

 車に乗っていた殉義は、この状況を見てひとみに声をかけた。

「ここは自分も行かなければならない。すぐに戻るから待っててくれるかい?」

 ひとみは大きくうなずいた。

「行ってらっしゃい」

 新妻の後押しを受けて、殉義も烈人と渚のところへ歩み寄った。

 そして殉義は右手に持ったスマートフォンの『EVOLCHANGE』アイコンをタップし、スマートフォンを通話するときのように構えた。

 真ん中に烈人、『デス』から見て左に殉義、右に渚が立ち、三人は一斉に声をあげた。

変進エヴォルチェンジ!!」

「な……なんだとぉぉぉ!!?」

 三体の『デス』は驚きの表情を見せた。

 『デス』を狩る者・イクサバイバーである、ブレイゾン、狼虎、ゲヘナが揃い踏みしていたのである。

「我の中で燃える怒りの業火、我の前に広がる闇を滅ぼす」

ゲヘナが三体の『デス』に向かって言った。

「『デス』は法では裁けぬ存在。だから自分がお前たちに判決を言い渡す。……死刑だ」

狼虎が三体の『デス』に向かって言った。

 そしてブレイゾンは左肩を前方向へ一回転させてコキリと肩を鳴らすと、

「闇より生まれし邪悪な生命いのち、熱き炎で焼き払う。……覚悟はいいな? 殺戮者!!」

と言って三体の『デス』を指差した。

「……こうなったらヤケクソだ!!」

 三体の『デス』は猛然とイクサバイバーに向かって突撃してきた。

 それに対して三体のイクサバイバーは、ブラストエンドを放つ構えを取り、三体の『デス』を光で包み込んでその動きを封じた。

「ヘヴン!」

 ゲヘナの振るったゲヘナトンファーが一体の『デス』を宙に浮かせた。

 そしてゲヘナはすかさず飛び上がると、もう一方のゲヘナトンファーを相手の喉元に押しつけながら

2(トゥ)ヘル!!」

の発声とともに、相手を地面に叩きつけた。

 狼虎はブリザーベルにクリスタルエッジを出現させると、左半身ひだりはんみの構えから右半身みぎはんみに構えを変えつつ、

「クリスタルスラスト!!」

の発声とともにクリスタルエッジで一体の『デス』を刺し貫いた。

 ブレイゾンの目の前に、『デス』へと向かう5、4、3、2、1のホログラフが浮かび上がった。

 ブレイゾンは5のホログラフに向かって飛び込むと、飛び蹴りの構えをしてホログラフを蹴り破っていった。

「ブレイズエクスプロージョン!!」

 周囲に「Five」「Four」「Three」「Two」「One」の音が鳴り響く。そして「Blaze-on!!」の音とともに、ブレイゾンの飛び蹴りは一体の『デス』の胸元を蹴り込んだ。

 三体のイクサバイバーは、『デス』に背を向けて、彼らに死の宣告を下した。

「炎滅」

「閃壊」

「爆散」

 死の宣告を受けた『デス』は、紫の炎に包まれて燃え尽き、ガラス細工が砕けるかのように粉々になり、全細胞が爆発して消滅した。


 イクサバイバーは『変進』を解いた。

「自分たちの戦いはまだ終わっていなかったんですね」

イクサバイバー・狼虎――藤原殉義が口を開いた。

「ま、みんなの幸せをぶち壊そうとする奴が現れたら、うちは容赦しないんだけどさ」

イクサバイバー・ゲヘナ――久々野渚がそれに続く。

 そして、イクサバイバー・ブレイゾン――垂水烈人は新たな決意を込めて魂の奥底から言葉を発していたのだった。

「人間の心に闇がある限り、『デス』が滅びることはない。そして『デス』が滅びるまで、イクサバイバーの戦いは終わらない。……俺たちは終わりなき戦いを続けていかなければならないのかもしれない。だけど、いつかこの戦いが終わる日が来ることを俺は信じる。人間は己の心の闇に打ち勝つことができるんだから」                                             



                                            -完-


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