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第22話 ~野望(Final battle... Who is the winner?)~

 サキバサラ最大の情報発信基地・サキバサラ中央チャンネルは、サキバサラ駅の真上に建っている。その最上部には巨大なパラボラアンテナがあって、サキバサラの全域に情報を発信し続けている。

 スタッフやタレントたちは、サキバサラ駅の地下にある駐車場に車を停め、専用のエレベーターでサキバサラ駅を通り過ぎて、スタジオ入りする。

 一般人もサキバサラ駅構内に設けられた入口からサキバサラ中央チャンネルに入ることができる。観客参加型のバラエティ番組の撮影があるときなどは、スタジオの中の観客席に入ることもできる。

 だが、セキュリティに関するチェックは非常に厳しく、一般人が入場する際には危険物を持ち込んでいないかどうか入念に所持品のチェックが行われており、また、立入禁止区域に入ろうものなら、1分も経たないうちにガードマンが駆けつけ、追い出される。関係者についても同様で、自分の関与する番組とは関係のない区画への出入りは禁じられている。

 しかし、ヒルーダトップメンバー、ヒルーダのチーフプロデューサーである下里太地と、サキバサラ中央チャンネル筆頭株主である三輪明輝良は例外であり、サキバサラ中央チャンネルの全区画に顔パスで入ることができる。

 明輝良は『Maximum(マキシマム) Heart(ハート)』の森田春江と速星千里を引き連れて、番組の送信を管轄しているコントロールセンターへやってきた。

「これは三輪さんに『Maximum Heart』のお二人ではないですか。こんなところに何のご用でしょうか?」

明輝良たち三人がコントロールセンターに入ろうとするのを見て、近くにいたスタッフが声をかけた。

 スタッフの言葉に対し、明輝良はすかさず答えた。

「用もないのにここへ来るわけがないでしょう。僕たちの用件はね……」

 明輝良はそう言うと、後ろの春江と千里に目配せをした。

 次の瞬間、春江と千里は心を黒い闇で覆い、春江は右手に剣を、左手に盾を持ち、背中に翼を生やした『ウンリュウデス』に、千里は両手に剣を持ち、背中に翼を生やした『シラヌイデス』に姿を変えた。

 そしてこの二体の『デス』は、コントロールセンターにいたスタッフ全員を1分も経たないうちに皆殺しにし、元の春江と千里の姿に戻った。

「テレビ、ラジオの全チャンネルをこの周波数に合わせるんだ」

明輝良――屍博士は春江と千里に指示を出しながら、サキバサラ全域に対してメッセージを送る準備を整えていった。

「準備終わりました」

「こちらもOKです」

 春江と千里の声を受けて、屍博士はメインカメラの前に立つと、服装の乱れを直した。

 そして屍博士は、放送開始のカウントダウンを始めた。

「放送5秒前、4、3、2、1、スタート!」

 サキバサラの街のテレビ、ラジオのすべてのチャンネルは、この瞬間、屍博士に占拠された。

 ヒルーダの歌を流していたチャンネルにも、ドラマを流していたチャンネルにも、バラエティを流していたチャンネルにも、ニュースを流していたチャンネルにも、どのチャンネルにも屍博士の顔のアップが映し出される。

「親愛なるサキバサラの街の諸君。はじめまして。……私は屍怨呪。人類の新たなる『進化』をつかさどる創造主だ」

屍博士はサキバサラの全住民に対してメッセージを発信した。

「さて。この街は24時間光に包まれた街であることは諸君もご存知のことだろう。だが、光にかき消された闇はどこへ消えたのか、諸君は考えたことがあるかね? ……正解を言おう。光にかき消された闇は諸君の心の奥底に潜んだのだよ。そして諸君の心の中に潜んだ闇は、表へ噴き出す機会を虎視眈々と狙っている。心の闇が噴出し、人間を超える力を得た存在。それが、この街の都市伝説となっている『デス』だ。『デス』は諸君の心の闇を解放し、人間を超える者となった存在。つまり、人類の進化した姿なのだ」


 AHDU(アーデュ)のアジトで激戦を展開している狼虎ロワイアルやAHDUのメンバー、ヒルーダチーフプロデューサーの太地が姿を変えたルークデス、そしてルークデスの配下の『デス』たちも、屍博士の演説を耳にしていた。

「お前たちの抵抗など無意味だ! サキバサラは屍博士の、ヒルーダの支配する街になるのだ!!」

ルークデスは歓喜の声をあげた。

「そんなことさせるか!」

狼虎ロワイアルはブリザードマシンガンをルークデスに向かって放った。

 しかし、ルークデスの頑丈なボディはマイナス270度の極低温の弾丸ですら受け付けなかった。

 ならば、と、狼虎ロワイアルは『BLAST END』アイコンをタップし、必殺のジャッジメントハンマーを放った。

 だが、狼虎ロワイアルの振り下ろした光の鉄槌は、屍博士の言葉に歓喜し、より強固となったルークデスのボディに弾き返された。

 狼虎ロワイアルは背中から床に倒れこんだ。

「そんなバカな……」

 驚きの声をあげながら狼虎ロワイアルはルークデスを見上げた。

 ルークデスは全身から黒いオーラを放ち、そのオーラは元々強固であるルークデスのボディをさらに強くしていた。

「サキバサラは屍博士のものだ! お前たちAHDUもイクサバイバーも、一匹残らず屍博士の前に滅び去るのだ!!」


 屍博士の演説はまだ続いていた。


――諸君。これから私は君たち全員を『デス』に改造する。だが心配はいらない。君たちが『デス』に改造される際、苦痛はともなわない。そして見た目には今までの諸君とまったく同じ姿のままでいる。

――安心したまえ。『デス』になることで、君たちは『人間』の枠を突き破った、進化した力を手に入れることができるのだから。

――おっと、ひとつ言い忘れていた。サキバサラの街から外へ出る道路、ならびに公共交通機関は全面的に封鎖した。今さら逃げようなどという馬鹿なことは考えない方がいい。安心したまえ。君たちは『進化』するのだから。

――今から30分後、午後3時ちょうどに、ここから人間の心の闇を引き出す音波をサキバサラ全域に向かって発信する。そのとき、君たちは新しい自分に目覚めるのだ。新しい自分へと『進化』した姿を想像しながら、『人間』でいられる残り30分間を楽しみたまえ……


 屍博士の言葉は、ブレイズストライカーでサキバサラ中央チャンネルへ向かっていた烈人、舞子、渚の耳にも届いていた。

「兄貴。急がないととんでもないことになるよ」

「わかっている!!」

 烈人はスロットルを全開させてブレイズストライカーを飛ばした。

「あそこを左折して。駐車場よ」

 舞子の指示で烈人はブレイズストライカーをサキバサラ中央チャンネル関係者駐車場へと飛び込ませた。

 駐車場では屍博士配下のコモンデスが数十体、烈人たちをこれ以上先に進めさせるものかと、壁のようになってサキバサラ中央チャンネルの入口をふさいでいる。

 烈人、舞子、渚の三人はブレイズストライカーから降りると、コモンデスと対峙した。

「渚。『変進エヴォルチェンジ』だ」

「オッケー。兄貴」

 烈人と渚は『変進』する構えを取った。

 だが二人の『変進』を舞子が制した。

「あなたたちの力は屍博士を止めるときまで温存しておきなさい。……この程度の『デス』など、私が一発で消します」

 舞子はそう言うと、心を黒い闇で覆った。

 彼女の肌の色は灰色になり、舞子は『エンプレスデス』となった。

 そしてエンプレスデスは、右の手のひらから閃光を放ってコモンデスの群れを予告どおりに一撃で一掃した。

「すげえ……」

「ママが『女帝エンプレス』って呼ばれてる理由がわかった気がするよ」

舞子の実力の一端に触れ、烈人と舞子は感嘆の声をあげた。

 だが、そんな子どもたちを、『デス』の姿から人間の姿に戻った舞子は叱責した。

「こんなことで驚いている場合じゃないでしょ。エレベーターは閉じ込められたりして危険だから、走って屋上の発信アンテナまで行くわよ!」

 舞子に引っ張られるように、烈人と渚はひたすら上を目指して階段を駆けのぼっていった。


「どうした狼虎ロワイアル! わしを死刑にするんじゃなかったのか!!?」

ルークデスはそう叫びながら、ジャッジメントハンマーを弾き返されて倒れこんだ狼虎ロワイアルを何度も踏みつけていた。

 ルークデスが狼虎ロワイアルを踏みつけるたびに、狼虎ロワイアルのアーマーに衝撃が走り、殉義の肉体を激痛が襲う。

 殉義は狼虎ロワイアルのマスクの向こうで苦痛に顔をゆがめながら、どうすればこの状況を打破できるのだろうかと必死になって考えていた。

 しかし、相手はジャッジメントハンマーすら弾き返す強敵。狼虎ロワイアルに、殉義に打つ手はなかった。

 そのときである。

「藤原さん! あなたには待っている女性ひとがいるはずでしょ!? その女性ひとのために、勝って、生き抜かなくちゃいけないでしょ!!」

 狼虎ロワイアルを、殉義を叱咤激励するクノイチデス(さくら)の声が、彼の耳に飛び込んできた。

(「そうだ。自分には帰りを待ってくれている女性ひとがいる」)

 殉義の心の奥底に、自分の帰りを待っているひとみの姿がはっきりと浮かんでいる。

(「ひとみさんのためにも、自分はこんなところで終わってしまってはいけないんだ……!!」)

 狼虎ロワイアルの中に、新たなる力がわき上がってきた。

 踏みつけにきたルークデスの足を狼虎ロワイアルはがっしりと受け止めると、プロレス技のドラゴンスクリューの要領でルークデスの足関節をひねり、巨大な城塞を地に這わせた。

 狼虎ロワイアルは再び立ち上がった。

 そこへクノイチデスが近寄ってきた。

「一点集中攻撃以外に、ルークデスを倒すすべはありません」

 狼虎ロワイアルはクノイチデスの言葉に同意するかのようにうなずいた。

 そして狼虎ロワイアルは、ブリザードマシンガンでルークデスの胸元の一点に集中攻撃を加えた。

 はじめ、ルークデスは狼虎ロワイアルの一点集中攻撃など蚊が刺したほどのものとしか感じていなかった。

 しかし、一点集中攻撃を受け続ける中で、堅牢さを誇るルークデスの全身が、微妙な振動を起こし始めた。

「な……なんなんじゃ!? この感覚は!!?」

 この瞬間、クノイチデスの目が鋭く光った。

 クノイチデスは疾風のようにルークデスの懐へ飛び込むと、狼虎ロワイアルが一点集中攻撃している箇所に忍者刀を突き刺した。

「今です。私の刀が刺さっているところにクリスタルスラストを打ちこんで下さい!!」

 クノイチデスの言葉を受けて、狼虎ロワイアルはブリザーベルにクリスタルエッジを出現させた。

「クリスタルスラスト!!」

 狼虎の怒りの咆哮とともに放たれたクリスタルスラストはクノイチデスの忍者刀の柄頭を突きこみ、刀をルークデスの体内奥深くに刺し込んだ。

「ぐ……ぐわぉぉぉぉぁ!!」

ルークデスは苦悶し、絶叫した。

 とどめを刺す機会は今しかない。

 狼虎ロワイアルはスマートセルラーの『BLAST END』アイコンをタップし、大きくジャンプすると、被告人席に立つ苦悶する城塞に向かって光の鉄槌を放った。

「ジャッジメントハンマー!!!」

「バカな!? わしは屍博士から最強の『デス』の能力を授かったはず。なのに、どうして裏切り者のさくらやイクサバイバーの若造の前に滅びなければならないのだ……!!?」

 絶大なる防御力を誇っていた城塞(ルークデス)は、この裁きの鉄槌の前に、砂で作った城郭のように粉々になって崩れ去った。

 ルークデスの敗北は、これまで有利に戦っていたルークデス配下の『デス』に大きな衝撃と動揺を与えた。

 それに乗じてAHDUの猛反撃が開始され、ルークデス配下の『デス』はほんの数分で一体残らずAHDUの前に倒された。

「さくらさん」

ルークデスに突き刺さっていた刀を手渡しながら、狼虎ロワイアルはクノイチデスに向かって声をかけた。

「あなたのひとことがなかったら自分は負けていました。ありがとうございました」

「礼にはおよびませんわ」

クノイチデスはそう言うと、刀を背中の鞘にしまい、紫翠さくらの姿に戻った。

「私は鹿羽根博士をめぐる恋の争いで舞子に負けた。私の恋は実らなかった。……私と同じ思いを、ひとみちゃんにはしてもらいたくなかったの。だって藤原さんとひとみちゃん、ホントに仲のいいカップルなんだもの。そんな二人が幸せになれないような世界は間違ってる。あなたとひとみちゃんには、絶対に幸せになってもらいたいのよ」

そう言ってさくらは淡い笑みを浮かべた。

 狼虎ロワイアルのマスクの中で殉義も笑みを浮かべた。

 しかし、戦いはまだ終わっていない。

「自分はこれからサキバサラ中央チャンネルに向かいます。……AHDUの皆さんは、戦いで疲れた体を休めて下さい。ここから先はイクサバイバーの仕事ですから」

狼虎ロワイアルはAHDUのメンバーに向かってそう言うと、シリウスライナーに乗り込んだ。

 そこにさくらの声が響いた。

「藤原さん。私も連れていって下さい」

 狼虎ロワイアルはさくらの真剣なまなざしを受けると、彼女にヘルメットを渡しながら言った。

「じゃあ一緒に行きましょう」

 狼虎ロワイアルはさくらをシリウスライナーに乗せ、サキバサラ中央チャンネルへと向かった。

 だが、道路は逃げ惑う人たちが右往左往しており、とてもシリウスライナーを走らせることはできない。

「さくらさん。空から行きます」

狼虎ロワイアルはさくらに向かってそう言うと、さくらを抱きかかえ、シリウスライナーをその場に残して空へ舞った。


 烈人、舞子、渚の三人は、屍博士、春江、千里のいる屋上のパラボラアンテナのところまで一気に駆け上がってきた。

「……ったく母さんも人使い荒いよ」

「兄貴の言うとおりだぜ。……でもママは全然息を切らしてないよ。やっぱママってすごいな」

 肩でゼーゼーと息をしている烈人と渚に対し、舞子はまったく息を切らさず、堂々とした姿で屍博士たちに対峙した。

「よく来たね。舞子。渚。……そして烈人」

屍博士はアンテナのそばで直立しながら三人に声をかけた。

「これから、人類史上初の『進化』のイベントが始まる。君たちもそのイベントを特等席で見ていてくれたまえ」

「ふざけるな!!」

屍博士の言葉に、烈人は怒りをあらわにした。

「お前の野望、俺たちが打ち砕く!!」

 烈人の言葉に、春江と千里が反応した。

「打ち砕かれちゃ困るのよね。屍博士の研究の集大成なんだから」

「どうしても邪魔をするというのなら、私たちが三人まとめてお相手するわ」

 春江と千里は心を黒い闇で覆い、春江はウンリュウデスに、千里はシラヌイデスに姿を変えた。

 それを見た烈人はすかさずブレイズチャージャーを起動させると、右手にエヴォルチェンジ・メモリカードを、左手にエクスレイヤー・メモリカードを持ち、両腕をクロスさせて前に突き出し『変進』の構えを取った。

「あの『デス』は俺と渚とで倒す。いくぞ渚!」

「その言葉、待ってたぜ。兄貴!」

渚は烈人にそう言い返すと、握りしめた右の拳に唇を寄せた。そして右前腕部が地面とほぼ垂直になるかのように構え、左手は拳を握って肘をわき腹につけ、拳の手の甲側を下にして構えた。

 烈人と渚は同時に「変進!!」と声をあげた。

 烈人の全身は激しい炎と疾風の入り混じったオーラに、渚の全身は紫の炎に包まれた。

 そして炎を吹き払い、烈人はブレイゾンブラストに、渚はゲヘナに『変進』した。

 ブレイゾンブラストはエクスレイヤーを構えると、ウンリュウデスに向かって突撃していった。そしてゲヘナはゲヘナトンファーを振りかざしてシラヌイデスに襲いかかった。


 ウンリュウデス、シラヌイデスはともにヒルーダ結成当時からのメンバーである森田春江と速星千里が『デス』となった姿である。その戦闘力は、これまでの『デス』よりもはるかに高い。

 ブレイゾンブラストもゲヘナも、その戦闘力の前に押されていた。

 つばぜり合いの中で、ウンリュウデスがブレイゾンブラストに対して問いかけてきた。

「ブレイゾン。あなたも『女帝』の血を受け継ぐ『デス』なら、どうして屍博士の邪魔をするわけ!?」

「俺の肉体からだは『デス』かもしれない。だが俺の精神こころは『人間』だ。俺の父の名は垂水激。母の名は垂水舞子。そして俺はれっきとした『人間』、垂水烈人だ!!」

 ブレイゾンブラストはエクスレイヤーをウンリュウデスに向かって振り下ろした。

 だがウンリュウデスは左手の盾でエクスレイヤーの一撃を受け止めると、すかさず、右手に持った剣でブレイゾンブラストの胸のあたりを切り裂いた。

「ぐわぁぁぁぁ!」

 ブレイゾンブラストは胸に衝撃を受けながら大きくのけぞった。

 ウンリュウデスは左手の盾をブレイゾンブラストに向かってかざした。

「ドラゴン・クラウディ!!」

 ウンリュウデスの絶叫とともに、盾から龍を形どったエネルギー波がブレイゾンブラストに向かって放たれた。

「っぐはぁぁぁぁぁ!!」

 ブレイゾンブラストはこの一撃で大きなダメージを受け、大きく吹き飛ばされ、ダウンした。


 一方、ゲヘナはゲヘナトンファーを使った格闘術でシラヌイデスに立ち向かっていた。

 二体の放つ攻撃のスピードはほぼ同等であった。

 だがパワーはシラヌイデスの方がゲヘナより勝っていた。

 剣でゲヘナトンファーを押し込みながら、シラヌイデスはゲヘナに問いかけた。

「渚。私たちを裏切るとはどういうつもりなの? 渚が倒すべき敵は、佐奈とかなえを殺した垂水烈人じゃなかったの!?」

「確かに……佐奈とかなえが『垂水烈人』に殺されてから、うちは『垂水烈人』を倒すために生きてきた。だけど、『垂水烈人』は、佐奈とかなえを殺したことについて、うちの前に膝をついて『すまなかった』と言った。そのとき、うちは気づいたんだ。うちの目の前にいる『垂水烈人』は敵じゃない。うちの兄貴なんだ、ってことに」

「なにバカなこと言ってるの。今からでも遅くないわ。渚。屍博士に従って、春江や私と一緒に、ブレイゾンを、狼虎を、AHDUを、そして舞子を倒すのよ!」

「じょーだん言うなよ。……ま、そんなのノーサンキューだけどさ!!」

ゲヘナはそう叫びながらシラヌイデスの剣を押し返すと、ヘヴン2(トゥ)ヘルをシラヌイデスに向かって放った。

 ゲヘナの放ったヘヴン2(トゥ)ヘルはシラヌイデスにクリーンヒットし、シラヌイデスは屋上の床に叩きつけられた。

 だが、「炎滅」というゲヘナの死の宣告を受けながらも、紫の炎に包まれながらも、シラヌイデスは何事もなかったかのように立ち上がると、全身から闘気を放出させて紫の炎をかき消した。

「渚。あなた、弱くなったわね」

シラヌイデスはゲヘナに向かって言い放った。

「以前のあなたは野良犬のような眼をしていた。だけど今のあなたは違う。飼い犬のような状態だわ。……人間に飼いならされた愛玩動物(ペット)ごときが私を倒すなんて不可能よ!!」

 シラヌイデスはそう叫ぶと、高速で剣を振るい、真空の刃をゲヘナに向かって連続して放った。

「シルエットカッター!!」

 雨あられと降りそそぐかのような真空の刃の連続攻撃の前に、ゲヘナは防御の構えを取るのが精一杯であった。

 だが、シルエットカッターの連続攻撃は止むどころかさらに激しさを増してきている。

「んぐぅ」

 体のあちこちを切りつけられ、ゲヘナはがっくりとその場に膝をついた。


「舞子。お前の『子どもたち』が傷つけられているというのに、お前は何も感じないのか? 何もしないのか??」

その場に立ったまま微動だにしない舞子に向かって屍博士が問いかけた。

 舞子は顔を上げ、凛とした表情で屍博士に向かって言い返した。

「私の『子どもたち』はこんなことではくじけないわ」


 右手に剣を構えた状態でウンリュウデスはブレイゾンブラストに近づいてきた。

「次の一撃でお前の首を取る!!」

 ウンリュウデスの右手が大きく振り上げられたその瞬間、ブレイゾンブラストの目が鋭く光った。

「Single Blast!」

「シャイニング・ノヴァ!」

 閃光と化したブレイゾンブラストは、無防備だったウンリュウデスの体の中心を打ち抜いて強烈なダメージをウンリュウデスに与えた。

「そ……そんな……」

 ウンリュウデスの右手から剣が床に落ちてカランカランという乾いた音を立てた。

 だが、ウンリュウデスはまだ負けたわけではなかった。左手の盾をブレイゾンブラストに向かってかざし、ドラゴン・クラウディを放とうとしている。

 しかし、それよりも一瞬早く、ブレイゾンブラストの炎の剣がウンリュウデスを斬り裂いていた。

「Double Blast!!」

「ブレイズ・バスタード・ブレイク!!」

 ウンリュウデスは両腕をダラリと下げ、その場にガックリと膝をついた。

「私が……負けるなんて……」

ウンリュウデスは森田春江の姿になると、そう言い残してその場で爆発し、粉々に砕け散った。

「春江!!」

シラヌイデスは悲鳴にも似た絶叫をあげ、シルエットカッターの猛攻撃が止まった。

 ゲヘナはすかさずソード・オブ・ルシファーを出現させると、ソード・オブ・ルシファーを最上段に構え、絶叫とともにソード・オブ・ルシファーを振り下ろした。

「ダークネスカリバー!!」

 ゲヘナの放った剣筋に沿って衝撃波が走る。

 そしてシラヌイデスの真下で噴火のように紫の炎が湧き上がり、シラヌイデスの全身を炎で包み込んだ。

 吹き上がる炎の中で、シラヌイデスはつぶやいていた。

「フッ……飼い犬なんかにやられるなんてね……」

 シラヌイデスは速星千里の姿になると、吹き上がる炎の中で燃え尽きたのだった。


「……!!」

 屍博士の脇を固めていたウンリュウデスとシラヌイデスが舞子の子どもたちのイクサバイバーに倒されたのを目の当たりにして、屍博士は言葉を失っていた。

 そんな屍博士に向かって舞子は言い放った。

「だから言ったでしょ。私の『子どもたち』はこんなことではくじけない、と」

 そしてブレイゾンブラストとゲヘナが、舞子を守るかのように彼女の前に立った。

「屍博士! ……残るはお前だけだ!!」

「ま、あんたに勝ち目はないから降参した方がいいと思うんだけどさ」

 ブレイゾンブラストとゲヘナの言葉を耳にした屍博士は、突然、狂ったかのように大声で笑い出した。

「ふは! うは! うわははははははははははははは!!」

「何がおかしい!!?」

 ブレイゾンブラストの詰問に対し、屍博士は笑いをこらえながら答えた。

「烈人と渚は二人とも私の遺伝子を受け継ぐ『私の子ども』。『デス』の中でも選ばれた存在だ。なのに、たかが『Maximum Heart』を倒したくらいで戦いに勝利した気でいるのが非常におかしくてね……」

「俺はお前の子どもなんかじゃない!!」

 激しく言い返すブレイゾンブラストの言葉に、屍博士は再び大笑いをした。

「烈人の父は垂水激だと教え込んだのは舞子か? ……そういえば舞子。君が私のところへ戻ってきたときに、烈人がいなかったのはどういうことなのかな?」

 屍博士の問いかけに対し、舞子はきっぱりと答えた。

「烈人は私の『年齢としの離れた弟』。父は垂水激。……屍博士。烈人はあなたの子なんかじゃないわ」

 今の舞子の言葉に、大笑いしていた屍博士の顔は締まり、厳しい視線を舞子に向けて言った。

「まったく……、母子おやこそろっておかしなことを言ってくれるよ。……だが、そんなことはどうでもいい。あと5分で、サキバサラの住人はすべて『デス』になるのだからな」

 どこからか、午後3時より放送される『HE-RUDA Rise up time!!!』のテーマ曲『Rise up』が聞こえてきた。


――最後まで突っ走ろう (Rise up! RaRaRaRise up!)

  限界を乗り越えよう (Rise up! RaRaRaRise up!)

  私の行く先をふさいでる邪魔なもの

  全部ぶっ飛ばして! 行こう


  あなたを知ったその日から

  ハートの羅針盤コンパス動き出す

  矢印が指すその先に

  あなたの姿が見えている


  思うまま突っ走ろう (Rise up! RaRaRaRise up!)

  よそ見などしてるヒマない (Rise up! RaRaRaRise up!)

  私の行く先はあなたの腕の中

  グッと飛び込んで! 行こう――


 屍博士は舞子、ブレイゾンブラスト(烈人)ゲヘナ()に向かって、三人を見下すかのように言い放った。

「お前たちがどれだけ抵抗しようとも、私の遠大なる野望を止めることはできない」

「それはどうかな? 鹿羽根恩慈……いや、屍怨呪」

「なんだとっ!!?」

 屍博士が振り向いた視線の先には、発信アンテナに接続されていた『デス』化音波発信装置を胸に抱いたクノイチデスと、ブリザードマシンガンを構えた狼虎ロワイアルの姿があった。

「屍博士。あなたの野望はこれでおしまいよ!!」

クノイチデスはそう言うと、『デス』化音波発信装置を宙に投げた。

 そして次の瞬間、狼虎ロワイアルのブリザードマシンガンが『デス』化音波発信装置を粉々に破壊した。

「屍怨呪。これでお前の野望は完全についえた。……おとなしく法による裁きを受けるんだ」

狼虎ロワイアルは厳しい口調で屍博士に言った。

 屍博士の目の前で、バラバラになった『デス』化音波発信装置の部品が淡雪のように降り落ちていく。

「お前ら……人類の『進化』の可能性を摘み取りやがって……。許さん。絶対に許さん……!!!」

屍博士は天に向かって絶叫し、心の暗闇を解放した。

 青かった空が黒い雲に覆われ、空は真っ黒い闇に包まれた。

 その黒い雲の間から放たれた青い稲妻が、屍博士を直撃した次の瞬間、屍博士の皮膚の色は灰色に染まり、全身の筋肉が膨張して服をビリビリと引き裂いた。

 屍博士は5メートルほどの身長の巨大な『デス』と化した。

「な……んだと!?」

「うちらがヘルフュージョンしたルシファーデスよりデカい……」

ブレイゾンブラストとゲヘナは、『デス』化した屍博士の姿に驚きを隠せなかった。

「私の実験が失敗に終わったのはすべてお前たちのせいだ。許さん。人類史上最初の『デス』、つまり『ファーストデス』の力を解放した私が、お前たち全員を地獄に送り込んでやる。まずはお前だ。……舞子!!」

屍博士――ファーストデスは、場の一同に向かってそう言い放った。

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