第21話 ~兄妹("Blaze-on BLAST" vs "Gehenna")~
サキバサラセントラルビルディングへと向かう烈人のブレイズストライカーの前に、突然、少女が飛び出してきた。
烈人は急ブレーキをかけてハンドルを思い切り左に切り、少女との衝突をかろうじて避けた。
「いきなり飛び出しちゃ危ないだろ!」
烈人はフェイスマスク部分を上げながら少女に向かって言った。
だが次の瞬間、烈人は飛び出してきた少女が誰なのかに気づいた。
「てめぇ……久々野渚……!!」
「オーッス! 垂水烈人。前は不覚を取ったが今度はそうはいかない。ま、うちの力と、佐奈とかなえの恨みをお前にぶつけてぶっ倒すまでなんだけどさ」
渚は烈人への敵意をこめたまなざしをしてそう言うと、握りしめた右の拳に唇を寄せてゲヘナへの『変進』の構えを取った。
それを見た烈人も、ブレイズストライカーから降りるとブレイズチャージャーを起動させた。そして左手にエヴォルチェンジ・メモリカードを、右手にエクスレイヤー・メモリカードを持って両手を前に突き出した。
二人は同時に「変進!!」と叫び、烈人はブレイゾンブラストに、渚はゲヘナに『変進』した。
ブレイゾンブラストはいつものように左肩を前方向に一回転させてコキリと肩を鳴らし、エクスレイヤーの切っ先をゲヘナに向けて言った。
「闇より生まれし邪悪な生命、熱き炎で焼き払う。……覚悟はいいな? 殺戮者!!」
「このセリフを吐くのはこれで最後だぜ。垂水烈人!!」
ゲヘナはすかさずそう言い返すと、左右の中指をベルトのバックル部分に触れさせた。
次の瞬間、ゲヘナの目の前に、彼女の身長ほどの長さの剣が出現した。
「佐奈とかなえの恨みとうちの怒りのこもったソード・オブ・ルシファーでお前を真っ二つに斬ってやる。……我の中で燃える復讐の業火、我の前で輝く光を滅ぼす」
ゲヘナはそう言うと、ブレイゾンブラストに向かって突っ込み、ソード・オブ・ルシファーを振り下ろした。
ブレイゾンブラストはその一撃をエクスレイヤーで受け止めると、エクスレイヤーを横に振るってソード・オブ・ルシファーをなぎ払った。
しかし、ゲヘナは自分の身長ほどの長さを持つソード・オブ・ルシファーを自分の武器として完全に使いこなしており、何度となくブレイゾンブラストに向かって斬りかかってくる。
(「垂水烈人。敵を侮るなよ。敵はあの長剣を十二分に使いこなしている」)
エクスレイヤーの警告が烈人の脳裏に響いた。
「ああ。もちろんだ」
ブレイゾンブラストはそう言うと、バックステップしてゲヘナから距離を取った。
北西エリアZ-77地区にあるつぶれたバー――AHDUのアジトに、さくらを始め、AHDUのメンバーが戻ってきた。
そしてAHDUのメンバーのひとりが、「東西ひとみさんを東西南北新科学研究所へ無事お送りしました」とさくらに報告した。
「ありがとうございます」
さくらはそう言うと、『スタースプラッシュ』と舞子のテンプテーションに堕ちていた殉義によってガレキの山にさせられたアジトの中心部に視線を送った。
「……しかしひどくやられたもんだな。片付けるのも一苦労だ」
AHDUの現場責任者ともいうべき存在である、『パイレーツデス』の勝川はそうつぶやいた。
それに対してさくらは優しく返した。
「でも、きちんと片付けないといけませんよ」
「その通りですね。ここは俺たちの場所なんだから」
勝川はさくらに向かってそう言うと、場にいた一同に向かって「これからアジトの片づけをするぞ」と宣言した。
だが、勝川がそう言った次の瞬間、入口の扉が開いて、よれよれのスーツを着た中年の男が中に入ってきた。
その男はAHDUのメンバーに向かって言い放った。
「ここを片付ける必要はない。なぜなら、お前たちはこの場で全員死ぬのだからな」
「あなたは……ヒルーダのチーフプロデューサー、下里太地!」
さくらはよれよれのスーツを着た男に向かって言った。
太地は薄ら笑いを浮かべながら言葉を続けた。
「さくら。お前が俺のことを覚えていてくれたのは光栄だな。だが、お前にはずいぶんと手を焼かされたぞ。お前がブログに書いた『デス』の存在に関する一件。ヒルーダ追放後に出そうとした暴露本。そして個人事務所の設立。……お前のおかげでヒルーダがどれだけの損失を受けたか、俺がどれだけ苦労したか、お前にはわかるまい。俺は首をくくる寸前まで追い込まれたんだぞ! だが、天才デイトレーダー・三輪明輝良、いや、『デス』の生みの親である屍怨呪博士のお力で、ヒルーダは立ち直った。そして俺も『デス』の力を授かった。……今こそ、積年の恨みを晴らすときだ! 見せてやる! 『デス』となった俺の真の力を!!」
太地は絶叫とともに心を暗い闇で包み込んだ。
そして数秒後、太地の立っていた場所には、チェスのルークの駒に似た、硬いボディを持つ『デス』――ルークデス――が出現していた。
そしてルークデスの背後には、数十体のコモンデスの姿が見えていた。
それを見たさくらは、厳しい表情でつぶやいた。
「私たちも本気にならないといけないようね」
そしてさくらは心を黒い闇で覆い、忍者のような姿の『クノイチデス』に姿を変えた。
クノイチデスとなったさくらは背中の忍者刀を抜くと、メンバーに向かって指示を出した。
「下里太地は私が対応します。他の皆さんは下里の向こうにいるコモンデスを攻撃して下さい。……それから、垂水さんと藤原さんに援軍をお願いして下さい」
その頃、殉義は東西南北新科学研究所に戻っていたひとみを北西エリアのショッピングモールに連れ出し、二人並んでウィンドウショッピングをしていた。
ひとみはうれしそうな笑みを浮かべながら殉義と腕を組んでいる。
殉義もそんなひとみに向かって笑顔を返していた。
だがそこに、AHDUからの援軍依頼の電話が入った。
殉義は「すぐに行きます」と言って電話を切ると、真剣なまなざしをして、ひとみの目を見据えた。
「ひとみさん。今、AHDUから援軍の依頼がありました。自分は行かなければなりません。ですがその前に、あなたに言っておかなければならないことがひとつあります。それをお伝えするために、今日ひとみさんに付き合っていただいたのです」
いつになく緊張した面持ちの殉義の姿に、ひとみは当惑を覚えながらも、殉義の言葉を聞いた。
「単刀直入に言います。自分はあなたのことを愛しています。……自分と結婚して下さい」
殉義の突然のプロポーズに、ひとみはどぎまぎして何をどうすればいいのかわからなくなった。
だが、殉義の真剣なまなざしの前に、ひとみは今自分が置かれている状況を把握し、返事を返した。
「殉義さんに『結婚して下さい』と言われて、私、どうお返事したらいいのかわかりません。でも、私は殉義さんのことが好きだ、というのは確かです」
殉義は上着のポケットから指輪の入ったケースを取り出した。そして指輪をひとみに向けるようにしてケースを開けた。
「こんなものしかご用意できなかったのですが、受け取っていただけませんか? ……これから自分はAHDUに加勢して『デス』と戦います。この戦いは、『デス』が人類を支配する世界を築こうとする者が勝つか、『デス』と人類との共存を模索していこうとする者が勝つか、という最終決戦です。……もしかしたら、自分はこの戦いで命を落とすかもしれません。だからその前に、自分はひとみさんに自分の思いを伝えたかったのです」
ひとみは殉義の差し出した指輪を左手の薬指にはめると、殉義の目を見据えて言った。
「勝って。そして私のところに帰ってきて。この指輪に誓って。約束だよ!」
「わかりました」
殉義はそう言うとひとみを抱きしめ、その唇をひとみの唇に重ねた。
二人にとっては永遠に近い時間だったといってもおかしくない一瞬が過ぎた後、殉義はひとみから離れると、敬礼をして「じゃあ、行ってきます」と言った。そしてひとみに背を向けると、AHDUのアジトに向かって駆け出していった。
ブレイゾンブラストとゲヘナの死闘は膠着状態にあった。
剣さばき、身のこなし、イクサバイバーの性能、そのすべてにわたってブレイゾンブラストとゲヘナの能力はほぼ互角であり、なかなか決着がつかない。
そんな状況を打破するべく、ゲヘナはブレイゾンブラストから意図的に距離を取った。
「佐奈とかなえの思いのこもったこの一撃でお前を倒す!!」
ゲヘナはそう叫ぶと、ソード・オブ・ルシファーの切っ先を天に向けるようにして構えた。
そして、ゲヘナは
「ダークネスカリバー!!」
の絶叫とともに、ソード・オブ・ルシファーを大地に向かって一気に振り下ろした。
振り下ろされた剣から放たれた衝撃波は大地を裂き、裂けた大地からは紫色の炎が吹き上がる。
大地を切り裂き吹き上がる炎はプレイゾンブラストに向かって一直線に突き進み、そして噴火するかのように激しい炎がブレイゾンブラストの足元から吹き上がった。
「ぐわぁぁぁぁ!!」
ブレイゾンブラストはこの一撃で大きなダメージを受けた。
ブレイゾンブラストはエクスレイヤーを杖代わりにして地面に突き刺すと、肩で息をしながら地面に片膝をついた。
そんなブレイゾンブラストに向かって、ゲヘナの勝ち誇る声が響く。
「どうだ! ダークネスカリバーを喰らった感想は! ……だけど一発だけじゃ終わらないぞ。お前が死ぬまで何発でも叩き込んでやる!!」
ゲヘナはここが勝負どころだと、再びソード・オブ・ルシファーを大上段に構え、ダークネスカリバーを放つ構えに入っている。
一方、ブレイゾンブラストはまだ闘う気力を失ってはいなかった。
「……俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ。こんなところでくたばってたまるか!!」
ブレイゾンブラストは自分に喝を入れるべくそう叫ぶと、エクスレイヤーの柄のトリガースイッチを1回押した。
「Single Blast!」
「シャイニング・ノヴァ!」
閃光と化したブレイゾンブラストは、ゲヘナが二発目のダークネスカリバーを放つよりも早く、ゲヘナの体を完璧に打ち抜いていた。
そしてブレイゾンブラストが後ろを振り返ると、ゲヘナは胸のあたりから白い煙を噴き出しつつ、ソード・オブ・ルシファーを手放し、両膝を地面についていた。
ブレイゾンブラストは追撃を打ち込むべくエクスレイヤーを振り下ろした。
しかし、ゲヘナはブレイゾンブラストの方へ向き直りながら立ち上がると、ゲヘナトンファーでこの一撃を受け止め、蹴りを入れてブレイゾンブラストを数歩後ずさりさせた。そしてすかさずヘヴン2ヘルをブレイゾンブラストに叩き込んだ。
「炎滅」
ゲヘナはブレイゾンブラストに向かって死の宣告を放った。
しかし、ブレイゾンブラストは死力を振り絞って紫の炎をかき消すと、エクスレイヤーを振り上げながらゲヘナに向かって突っ込んできた。
「俺はお前に負けるわけにはいかないんだ!!」
ゲヘナは足元のソード・オブ・ルシファーを再び手に取ると、
「うちもてめぇなんかに負けるわけにはいかない!」
と叫びながらブレイゾンブラストに向かって突っ込んでいった。
そして再び、二体のイクサバイバーは剣を相手に向かって振り下ろした。
舞子はひとりで東西南北新科学研究所へ向かっていた。
「このあたりもずいぶん変わったわね」
感慨にも似た感情を抱きつつも、舞子は東西南北新科学研究所の入口に立った。
そして舞子は呼び鈴を鳴らした。
玄関を開けて出てきた東西博士は、舞子の姿に驚きの表情を浮かべた。
「ま……舞子さん!」
「お久しぶりです。東西博士」
舞子はそう言って東西博士に一礼した。
だがすぐに舞子は心を闇に包むと、
「……あなたは私たちの野望達成のためには消えてもらわなければならない存在です」
と言うや否や、いきなり両手で東西博士の首を絞めてきた。
呼吸が苦しくなっていく中、東西博士は舞子に問いかけた。
「な……何のつもりじゃ? 舞子さん」
「鹿羽根博士の作り出した『デス』を悪しき存在だと認識し、『デス』を狩る者・イクサバイバーを作り上げたあなたは、私たちにとっては許されざる敵なのよ」
「なぜじゃ。なぜ鹿羽根博士に手を貸す。……もちろん、舞子さんが鹿羽根博士を愛していたということはわしも知っておる。だが、理由はそれだけか?」
「あの人は偉大よ。『完璧な人間はいない』というけど、鹿羽根博士は完璧な人なの。強く、優しく、賢く、ルックスも優れている。私はそんな鹿羽根博士に恋をした。……その結果として、『女帝』の血を受け継ぐ最初の『デス』である『ヒューマンデス』が生まれた。この瞬間、私の鹿羽根博士への恋は成就したの」
「じゃあどうして鹿羽根博士は舞子さんの前から姿を消したのじゃ!?」
「姿を消したんじゃないわ。最初からそういうことになっていたの。鹿羽根博士は研究のための資金を蓄えるためにデイトレーダー『三輪明輝良』を名乗り、『デス』のための理想郷を作るために姿を消していたフリをしていたの。そして7年経って、三輪明輝良――鹿羽根博士は『デス』のための理想郷を作り出すのに必要かつ十分な資金を蓄え、行動を起こし始めたのよ」
「ならばどうして君は烈人君を垂水博士に託して烈人君の前から姿を消したのじゃ!!? 『ヒューマンデス』、いや、烈人君は君が産んだ子じゃろ!」
東西博士の厳しく鋭い問いかけに、東西博士の首を絞めていた舞子の手の力が緩んだ。
「垂水烈人が……『ヒューマンデス』で……私の産んだ子……!!?」
そして舞子の脳裏に、幼い頃の烈人の姿が浮かんでは消えた。
だがそれは、屍博士によって封印されていた記憶を呼び覚ますことであり、舞子の肉体的にも精神的にも苦痛をともなうものであった。
「な……なんだというの!? この感覚は!!」
舞子は頭を抱え、その場に膝をついた。
東西博士は、頭を抱えて苦悶の表情を浮かべる舞子に向かって語りかけるかのように言った。
「舞子さん。君は『母親』として、『息子』である烈人君を愛しているのじゃよ。だから、烈人君を鹿羽根博士の研究材料にはさせまいとして、心を鬼にして烈人君を垂水博士に託したのじゃろう。違わないかね?」
烈人の記憶を取り戻した舞子は、その場に膝をついたままで答えた。
「私も烈人と別れるのはつらかった。でも、鹿羽根博士から7年ぶりに来た手紙に、私の心は大きく揺らぎました。だけど、烈人は私の子であると同時に、『お父さんの子』でもあります。……『お父さんの子』である烈人を鹿羽根博士のところへ連れていくのには抵抗がありました」
「そうじゃろう。君は『デス』の『女帝』。鹿羽根博士にとっては、なくてはならない最も重要な駒なのじゃ。そして『女帝』の血を受け継ぐ烈人君は、うってつけの研究材料だったのじゃ」
「じゃあ……鹿羽根博士は最初から私や烈人を研究材料としか見ていなかったっていうんですか……?」
「それはわしにはわからん。ただ、鹿羽根博士と君との子である烈人君を『自分の息子』として育ててきた垂水博士の気持ちは本物じゃよ。……垂水博士は本当に優しい人じゃ。わしだったら、ひとみが結婚もしておらんのに妊娠させられたと聞いたら、ひとみを勘当し、相手の男に激しい憎悪を覚えるじゃろう。しかし、垂水博士は、内心ではわしと同じことを思っていたのかもしれんが、少なくともそれをまったく表には出さなかった。そして愛娘である君と、君の産んだ子である烈人君を愛し、慈しんだ。垂水博士にとっては、君は自分の血を分けた娘であり、烈人君は直接血はつながっていないけれども、かけがえのない大切な『息子』だったのじゃよ」
「お父さん……」
そうつぶやいた舞子の心の闇は完全に消え、その目からは涙があふれ出てきた。
愛していた人、信じていた人の本当の狙いは、自分という存在すべてを、そしてその人との間に生まれた子どもをその人の研究に捧げることだったの?
どうしてお父さんは他の男との子である烈人を本当の息子のように育ててくれたの?
……そう。烈人はお父さんにとっての『息子』であったのと同時に、かけがえのない『私の息子』
――。
舞子は急にガバッと立ち上がった。
「ダメ! 烈人と渚は闘ってはいけない!!」
舞子はそう叫ぶと、目を閉じて精神を集中させ、『女帝』の遺伝子を受け継ぐ者――垂水烈人と久々野渚――の居場所を探した。
そして数秒後、舞子は目を見開いた。そして東西博士に向かって
「『ごめんなさい』。今はそれ以外に言葉が思いつきません。……これから私は烈人と、私のDNAを受け継いだもうひとりの子、『Y.E.S-55』の久々野渚との闘いを止めてきます!!」
と言い残すと、その場から駆け出していった。
AHDUのアジトで繰り広げられている戦いは、ルークデスである太地の率いるヒルーダ側が優位に立っていた。
「垂水さんと藤原さんに連絡はしたの!?」
さくらの厳しい声に、AHDUのメンバーが答えた。
「藤原さんとは連絡がつきました。こっちへ来てくれるそうです。しかし、垂水さんとは連絡がつきません」
「垂水さんとは連絡がつかない? それってどういうこと!?」
さくらの問いかけに太地が答えた。
「垂水烈人、いや、ブレイゾンは今頃、渚の『変進』したイクサバイバー・ゲヘナと闘っている最中だろう。……渚の垂水烈人に対する憎しみは尋常ではないからな」
そこへ、一台の青いバイクが窓を突き破って突っ込んできた。
そのバイクはルークデスを数メートル先に跳ね飛ばした。
そして青いバイクに乗ってきたライダーはヘルメットを脱いだ。
「藤原さん!!」
期せずしてAHDUの面々から期待をこめた声があがった。
殉義はすかさず狼虎ロワイアルに『変進』すると、エースランザーの先をルークデスに向けて言った。
「『デス』は法では裁けぬ存在。だから自分がお前に判決を言い渡す。……死刑だ」
双方ともにブラストエンド級の強烈な技を喰らいながらも、ブレイゾンブラストとゲヘナとの死闘は今も続いていた。
お互い、肩で息をしながらも相手に対する憎しみをむき出しにして斬りかかっていく。
そして何度目のつばぜり合いになるだろうか。エクスレイヤーの刃とソード・オブ・ルシファーの刃とがギリギリと金属音をあげる中、どこからともなく悲鳴にも似た女性の声がブレイゾンブラストとゲヘナの耳に響いてきた。
「……やめなさい!! 烈人! 渚! あなたたちは闘ってはいけない。二人とも私の大切な『子ども』なのよ!!」
魂の奥底まで響き渡ったその女性の声に、ブレイゾンブラストとゲヘナはお互いに間合を開け、声の主の方へ顔を向けた。
次の瞬間、二人は絶句した。
声の主は、烈人が探し求めていた姉、いや、母であり、渚の所属するアイドルグループ『ヒルーダ』の『女帝』・朝霧舞子(垂水舞子)だったのである。
舞子は二人の方へ近づきながら二人に呼びかけた。
「烈人。渚。『変進』を解きなさい。あなたたちは兄妹なの」
ブレイゾンブラストとゲヘナは舞子の言うがままに『変進』を解いたが、烈人と渚が兄妹だ、という舞子の言葉については半信半疑の状態であった。
舞子は二人の疑問を解くべく、さらに言葉を続けていた。
「烈人の左肩、渚の右手の甲にある『死』という文字に似たアザ。私のうなじにもあるそのアザは、あなたたちが私の子どもであることを示す証拠なのよ」
舞子はそう言うと、烈人と渚に背を向け、髪をかき上げた。
舞子のうなじには、『死』という文字に似たアザがあった。
烈人は横目で渚の右手の甲を見た。
普段はばんそうこうで隠されているが、そこにははっきりと『死』という文字に似たアザがあった。
渚は、烈人の左肩に『死』という文字に似たアザがあることを知っている。
そして渚は自分の右手の甲に目をやった。
普段ばんそうこうで隠している白い肌に、烈人の左肩にあるのと同じ、『死』という文字に似たアザがある。
「母さん……」
「ママ……」
烈人と渚は同時に声をあげた。
舞子は子どもたちに向かって語りかける。
「あなたたちは屍怨呪の研究材料となるべく生み出されたの。……私が屍怨呪の本性を知らなかったために、あの男にだまされてあの男を愛したために、あなたたちのような子どもを生み出してしまったの。ごめんなさい……!!」
目に涙を浮かべ、二人に許しを乞う舞子に向かって、烈人と渚は次々に声をあげた。
「悪いのは母さんじゃない。母さんの思いにつけ込んだ屍怨呪だ」
「うち……親なんかいないって思ってたんだけど、うちにもママがいたんだね」
舞子は二人に問いかけた。
「こんな私でも『母』って呼んでくれるの? 烈人。渚」
すぐさま二人は返事をした。
「当たり前じゃないか」
「ママはママだよ」
そして烈人と渚の二人は目に涙を浮かべ、舞子の胸に飛び込んだ。
「ずっと……ずっと会いたいと思ってたんだよ! 母さん!!」
「ママ。うちの……ママ!!」
舞子は胸に飛び込んできた子どもたちを優しく抱きしめた。
「烈人。渚。……二人とも大好きよ!!!」
三人はしばらくの間、親子の再会の喜びにひたり、大声をあげて泣いた。
だが、渚は先に舞子の胸から離れると、烈人を厳しい視線でにらみつけた。
「垂水烈人! お前はうちのかけがえのない仲間だった佐奈とかなえを殺した仇だ!! お前だけは絶対に許せねぇ!!」
渚の魂からの叫びに対して、烈人は渚がまったく想像だにしなかった行動に出た。
「知らなかったこととはいえ、俺は『妹』であるお前の大切な仲間を手にかけた。……謝って済むような話じゃないことはわかってる。だけど、俺にはこれしか言葉が浮かばない。……すまなかった」
舞子の胸から離れた烈人は、両膝を地面につけて渚の前で深々と頭を下げた。
烈人が自分の非を認めて謝るというまったく想定外の行動に出たことに、渚は当惑を覚えた。
「ま……待てよ。……そんなこと言われても、佐奈とかなえはもう戻ってこないんだぞ……」
烈人は渚の前で深々と頭を下げたまま動かない。
渚の心と体がガタガタと揺れ始めた。
「や……やめろ……。やめてくれよ! ……『兄貴』!!」
渚は涙を流しながらそう叫ぶと、自分も両膝を地面につけ、深々と頭を下げている烈人に向かって飛びついた。
「渚。お前は俺のことを『兄』って呼んでくれるのか?」
「……兄貴は兄貴なんだからさ、ま、うちが兄貴を『兄貴』と呼ぶのは当然のことなんだけどさ」
烈人は妹を抱きしめ、その髪をなでながら言った。
「ありがとう。渚。かけがえのない俺の『妹』……」
その場に舞子も近づいてきた。彼女も膝を曲げ、子どもたちと同じ高さの目線で、
「烈人。渚。愛しているわ」
と言った。
「母さん……」
「ママ……」
烈人と渚も舞子の呼びかけに応え、三人は再び声をあげて泣いた。
そして舞子は、涙声で持ち歌『ララバイ』を口ずさんだ。
――あなたはいつも私を守ってくれる
たとえその身がどんなに傷つこうとも
あなたはいつも私に笑顔を見せる
たとえ心がどんなに苦しくても
私ができるあなたへの感謝
それを形にするわ
今はゆっくりお休みなさい
私の胸の中で
幼子のように――
どのくらいの時間が経過しただろうか。
舞子はゆっくりと立ち上がった。
「屍怨呪はサキバサラ中央チャンネルから人間の闇の部分を引き出す音波を流し、サキバサラの住人すべてを一気に『デス』化させようとしている。……私はそれを止めなければならない。それはヒルーダの『女帝』である私の責任だから」
舞子のその言葉に、烈人と渚も反応した。
「母さん一人だけを行かせるわけにはいかない。俺は『デス』を狩る者・イクサバイバーだからな」
「ママや兄貴ばっかりにいいカッコさせやしないよ。ま、今のうちにとって、敵は屍怨呪なんだけどさ」
烈人はブレイズストライカーの後部に舞子と渚を乗せた。
「三人乗りは無茶かもしれないけど我慢してくれ。母さん。渚」
そしてブレイズストライカーは屍怨呪のいるサキバサラ中央チャンネルへ向かって走り出したのであった。




