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第19話 ~真実(Blood relationship of Retsuto)~

 サキバサラの街を我が物にせんとするヒルーダに対して戦いを挑む、反ヒルーダ『デス』同盟・AHDU(アーデュ)。そのアジトは、AHDUメンバーの奮闘とブレイゾンブラストの活躍によって守られた。

「垂水さん。藤原さん。お二人にお願いがあります」

AHDUを指揮する元ヒルーダの紫翠さくらが、烈人と殉義に向かって話しかけてきた。

「ヒルーダを壊滅させるまで、私たちにお力を貸していただけませんでしょうか? ……もちろん、私たちは人間を食料として捕食することはしませんし、もしそのような事態が発生した場合は問答無用でその者を『狩って』いただいて構いません。サキバサラ警察署『連続猟奇殺人事件対策班』のバックアップとイクサバイバーであるお二人の力添えがあれば、必ずヒルーダを倒すことができます。どうかお願いします。私たちに力を貸して下さい」

「自分は一向に構いません。いや、自分でよければ、皆さんとともに戦わせていただければ、と思います。……朝霧舞子に操られていたとはいえ、自分は皆さんの仲間を『狩って』しまいました。そんな自分に向かって『一緒に戦おう』と言って下さって、本当にありがとうございます」

ひとみの肩を抱きながら、殉義はさくらに向かってそう言った。

 だが、烈人は首を縦には振らなかった。

「ヒルーダであろうがなかろうが、『デス』は『デス』だ。鹿羽根遠慈とともに失踪した姉さんを取り戻すことを邪魔する奴は、ヒルーダだろうがAHDUだろうが関係なく『狩る』」

「そのことなんですが。垂水さん」

さくらは烈人に向かって話しかけた。

「なんだよ、急に改まって」

烈人はさくらに言い返した。

 さくらは真剣なまなざしをして、烈人に驚愕の事実を伝えた。

「あなたが探し求めている垂水舞子はあなたの『姉』ではありません。……ヒルーダの頂点に立つ朝霧舞子。その本名は垂水舞子、垂水さんの『母親』です。それから、垂水さんの父親は垂水激ではありません。垂水博士や東西博士と一緒に研究をしていた鹿羽根遠慈、いや、ヒルーダの真の支配者・屍怨呪こそ、垂水さんの本当の父親です」

 烈人は今のさくらの言葉をまったく理解できず、聞き直した。

「え? 朝霧舞子の本名は垂水舞子? 朝霧舞子、いや、垂水舞子は俺の姉さんじゃなくて母さん?? 俺の父さんは垂水激ではなく鹿羽根遠慈???」

「そうです」

さくらはきっぱりと言い切った。

 平静を装いながら烈人はさくらに問いただした。

「……なんでさくらさんがそんなこと知ってるんだよ!?」

 さくらはきっぱりと答えた。

「垂水さん。あなたの体のどこかに、『死』という文字のようなアザがあるでしょ。そのアザこそ、あなたが鹿羽根遠慈と垂水舞子との間に生まれた子であり、生まれながらの『デス』であるという証拠なのよ」

 さくらの今の発言に、烈人は激しい衝撃を覚えた。

(「……俺の体を見たことのないさくらさんが、どうして俺の体に『死』という文字のようなアザがあることを知ってるんだ!!?」)

 烈人の頭の中で混乱の渦が巻き起こった。


 朝霧舞子の本名は垂水舞子?

 垂水舞子って、俺の姉さんだろ? 違うのか? 俺の母さんなのか??

 垂水激って、俺の父さんだろ? 違うのか? 俺の父さんは鹿羽根遠慈なのか??

 俺は『人間』だろ?? 『デス』じゃないだろ???


 烈人は語調を荒くしてさくらに問いかけた。

「……するってぇとナニか。俺は今まで父さんや東西博士から嘘を聞かされていたわけか!!?」

「そんなことないってば! レッドは……」

ひとみは烈人に向かって何か言いかけた。

 だが、そんなひとみの言葉をさえぎるようにしてさくらは答えた。

「東西博士に聞いてごらんなさい。私の言っていることが間違いではないことがわかるはずよ」

 烈人はいてもたってもいられない、という感じで入口のドアを開け、東西南北新科学研究所へ戻っていった。

 烈人の開けたドアが完全に閉じた瞬間、殉義とひとみはさくらに問いただした。

「……ヒルーダ打倒を果たすためには、ブレイゾンは必要不可欠な戦力のはず。なのに、どうしてこのタイミングで烈人君に出自のことを話したのですか? あなたのおっしゃることが事実であれば、烈人君は朝霧舞子のところへ走り、AHDUに刃を向けてくるかもしれませんよ。朝霧舞子のテンプテーションに堕ちた自分のように」

「そうだよ。あんなこと言われて、レッドは混乱してるよ」

 さくらは毅然とした態度で答えた。

「これからの戦いは今まで以上に熾烈なものとなります。その戦いに勝利するためには、同志の間に『秘密』があってはいけません。『秘密』が疑心暗鬼を生み、組織を崩壊させてしまうからです。……垂水さんは今まで自分の出自に関する事実を聞かされていなかったのでしょう。ですが、今まで隠されていた秘密をすべて明らかにした上で、実の両親と戦うことを承知の上で、それでもなおヒルーダを倒すんだ、という心構えを垂水さんには持ってほしいのです。……私の言葉のせいで、垂水さんは私たちの『敵』になるかもしれません。しかし、私は垂水さんのことを信じています。ヒルーダとAHDU、倒さなければならないのはどちらなのか、垂水さんはわかっているはずです」

 さくらはそう言うと、持ち歌であった『Believe』を歌い始めた。


――私の思いはあなたに伝えた

「好きよ」とちゃんとあなたに伝えた

 だけどあなたは黙ってるだけ

 私のことなど無視してる


 それでも I believe you

 私の思いへのあなたの返事

 そう、だから I wait you

 あなたの思いを私は信じてる――


「博士。ホントのことを教えて下さい。……ヒルーダの朝霧舞子、いや、垂水舞子は俺の『姉さん』じゃなくて俺の『母さん』なんですか!? 俺の父さんは垂水激じゃなくて鹿羽根遠慈、いや、屍怨呪なんですか!? 俺は『人間』じゃなくて『デス』なんですか!!?」

東西南北新科学研究所に戻ってきた烈人は、飛びつかんばかりの勢いで東西博士に問いかけた。

 東西博士は重い口調で烈人に尋ねた。

「……その話、誰から聞いたんじゃ?」

「紫翠さくらさんからです。彼女は俺の体に『死』という文字のようなアザがあることも知っていました。……博士。ホントのことを教えて下さい。彼女の言ったことは事実なんですか!!?」

(「これ以上隠し通すことは無理じゃな……」)

東西博士はひとつため息をつくと、烈人に向かってきっぱりと言い切った。

「彼女の言ったことはすべて事実じゃ。……ヒルーダの『女帝エンプレス』・朝霧舞子の本名は垂水舞子。烈人君の母親じゃ。また、烈人君の実の父親は垂水博士ではなく鹿羽根博士じゃ。……烈人君。君は鹿羽根博士と舞子さんとの間に生まれた『ヒューマンデス』なのじゃ」

 東西博士の言葉に、烈人は自分の信じていたもののすべてが音を立てて崩れていくのを感じていた。

 そして彼は幼子のように目に涙を浮かべると、東西博士の胸倉をつかみかからんばかりにして問いただした。

「じゃあ博士は、そして父さん、いや、垂水激は、今までずっと俺に嘘をつき通していたんですよね!? ……どうしてですか。どうして今まで本当のことを話してくれなかったんですか!!? 俺をイクサバイバーの実験台にするためですか。なぜなんですか。なぜ俺に本当のことを話してくれなかったんですか!!?」

「垂水博士やわしは烈人君のことを思って……」

「嘘だ!!」

東西博士の言葉を烈人は大声をあげてさえぎった。

「鹿羽根博士と姉さん、いや、母さん――垂水舞子との間に生まれた、生まれながらの『デス』である俺を、あんたたちの研究の集大成であるイクサバイバーの装着者にするために、あんたや垂水激は俺に嘘をついて、今日まで俺をだましてきたんだ……!!」

 烈人が天を仰ぎ、泣き叫びながらその心が黒い闇に覆われていくのにしたがって、烈人の肌の色が『デス』の皮膚の色である灰色へと変わりつつあった。

「烈人君! 心に黒い闇を持ってはならん」

 東西博士は烈人の『デス』化を止めようとするが、烈人はもはや聞く耳を持たなかった。

「俺はもう、何も信じねぇ!!」

 烈人はそう絶叫すると、灰色の肌の姿のまま研究所から飛び出していった。

 烈人が出て行った玄関を見据えながら、東西博士はその場にがっくりと膝をつき、懺悔の告白をするかのようにつぶやいた。

「わしは烈人君を……『ヒューマンデス』を覚醒させてしまった……。許してくれ。垂水博士」


 その頃、舞子はヒルーダ事務所の中で物思いにふけっていた。

(「『F-Resh!(エフ・レッシュ)』、『マリンブロッサム』、『Y.(ワイ)E.(イー)S-(エス)55(ゴーゴー)』……。私の同志たちはイクサバイバーに倒されていった。……あ、そういえば渚はどうなったのかしら? 屍博士にお任せしていたのだけど」)

 舞子は立ち上がると、明輝良の部屋へ向かった。

 明輝良は部屋でいつものように水割りのグラスを右手でもてあそんでいた。

 そこへ舞子が入ってきた。

「屍博士。渚は今、何をしているんですか?」

 明輝良――屍博士は笑みを浮かべながら立ち上がると、舞子に向かって言った。

「渚はイクサバイバーの力を得た。そして『イクサバイバー・ゲヘナ』として、佐奈とかなえを殺したブレイゾン――垂水烈人に復讐するべく、サキバサラの街の中を動き回っていることだろう」

「渚がイクサバイバーに!?」

舞子は驚きの表情を浮かべながら再び問いかけた。

「渚にブレイゾンを、垂水烈人を倒す力を与えて下さると屍博士がおっしゃったから、私は渚を博士にお任せしたのです。……博士と私の血を引く『デス』である渚をイクサバイバーにした、ということは、東西南北と垂水激の開発したイクサバイバーの方が私たち『デス』よりも『進化』した存在なのですか!?」

「いや。それは違うよ」

屍博士は静かに答えた。

「イクサバイバーはしょせん戦闘用の強化スーツ。人類の『進化』とは関係のない次元の産物だ。だが『デス』は違う。人間の持つ闇の部分を増幅させることでさらなる力を得た、人類の進化形態だよ。……舞子。今日の君はなんかいつもの君らしくないぞ」

屍博士はそう言いながら、水割りのグラスを舞子の前に差し出した。

 舞子はいつものように小指を噛んで、傷口からにじみ出てきた血を一滴、水割りに垂らした。

 屍博士は舞子の血――生命いのちのエキス――の入った水割りを一気に飲み干して舞子に言った。

「心配するな。渚は私と舞子の『娘』。地上最強の存在となったわが子は、いまいましいブレイゾンを倒し、サキバサラを『デス』が支配する街にするために活躍してくれるはずだ」


 東西南北新科学研究所を飛び出した烈人は、ケンカしたくてうずうずしているような連中を見かけると、自らケンカを仕掛け、立ち上がれなくなるまで相手をボコボコに打ちのめした。

 しかし、そんなことでは烈人の心の闇は晴れなかった。

「もっと強ぇ奴は、もっと叩きがいのある奴はいねぇのかよ!?」

「……じゃあ、うちならどうだい?」

「なんだとっ!?」

 何者かの声に烈人が振り向くと、そこには赤い髪をして左耳にピアスを三つつけ、白いTシャツに赤いベスト、紫のバックルのついたベルト、スパッツにスニーカーといういでたちの、右の手の甲にばんそうこうを貼った少女の姿があった。

「オーッス! やっと見つけたぜ。垂水烈人」

「てめぇは……久々野渚……!!」

「ま、うちはてめぇを倒すために、屍博士のところで特訓を積んで、イクサバイバーとなる力を得たんだけどさ。……見せてやるよ。うちの新しい力を」

 渚は握った右の拳にキスすると、右前腕部が地面とほぼ垂直になるかのように構え、左手は拳を握って肘をわき腹につけ、拳の手の甲側を下にして構えた。

「……変進エヴォルチェンジ

 渚がそう言った瞬間、彼女の全身は紫色の炎に包まれた。彼女の右手の甲のばんそうこうは燃え尽き、ばんそうこうで隠していた『死』という文字に似たアザがあらわになる。

 そして数秒後、黒のダイバースーツに紫色のアーマーを装着し、腰にトンファーを提げた、タカの顔をイメージしたマスクの戦士が現れた。

「見たか! これがうちの新しい力、『イクサバイバー・ゲヘナ』だ!!」

「『イクサバイバー・ゲヘナ』!? 渚がイクサバイバーに『変進』したっていうのか!!?」

イクサバイバーへと『変進』を遂げた渚の姿を目の当たりにして、烈人は思わず驚きの声を上げていた。

「垂水烈人。お前も早くブレイゾンに『変進』しな」

 烈人は(ゲヘナ)に促され、ブレイズチャージャーを起動させた。

「悪いが今日の俺は虫の居所が悪いんだ。前口上抜きでとっとと倒させてもらうぞ!!」

 烈人はブレイゾンブラストへと『変進』するや否や、ゲヘナに向かって猛然とダッシュし、エクスレイヤーをゲヘナに向かって振り下ろした。

 だが、ゲヘナは剣筋を見切り、ゲヘナトンファーをクロスさせてブレイゾンブラストの攻撃をがっちりと受け止めた。

「なにっ!!?」

 ブレイゾンブラストの心の中に衝撃が走った。エクスレイヤーから繰り出される攻撃は一撃必殺であり、真正面からそれを防御し防ぎきるなどということは、ブレイゾンブラストの中では「ありえない」事態なのだ。

 驚きを隠せないブレイゾンブラストに向かってゲヘナは言った。

「うちがイクサバイバーになったのはお前を倒すためだ。そしてお前の弱点は既に見切っている!!」

 ゲヘナはゲヘナトンファーを巧みに操ってエクスレイヤーをブレイゾンブラストの手から引き離した。

 持ち主を失ったエクスレイヤーは宙に舞い、ブレイゾンブラストから十数メートル離れた地面に落ちた。

 次の瞬間、ゲヘナの眼光が獲物を捕らえようとするタカの目のように鋭く光った。

「お前の強さの源はエクスレイヤー。……エクスレイヤーを持っていないお前なんか、うちの敵じゃない!!」

 その言葉通りに、ゲヘナはブレイゾンブラストに向かって猛攻撃を浴びせた。

 それに対して、エクスレイヤーを手放したブレイゾンブラストはゲヘナの猛攻をただひたすらガードするばかりだった。


 その頃、殉義とさくらはAHDUの主要メンバーとともに、ブレイゾンブラスト抜きでどうヒルーダと戦っていくかを検討すべく、東西南北新科学研究所にて作戦会議を行っていた。

「『攻撃は最大の防御なり』という言葉があります。現有戦力を一点に集中させて、ヒルーダの事務所のあるサキバサラセントラルビルディングに奇襲を仕掛けるのが得策かと思います」

殉義はAHDUの一同に向かってそう言った。

 しかしそれに対して、AHDUのメンバーの中から反対意見が出た。

「ヒルーダはその戦力を大幅に失ったとはいえ、『女帝』朝霧舞子、そしてヒルーダのデビュー当時から常に舞子と一緒だった『Maximum(マキシマム) Heart(ハート)』は健在です。彼女たち三人の戦闘能力は、今の我々を上回っているかと思われます。我々の戦力を一点に集中させるということは、言い換えれば、一点に集中させた我々の戦力が敵の戦力よりも劣る場合、絶対的な敗北を帰すことにもなりかねません。……今はゲリラ戦で相手を分断、疲弊させることの方が重要なのではないでしょうか」

 ヒルーダとAHDU、この二大勢力の天下分け目の戦いに臨まんとしているAHDUの作戦会議は白熱化していた。

 だがそこに、その議論の熱を一気に冷ます、いや、その議論の熱よりもはるかに熱い情報が伝えられた。

 二体のイクサバイバーが交戦中だというのだ。

「そんなバカな! イクサバイバーは烈人君と自分の二人しかいないはず。……一体は烈人君のはずだけど、もう一体は誰なんでしょうか!!?」

殉義は驚きの声をあげた。

 AHDUの作戦会議は中止された。そして殉義はシリウスライナーで、さくらを筆頭とするAHDUのメンバーはそれぞれ独自に、二体のイクサバイバーが闘っている現場へと向かった。


 ゲヘナの攻撃は熾烈を極めていた。

 ヒルーダ研修生(サテライト)時代からずっと一緒だった佐奈やかなえの分の怒りを込めて、ゲヘナはゲヘナトンファーでブレイゾンブラストに集中攻撃を浴びせていた。

 しかも、ゲヘナはブレイゾンブラストをエクスレイヤーから引き離す方向へと攻め立てている。

(「このままじゃ俺の体がもたない。なんとかしないと」)

 ブレイゾンブラストはトルネードバーニングを放ってゲヘナを牽制し、その隙に地面に落ちているエクスレイヤーに向かって猛ダッシュで駆け出していった。

「させるかよ!!」

 ゲヘナは膝を曲げて重心を低くし、ゲヘナトンファーを持った両手をタカの翼のように広げると、逆三角形をしているベルトのバックルに右の親指で触れた。

「Blast End!!」

 ブレイゾンブラストがエクスレイヤーをつかもうとしたその瞬間、ブレイゾンブラストはゲヘナの放った光によって動けなくなった。

(「なんだとっ!? う……動けねぇ! あいつもブラストエンドを使うっていうのか!?」)

 ゲヘナはブレイゾンブラストに向かって猛然と突進すると、

「ヘヴン!」

の発声とともに、左手に持ったゲヘナトンファーを下から上へと振り上げてブレイゾンブラストを宙に浮かせた。

 そしてすかさずジャンプしたゲヘナは、

2(トゥ)ヘル!!」

の叫び声とともに、右手に持ったゲヘナトンファーをブレイゾンブラストの喉もとに押し込み、そのまま地面に向かって落下した。

 ブレイゾンブラストは地面に叩きつけられ、その半径5メートル以内の地面が大きくめり込んだ。

 ゲヘナはバックステップしてブレイゾンブラストから離れると、仇敵に向かって死の宣告を下した。

「炎滅」

 ブレイゾンブラストの倒れた地点に紫色の炎が吹き上がった。

(「佐奈。かなえ。あんたたちの仇、垂水烈人は、ま、うちが地獄に叩き込んでやったんだけどさ」)

 ゲヘナは紫の炎を満足げに見つめながら、心の中で佐奈とかなえに呼びかけていた。

 だがそれから数秒後。ゲヘナは違和感を感じ始めていた。

 というのも、紫の炎の向こうに人影らしきものが見えたのである。

 そして紫の炎が徐々に消えていくにつれ、かげろうのようにゆらゆらとしていた人影らしきものはその姿を具体的に現していった。

 赤い髪に灰色の皮膚。上半身は裸で、左肩に『死』という文字に似た血の色のアザがくっきりと浮かび上がっている。

 その人物は首を左に向けて、鋭い視線をゲヘナに送った。

 殉義やAHDUのメンバーが現場に到着した。

 その誰もが、めり込んだ大地の中央に立っている、赤い髪に灰色の皮膚、左肩に『死』という文字に似た血の色のアザを持つ人物の存在に驚きを禁じえなかった。

「……渚。この程度の攻撃でこの俺を、『ヒューマンデス』・垂水烈人を倒せると思っているのか!!?」

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