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第15話 ~狂犬(Evolution, "Rouko ROYALE")~

 烈人がエクスレイヤーを入手し、ブレイゾンブラストへと『変進エヴォルチェンジ』してから数日後。殉義は驚異的な回復力を見せ、サキバサラ中央病院から退院した。

 そして東西南北新科学研究所にて、ブレイゾンブラスト誕生と殉義の退院祝賀会を開くことになった。

「まずは殉義君。退院おめでとう。そして烈人君。イクサバイバーとしてさらなる『進化』を遂げた君の存在は頼もしい限りじゃ」

東西博士は烈人と殉義に向かってそう言った。

「じゃあ、乾杯するよ」

 乾杯の音頭はひとみが取ることになった。

「殉義さんの退院と、レッドが今まで以上に強くなったことをお祝いして……かんぱ」

 だがひとみが「乾杯」と言おうとした瞬間、研究所の呼び鈴が鳴った。

「……ったく誰なんだろう。こんなときに来なくてもいいのに」

ぶつくさ文句を言いながらも、ひとみは「はい。どちら様ですか」と返事をして玄関を開けた。

 玄関には、20代後半から30代半ばくらいの年齢かと思われる女性が立っていた。

「東西南北博士と垂水烈人さんにお話したいことがあるのですが」

女性はそう答えた。

「……失礼ですがどちら様でしょうか?」

 ひとみの問いかけに、女性は答えた。

「元ヒルーダの紫翠しすいさくらと申します」

 次の瞬間、ひとみは「えっ……」と声をあげ、体が硬直したかのようになった。

 だがすぐに、ひとみは「どうぞ」と言ってさくらを中に通した。


 紫翠さくらは、朝霧舞子、森田春江、速星千里の三人とともに、ヒルーダ草創期のメンバーの一人であった。

 しかし、彼女の存在はヒルーダにとっては黒歴史であり、オフィシャルサイトをはじめヒルーダに関する情報を提供している各種メディアにおいては、彼女のことはいっさい語られていない。

 かつて、さくらはヒルーダの掟のひとつである「特定の異性との交際の禁止」というルールを破ってイケメン俳優と深夜にデートをしているところを、写真週刊誌で報じられた。

 さくらは重大なルール違反を咎められ、即刻ヒルーダから除名された。

 だが、芸能活動に未練を残していたさくらは、自ら事務所を立ち上げるとともに、ヒルーダの裏事情を暴露した暴露本を発表した。そして自分を除名したヒルーダに当てつけるかのように、反ヒルーダの立場に立つ女優として芸能活動を再開した。

 それに対し、ヒルーダはあらゆる手段を使ってさくらを潰しにかかった。

 暴露本の出版社は突然倒産し、社長以下関係者は全員不可解な死を遂げた。そしてさくらの暴露本は発売前日になって急遽発売中止となり、一冊たりとも市場に出ることはなかった。

 さくらの芸能活動については、サキバサラのすべてのメディアが彼女を拒絶した。さくらを使おうものなら関係者は一人残らず皆殺しにする、という圧力がかけられていたのであろう。

 そしていつしか、サキバサラの人々は『紫翠さくら』の名前を出すことすらはばかられるようになり、さくらの存在は完全に闇に葬り去られたのである。


 研究所の広間に通されたさくらは、ひとみから乾杯用に用意していたジュースを手渡された。

 さくらはひとみに対して会釈をしたが、ジュースには口をつけなかった。

「……何の用事でこんなところに来られたのかな?」

東西博士がさくらに問いかけた。

 さくらはジュースの入ったコップをテーブルに置くと、静かに答えた。

「イクサバイバーの垂水さん、そして鹿羽根博士の研究仲間でありイクサバイバーの開発者でもある東西博士に、ぜひとも聞いていただきたいことがあって参りました」

 さくらのその言葉に殉義が反応した。

「そういうお話でしたら自分もお聞きした方がよろしいでしょうね。……自分は藤原殉義。サキバサラ警察署『連続猟奇殺人事件対策班』に所属する刑事です。そして烈人君同様イクサバイバーです」

「ではあなたにも私の話を聞いていただきたいと思います」

さくらは殉義に向かってそう言った。

 烈人はぶっきらぼうにさくらに問いただした。

「それはそうと、俺たちに聞いてもらいたいことって何だよ?」

 さくらはきっぱりと答えた。

「『デス』を作り出した鹿羽根しかばね博士について、そして『デス』の『女帝エンプレス』についての話です」

 烈人はさくらの目を見据えたまま、部屋の壁にもたれて両手を腕組みした。

 東西博士はテーブルの向かい側でさくらを見ている。

 殉義は東西博士の左横に座った。そしてひとみに向かって「ひとみさん。申し訳ありませんがしばらくこの場を離れて下さいませんか」と目でメッセージを送った。

 殉義の意向を感じ取ったひとみは静かに部屋から出ていき、広間には烈人、殉義、東西博士、そしてさくらの四人が残った。


 さくらは静かに、しかしはっきりとした口調で話を始めた。


――東西博士の研究仲間であった鹿羽根遠慈おんじ博士が、人間の心の中に潜む闇の部分を増大させることで誕生する生命体・『デス』を作り出した、というのは皆さんご承知のことと思います。

 鹿羽根博士は『デス』を「人類の進化形態である」と位置づけておりました。しかし、東西博士はもちろん、同じ研究仲間であった垂水博士も、そして学会も、東西博士たちの研究をバックアップしていた藤原財団も、鹿羽根博士の研究を好意的に受け止めませんでした。つまり、鹿羽根博士を支持する人はほとんどいなかったのです。

 鹿羽根博士はそんな人々に激しい怒りを覚え、彼の研究成果を彼自身に反映させて自らを『デス』にするとともに、彼の中の狂気を完全解放して『しかばね怨呪おんじゅ』と名乗り、人間社会への復讐を開始したのです。

 ……屍博士の「人間社会への復讐」、それは地球上のすべての人間を屍博士に服従させることでした。その目的を果たすために、彼は『デス』による人間の支配の実験を、このサキバサラという街で始めたのです。

 その実験の第一歩となったのが、アイドルグループ『ヒルーダ』でした。

 屍博士はデイトレーダー『三輪明輝良』に姿を変えて実験のための資金を荒稼ぎし、売れないプロモーターだった下里太地をチーフプロデューサーに据えて、四人組のアイドル『ヒルーダ』をデビューさせました。

 私を含め、ヒルーダのメンバーであった朝霧舞子、森田春江、速星千里は全員、屍博士の手によって心の闇を引き出され、『デス』となる能力を得ました。そして私たちの歌声は、人々の持つ闇の部分に響き渡り、闇の部分を増大させていきました。

 このようにして、人々は知らず知らずのうちに『デス』としての能力を持つようになったのです。

 もちろん、闇の部分を増大させ、『デス』となることに目覚めた人は割合で言えば微々たるものでしょう。しかし、闇の部分を増大させて人類の天敵・『デス』となった人は、『デス』にならなかった人々を己の糧にして、サキバサラの住人に闇への、ひいては『デス』への恐怖心を抱かせたのです。

 一方、ヒルーダはサキバサラのトップアイドルの地位を確立し、増員していくとともに、各エリアを担当するユニットを用意し、今まで以上に、ヒルーダへの忠誠と『デス』への畏怖を人々の間に植えつけていきました。……当然ながら、ヒルーダのトップメンバーとなった者は全員、屍博士に心の闇を引き出され、『デス』となる能力を得ました。

 私がヒルーダを除名されたのは、表向きは「男性俳優との深夜のデートを写真週刊誌に報じられたから」という理由ですが、その記事は完全なでっち上げで、実際のところは私が『デス』に関する話を私のブログに書いたからなのです。

 私は弁明の余地も与えられずにヒルーダから除名され、私のブログも即刻削除されました。

 私はヒルーダのやり方に憤りを感じ、ブログの内容を再編集した暴露本の発表と個人事務所設立という手段でヒルーダに反撃を試みました。

 そんな私の行動について屍博士は激怒し、出版社を倒産に追い込み関係者を『デス』に殺させたり、サキバサラのマスコミに圧力をかけて私が芸能活動をできないようにしました。そして何度も刺客を私のところに送り込んできました。しかし、私も最初期に『デス』となった者のひとり。屍博士の送り込んだ刺客である『デス』はすべて私の手で撃退しました。

 私はこのままサキバサラにいてもヒルーダには対抗できないと考え、事務所を閉鎖してサキバサラから離れることにしました。


 ……次に、『女帝』についてお話しましょう。

 屍博士に最も身近に接していた朝霧舞子は、メディアには一切公表されていませんが、屍博士との間に男の子をもうけています。……言うなれば、その男の子は『デス』を両親に持つ、生まれながらの『デス』と呼ぶべき存在です。

 一方、『デス』の母親ともいうべき存在となった舞子は、相手の目を見ただけで自分の意のままに操るテンプテーション能力や、限りなく永遠に近い寿命を持つ存在となりました。そしてその血液は『生命いのちのエキス』と呼ばれ、それを口にした人間の生命力を増大させることができます。私とほぼ同じ年齢であるはずの森田春江と速星千里が20代前半の若さを維持しているのは、舞子の提供する『生命いのちのエキス』を口にしているからでしょう。

 舞子はヒルードの中では『マジェスティ』と呼ばれていますが、実際のところは、『デス』の頂点に立つ存在、『デス』の『女帝』なのです。『デス』である以上、誰も『女帝』である舞子には逆らえません。逆らえば完全なる『死』が待っていますから。

 ですが、舞子は自分が前面に立ってヒルーダを指揮し、サキバサラの住人を直接自分の足元にひれ伏させようとは考えていませんでした。各エリアを預かるヒルーダのメンバーを陰で操る、いわば「秘密のヴェールに包まれた存在」でありたいと思っていたようです。そのため、各エリアを他のメンバーに任せて活動休止を宣言し、屍博士とともにヴェールの向こうへ姿を消しました。

 しかし、イクサバイバーが出現したことで状況は一変しました。

 『デス』が人類の天敵を名乗っているように、イクサバイバーは『デス』を狩ることのできる唯一の存在、いわば『デス』にとっては天敵に値する存在です。

 それまで好き勝手に人間をむさぼり食っていた『デス』は、イクサバイバーによって倒されていきました。ヒルーダにとって、イクサバイバーは邪魔者を排除してくれるありがたい存在でした。しかし、革命党の件を経て、イクサバイバーはヒルーダのトップメンバーである『デス』をも狩るようになりました。事実、『F-Resh!(エフ・レッシュ)』と『マリンブロッサム』はイクサバイバーに倒され、『Y.(ワイ)E.(イー)S-(エス)55(ゴーゴー)』も久々野渚のみがかろうじて生き残っている状況です。

 そしてヒルーダが無期限活動休止を宣言したのと時を同じくして、ヒルーダとは無関係な『デス』が好き勝手に暴れ始めました。


 ……ここまでのお話でおわかりになられたと思いますが、ヒルーダはすべての『デス』を直接管理・支配しているわけではありません。もちろん、最終的には、『デス』となることのできる者も含めて、サキバサラのすべての住人を支配しようとしているのは間違いありません。しかし、ヒルーダのトップメンバーたちがイクサバイバーに次々と倒されている現状では、ヒルーダの第一目標はイクサバイバーの抹殺でしょう。とすれば、イクサバイバーの拠点であるこの研究所を、ヒルーダが襲撃しに来るのは間違いありません。

 東西博士。垂水さん。藤原さん。私はあなた方に『デス』の魔の手からサキバサラの街を守っていただきたい。そのためにはヒルーダを、そして屍博士を倒してほしいと思っています。そのことをお願いいたしたく、私は今日ここへ参ったのです。――


「……ずいぶんいろんなことを知ってるんだな」

壁にもたれかけ、腕組みをしながら烈人が言った。

「だけど本音は俺たちイクサバイバーとヒルーダとを対決させ、共倒れになったところで自分がサキバサラの支配者になろうって魂胆じゃねぇのか?」

「そういうつもりはありません」

さくらは烈人の言葉を即座に否定した。

「私は、弁明の余地も与えず私を追放したヒルーダに、そして私を『デス』にした屍博士に復讐できればそれで十分満足です。……なんでしたら、今この場で私を『デス』として狩っていただいても構いません」

 さくらのこの言葉には、彼女の強い意志と決意とが込められていた。

「……俺が言い過ぎた。すまない」

彼女の思いを感じ取った烈人は、素直にさくらに向かって詫びた。

 さくらは烈人に「気にしないで下さい」と言うかのように微笑を浮かべると、殉義に声をかけた。

「ときに藤原さん」

「なんでしょうか」

「サキバサラ警察署署長・茂原八積は『デス』です」

 さくらの言葉に、殉義は全身が凍りついたかのような衝撃を受けた。

「今……なんておっしゃいました? 署長が『デス』だなんて……信じられません!」

「藤原さんが驚きになられるのも無理はありません。しかし、これは事実なんです」

さくらは殉義に向かってそう言うと、数枚の写真を見せた。

 その写真には、『デス』に変わりつつある八積の姿が、『デス』となって人間を襲い、むさぼり食う八積の姿がはっきりと写っていた。

 殉義は絶句していた。

「藤原さんの所属している『連続猟奇殺人事件対策班』がうまく機能していなかったのは、茂原八積が裏で証拠の隠滅や証人の抹殺を図っていたからなのです」

 さくらの言葉に、殉義は『F-Resh!』が『デス』であったという報告書を八積に鼻であしらわれたことを思い出した。

(「署長が自分の出した報告書をまったく相手にしなかったのは、署長自身が『デス』だったからなのか……!」)

 殉義は「この写真、お借りしてもよろしいでしょうか」とさくらに問いかけた。

 さくらは静かに「どうぞ」とうなずいた。

「自分、署長に直接聞いてきます。そしてもし署長が本当に『デス』であったなら、自分は署長を狩ります!」

殉義はさくらの見せてくれた写真を手に取ると、そう言い残して外へ飛び出していった。

「では、今日のところはこれで失礼いたします」

さくらは東西博士と烈人にそう言って一礼すると、玄関を開けて外へ出ようとした。

 そんなさくらの背中に向かって烈人は問いかけた。

「どうしてあんたは俺たちにこんな重要な情報を伝えに来てくれたんだ? それに、どうしてあんたは俺たちに味方しようとしてるんだ?」

 さくらは振り向くことなく答えた。

「先ほども申しましたとおりです。私は、私を追放したヒルーダと私を『デス』にした屍博士に復讐できればそれで十分満足です。そしてそれを実現することができるのがイクサバイバーのお二人であると信じているからです」

 さくらはそう言い残すと、玄関の向こうに姿を消した。

「博士」

烈人は東西博士に問いかけた。

「紫翠さくらとかいう人物の言葉、信じていいんでしょうか?」

 東西博士は椅子に腰掛け、胸の前で腕組みをしたまま何も答えなかった。

 そこへ、リスターから『デス』出現の報が入った。

 烈人は東西博士に「これから『デス』を狩ってきます」と言い残すと、ブレイズストライカーで『デス』出現地点へと向かった。

 烈人がいなくなり一人だけとなった広間で、東西博士は、壁にかけてある、東西博士、垂水博士、鹿羽根博士の写っている写真の垂水博士に向かって視線を投げかけながら、苦渋に満ちた顔をしてつぶやいていた。

「……烈人君の出生の件について、本当のことを言わなければならない時が来たのかもしれんな。垂水博士」


 烈人が向かったのは歩行者天国だった。

 だが烈人が来たときには、そこは『デス』が無差別に人間を襲って喰らい、逃げ惑う人々の悲鳴と『デス』に襲われ体を食われていく人々の絶叫とが響き渡る地獄絵図のような空間と化していた。

「やめろ!!」

烈人は『デス』たちに向かって叫んだ。

 烈人のその声に、人々を襲っていた『デス』は動きを止め、全員烈人の方を向いて鋭い視線を烈人に投げかけた。

 ブレイズチャージャーを起動させた烈人は、右手にエヴォルチェンジ・メモリカードを、左手にエクスレイヤー・メモリカードを持ち、両手を前に突き出した。

「変進!」

 烈人はエヴォルチェンジ・メモリカードをブレイズチャージャーの左メモリスロットに、エクスレイヤー・メモリカードを右メモリスロットにセットした。

 それと同時に「Blaze-on!」「Blast!!」という機械音声が響き渡り、そして烈人の全身は激しい炎と疾風の入り混じったオーラに包まれた。

 そして数秒後、炎と疾風を吹き払い、右手にエクスレイヤーを持ったブレイゾンブラストが姿を現した。

「……てめえ! イクサバイバーかっ!?」

『デス』たちの中からどよめきが起こる。

 ブレイゾンブラストは右手に持ったエクスレイヤーの剣先を『デス』の集団に向けて決めゼリフを言い放った。

「闇より生まれし邪悪な生命いのち、熱き炎で焼き払う。……覚悟はいいな? 殺戮者!!」

「イクサバイバーをぶっ潰せ!!」

 『デス』たちはブレイゾンブラストに対する怒りをあらわにし、ブレイゾンブラストに向かって一斉に襲いかかってきた。

 しかし、ブレイゾンはあわてることなくエクスレイヤーのトリガースイッチを1回押した。

「Single Blast!」

 ブレイゾンブラストは両手でエクスレイヤーを構え、左半身ひだりはんみの構えを取った。

「シャイニング・ノヴァ!!」

 ブレイゾンブラストは全身を光に包んだ巨大な光弾と化し、襲いかかってくる『デス』に向かって突っ込んでいった。

 ブレイゾンブラストを包み込む光に触れた『デス』は、一瞬のうちに全細胞が崩壊して消滅していった。

 そしてブレイゾンブラストを包み込んでいた光が消えたときには、彼に襲いかかった『デス』は一体残らずシャイニング・ノヴァの光によって闇をかき消され、消滅していたのだった。

 歩行者天国を襲っていた『デス』が全滅したのを見届けると、ブレイゾンブラストは『変進』を解いて垂水烈人の姿に戻り、静かにその場から去っていった。


 殉義はサキバサラ警察署に戻ると、ノックもせずにドアを開けて署長室へ入っていった。

 八積は署長席の椅子に腰掛けて、『スタースプラッシュ』の写真集を見ながら、机の上に置いたCDプレイヤーから流れてくる『スタースプラッシュ』の曲を聞いていた。


――太陽が空に昇った 新しい一日が始まる

  昨日までのつらいこと ひとまずリセットしようよ

  今日は昨日とは違う 自分の意思で変えられる

  なりたい自分に今すぐchange


  YES! 輝く笑顔は 真夏の太陽よりまぶしい

  YES! 君への思いは 真夏の太陽より熱い


  迷わないで 一歩踏み出そう

  自分から say! 「おはよう」――


「……この曲、『スタースプラッシュ』の『CHANGE』ですね」

 殉義の言葉を耳にした八積はあわてて写真集を机の下に隠し、CDプレイヤーのスイッチを切ると、殉義に向かって厳しい口調で問いかけた。

「藤原! 何の用だ? ノックもせずに入ってくるとは失礼じゃないか!!」

 だが殉義は八積に頭を下げることなく八積の机の前までつかつかと歩み寄ると、さくらから借りてきた写真を机の上に置いた。

「署長。これはいったいどういうことなんですか?」

 八積は殉義の出した写真を一瞥すると、大声で笑い出した。

「ずいぶん手の込んだ合成写真だな。よくできている」

「とぼけるな!!」

殉義は八積を一喝した。

「これらの写真は、元ヒルーダの紫翠さくらさんからお借りしたものだ。……署長、いや、茂原八積! お前は『デス』だろ!!?」

「いかにも。俺は『ブルドッグデス』だ」

意外にも、八積は殉義の問いかけをあっさりと肯定した。

「藤原。俺はお前がサキバサラ警察署に配属されたときから、お前のことが憎かった。……お前は警察学校を首席で卒業した藤原財団の御曹司。いわば『苦労を知らないエリート』だ。だが俺は違う。俺はお前には想像もつかないほどの苦労を味わってきたんだ。そんな中、俺は屍怨呪博士の手によって『デス』の力を得た。そして俺は、目の前に立ちふさがる邪魔者を排除して、サキバサラ警察署署長にまでのし上がってきた。そんな俺には、何の苦労もなくいきなり警部補として着任したお前の存在が不愉快だったのだ。そしてお前は『デス』に関する事件に関わるようになっていった。いつかお前は俺の正体に気づくだろうと思ってはいたがな……。だがお前は俺の触れてはならない部分に触れてしまった。俺はお前を殺す!」

八積はそう言って立ち上がると、心を黒い闇で覆い、狂犬と化したブルドッグデスの姿に変わった。

 殉義はバックステップしてブルドッグデスから距離を取った。

「お前が『デス』である以上、自分はお前を狩る!」

殉義はそう言いながらスマートセルラーの『EVOLCHANGE』アイコンをタップし、「変進!」とコールしつつスマートセルラーを狼虎チャージャーにセットして狼虎へと『変進』した。

 ブルドッグデスはこの展開に一瞬驚いたが、よだれを垂らしながら歓喜の表情を浮かべた。

「藤原がイクサバイバーだったとはな。だがそれはそれでありがたいことだ。憎らしい藤原殉義とイクサバイバーとを同時に始末できるのだからな!!」

 ブルドッグデスは狼虎に向かって飛びかかっていった。

 狼虎とブルドッグデスはもつれ合いながら署長室の窓を突き破り、警察署の駐車場に転落した。

 ブルドッグデスは狼虎に対してマウントポジションを取り、狼虎をアスファルトに叩きつけて自分は無傷で着地した。そしてトゲの付いた首輪型爆弾を狼虎に向かって投げつけた。

「ぐわぁぁ!」

 爆弾の直撃を受け、スマートセルラーが狼虎チャージャーからはずれて地面に落ちた。

 狼虎は『変進』が解除されてその場に膝をついた。

「どうした藤原!? イクサバイバーってのはこんなものなのか??」

『変進』の解除された殉義をバカにするかのような、ブルドッグデスの高笑いが響く。

 殉義は地面に落ちたスマートセルラーを拾い上げると、画面をスワイプさせた。

(「あの『デス』のスピードとパワーに対抗するためには、狼虎ロウコロワイアルに『変進』するしかない」)


 烈人がエクスレイヤーを手に入れ、ブレイゾンブラストへと『変進』することができるようになったと聞いたとき、殉義は自分もさらなる力を得たいと東西博士に懇願した。

 東西博士は殉義に「スマートセルラーを貸しなさい」と言うと、受け取ったスマートセルラーを手に、殉義に問いかけた。

「君はスマートセルラーの能力を『すべて』引き出すことができたのかね?」

「そういえば……一ヶ所、どうしてもプロテクトをはずせないところがありました。しかし、そのプロテクトをはずそうがはずさなかろうが、狼虎の戦闘能力には影響がないみたいだったので、そのままにしておきました」

「……君がはずせなかったプロテクトされたシステム、それこそが狼虎の能力を100パーセント引き出すための鍵となるシステムじゃ。君がイクサバイバーとして十分戦っていけるかどうかわからなかったのでプロテクトしたままにしておいたのじゃが、どうやらその封印を解くときがきたようじゃな」

 東西博士はスマートセルラーの画面をスワイプさせて、最後尾の、「?」マークのみが表示されているページを殉義に見せた。

「これがスマートセルラーの最終画面じゃ。そしてこの『?』マークのアイコンこそ、封印の入口じゃ」

「このページは自分も見ました。そしてこのアイコンをタップしたら、『10秒以内にパスワードを入力して下さい』というメッセージとソフトウェアキーボードが表示されました。自分は思いつくままにパスワードとおぼしきキーワードをインプットしましたが、スマートセルラーはそれをまったく受け付けてくれませんでした。要するに、自分には次の画面へ進むためのパスワードがわからなかったのです」

 東西博士はスマートセルラーの「?」アイコンをタップすると、パスワード「ROYALE」を入力した。

 スマートセルラーの画面に、『ROYALE』と書かれた新しいアイコンが表示された。

「このアイコンをタップし、狼虎と同じ『変進』プロセスを経ることで、君は狼虎の強化形態『狼虎ロワイアル』へと『変進』する」


 殉義は『ROYALE』アイコンをタップして立ち上がると、「変進!」とコールしつつスマートセルラーを狼虎チャージャーにセットした。

 スマートセルラーから発せられる「WolfTiger(ヴォルフティーゲル」「Royale」の音声とともに、殉義の全身は氷のオーラに包まれた。

 そして次の瞬間、氷のオーラを打ち破って狼虎ロワイヤルが姿を現した。

 狼虎ロワイヤルは狼虎の全身に強化プロテクターと背中にはオートフライトユニットを装着した姿で、右手には槍のような武器・エースランザーを持っている。

「『デス』は法では裁けぬ存在。ならば自分がお前に判決を言い渡す。……死刑だ」

狼虎ロワイアルはエースランザーの先端をブルドッグデスに向けて言い切った。

「ちょっとばかり姿を変えたところで同じことだ!!」

 ブルドッグデスは狂気をむき出しにして、まさに猛犬と化して狼虎ロワイアルに向かって突っ込んできた。

 狼虎ロワイアルはエースランザーの石突(いしづき)(槍の地面に突き立てる部位、刃と反対側の先端部)部分をブリザーベルショットに接続させて新武器・ブリザードマシンガンを完成させると、マイナス270℃の極低温の弾丸を1秒間に90発のスピードでブルドッグデスに浴びせた。

「ぶげぇぇぇぇ!!」

 ブルドッグデスはブリザードマシンガンの攻撃を受けて全身が凍りついたかのようになり、後方へと吹っ飛ばされた。

 狼虎ロワイアルは『BLAST END』アイコンをタップした。

 「Blast End!」の音声とともに、ブルドッグデスは法廷の被告人席に立つ裁かれる者となった。

「な……何のつもりだ!!?」

ブルドッグデスは叫んだ。

 だが狼虎ロワイアルはその声に耳を貸さず、上空高く舞い上がってエースランザーを光の鉄槌に変えると、裁きの鉄槌をブルドッグデスめがけて振り下ろした。

「ジャッジメントハンマー!!!」

 振り下ろされた光の鉄槌は、被告人席のブルドッグデスの体を、ガラス細工を粉々にするかのように打ち砕いていった。

「お前みたいな若造にやられるなんて……!!」

 最後の叫び声を残して、ブルドッグデスの体はこの世から消滅した。

 何が起こったんだとあわてて出てきたサキバサラ警察署員たちの前で、狼虎ロワイアルは『変進』を解いて藤原殉義の姿に戻った。

「署長の茂原八積は『連続猟奇殺人事件』に関与している怪物、『デス』だったのです。自分は『デス』を狩る者・イクサバイバーとなり、茂原を『狩り』ました。……今、サキバサラの街は茂原のような『デス』が暗躍し、市民を不安のどん底に落としています。自分たちは市民の安全を守るのが仕事です。今こそ、『デス』撲滅のために、署全体を挙げて動かなければならないのです!」

殉義は集まってきた署員たちに向かって叫んだ。

 署員たちは殉義のこの叫びに応えるかのように拍手を送った。

 そして副署長が殉義の前に現れた。

「藤原警部補。君を『連続猟奇殺人事件対策班』の班長に任命する。……よろしく頼むぞ」

 副署長の言葉に、殉義は胸を張り、敬礼して応えた。

「了解いたしました! 藤原殉義、『デス』撲滅のために全力を尽くします!!」


 ブレイゾンブラストによってユニットのメンバーである佐奈とかなえを殺され、ブレイゾン、そして垂水烈人に対して激しい怒りを覚えていた渚は、雷を操る『デス』と風を操る『デス』の二体の『デス』の手によってヒルーダ事務所に運ばれ、事務所のソファに寝かされていた。

 かなえがブレイゾンに斬り殺された。

 佐奈がブレイゾンに蹴り殺された。

「佐奈!! かなえ!!」

 渚は『Y.E.S-55』の仲間の名前を呼びながら目を開け、ガバッと跳ね起きた。

 そこには、『スタースプラッシュ』の能登川稲枝と香芝志都美の姿があった。

「能登川……香芝……これっていったいどーいうことなんだよ?」

「命の恩人である私たちを呼び捨てにするのは、ホント、むかつくくらい失礼だね。ま、その方が渚らしいんだけどさ」

「私たちはあるお方の命を受けてあなたたちの後をつけてきたのよ。……『Y.E.S-55』合体形態であるルシファーデスがその姿を維持できなくなり、かなえと佐奈が倒された。残るは『デス』の姿にもなれないくらいのダメージを受けたあなただけ。……私と稲枝はあるお方の命に従って、あなたを救出したのよ」

稲枝と志都美は答えた。

 二人の答えについて、渚はひとつの疑問を抱いた。

「ちょっと待った。『あるお方』って誰だよ? 下里さんか? マジェスティか?」

「いいや。私だよ」

 奥からスーツ姿の男性が姿を現した。

 渚はスーツ姿の男性に向かって問いかけた。

「あんた……たった一日で百億儲けたっていう天才デイトレーダー、三輪明輝良だよな……?」

「確かにそうとも呼ばれている。だが、私の真の姿は『デイトレーダー三輪明輝良』ではない。お前たち『デス』を作り出した至高の科学者・屍怨呪だ」

 明輝良、いや、屍博士の言葉に、渚の頭の中は混乱していた。

 屍博士は言葉を続けていた。

「『デス』は、闇への畏怖を忘れた人間どもの心の奥にしまいこまれた闇への畏怖の念を引き出し、そこに己の欲望が融合して誕生する存在だ。しかし渚、お前は違う。『デス』の遺伝子を『女帝』の卵子に注入することで誕生した、生まれながらの『デス』なのだ。お前の右手の甲にある『死』という文字に似たアザ。それはお前が『女帝』の血を引く、生まれながらの『デス』である証拠だ」

 屍博士の言葉を聞きながら、渚は自分の右の手の甲を見つめた。

 赤い血の色に染まった『死』の文字に似たアザが、いつも以上に色鮮やかに浮かんで見える。

 屍博士は言葉を続けていた。

「お前の持つ、人をひきつけるカリスマ性や敵との戦いにおける戦闘能力は他の『デス』をしのいでいる。そしてお前のいる『Y.E.S-55』が『デス』の頂点に立つのももうすぐだった。しかし、佐奈とかなえはブレイゾンに倒された」

 渚は半分ムッとした感じで屍博士に言い返した。

「ま、うちは『デス』の頂点なんか望んでないんだけどさ。うちの望みは、佐奈とかなえを殺したブレイゾン……垂水烈人に復讐すること。ま、それだけなんだけどさ」

「その望みを私がかなえさせてあげよう。そのために私はお前のところへ来たんだ」

屍博士は渚に言った。

「東西南北や垂水激が開発したイクサバイバーを、私も開発することに成功したんだ。しかも、元々人間をしのぐ身体能力を持つ『デス』がイクサバイバーに『変進』したなら、それは最強の存在となり、全世界を支配する覇者となる。……渚。お前は選ばれた存在なのだ。佐奈やかなえのことは悲しいことだろうが、覇者となりうるのはお前しかいない。……渚。私にお前の力を貸してほしい。お前の『変進』するイクサバイバーは、パワーアップしたブレイゾンには決して負けない。いや、必ず勝つ」

「垂水烈人をれるんだったら、ま、うちはあんたに協力するんだけどさ」

渚は屍博士の提案を受け入れた。

「渚、よく言ってくれた。……私についてきなさい」

屍博士は渚にそう言うと、彼女を研究室へと連れていくのだった。

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