第14話 ~聖剣(Exslayer leads "Blaze-on BLAST")~
ブレイゾンを劇的にパワーアップさせる方法を、烈人は東西博士から聞き出した。
「父や博士たちの師匠であり、最強の武器『至聖剣エクスレイヤー』を開発した小松明峰先生のところへ行き、エクスレイヤーを入手すればいいんですね」
烈人は明るくそう言うと、小松明峰の居所を東西博士に尋ねた。
東西博士は
「……明峰先生は北東エリアQ-77地区の奥にある『愚庵』という庵にいらっしゃるはずじゃ」
と烈人に言った。
だが、東西博士はすぐに言葉を続けた。
「じゃが……明峰先生はすごい頑固者でな。エクスレイヤーを使うにふさわしい『進化』した人間をわしらが作り出そうとすることに猛反発しておった。『力を使いこなすことのできない者が力を持てば、それは即ち破滅を招くことになる』とおっしゃってな。そしてわしら三人は、破門同然の形で明峰先生のところから追い出されたのじゃ。……あの方のことじゃ、垂水博士の息子が訪ねてきた、となったら、正直、何をされるかわからんぞ」
「そんなの構いません」
烈人はきっぱりと言い切った。
「エクスレイヤーがなければ俺は『Y.E.S-55』には勝てないんです。エクスレイヤーを手に入れるためなら、俺は泥水をすすったって構いません」
「烈人君がそこまで言うんじゃったら、わしはもう止めはせん……」
そのとき、二人の後ろで何かが動き出した。
長椅子に寝転んでいたひとみも「いったいどうしたっていうの……」と半分寝ぼけた顔をして言っている。
集中治療室から白衣を着た医師が現れた。
「藤原殉義さんの意識が戻りました。もう一般病棟でも大丈夫ですよ」
医師の言葉に、烈人、東西博士、ひとみの三人は喜びの笑みを浮かべた。
特にひとみはもう大はしゃぎで、医師の手を大きく振りながら「ありがとうございます」と激しい握手を交わしている。
「……博士。俺、明峰先生のところへ行ってきます。そして、必ず、エクスレイヤーを手に入れて帰ってきます。……それまで、藤原さんのことをよろしくお願いします」
烈人は決意を込めたまなざしをして東西博士にそう言うと、東西博士に向かって一礼し、明峰のところへと向かった。
ヒルーダ事務所に、垂水烈人抹殺のために送り込まれたナースデスが返り討ちにあったという知らせが飛び込んできた。
「重傷を負いながらも『デス』を狩るとは。ブレイゾン、いや、垂水烈人、敵ながらなかなかやりますな」
太地のその言葉に、舞子は明らかに不快そうな表情を浮かべた。そしていつもの舞子らしからぬ厳しい口調で、
「下里さん。『Y.E.S-55』の三人をすぐに事務所へ呼びなさい」
と太地に命じた。
それからおよそ一時間後、『Y.E.S-55』の三人は舞子の前に姿を現した。
「渚。佐奈。かなえ。あなたたちはブレイゾンと狼虎に大ダメージを与えて勝ったそうですね」
「そーだよ。ま、うちらが本気出したらこんなもんだけどさ」
舞子の問いかけに対し、渚は平然と答えた。
次の瞬間、舞子は厳しい顔をして三人を怒鳴りつけた。
「どうしてその場でブレイゾンと狼虎の息の根を止めなかったの!!?」
舞子の激しい怒りに、『Y.E.S-55』の三人は言葉を失っていた。
「あの二人はあなたたちと闘うことで、ヒルーダが『デス』の集合体であることを知った。その事実が世間に知れたら、無期限活動休止くらいでは済まない。ヒルーダにとって取り返しのつかないことになるのよ!!」
三人は自分たちの不用意な行動がもたらした結果の重要性にようやく気づいた。
「……すみませんでした! マジェスティ!!」
渚、佐奈、かなえの三人は舞子に向かって深々と頭を下げた。
舞子は厳しい表情で三人を見据えていたが、数秒後には穏やかな表情に戻っていた。
「あなたたちに名誉挽回のチャンスを与えます。……ぜひともやってもらいたい仕事があるのです」
舞子は『Y.E.S-55』の三人に声をかけた。
「ボクたちにやってほしい仕事、ですか?」
佐奈の問いかけに舞子は静かにうなずくと、言葉を続けた。
「北東エリアQ-77地区の奥にある『愚庵』という庵に、小松明峰という人物が住んでいます。彼は『デス』を生み出した屍博士のかつての師匠であり、人類の『進化』した存在である『デス』やイクサバイバーが手にすることで無限の力を発揮するという『至聖剣エクスレイヤー』を開発した人物です」
「……要するに、マジェスティは私たちに『エクスレイヤーを入手しろ』とおっしゃりたいのですね?」
「さすがはかなえ。飲み込みが早いわね。エクスレイヤーがイクサバイバーの手に渡れば、『デス』にとって非常に不利な展開になります。……ただちに小松明峰のところへ行き、エクスレイヤーを手に入れるのです」
真剣な表情で指示を出している舞子に向かって、佐奈が問いかけた。
「マジェスティ。そのエクスレイヤーって武器、そんなに重要なアイテムなんすか?」
「ええ。そうです」
舞子はすかさず答えた。
「詳しいことは私も知りませんが、私たちがエクスレイヤーを手に入れることができれば、『デス』が地球上の全生命体の頂点に立つことも夢ではありません。しかし、もしエクスレイヤーがイクサバイバーの手に渡れば、イクサバイバーは私たち『デス』を完全に滅ぼしうる力を手に入れることになります」
「ま、よーするに、とっとと小松明峰のところへ行ってエクスレイヤーを手に入れろ、って言いたいんだろ? マジェスティ」
渚が舞子の意志を再確認する。
「その通りです。……渚。佐奈。かなえ。やってくれますね?」
舞子の問いかけに、渚はいつものように元気よく、それでいて瞳の奥に覚悟と決意を浮かべながら答えた。
「もちろんオッケーさ。ま、マジェスティはうちらがエクスレイヤーを持って帰ってくるのを楽しみに待っててくれればいいんだけどさ!」
『Y.E.S-55』の三人は、ただちに明峰が住む『愚庵』へと向かった。
北東エリアQ-77地区。人造建造物がひしめき合って建っているサキバサラの街には珍しく、自然に満ちあふれた場所であった。
ブレイズストライカーでこのエリアを訪ねた烈人は、左前方に木製の看板を見かけてバイクを止めた。
その看板には『愚庵』と墨書きされている。
「ここが明峰先生のいる『愚庵』か」
烈人はそう言いながらヘルメットを脱ぎ、庵へと続く上り坂に足を踏み入れた。
愚庵へと続いている上り坂はかなり急であった。
「……ったく、よくこんなところに庵でも構えようって気になったよな、明峰先生も」
烈人はぶつくさぼやきながら坂を上っていった。
「『こんなところ』で悪かったな」
突然、烈人の後ろで声がした。
烈人が振り返ると、そこには十歳くらいの子どもが立っていた。
「あんた誰だよ。何しにこんなところへ来たんだよ」
子どもは烈人に向かってタメ口で問いかけた。
上から目線の言い草に半分腹を立てつつも、烈人は彼の問いかけに対して正直に答えた。
「俺は垂水烈人。俺の父、垂水激の師匠にあたる小松明峰先生がこの庵にいる、と聞いてやって来たんだ」
「ふーん」
子どもは烈人の返答を鼻でせせら笑った。
「……庵に行ってもムダだよ。明峰はこの庵にはいない。『はずれ』って書かれた紙切れが置いてあるだけさ」
だが烈人は、子どもの「明峰はこの庵にはいない」という言葉を聞いたにもかかわらず、庵へと続く上り坂を再び上り始めた。
「……ったく、最近の若い奴は人の話を聞こうともしないんだな」
子どもはそう言いながら、烈人の後をついていった。
急な上り坂を上りきった頂上には、玄関に『愚庵 小松明峰』と書かれた表札がかかっている小さな建物があった。
烈人はさっそく玄関の扉を開けて中をのぞき込んだ。
「ごめん下さい。小松明峰先生に用があって来たのですが」
しかし、烈人の目に入ってきた庵の中は、上座に掛け軸がひとつ飾ってあるだけの、ただの畳の部屋であった。
ふと、烈人の目に、畳の上に何か書かれた紙が置いてあるのが飛び込んできた。
烈人はすかさずその紙を手に取った。
その紙には
『はずれ』
と書いてあった。
「だから言っただろ。明峰はこの庵にはいないって」
子どもの冷たい声が後ろから聞こえてきた。
烈人はその子どもの方へ向き直り、膝を曲げて目線をその子どもの高さにまで下ろすと、
「君、明峰先生がどこにいるのか知らないかな?」
と問いかけた。
「さあね」
子どもは烈人の感情を意図的に逆なでするかのようにそう答えた。
だが烈人は子どもの態度に半分腹を立てつつも、
「じゃあ君はいったい誰なんだい? どうして明峰先生がこの庵にはいないってことを知ってるんだい? 君のご両親はどこに住んでいるんだい?」
と、逆に子どもに問いかけた。
子どもはボソッとつぶやくかのように答えた。
「両親は死んだよ。……何十年も前にね」
「何十年も前!?」
烈人は子どもが今発した言葉に鋭く反応した。そして頭の中で考えた。
(「父さんたちは人類の『進化』について研究していた。……とすれば、その研究に指導や助言を与えていた明峰先生もまた、人類の『進化』に関する知識を持っていたはずだ」)
烈人はハッと気づいた。そして目の前にいる『子どもの姿をした人物』に向かって問いただした。
「君が……いや、あなたが、父がお世話になった小松明峰先生なんですね!!?」
「あ~あ、ばれちゃったか」
明峰は苦笑いを浮かべ、頭の後ろで両手を組みながら答えた。
「しかし、激の息子がこんなに大きくなっているとはな」
烈人は明峰の前にひざまずき、両手を地面につけ、明峰の顔を見上げるようにして懇願した。
「先生。あなたがお作りになった『至聖剣エクスレイヤー』を俺に譲って下さい!!」
明峰の眼光が急に厳しくなった。
「激の息子……烈人とかいったな。お前はなぜエクスレイヤーを必要としているんだ? お前は何のためにエクスレイヤーを使おうとしているんだ?」
明峰は鋭い眼光を烈人に向けながら問いかけた。
烈人は答えた。
「今、このサキバサラの街では、父の研究仲間であった鹿羽根博士が作り出した、人間を食い、人類の天敵となった『デス』という怪物が人々の生活を脅かしています。俺は、父の研究仲間であり今お世話になっている東西南北博士が開発した、『デス』と対抗できる能力を持った者に『変進』できるイクサバイバーとなって『デス』と戦っています。……しかし、『デス』は日々強くなり、イクサバイバーの力をしのぐ者も出てきました。このままでは、『デス』がサキバサラを、いや、全世界を支配し、人類に成り代わってすべての生物の頂点に立つことになるでしょう。俺はなんとしても、それを食い止めなければならないのです。だから、先生が開発されたエクスレイヤーがどうしても必要なのです」
「嘘を言うな」
明峰はすかさず言い返した。
「お前は『デス』とかいう存在を倒す力を得たことに悦びを感じている。だが『デス』が力をつけ、自分の力を超えるようになったから、エクスレイヤーの力を欲しているのだ」
間髪入れずに烈人は言い返した。
「違います!!」
「違う? どこが。……お前の話では、『デス』は人間を食う怪物であり、お前は、つまりイクサバイバーは、人間を食う怪物である『デス』を殺して嬉々としている、英雄気取りの殺戮者だと言っているようにしか聞こえんが」
明峰の厳しい言葉に、烈人は返す言葉を失った。
「エクスレイヤーの力で『デス』を殺しまくる快楽を得ようという奴には、エクスレイヤーは使いこなせないし、託す気もない。……帰れ。そして二度と俺の前に姿を見せるな」
明峰は冷たく言い放った。
だが、烈人は膝を崩すことなく、額を地面に押し付けるかのようにして明峰に懇願した。
「俺は先生からエクスレイヤーをいただくまで帰りません! ……俺が『デス』と戦っているのは、先生に言わせれば『デス』を殺すことで快感を得るため、ということになるかもしれませんが、それだけではないんです。鹿羽根博士が俺の姉を連れて行方をくらませたのです。……俺の姉・垂水舞子は、俺にとっては母のような存在でした。しかし、『デス』を作り出した鹿羽根博士は俺から姉を奪い取った。……鹿羽根博士が姉を連れて失踪した、ということは、姉は『デス』に関わる何かに利用されているのかもしれません。俺は姉に会いたい。姉を取り戻したい。……このことが、俺がイクサバイバーとして戦う最大の理由です」
「お前の姉……垂水舞子……か……」
明峰は一瞬穏やかな表情になってそう言ったが、すぐに厳しい表情に戻って話を続けた。
「ずいぶん自分勝手な理屈なんだな。遠慈とお前の姉、舞子は相思相愛の仲だったのかもしれないぞ。母のような人である姉を遠慈から取り戻したい、っていうのは、単なるお前のわがままなんじゃないのか?」
「確かに先生のおっしゃるとおりです」
烈人は明峰の言葉を否定しなかった。
「俺は正義のヒーローを気取ってはいるけれども、その実は、敵を倒すことに快感を覚え、俺から姉を奪った鹿羽根博士の手から姉を取り戻したい、と思っている自己中心的な奴です。そんな奴にエクスレイヤーを託したくはない、と先生がおっしゃるのは当然のことかもしれません……」
烈人はグッと顔を上げ、明峰の瞳をまっすぐ見据えながら言葉を続ける。
「だけど、俺の中のそういう『欲望』が、結果的に人々を守ることにつながっているのも事実ではないでしょうか? それに、エクスレイヤーの危険性を知りつつも今日までエクスレイヤーを破棄しなかったのは、エクスレイヤーの力を託すことのできる者をずっと待っていた、ということではありませんか!? ……今の俺にエクスレイヤーを使う資格があるとは言いませんが、俺はエクスレイヤーを使うにふさわしい人間になるべく努力します。いや、俺はエスクレイヤーを使うにふさわしい人間に必ずなります! ですからお願いします。俺にエクスレイヤーを託して下さい!!」
烈人の熱意ある言葉に、明峰は腕組みをし、目を閉じてしばらく何かを考えていた。
そしてしばらくして、明峰は目を見開いて烈人に言った。
「……立て。エクスレイヤーを保存している洞窟まで行くぞ。烈人」
「あ……ありがとうございます!!」
烈人はすかさずそう言うと、明峰の後についていった。
そんな二人のやり取りを、『Y.E.S-55』の三人はきっちりと聞いていた。
「小松明峰ってけっこうなガキだったんだね」
タバコをふかしながら佐奈が言った。
「小松明峰は屍博士の先生ともいえる人物。本来なら相当な年齢ですわ。だけど自分自身を実験台にして、肉体の若返り実験でもしたのでしょう。そしてその結果、子どもの姿になったのではないかと思われますわ」
子どもの姿をしている明峰を見据えながらかなえが言った。
「ま、あいつらの後を追って、エクスレイヤーを奪い取るだけだけどさ」
渚の言葉に佐奈とかなえは静かにうなずくと、明峰や烈人に気づかれないようにしながら、二人の後を追った。
烈人と明峰は、山の奥にある小さな洞窟に入った。
「烈人。あれがエクスレイヤーだ」
明峰の指差した先には、刀身の真ん中あたりまで岩に突き刺さっている一振りの剣があった。
「エクスレイヤーは自らの意思で使い手を選ぶ。岩に突き刺さっているエクスレイヤーを抜くことができた者こそ、エクスレイヤーを持つに値する者なのだ」
明峰はそう言うと、烈人に「あの剣を抜いてみろ」と目で合図を送った。
だが烈人がエクスレイヤーの刺さっている岩に一歩踏み出した瞬間、洞窟の入口から
「ちょっと待ったぁ!!」
という声が響いてきた。
烈人が声の方へ振り返ると、そこには『Y.E.S-55』の三人が立っていた。
「お前たちは……『Y.E.S-55』……!!」
渚が烈人に声をかけた。
「オーッス! 垂水烈人。ま、話は全部聞かせてもらったんだけどさ、エクスレイヤーを持つのにふさわしいのはお前じゃない。うちら『Y.E.S-55』だ、ってことをその目にしっかり焼きつけろ。……おっとその前に、うちらからのプレゼントだ。ま、アカペラで歌う機会なんかめったにないんだから感謝してほしいんだけどさ!!」
渚の言葉が終わると同時に、『Y.E.S-55』の三人は彼女たちが自費で出している『Y-E-S』を伴奏なしで歌い始めた。
――その人生は誰のものなのさ
君自身のものじゃないのか?
点数に縛られて成績に縛られて
君はこのまま終わるのか?
顔を上げろ 歯を食いしばれ
君を縛る鎖を死ぬ気で引きちぎれ
その向こうには なりたい自分がいる
「YES」と言える自分が――
歌が終わると同時に、『Y.E.S-55』の三人はホークデス、コングデス、ドルフィンデスへと姿を変え、さらにヘルフュージョンしてルシファーデスとなった。
「先生! あれが『デス』です。……見ていて下さい。俺の闘いを!」
烈人はそう言うと、ブレイズチャージャーを起動させ、右手にエヴォルチェンジ・メモリカードを持って両腕を前に突き出した。
「変進!!」
烈人はエヴォルチェンジ・メモリカードをブレイズチャージャーの左メモリスロットにセットし、ブレイゾンへと『変進』した。
「お前ごときに何ができる」
ルシファーデスは冷たく言い放った。
だがブレイゾンは、
「相手がどんなに強大でも、人々の日々の生活をおびやかす奴に対しては、俺は全力で闘う!!」
と言ってブラストエンド・メモリカードを右メモリスロットにセットした。
「Blast End!」の機械音が響き、ルシファーデスは光に包まれた。そしてルシファーデスの体から1、2、3、4、5のホログラフが出現した。
ブレイゾンは飛び蹴りを放ち、ホログラフを蹴り破っていった。
「ブレイズエクスプロージョン!!」
ブレイゾンがホログラフを蹴り破るたびに、「Five」「Four」「Three」「Two」「One」の声が響く。
そして「Blaze-on!!」の声とともに、ブレイゾンのキックがルシファーデスの胸板にヒットし、ルシファーデスは数歩後ずさりした。
ブレイゾンは「爆散」のキーワードを発声し、ルシファーデスに死の宣告を行った。
だが、何も起こらなかった。
「お前には学習能力がないのか?? 狼虎のクリスタルスラストと同時にブレイズエクスプロージョンを喰らったときにも、我はまったく無傷であった。ブレイゾン。お前に我を倒すことはできない。そして、エクスレイヤーを手にするのはお前ではなく我だ。邪魔だからそこから離れろ」
ルシファーデスはそう言うと、右手に持ったソード・オブ・ルシファーを横に振るってダークネス・グレイヴを放ち、ブレイゾンと明峰を洞窟の壁に激しくぶつけた。
ブレイゾンは大ダメージを受け、メモリスロットからエヴォルチェンジ・メモリカードが強制排出されて『変進』が解除された。
明峰は頭を打ったのか、その場に崩れ落ちて意識を失っている。
「明峰先生!!」
烈人の呼びかけにも、明峰は答えるそぶりすら見せない。
その間に、ルシファーデスはエクスレイヤーの突き刺さっている岩の前に立っていた。
「垂水烈人。我がエクスレイヤーを手にする瞬間をその場で見ていろ。……我がエクスレイヤーを手にした暁には、いちばん最初に斬り捨てられる栄誉を、お前に与えよう」
「やめろぉぉぉ!!」
烈人は絶叫しながらルシファーデスのところへ駆け寄った。
しかし、ルシファーデスに足蹴にされ、烈人は洞窟の隅へと蹴り飛ばされた。
「邪魔をするな、と言ったはずだ。お前は我がエクスレイヤーを手にする様子を見ていればよいのだ」
ルシファーデスの右手がエクスレイヤーの柄を握り締めた。そしてルシファーデスはエクスレイヤーを引き抜くべく右手に力を込めた。
しかし、エクスレイヤーはピクリとも動かなかった。
(「そんなバカな!!? 我の力をもってしても、エクスレイヤーを抜くことはできないというのか? そんなはずはない。そんなはずは!」)
ルシファーデスは、今度は両手でエクスレイヤーの柄をつかんで力いっぱい引き上げた。
しかし、今度もエクスレイヤーはピクリとも動かなかった。
(「ウソだ! ありえない!! 我は『デス』の中でも選ばれた存在。その我が、たった一振りの剣を岩から抜くことができないというのか!!?」)
今まで冷静沈着であったルシファーデスの顔に、焦りの色が浮かんだ。
そのときである。
エクスレイヤーはまばゆいばかりの光と衝撃波を放ち、ルシファーデスを洞窟の外まで吹っ飛ばした。
「ぬをぉぉぉぉぉ!!?」
洞窟の外まで吹き飛ばされたルシファーデスは、地面に叩きつけられてダウンした。
烈人は再び立ち上がると、エクスレイヤーの刺さっている岩に歩み寄った。
(「俺がイクサバイバーになったのは、『デス』を倒していけば行方不明になった姉さんに出会えると思ったからだ。人類を『デス』から守りたい、なんてのは後づけの理屈に過ぎない。……俺がエクスレイヤーの力を欲したいと思ったのは、ルシファーデスのような強大な『デス』が現れたからだ。このままでは姉さんのところにたどり着けない。だから俺はエクスレイヤーの力を求めた。自分が今よりももっと強くなるために。……ずいぶん身勝手な話だよな」)
そして烈人はエクスレイヤーの前に立つと、その柄に視線を送った。
(「今の俺はエクスレイヤーを持つに値しない人間だ。だけど、俺はエクスレイヤーを持つにふさわしい人間になってみせる。いや、俺はエクスレイヤーを持つにふさわしい人間に必ずなる……!!」)
烈人はエクスレイヤーの柄に右手をかけて、岩から剣を引き抜く行動に出た。
烈人が右手を上げるのに合わせて、剣は岩から抜けていく。
そしてついに、烈人はエクスレイヤーを岩から引き抜くことに成功した。
(「垂水烈人」)
烈人の脳裏に、低く荘厳な声が響いた。
(「誰だ!? 俺に呼びかけるのは」)
(「私だ。小松明峰が作り出した至聖剣エクスレイヤーだ」)
(「……エクスレイヤー!? お前もリスターと同じように自分の意思を持っているっていうのか?」)
(「ああ、その通りだ。……私は自分の意志で、お前を使い手に選んだ」)
(「なぜだ。どうして俺を使い手に選んでくれたんだ!?」)
(「お前の中に無限の可能性を見つけたからだ。……もしかしたら、お前は私の持つ力に飲み込まれ、絶対的な破壊者になるかもしれない。だがその一方で、お前は私の持つ力を存分に発揮させて、人類の『進化』に貢献する存在になるかもしれない。私はお前に賭けてみようと思ったのだ」)
烈人の抜いたエクスレイヤーは、その右手の中で、光り輝く剣の絵と『Exslayer』という文字が書かれたトレーディングカード状のメモリカードに姿を変えた。
(「私の力が必要になったときは、ブレイズチャージャーの左メモリスロットにエヴォルチェンジ・メモリカードを、右メモリスロットにこのエクスレイヤー・メモリカードをセットしろ。そのとき、お前はこれまでのブレイゾンを超える存在――『ブレイゾンブラスト』へと『変進』する」)
洞窟の外に吹き飛ばされたルシファーデスが起き上がってきた。
「どうやらエクスレイヤーは我ではなくお前を選んだようだな。……ならばもうエクスレイヤーの力など求めぬ! お前ごときにエクスレイヤーを使わせるくらいなら、エクスレイヤーごとお前を粉々に粉砕してやる!!」
ルシファーデスはそう言うと、烈人に向かって突っ込んできた。
烈人はブレイズチャージャーを起動させると、右手にエヴォルチェンジ・メモリカードを、左手にエクスレイヤー・メモリカードを持って両腕を胸の前でクロスさせた。そして二枚のメモリカードをブレイズチャージャーのメモリスロットにセットして叫んだ。
「変進!!!」
烈人の発声とともに、「Blaze-on!」「Blast!!」という機械音声が響き渡った。そして烈人の全身は激しい炎と疾風の入り混じったオーラに包まれた。
炎と疾風が止んだときには、右手に剣を持ち金色の縁取りをされた赤いアーマーに身を包んだ、荘厳さを漂わせている王者――『イクサバイバー・ブレイゾン』のさらなる進化形態・『ブレイゾンブラスト』――がルシファーデスの眼前にその姿を現した。
(「これが……エクスレイヤーの力を手に入れ、疾風の中から生まれた新たなブレイゾンか……!」)
ブレイゾンブラストはキッと顔を上げると、ルシファーデスに向かって名乗りを上げた。
「俺はイクサバイバー……ブレイゾンブラスト!!」
そしてブレイゾンブラストは右手に持ったエクスレイヤーの剣先をルシファーデスに向けて言った。
「「闇より生まれし邪悪な生命、熱き炎で焼き払う。……覚悟はいいな? 殺戮者!!」
ルシファーデスはブレイゾンブラストの気迫に一瞬気おくれしたが、すぐに『デス』としての我を取り戻し、自分の武器であるソード・オブ・ルシファーを構えると、ブレイゾンブラストに向かって突進していった。
絶叫とも気合ともつかぬ雄たけびをあげながら、ルシファーデスはソード・オブ・ルシファーを振り下ろした。
だがブレイゾンブラストはその攻撃をエクスレイヤーでがっちり受け止めると、逆に左斜め下から右斜め上に剣を振るうことでソード・オブ・ルシファーを弾き返し、さらにはルシファーデス本体をも数十メートル先まで吹き飛ばした。
(「すげえパワーだ。『Y.E.S-55』が合体したあの巨大『デス』をあそこまで吹っ飛ばすなんて」)
(「垂水烈人」)
ブレイゾンブラストの絶大なパワーに驚きを感じている烈人の脳裏に、エクスレイヤーからの声が響き渡った。
(「私の柄のトリガースイッチを押すことで、3種類の強力な必殺技・アサルトブラストエンドを発動させることができる」)
エクスレイヤーからの声に導かれるかのように、ブレイゾンブラストはトリガースイッチを1回押した。
次の瞬間、エクスレイヤーから機械音が発せられた。
「Single Blast!」
ブレイゾンブラストは両手でエクスレイヤーの柄を握り、剣の切っ先をルシファーデスに向けると、左半身の構えをして右足で大地を踏み切った。
「シャイニング・ノヴァ!」
ブレイゾンブラストの全身がまばゆいばかりの光に包まれた。そして巨大な光弾と化したブレイゾンブラストはルシファーデスに正面から突っ込んでいき、ルシファーデスの体を打ち抜いた。
ブレイゾンブラストの全身を覆っていた光が消え、ブレイゾンブラストが後ろを振り向くと、そこには低いうなり声をあげながら膝をついているルシファーデスの姿があった。
数秒後、絶叫とともにルシファーデスは爆発し、ルシファーデスを構成していたコングデス、ドルフィンデス、久々野渚が三方向に吹き飛ばされた。
三体ともに大きなダメージを負っていたが、特に渚はホークデスの姿を維持できないくらいの大きなダメージを受けており、その場にへたり込んでいた。
ブレイゾンブラストは彼から最も近いところにいたドルフィンデスに向かって突進しながら、トリガースイッチを2回押した。
「Double Blast!!」
機械音とともにエクスレイヤーの刀身が炎に包まれた。
ブレイゾンブラストは刀身が炎に包まれたエクスレイヤーを両手で振り上げると、その炎の剣を一気に振り下ろした。
「ブレイズ・バスタード・ブレイク!!」
ドルフィンデスは悲鳴を上げる間もなくブレイゾンブラストに一刀両断され、斬られたところから噴き出した炎に全身を包まれて燃え尽きた。
「かなえ!!!」
コングデスと渚の悲痛な叫び声が響いた。しかし、ドルフィンデス――切石かなえはその細胞のひとつ残らず燃え尽きていた。
コングデスはドルフィンデスを斬り伏せたブレイゾンブラストに対して激しい怒りを覚え、コングシャフトをブンブンと振り回しながらブレイゾンブラストに襲いかかってきた。
「よくも……よくもかなえを……!!」
コングデスの怒りのこもったコングシャフトがブレイゾンブラストに迫る。
ブレイゾンブラストはトリガースイッチを3回押した。
「Triple Blast!!!」
機械音とともに、ブレイゾンブラストはその場でジャンプした。そしてエクスレイヤーを右脚にセットするや否や、剣の先端から一筋の光が放たれ、コングデスの胸元をとらえた。
「カイザーエクスプロージョン!!!」
ブレイゾンブラストは、目標をマーキングした光に引っ張られるかのようにコングデスへと突っ込んでいって飛び蹴りを放ち、そのままコングデスの体を打ち抜いて、コングデスの後ろに着地した。
カイザーエクスプロージョンの物理的衝撃力は約130トン、ブレイズエクスプロージョンの十倍の衝撃力である。だが、カイザーエクスプロージョンはその物理的衝撃力で相手を破壊する技ではなく、エクスレイヤーのエネルギーのすべてをブレイゾンブラストの右足に集めて敵を蹴り抜き、「爆散」のキーワードなしに敵を完全に細胞レベルから破壊する技なのである。
「あ……ああ……」
コングデス――栃原佐奈は人間の姿になって言葉にならない声をあげると、その場でがっくりと膝をつき、その数秒後には爆発して跡形もなく砕け散っていた。
「佐奈ぁぁぁぁ!!!」
渚の悲痛な叫び声が再び虚空に響き渡った。
渚は怒りの形相でブレイゾンブラストをにらみつけ、心を黒い闇で覆った。
「ブレイゾン……よくも……よくも佐奈とかなえを……。許さねぇ。てめーだけは絶対に許さねぇ!!!」
熱い涙を流しながら、渚は天に向かって吼えた。
しかし、シャイニング・ノヴァの直撃を受けたことによって渚の体力は著しく低下しており、ホークデスの姿になることさえできなかった。
そんな渚を助けるかのように、彼女の背後から二体の『デス』が突然姿を現して渚を左右から抱え上げた。
「何すんだ! 放せ!! うちは……佐奈とかなえの仇を取るんだ!!」
「……今の渚じゃ無理よ」
二体の『デス』はブレイゾンを倒すんだとジタバタしている渚を制しつつ、右側の『デス』が雷撃を放ち、左側の『デス』が疾風を巻き起こして、ブレイゾンブラストを一瞬ひるませ、その隙に渚を連れて撤退した。
戦いは終わり、辺りに静寂が戻った。
「これが……強くなった『デス』をも制する俺の新しい力……ブレイゾンブラスト……!」
(「そうだ。お前はその力を、正しく制御して使っていかなければならない。それを忘れるな。垂水烈人」)
烈人の脳裏にエクスレイヤーの意思が響いた次の瞬間、ブレイズチャージャーのメモリスロットからエクスレイヤー・メモリカードとエヴォルチェンジ・メモリカードが強制排出され、『変進』が解けてブレイゾンブラストは垂水烈人の姿に戻った。
「そういえば……明峰先生はまだ洞窟の中だったよな!」
烈人はそう言って洞窟へと駆け出していった。
岩で頭を打ち、その場に崩れ落ちていた明峰は、烈人の「明峰先生」と何度も呼ぶ声によってやっと意識を取り戻した。
「……明峰先生。俺はエクスレイヤーに選ばれて、エクスレイヤーを使うことを許されました。そして、俺たちを襲った『デス』は、エクスレイヤーの力を手に入れたブレイゾンのパワーアップ形態、『ブレイゾンブラスト』が追い払いました」
「それはよかったな」
明峰は軽く微笑んだ。
だがその微笑みは、間もなく死を迎えようとする者がこの世に生かされてきたことへの感謝を表すかのような微笑でもあった。
「南北に会ったら伝えてくれ。『今までお前たちにはずいぶんと迷惑をかけた。すまなかった』、と」
「待って下さい! もう死ぬようなこと言わないで下さい!!」
「……科学の力でどれだけ寿命を延ばそうとも、終焉の時は必ずやって来る。だからお前に、これだけは言っておく」
明峰は烈人を鋭く見据え、厳しく、そして温かく最期の言葉を伝えた。
「烈人。この先、どんな辛いことや悲しいことがお前に訪れようとも、決して心を暗い闇に染めるんじゃないぞ……」
明峰は烈人にそう言い残すと、静かに目を閉じて命の終わりの時を迎えた。
そして小松明峰の遺体は急速に崩壊して光の粒子と化し、跡形もなく消え去った。
「明峰先生。俺はエクスレイヤーを扱うのにふさわしい人間になることを誓います。……あの世で、俺の父と一緒に見ていて下さい」
立ち上がった烈人は空に向かってそう言うと、洞窟に背を向け、後ろを振り向くことなくまっすぐに山を降りていった。




