第13話 ~休止(HE-RUDA stop their activity)~
ブレイズチャージャーとスマートセルラーから東西南北新科学研究所のメインコンピュータに常時送信されている信号の発信が突如途絶えた。
「ひとみ。烈人君と殉義君の身に何かあったようじゃ。二人のところへ行くぞ」
東西博士はそう言うと、ひとみに車を運転させ、発信していた信号が途絶えた北東エリアD-28地点へと向かった。
北東エリアD-28地点に到着し、車を降りた東西博士とひとみは、目の前に広がる光景に思わず言葉を失っていた。
『変進』の解除された烈人と殉義が、うつぶせに倒れて身動きひとつしていないのだ。
「レッド! 殉義さん!!」
ひとみは大声で烈人と殉義の名を呼び、二人のところへ駆け寄った。
だが、ひとみが体を揺らしても、名前を呼んでも、烈人も殉義も何も応えなかった。
「そ……そんな……ウソでしょ!? 返事してよ!!」
ひとみの目からは大粒の涙があふれ出している。
涙にくれるひとみに向かって、東西博士は静かに言った。
「今救急車を呼んだ。……大丈夫じゃ。烈人君も殉義君もイクサバイバー。この程度のことで死にはせん」
しばらくして、救急車のサイレンの音が高らかに鳴り響き、救急車から救急救命士が降りてきた。
救急救命士は機敏な動作で烈人と殉義をタンカに乗せると、救急車へと運んでいった。
ひとりの救急救命士が東西博士とひとみに言った。
「二人をサキバサラ中央病院に搬送します」
東西博士は「わかりました」と静かに頭を下げた。
一方ひとみは、
「レッドも殉義さんも大丈夫ですよね!?」
と救急救命士に問いかけていたが、救急救命士は既に次の作業に入っており、ひとみの問いかけに答えることはなかった。
ひとみはやり場のない不安を東西博士にぶつけるかのように問いかけた。
「おじいちゃん。レッドも殉義さんも大丈夫だよね」
東西博士は静かに、だがきっぱりと答えた。
「大丈夫じゃ」
頻発している『連続猟奇殺人事件』の犯人は、人間の進化した存在であり人類の天敵を名乗る『デス』であるということや、『デス』を狩る者・イクサバイバーに関する話題が、最近、サキバサラの街のあちこちで語られるようになっていた。
そしてその風評の中では、「ヒルーダが『デス』を率いる黒幕かもしれない」という話題も出ていた。
『F-Resh!』と『マリンブロッサム』が突然ファンたちの前から姿を消したのは、表向きは『連続猟奇殺人事件に巻き込まれたから』ということになっている。だが、「実は『F-Resh!』も『マリンブロッサム』も『デス』であり、イクサバイバーに倒されたからだ」と主張する者もいた。
こうした風評はヒルーダの人気を著しく下げた。『Y.E.S-55』は、いつどこで行うかわからないゲリラライヴ戦術が受けたのかこんな状況下でも全エリアで非常に高い人気を維持しているが、『スタースプラッシュ』や『Maximum Heart』は「ヒルーダは『デス』じゃないのか」という風評によって、ユニットとしての活動をかなり制限されてしまっていた。
そんな折、舞子はヒルーダトップメンバー全員を事務所に呼び出し、チーフプロデューサーである太地やメインスポンサーである明輝良の前で、静かに『女帝』としての言葉を発した。
「『ヒルーダ』としての活動を当分の間休止します」
この言葉に、一同は驚きの声をあげた。
「どうして活動を休止するのですか!?」
太地はこの場にいる全員を代表して、舞子に問いただした。
舞子は静かに答えた。
「『デス』による連続猟奇殺人の黒幕はヒルーダではないか、という風評がたっているというのは、サキバサラの住人の心を支配しようとしている我々ヒルーダにとって非常によくないことです。……ヒルーダが活動していようがいまいが『デス』は好き勝手に暴れ回っている、つまりヒルーダは『デス』とは無関係である、ということを、サキバサラの住人に体で感じ取ってもらいたいのです」
「ちょっと待った」
舞子の今の言葉に、渚が口をはさんだ。
「マジェスティの今の言い方だと、ま、うちら『Y.E.S-55』も活動を休止しなけりゃいけないって聞こえるんだけどさ、ま、それには納得できないんだけどさ」
「確かにそのようにも聞こえますね」
舞子は静かに答えた。
「ヒルーダ全体としての活動は休止しますが、『Y.E.S-55』はもちろん、『スタースプラッシュ』や『Maximum Heart』というユニット、あるいは個人としての活動については、今までどおり行っていただいて構いません。ただし、その活動は『ヒルーダとは無関係』な、各ユニットまたは各個人の独自の活動であり、事務所は一切関知しません。会場の確保やチケットの販売などといった雑用も含めて、すべて『自己責任』で行っていただきます。……ときに下里さん。記者会見の準備はできていますか?」
「すみません。さっそくテレビ局に連絡を入れます」
太地はそう言うと、あわててサキバサラ中央チャンネルに連絡を入れ、緊急記者会見の設定を依頼した。
「マジェスティ。午後5時からの芸能ニュース枠でアポを取りました」
「ありがとうございます」
舞子は太地にそう言うと、
「春江、千里、稲枝、志都美、渚、佐奈、かなえ。ヒルーダドレスに着替えなさい。会見にはヒルーダの正装をして臨みます。……私は三輪さんのところへ行ってきます。みんなとは別行動になりますが、会見には間に合うようにします」
と、トップメンバーたちに指示を出し、明輝良とともに事務所から出て行った。
「まずい風評がたったものだな。舞子」
明輝良はそう言いながら水割りの入ったグラスを舞子に差し出した。
舞子は差し出されたグラスを手に取ると、小指を噛んで傷をつけ、傷口から出てきた血を一滴水割りの中に垂らした。
舞子の小指の傷は数秒で完全治癒し、舞子は水割りのグラスを明輝良に返した。
「人々の心を完全に我々のものにできれば、ヒルーダが『デス』であるか否か、ということはそれほど問題にはならないと思います。しかし、サキバサラの住人の人心を掌握しきれていない現状においては、この風評は私たちの今までの苦労を水の泡にしてしまいかねません。……ただ不幸中の幸いなのは、渚のいる『Y.E.S-55』が人々から絶大な支持を受けていること。今や、渚のカリスマ性は私を超えたかもしれませんわ」
明輝良は舞子から渡された水割りを一気に飲み干して言った。
「限りなく永遠に近い寿命と、その瞳に見つめられた者を一瞬で魅了する能力を持った『女帝』である君らしくない言葉だな」
「ですが、渚は私のDNAを受け継いだ者。『進化』という意味合いで言えば、あの子が『母親』である私を超えるのは当然ですし、また、そうでなければなりませんわ。屍博士」
舞子は静かに言葉を返した。
舞子に『屍博士』と呼ばれた明輝良は、しばしの間うつむいていた。そしてうめくかのように声をあげた。
「イクサバイバー……。東西南北と垂水激が作り出した『変進』システムを身につけた者たち。あいつらがいなければここまで苦労することはなかったはずだ」
舞子は静かに笑みを浮かべながら明輝良に言った。
「しかし、イクサバイバーは渚たちが徹底的に叩きのめしたと聞いていますわ」
「『叩きのめす』だけではダメなんだよ。『抹殺』しないと。イクサバイバーはまだ死んでいないんだろ?」
明輝良はイライラしたかのようにそう言った。
舞子はそんな明輝良の目の前に体を移動させると、背伸びをして明輝良の唇に自分の唇を重ねた。
「イクサバイバーの正体である、垂水激の息子・垂水烈人と、藤原財団の御曹司である刑事・藤原殉義は渚たちによって大怪我を負わされ、サキバサラ中央病院に搬送されたとのこと。……サキバサラ中央病院で『デス』が動き出せば、今のあの二人では『デス』を止めることはできないはず。いや、むしろ、屍博士の思い通りの展開になると思いますわ」
「そこまで言うのなら、今は君の言葉に期待しよう。……そろそろ記者会見の時間だ。ヒルーダドレスに着替えたまえ」
明輝良はそう言うと、部屋の奥にあるウイスキーのボトルの入った棚の方へ歩を進めた。
「深酒はお体にはあまりよろしくありませんことよ。……行ってまいりますわ」
舞子は明輝良に向かってそう言うと、更衣室に入って白いドレス姿からヒルーダドレスに着替えた。そして明輝良の部屋を出てビルの1階までエレベーターで降りると、待っていた黒塗りの高級車の後部座席に乗り込み、記者会見場であるサキバサラ中央チャンネルへと向かうのであった。
烈人はブレイゾンへと『変進』した姿で、暗闇の空間の中にただひとり存在していた。
道しるべとなる光はまったくなく、烈人は上下も前後左右もわからない状態であった。
そんな烈人の前に、巨大な魔王が出現した。
魔王は静かに巨大な剣を振り下ろし、ブレイゾンを――烈人を一刀のもとに斬って捨てた。
「ぐわぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」
烈人はガバッと跳ね起きた。
「烈人君……!」
烈人の横には、彼が目覚めたことを心の底から喜んでいるかのような表情で烈人を見つめる東西博士の姿があった。
「ここは……?」
「サキバサラ中央病院じゃよ」
東西博士との言葉のやり取りで、烈人は自分がルシファーデスに完敗し深い傷を負ったことを、それをひとみと東西博士が見つけて病院へ運んでくれたことを理解した。
だが、烈人とともにルシファーデスに敗れた殉義の姿は、この病室にはなかった。
「博士。藤原さんはどうしたんですか?」
烈人のこの問いかけに対し、東西博士は重苦しく答えた。
「狼虎はブレイゾンよりも軽装じゃ。そのため、同じ攻撃を受けても、狼虎の方が『変進』している者の受けるダメージは大きくなるのじゃ。……殉義君は今、集中治療室にいる。ひとみは集中治療室前の長椅子で殉義君の無事を祈っていることじゃろう。殉義君の受けたダメージは烈人君よりもはるかに大きいものじゃからな。むろん、君の受けたダメージも非常に大きい。医者は全治3~4ヶ月とか言っていた」
「じゃあ、その間に『デス』が現れたら、俺たちはあいつらの行いを黙って見過ごさなければならないのですか!?」
烈人はふとんの端をぐっと握り締め、激しい口調で東西博士に問いかけた。
東西博士は苦悩の表情を浮かべながら答えた。
「……残念ながら、君の言うとおりじゃな」
東西博士のその言葉に、烈人は強く反発した。
「冗談じゃない! 俺が今ここでのんきに入院生活をしている間にも、サキバサラの街のどこかで、『デス』が人間を襲い、食い物にしてるのかもしれないんですよ。そんなの、黙って見過ごせません!!」
烈人はそう言うと、ベッドから降りようとした。
だがその瞬間。
「……んがぁぁぁっ!!」
烈人の全身を激痛が襲い、転倒した彼は床の上で苦悶の表情を浮かべた。
「まだ無理じゃ。今はおとなしく寝ておれ」
東西博士は厳しい口調でそう言いながら、烈人をベッドに寝かしつけた。
ちょうどその頃、病室のテレビはヒルーダの緊急記者会見の様子を報じていた。
ヒルーダドレスに身を包んだヒルーダトップメンバー――朝霧舞子、森田春江、速星千里、能登川稲枝、香芝志都美、久々野渚、栃原佐奈、切石かなえ――が記者会見場に姿を現した。
そしてマイクを手にした『女帝』・舞子は集まった報道陣に向かってはっきりとした口調で言った。
「本日をもって、ヒルーダは活動を休止します」
報道陣にどよめきが起こる中、舞子は話を続けていた。
「皆さんもご承知の通り、『F-Resh!』と『マリンブロッサム』の五人は、最近頻発している『連続猟奇殺人事件』に巻き込まれて命を落としました。……ヒルーダがこれ以上活動を続ければ、人間を餌としている怪物・『デス』によってメンバーにさらなる犠牲者を出しかねません。そのため、『連続猟奇殺人事件』が解決するまで、ヒルーダは活動を休止することにいたしました。……今までのご声援、まことにありがとうございました」
舞子が頭を下げるのと同時に、他のメンバーも頭を下げた。
「ヒルーダ無期限活動休止」の報は、新聞社も号外を出すほどの大ニュースとなってサキバサラの街全体に伝えられた。
ヒルーダが無期限活動休止するということは、サキバサラの住人の大多数にとってはショックであり、かつ悲しいニュースであった。
「こんな時代だからこそ、ヒルーダが必要なんだよ」
「ヒルーダの歌は、ヒルーダのメンバーの笑顔は、サキバサラにとって必要不可欠なものよ」
そして翌朝には、ヒルーダの事務所があるサキバサラセントラルビルディングの周囲にファンが数百人ほど集まり、ヒルーダの活動休止に反対する激しい抗議を行った。
「……意外ですわね。ヒルーダが『デス』を率いている黒幕だ、という風評がたっているにもかかわらず、これだけの人が事務所の周りを取り囲むなんて」
窓から地上を見下ろしながら舞子はつぶやいた。
そのとき、舞子は正面玄関から『Y.E.S-55』の三人が外に出て行くのを目にした。
「……この件、あの子たちに任せるわ」
舞子はそう言うと、静かに窓際から離れた。
サキバサラセントラルビルディングの正面玄関に現れた渚は、いつものように元気よくファンに向かって叫んだ。
「オーッス! うちら『Y.E.S-55』が、みんなの不満を解消するために出てきてやったぜ!! ……ヒルーダ全体としては、ま、無期限活動休止ってことになっちまったけどさ、ま、うちら『Y.E.S-55』はそんなの関係なしに今までどおり活動していくんだけどさ!」
渚の今の発言に、サキバサラセントラルビルディングを取り囲んでいたファンたちは大いに喜んだ。
「渚ー! 佐奈ー! かなえー! あんたたち最高だよ!!」
「『Y.E.S-55』は私たちに残された最後の希望の光だわ!」
ビルを取り囲んでいたファンたちは、完全に『Y.E.S-55』のとりこになっていた。
そこへ、渚が新たな言葉を発した。
「うちの右手に貼ってあるばんそうこう、ま、これはうちらとファンとをつなぐ絆のしるしだと思ってるんだけどさ」
ファンはすかさず反応した。
「さっそくばんそうこう買ってくるよ!」
「俺も右手にばんそうこう貼って、渚みたいになるよ!」
ファンの好反応に、渚は大いに満足していた。
「みんな、サンキューな! お礼と言っちゃなんだけど、ま、うちのばんそうこうのことを題材にした曲、『KIZUNA bind』、聴いてほしいんだけどさ」
かなえが大型CDプレイヤーをセットし、流れてきた前奏に続いて『Y.E.S-55』の三人は歌い始めた。
――ふと右手を見つめた 日焼けした右の手
ばんそうこうが貼ってあった
思い切ってはがすと、そこには白い肌と治りかけの傷がついていた
この傷は名誉の傷さ 君を守るために 闘って受けた傷なんだ
君を守り抜いて ホッとした瞬間
ばんそうこうを君が貼ってくれた
ばんそうこうは名誉のサイン 君と俺をつなぐ どこにいても揺るがない絆
ふと右手を見つめた 日焼けした右の手
俺はもう一度ばんそうこうを貼った――
歌い終わった瞬間、周囲の空気が震えるかのような拍手の嵐が起こった。
「ヒルーダ全体としての活動は無期限休止するけど、ま、うちら『Y.E.S-55』はいつでも、どこでも、あんたたちファンと一緒だよってこと、忘れないでほしいんだけどさ!!」
渚の言葉に納得したファンたちは、ビルの包囲を解き、各々バラバラな方向へと散っていった。
『Y.E.S-55』がヒルーダ活動休止に抗議する人々を見事なまでに納得させていた頃、烈人の病室に看護師の女性が入ってきた。
「垂水さん、おはようございます。朝食の時間ですよ」
このとき、烈人の病室には烈人と看護師の女性の二人しかいなかった。東西博士はひとみのところへ行き、殉義が意識を取り戻すことを祈り続けている彼女のそばについていたのである。
「いただきます」
烈人はそう言うと、箸を右手に持ち、食事に手をつけようとした。
だが次の瞬間、烈人は食事に手をつけることなく箸を置いた。
「垂水さん。どうなさったのですか?」
不思議そうな顔をして看護師の女性が尋ねる。
烈人は看護師の女性の顔を正面から見ながら答えた。
「看護師さん。あんた、『デス』だろ? あんたの体から、人間を食ったようなにおいがする。そのにおいはあんたの体に染み付いたものだ。香水なんかじゃごまかせはしない。……どうせ、この食事に毒を混ぜて俺を殺そうって魂胆なんだろ。見え見えだぜ」
看護師の女性は驚きの表情を浮かべながら数歩後ずさりした。
「この策略を見破るとは、さすがブレイゾン。……どうやらお前は力ずくで倒さなければならないようだな」
看護師の女性はそう言うと心を黒い闇で満たし、右腕が注射器、左腕が体温計、ナースキャップにナース服という『ナースデス』の姿に変わった。
それを見た烈人は大声で笑った。
「『ひょうたんから駒』とはよく言ったもんだぜ。……まさかあんたがホントに『デス』だったとはな」
「なんだとっ!!?」
「今この病室には俺しかいない。『デス』にとって邪魔な存在である俺を殺すんなら今がチャンスだからな。……しかし面白いように俺のブラフに引っかかってくれるとは。ま、サンキューな」
「ふざけるな!!」
ナースデスはベッドの上の烈人に向かって注射器を振り上げてきた。
烈人はふとんをナースデスに投げつけて相手の視界と動きとを一時的に封じると、ベッドの後ろに置いてあったリスターを左手首に装着した。
「いけるよな、相棒」
烈人はリスターに向かって声をかけた。
「それはこっちの言うセリフだ」
すぐさまリスターはそう返事をした。
「じゃあ……いくぜ!」
烈人はリスター外周部のチャージングジャイロを回転させてブレイズチャージャーを腰に出現させると、右手にエヴォルチェンジ・メモリカードを持ち、ふとんをはねのけたナースデスに厳しい視線を向けた。
「変進!!」
烈人はエヴォルチェンジ・メモリカードをブレイズチャージャーの左メモリスロットにセットした。そして「Blaze-on!」の機械音とともに、烈人はブレイゾンへと『変進』した。
ブレイゾンはナースデスに向かって体当たりをすると、窓をぶち破って外に飛び出した。
ブレイゾンとナースデスが着地したのは、サキバサラ中央病院外来受付窓口のそばの停車場だった。
「な……なんか変な奴が空から降ってきたぞ!」
期せずして、ブレイゾンとナースデスは衆人環視のもとで闘わなければならなくなった。だがそれは、野次馬と化した群衆に死傷者が出ることを示唆している、ということをブレイゾンは気づいていた。
「みんなこの場から離れろ! 俺たちの闘いに巻き込まれたらケガじゃすまない。死ぬかもしれないぞ!!」
ブレイゾンは周囲を囲む群衆に向かって叫んだ。
しかし、ブレイゾンとナースデスとを取り囲んだ群集たちは逃げる様子をまったく見せていない。むしろ、巷で噂の、『デス』と『デス』を狩る者・イクサバイバーとの闘いを生で見られる絶好のチャンスだとばかりに、好き勝手に野次を飛ばしながら、酔っ払い同士のケンカでも見るかのように、ブレイゾンとナースデスに視線を送っている。
「皆さん、ブレイゾンの言うとおりですよ。早く逃げないとあなたたち、死ぬかもしれませんから。……だけど、今のこの状態の方が私にとっては好都合ですけどね」
ナースデスはそう言うと、右腕の注射器の針を伸ばして群集の一人を刺した。
ナースデスに注射針を刺された人は、注射針から全身の水分をナースデスに吸い取られ、干からびたミイラのような姿になってその場に崩れ落ちた。
群衆の中にどよめきが起こった。
今ここで繰り広げられようとしている闘いは、テレビの前であぐらをかきビール片手に見ていられる格闘技中継や特撮ヒーロー番組なんかじゃない。正真正銘、ガチンコの殺し合いである。しかもそれは、下手をしたら自分も巻き込まれて殺されるかもしれない、そういう危険性をはらんでいる。
ここにきて、群集たちは「逃げろ! 俺たちも殺されるぞ!」と叫びながら、ブレイゾンとナースデスの近くから逃げ去っていった。
誰もいなくなった停車場で、ブレイゾンは左肩を前に一回転させてコキリと肩を鳴らし、ナースデスを指差して
「闇より生まれし邪悪な生命、熱き炎で焼き払う。……覚悟はいいな? 殺戮者!!」
の決めゼリフを放った。
ナースデスはブレイゾンをミイラにしてやるとばかりに右腕の注射針を伸ばしてきた。
だがその注射針はソードテクターの盾に跳ね返され、地面に突き刺さって抜けなくなった。
今がチャンスとばかりに、ブレイゾンはアサルトブロウクンでナースデスを吹っ飛ばすと、空中にいるナースデスに向かってブレイズエクスプロージョンを放った。
「爆散」
ブレイゾンの死の宣告とともに、ナースデスは空中で爆発して砕け散った。
周囲に誰もいないことを確認して、ブレイゾンは『変進』を解除した。
次の瞬間、烈人の全身を激痛が襲った。
「んぐわぁぁあ!!」
烈人は絶叫しながらその場に膝をついた。
そして両手も地につけて四つんばいになると、ハァハァと荒い呼吸をした。
「大丈夫か? レッド」
「大丈夫……とは言いがたいが、この程度の痛み、死ぬほどのものじゃないって」
リスターの問いかけに烈人は強気の言葉で返した。
(「俺が『デス』を狩るのは、『デス』がらみの事件で鹿羽根博士とともに行方不明になった姉さんを見つけるためだ。……姉さんを見つけるまで死ねるかよ!!」)
烈人は心に強い意思を持って立ち上がった。
そんな烈人の目に、集中治療室の案内板が飛び込んできた。
烈人は歩みを集中治療室の方に向けた。
集中治療室前の長椅子には、殉義の無事を祈りつつも疲れて眠りこけているひとみと、そんな孫娘に自分の白衣をかけてやった東西博士の姿があった。
「烈人君! いったいどうしたんじゃ!?」
東西博士の問いかけに、烈人は静かに答えた。
「俺の病室に『デス』が現れて、俺を殺そうとしたんです。だけど俺はそいつを返り討ちにしました」
「その傷ついた体でかね!?」
「『デス』が目の前に現れて俺を殺そうとしているっていうのに、『変進』できないほどのダメージを受けたんでしばらく待ってくれ、なんて言えますか?」
烈人の問いかけに、東西博士は返す言葉がなかった。
「それはそうと、博士」
烈人が東西博士に話しかけた。
「ブレイゾンを劇的にパワーアップさせることはできないんですか? 今のブレイゾンでは『Y.E.S-55』に勝てません。……『Y.E.S-55』は今まで闘った『デス』の中で最強の存在でした。三人が各々優れた戦闘能力を持っている上に、三人は文字どおり『三位一体』となって巨大な『デス』へと変化し、俺と藤原さんのブラストエンド同時攻撃でも傷ひとつつかない最強の『デス』となって俺たちを倒しました。……だけど、俺が『Y.E.S-55』に勝てないってことは、俺は鹿羽根博士とともに行方不明になった姉さんを見つけることができないまま死ぬ、ってことにもなりかねません。……俺、そんなの絶対にいやです!!」
烈人の言葉を耳にした東西博士は、うつむいて視線を烈人から切った。
「博士! 今俺から逃げるように目を伏せた、ってことは、ブレイゾンを劇的にパワーアップさせる方法がある、ってことですよね!!? 教えて下さい!! ブレイゾンが劇的にパワーアップできるのであれば、俺はどんなことでもします!!」
東西博士は、烈人の熱く燃える決意表明を聞いて、覚悟を決めたかのように顔をあげて言った。
「わしや垂水博士、そして鹿羽根博士の共通の師匠である小松明峰先生のところへ行くのじゃ。そして、人類が『進化』したイクサバイバーや『デス』が手にすることで無限の力を発揮する、『至聖剣エクスレイヤー』を手に入れるのじゃ」
「『至聖剣エクスレイヤー』……」
烈人はこの最強の武器の名を口の中で何度もつぶやいていた。
エクスレイヤーを手に入れるべく、烈人は東西博士や父の師匠である小松明峰のところへ向かった。
一方、『Y.E.S-55』も舞子の命を受けてエクスレイヤー獲得に向かう。
争奪戦の末、エクスレイヤーは烈人を使い手に選んだ。
そして、烈人はブレイゾンの新たなる姿――ブレイゾンブラストへと『変進』する。
次回:第14話 ~聖剣(Exslayer leads "Blaze-on BLAST")~
10/11 午後公開予定




