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第12話 ~魔王(Defeat of ExSurvivor)~

 DVD『ツインパクト』出演者最終審査会場において『猟奇殺人事件』に巻き込まれて行方不明になった(と、殉義の手によって処理された)『マリンブロッサム』に替わって、北東エリアを主な活動拠点にしている『Y.(ワイ)E.(イー)S-(エス)55(ゴーゴー)』が、北西エリアにも活動の勢力を伸ばしてきた。

 『Y.E.S-55』のやり方はまさに自由奔放、誰にも想像のつかない突拍子な手法で、北東エリアでは最盛期の『スタースプラッシュ』を超える人気を博している。

 その『Y.E.S-55』が北西エリアでも活動を行う。

 北西エリア在住のヒルーダのファン(『マリンブロッサム』のファンだった人々)は、彼女たちの進出に、期待と不安の入り混じった感情を抱いていた。

 そんなある日。東西南北新科学研究所へ通じる暗い路地の入り口に建つAX電器ビルの前に、いきなり『Y.E.S-55』の三人が姿を現した。

 通りがかりの人々に向かって渚が名乗りをあげた。

「オーッス! みんな! うちらが限界ブレイク中の『Y.E.S-55』だっぜぇぃ!!」

「ボクたち、今からここで歌を歌っちゃいます!!」

佐奈はそう言って通行人たちの足を止めさせた。

わたくしたちの曲、『YES! NONSTOP』。聴いて下さい」

 かなえは持ってきた大型CDプレイヤーを地面に置くと、CDプレイヤーに『YES! NONSTOP』の伴奏の入ったCDをセットし、再生ボタンを押した。

 次の瞬間、CDプレイヤーから激しいビートの音楽が流れ始め、『Y.E.S-55』の三人はその音楽の波に身をゆだねるようにして歌い始めた。


――『常識』? ナンセンス!

 そんなもの、誰が決めたんだ?


 心臓が鼓動してる 血液がビートしてる

 すべてはあたしの『意思』のまま


 自由奔放 八方破れ 破天荒なの大歓迎さ

 あたしの前に立ちふさがる壁なんか叩き壊しちゃえ!


 NONSTOP! NONSTOP! NONSTOP! NONSTOP!――


 三人の歌を聴いていた人々は、いつの間にか体が勝手に動き出していた。そして『Y.E.S-55』の歌に乗せて、自分の心のなすがままに自分の体を動かしていた。


――『限界』? ナンセンス!

 そんなもの、誰が決めたんだ?


 心臓が鼓動してる 魂がビートしてる

 すべてはあたしの『意思』のまま


 天真爛漫 百花繚乱 おやくそくなんか完全無視さ

 あたしの行く手阻む奴なんかぶっ飛ばしちゃえ!


 NONSTOP! NONSTOP! NONSTOP! NONSTOP!


 決めろ!! 自分の行き先

 動け!! ただひたすらに

 自分の生き方決めるのは自分以外に A・RI・E・NA・I


 『常識』? ナンセンス!

 『限界』? ナンセンス!

 動き出したんだ あとはゴールまで NONSTOP!!


 ……YES, NONSTOP――


 歌が終わった瞬間、集まった人々から万雷の拍手が巻き起こった。

「みんな、サンキューな!」

手の甲にばんそうこうを貼った右の拳を突き上げながら、渚は集まった人々に向かって彼女らしいスタイルで感謝の意を表した。

「ま、これがうちら『Y.E.S-55』のやり方なんだけどさ。ま、これからもよろしくってことなんだけどさ!!」

 渚のシャウトに、集まった人々も「渚ー!!」「かっこよすぎだぜ!」などとエールを送る。

 佐奈とかなえが締めの言葉を発した。

「ボクたち、ノンストップでこれからも突っ走っていくので置いていかれないようについてきてね!」

「今日はわたくしたちの歌を聴いて下さってありがとうございました。これからも応援よろしくお願いいたします!」

 三人は集まった人々に向かって手を振りながら、雑踏の中へと消えていった。

 『Y.E.S-55』の曲を聴いた人々は、次々に絶賛の声をあげていた。

「この子たちの歌を聴いてると、なんかこう、魂がバンバン熱くなる感じがするよ」

「同感だよ」

「ヒルーダっぽくないところがいいね」

「とにかく、『Y.E.S-55』は要チェックだよ!」


 『Y.E.S-55』がAX電器ビル前でゲリラライヴを行った、という事実を、ひとみはそのライヴが終了してから数分後に知った。

「あーーーーーーーーーっ!! 悔しい!! うちの目の前で『Y.E.S-55』がゲリラライヴしてたなんて!! なんでもっと早く気づかなかったんだろう!!」

 怒り心頭、悔しさを全身にみなぎらせているひとみに向かって、烈人はひとことつぶやいた。

「あの三人の歌のどこがいいんだ? 俺には単なる雑音にしか聞こえないけど」

 烈人のその言葉が、ひとみの怒りと悔しさとを向ける対象を定めさせた。

「レッドはいつもそうじゃん!! ヒルーダの話になると全然興味なさそうな顔をしてヒルーダのことをけなしまくってさ。レッドはサキバサラの住人全員を敵に回す気なの!!?」

 怒りの形相で烈人に迫るひとみに向かって、烈人は「落ち着いて話そうよ」という表情をしながら言った。

「……サキバサラの住人が全員、ヒルーダのファンってわけじゃないだろ? 『すべての』人に愛され支持されるなんてことは通常ならばありえない話だ。もし『すべての』人に愛され支持される者が現れたとしたら、そいつは何らかの方法で人々の心を操作してるんだよ」

「じゃあレッドはヒルーダがサキバサラの住人をマインドコントロールしてる、って言いたいわけ……!?」

「そ……そこまでは言わないけどさ……」

 ここで烈人に幸運が訪れた。

 何者かが、玄関の呼び鈴を鳴らしたのである。

 烈人は「はいはい、今行きますから」と言いながら、ひとみから逃れるかのように、玄関へと駆け出していった。

 ひとり残されたひとみは、やり場のない怒りをぶつけるかのように、烈人の日常時の鍛錬のために天井から吊るしているサンドバックへ思い切り蹴りを入れた。

 バシィという激しい音とともにひとみの蹴った場所はへこみ、この一撃の衝撃でサンドバックはくるくると回転した。


 烈人が玄関を開けると、そこには、麦わら帽子に丸いメガネ、水色のワンピースを着た、長い黒髪の少女が立っていた。

「あなたが垂水烈人さんですね?」

少女はいきなり烈人の名を呼んだ。

「……どうして初対面のあんたが俺の名前を知ってるんだ」

 少女はクスリと笑うと、持ってきた一通の手紙を両手で烈人に差し出した。

「申し遅れました。わたくし、切石かなえと申します。ヒルーダのユニットのひとつ、『Y.E.S-55』の一員です。……この手紙には、わたくしたちからあなたへの、スペシャルライヴの招待状が入っております。あなたのために開くスペシャルライヴ、ぜひいらして下さいね」

 かなえはそう言って烈人に一礼すると、小走りにその場から去っていった。

「……ったく、どういうつもりなんだ。俺を直接指名してライヴに招待するなんて」

烈人はそうぼやきながら、かなえの渡した招待状の封を開いた。


 ちょうどその頃、茶髪で背の高い、黄色いジャケットにジーンズ姿の女性が、サキバサラ警察署職員寮を訪ねていた。

 彼女は307号室の前に立つと、呼び鈴を鳴らした。

 それから少し後、非番で部屋にいた殉義が茶髪の女性の前に姿を現した。

 茶髪の女性は殉義に問いかけた。

「サキバサラ警察署連続猟奇殺人事件対策班の藤原殉義警部補ですね」

「はい。自分が藤原殉義ですが……自分に何かご用ですか?」

 茶髪の女性は、持ってきた招待状を殉義に渡した。

「ボクはヒルーダのユニット『Y.E.S-55』の栃原佐奈です。……この手紙には、ボクたちからあなたへの、スペシャルライヴの招待状が入ってます。あなたのために開くスペシャルライヴ、ぜひ来て下さい」

 佐奈はそう言うと殉義に一礼し、殉義が「ちょっと待って下さい」と呼び止めるのも聞かずに小走りでその場から去っていった。

「……いったいどういうつもりなのでしょうか。自分を直接指名してライヴに招待するなんて」

殉義はそうつぶやきながら、佐奈の渡した招待状の封を開いた。


 烈人と殉義の元に送られた招待状には、なぐり書きのような字でこう書かれていた。


――Dear 烈人(殉義宛の招待状には「Dear 殉義」と書かれている):


 オース! ま、うちが最近サキバサラの話題の中心を突っ走ってる『Y.E.S-55』のリーダー、久々野渚なんだけどさ。

 毎日毎日『デス』を狩りまくっているイクサバイバーのあんたには、ま、ごくろーさん、と言っとくんだけどさ。

 ところで、うちら『Y.E.S-55』からイクサバイバーであるあんたに、とびっきりのプレゼントがあるんだ。

 ま、よーするに、あんたのために開くスペシャルライヴを開催します、ってことなんだけどさ。

 日時は明日の正午。場所は北東エリアD-28地点の工場跡地。イクサバイバー・狼虎が初陣を飾った場所さ。

 どーだい。うちらってば、なかなか粋なことするだろ?


 ま、内容は当日のお楽しみなんだけどさ、うちら『Y.E.S-55』がイクサバイバーをスペシャルライヴに招待するってことの意味をよーく考えて、ま、覚悟しておいた方がいいんだけどさ。

 だ・け・ど、イクサバイバーが『Y.E.S-55』のスペシャルライヴに来なかった、なんてことになったら、あんたは「『デス』を狩るサキバサラの英雄」から「『Y.E.S-55』のスペシャルライヴに来なかった不届き者」になるってこと、ま、忘れないでほしいんだけどさ。


 それじゃあ、あなたのご来場を心からお待ち申し上げております☆ よろしく!!


                         20XX年X月X日  『Y.E.S-55』久々野渚

                                            栃原佐奈

                                            切石かなえ

(最後の署名については、渚、佐奈、かなえの自筆で書かれている)――


「……ふざけやがって」

「……ふざけてますね」

 『Y.E.S-55』からの招待状を読んだ烈人と殉義は、同じように声をあげ、同じように招待状、いや、挑戦状を右手で握り締めていた。


 翌日の正午。烈人はブレイズストライカーで、殉義はシリウスライナーで、『Y.E.S-55』スペシャルライヴ会場である北東エリアD-28地点に駆けつけた。

 バイクから降りてくる二人に向かって、手の甲にばんそうこうを貼った右手を大きく振りながら、渚が挨拶がわりに声をかけた。

「オース! 逃げずに来たんだな。っていうか、来てくれてサンキューな。垂水烈人。藤原殉義」

 烈人は厳しい表情をしてすかさず言い返した。

「なんのつもりだ! こんな殺風景な場所がお前たちのスペシャルライヴの会場なのか!?」

 そんな烈人の言動を茶化すかのように、渚は言った。

「おーこわ。……ま、まずはあんたらのために捧げる歌、『Good bye』を聴いてほしいんだけどさ」

 そして渚の合図とともに、かなえはいつも持ち歩いている大型CDプレイヤーのスイッチを入れ、『Good bye』の前奏を流した。

 『Y.E.S-55』は、烈人と殉義の前で、いつものように歌い始めた。


――あたしと別れるなんてさ あんたの気持ちわからないよ

 容姿端麗 才色兼備 こんなあたしと別れるなんて

 教えてよ 何が原因なんだよ

 あたし、あんたの言うように きっと変わってみせるから


 But time up もう終わり あんたに何を言ってもムダ

 だけどこれだけはあたしが言うよ

 『Good bye』


 この世とさよならなんてさ あんたの気持ちわからないよ

 文武両道 成績優秀 こんなあなたが逝っちゃうなんて

 教えてよ 何が原因なんだよ

 あたし、あんたの苦しみを 背負って生きてみせるから


 But time up もう終わり あんたに何を言ってもムダ

 だけどこれだけはあたしが言うよ

 『Good bye』


 どうしてもっと早く あんたの悩みに気づけなかったんだろう

 どうしてあんたの前で「力になるよ」と言えなかったんだろう


 But time up もう終わり あんたに何を言ってもムダ

 だけどこれだけはあたしが言うよ

 『Good bye』


 そしてあんたの亡骸にキスをした……―


「どういうつもりだ」

烈人は厳しい表情で問いかけた。

 それに対して渚は上から目線で答えた。

「あんたらがこの世で聴く最後の曲だよ。ま、よーするに、あんたらはうちらに倒されてこの世から『Good Bye』するってことだけどさ」

「俺たちがてめぇらに倒されてこの世から『Good Bye』だと……?」

 烈人はハッと気づいた。

「まさか……! てめぇら……『F-Resh!(エフ・レッシュ)』や『マリンブロッサム』と同じ『デス』だったのか!!?」

「お・お・あ・た・り~~~~~~~~☆」

怒声混じりに問いかける烈人を茶化すかのように、渚はおちゃらけな口調で答える。

「今ごろ気づいたのかよ。ま、三流グラドルとかインディー上がりなんかとうちらを一緒にしてほしくないんだけどさ。……とっとと『変進エヴォルチェンジ』しな。待っててやるからさ」

 腕組みをして上から目線で話す渚の態度に、烈人は怒りを覚えた。そしてブレイズチャージャーを起動させ、「変進!!」のコールとともにエヴォルチェンジ・メモリカードをブレイズチャージャーの左メモリスロットにセットし、ブレイゾンへと『変進』した。

 今にも飛びかかっていきそうなブレイゾンに対して、殉義は忠告した。

「烈人君。冷静になって下さい。この闘い、熱くなって自分を見失った方が負けます」

 そして殉義はスマートセルラーの『EVOLCHANGE』アイコンをタップし、スマートセルラーを顔の横に持ってきて「変進!」とコールすると、出現した狼虎チャージャーのバックル部分にスマートセルラーをセットして狼虎へと『変進』した。

 二人が『変進』するのを見届けた『Y.E.S-55』の三人は、心をどす黒い闇で覆いつくした。その闇の深さは、今まで闘ってきた『デス』とは比べ物にならないくらいに深く、光の存在を完全に遮断、排除している。

 そして三人は、渚がタカのような『ホークデス』に、佐奈が巨大なゴリラのような『コングデス』に、かなえがイルカのような『ドルフィンデス』に姿を変えた。

 渚――ホークデスが大きな声をあげた。

「うちらは三人、あんたらは二人。三対二っていうのは不公平だから、ま、うちは手を出さずに闘いを見させてもらうんだけどさ」

「ふざけんな!!」

 ブレイゾンが怒りの声とともにホークデスへと突っ込んでいったそのとき、ドルフィンデスがブレイゾンの前に立ちふさがった。

「あなたのお相手はわたくしがつとめさせていただきますわ」

 ドルフィンデスはそう言うと、超高速のパンチとキックの嵐でブレイゾンを攻め立てた。

「烈人君!」

 狼虎がブレイゾンのところへ加勢に行こうとするのを、コングデスがさえぎった。

「狼虎の相手はボクなんだよね」

 コングデスはそう言うと、背中に背負っていた全長2メートルほどの鉄の棒をつかみ、棒術使いのように身構えると、鉄の棒を振りかざして狼虎に襲いかかった。


 ドルフィンデスの素早い攻撃に対応するべく、ブレイゾンはアクセラレート・メモリカードをブレイズチャージャーの右メモリスロットにセットした。

 機動力が飛躍的にアップしたブレイゾンのスピードはドルフィンデスを超えており、ブレイゾンは形勢不利の状態から徐々に盛り返しつつあった。

 だが、ドルフィンデスは機動力の上がったブレイゾンとの接近戦を意図的に避けるべく大きく後退すると、右の腰に装着していたボウガン――ドルフィンボウガン――を構え、ブレイゾンに悪しき光の矢を次々と放ってきた。

 ブレイゾンは素早い体さばきでドルフィンボウガンの攻撃を回避していたが、高速速射をするドルフィンボウガンの攻撃をかわすのが精一杯で、ドルフィンデスに反撃することができない。

(「レッド。このままじゃやられるぞ。ブレイズトリガーで反撃しろ」)

リスターは烈人にそう提案したが、烈人はその提案を却下した。

「ここでメモリカードをブレイズトリガーにチェンジしたら、あの『デス』は高速移動で翻弄し、ブレイズトリガーの照準を合わせることすらできないだろう。そして再び接近戦に持ち込み、連打を浴びせてくるはずだ」

(「じゃあどうするんだよ!?」)

リスターの怒り混じりの言葉に対し、烈人は冷静に答えた。

「メモリカードをソードテクターにチェンジしてフルスピードで『デス』に接近し、アサルトブロウクンを放つ。そして一気にブレイズエクスプロージョンでとどめを刺す」

 ブレイゾンは今の烈人の言葉を忠実に実行した。右メモリスロットからアクセラレート・メモリカードを抜くと、すかさずソードテクター・メモリカードを右メモリスロットにセット、右前腕に出現した攻防一体の武器であるソードテクターでドルフィンボウガンから放たれる悪しき光の矢を跳ね返しつつ、両足のジェットローラーブレードの出力を全開させてドルフィンデスに向かって突っ込んでいった。そして剣の間合に入る直前でブレイズチャージャー右上のボタンを押し、右腕から剣にかけて炎のエネルギーをチャージした。

 だが、ブレイゾンがアサルトブロウクンを放ったその瞬間、ドルフィンデスは素早くバックステップしてアサルトブロウクンを回避すると、無防備になったブレイゾンの胸に向かってドルフィンボウガンを構え、悪しき光の矢を連射してブレイゾンを吹き飛ばした。

「うぐわぁぁ!!」

 ドルフィンデスの悪しき光の矢を受けた衝撃と自らの技の反動をまともに受けて、ブレイゾンは数十メートル吹き飛ばされてダウンした。

 そんなブレイゾンに向かって、ドルフィンデスは相手をあざ笑うかのように言った。

「『Y.E.S-55』は『F-Resh!』や『マリンブロッサム』とはレベルが違います。……わたくしはあなたとの闘いに臨むにあたり、あなたの戦闘パターンを研究し尽くしてまいりました。あなたがいかなる攻撃をしてこようとも、わたくしはあなたの攻撃を確実に防御し、的確に反撃できますわ」


 一方、狼虎はコングデスのパワーあふれる棒術の前に、自分の得意とする間合を取れずにいた。

 もう少し間合が近ければ、地球上のほとんどの物質に傷をつけることのできるブリザーベルエッジでの剣撃が可能になる。逆にもう少し間合が遠ければ、ブリザーベルショットを連射して攻め立てることができる。

 しかし、今の狼虎とコングデスとの間合は、コングデスが持つ棒を十二分に働かせることができる、いわばコングデス有利の間合であった。

(「このままではダメだ。何とかしないと」)

 コングデスの怒涛の攻撃をギリギリのところで回避しながら、狼虎はこの状況を打破するための手段を考えていた。

 そんな狼虎の脳裏に、一瞬閃光がきらめいた。

(「これだ!!」)

 狼虎は『FLIGHT』アイコンをタップすると、空高く舞い上がった。そしてブリザーベルショットを構えると、空中からコングデスを狙い撃ちにかかった。

 だが狼虎がブリザーベルショットの引き金を引くよりも早く、コングデスの持っていた棒が伸びて狼虎の喉もとを打ち抜き、バランスを崩した狼虎は墜落して地面に叩きつけられた。

「狼虎。『如意棒』って知ってるだろ? ボクの持っているこの棒・コングシャフトは、ボクの『意』の『如』く敵を攻撃する『棒』、まさに『如意棒』なのさ」

コングデスは勝ち誇ったかのようにそう言いながら、墜落してダウンしている狼虎に近づいていった。


 アサルトブロウクンを返され、ドルフィンボウガンから放たれる悪しき光の矢によって大きなダメージを受けながらも、ブレイゾンは「まだ終わっちゃいないぞ」とばかりに、死力を振り絞って立ち上がり、ドルフィンデスをにらみつけた。

「あなたも愚かな方ですね。このまま倒れていたら、わたくしがドルフィンボウガンでとどめを刺して差し上げましたのに。……あなたが今どういう状態でいるか、わたくしにはわかりますわ。全身ボロボロに傷つき、立っているのがやっとの状態。なのになぜ、あなたは立ち上がるのですか?」

 ドルフィンデスの問いかけに対し、ブレイゾンはきっぱりと答えた。

「人々の心の闇から生み出され、人類の天敵となった『デス』を狩る。それがイクサバイバーの使命だからだ!」

 ブレイゾンはそう叫ぶと、今一度、ソードテクターで胸元をガードしつつ、ジェットローラーブレードの出力を全開させてドルフィンデスに突っ込んでいった。

 そんなブレイゾンの行動をドルフィンデスはあざ笑った。

「たった今破られたばかりの攻撃をまた仕掛けてくるのですか? ……あなたって、本当に愚かな方ですわね」

 だが、ブレイゾンの狙いはアサルトブロウクンを決めることではなかった。相手にぶつかるギリギリの間合にまで接近すると、炎の左脚でドルフィンデスを蹴り上げたのである。

「スイクルバーニング!!」

 ブレイゾンの放った蹴りはドルフィンデスの右わき腹にヒットした。そしてそのままドルフィンデスを蹴り上げて吹っ飛ばした。

「きゃぁぁあぁ!!」

 ドルフィンデスは今の攻撃をまったく想定していなかったのか、スイクルバーニングをモロに受けて吹っ飛ばされ、ドルフィンボウガンを手放して地面に叩きつけられた。

 ブレイゾンは一気にとどめを刺すべく、右メモリスロットにブラストエンド・メモリカードをセットした。

「Blast End!」

 立ち上がりかけたドルフィンデスの全身を光が包み込み、ドルフィンデスは身動きが取れなくなった。そしてドルフィンデスからブレイゾンに向かって1、2、3、4、5のホログラフが出現した。

 ブレイゾンは5のホログラフを蹴り破るかのように必殺の飛び蹴りを放った。

「ブレイズエクスプロージョン!!」

 ブレイゾンがホログラフを蹴り破るごとに、「Five」「Four」「Three」と必殺キックが炸裂するまでの残り時間がカウントされる。

 しかし、そこに横槍が入った。

 今まで戦況を見守っていたホークデスが、専用武器であるホークトンファーを構えて割り込み、ブレイゾンのボディに打ち込んだのである。

 ブレイズエクスプロージョンを破られたブレイゾンは大きく横に飛ばされ、ダウンした。

「かなえ。大丈夫か」

ホークデスがドルフィンデスに向かって問いかけた。

 ドルフィンデスはブレイゾンに蹴られた右のわき腹を押さえて立ち上がりながら答えた。

「ブレイゾンがあんな攻撃をしてくるとは、わたくしの想定外でしたわ。……助けて下さってありがとうございます。渚さん」

「礼なんかいいよ。うちらは『三人でひとつ』なんだからさ。かなえは頭がいいから、相手の攻撃をいくらでも想定できるんだけど、その分、想定外の攻撃にはむちゃくちゃ弱い。ま、そんなこと気にする必要なんかないんだけどさ。かなえの弱い部分は佐奈やうちがカバーすっから」

ホークデスはそう言うと、視線をコングデスの方に送った。


 コングデスは、墜落し仰向けに地面に倒れている狼虎のすぐそばにまで近づいていた。そしてコングシャフトを大きく振り上げると、スイカ割りでスイカを割るかのように、コングシャフトを振り下ろした。

 だがその瞬間、狼虎は地面の上を横転してコングデスの足元にまで接近すると、ほとんどゼロ距離からブリザーベルショットを連射した。

「がわぁぁぁぁ!!」

 コングデスはコングシャフトを手放すと、撃たれた箇所を手で押さえながら数歩後退した。

 狼虎は素早く立ち上がると、『BLAST END』アイコンをタップした。

「Blast End!」

 苦悶するコングデスの全身を光が包み込み、コングデスは身動きが取れなくなった。

 狼虎は体勢を左半身ひだりはんみに構え、クリスタルエッジの先端をコングデスの心臓に向けた。

「クリスタルスラスト!!」

 狼虎は激しく大地を蹴って体勢を左半身ひだりはんみから右半身みぎはんみにシフトさせると、クリスタルエッジでコングデスの胸を刺し貫かんとした。

 しかし、そこに横槍が入った。

 ホークデスはホークトンファーを振り上げてクリスタルエッジを弾き飛ばし、クリスタルスラストを阻止すると、狼虎に向かって一気に突っ込み、狼虎の顔にホークトンファーの外側を叩きつけた。

 ホークトンファーを叩き込まれた狼虎は大きく横に飛ばされ、ダウンした。

「佐奈。大丈夫か」

ホークデスがコングデスに向かって問いかけた。

 コングデスはブリザーベルショットで撃たれた胸を押さえながら答えた。

「ボクの攻撃の間合を切ってほとんどゼロ距離から撃たれるとは全然思わなかったよ。……助けてくれてありがとう。渚」

「礼なんかいいよ。うちらは『三人でひとつ』なんだからさ。佐奈はパワーがあるから、ぐいぐい押し込んでいけるんだけど、それをいなされたり懐に飛びこれたりすると弱い。ま、そんなこと気にする必要なんかないんだけどさ。佐奈の弱い部分はかなえやうちがカバーすっから」

ホークデスはそう言うと、駆け寄ってきたドルフィンデスに一瞬目をやった。

 そしてホークデスは、横槍を受けて倒れたところから立ち上がってきたブレイゾンと狼虎に視線を向けながら言った。

「ブレイゾン。狼虎。ま、さすが『F-Resh!』や『マリンブロッサム』に勝っただけのことはあるんだけどさ。……でもな、『Y.E.S-55』ってのは『三人でひとつ』なのさ。見せてやるよ。うちらの真の力を!!」


 ホークデスはコングデスとドルフィンデスに目配せした。

 コングデスとドルフィンデスはうなずいてそれに応える。

 そしてホークデス、コングデス、ドルフィンデスの三体の『デス』は、神に祈りを捧げるかのように、両手を胸の前で組み、一斉に叫んだ。

「ヘルフュージョン!!!」

 三体の『デス』は黒い闇の塊へと変わりながら近づいていき、融合してひとつの巨大な黒い闇の塊となった。

 そして黒い闇の中から、身長3メートル程度の、背中に翼を生やし、全身を鎧で覆い、右手に巨大な剣を持った一体の『デス』が姿を現した。

「我が名は『ルシファーデス』。人類の天敵である『デス』に対しては神のような存在であり、『デス』を狩ろうとするイクサバイバーにとっては魔王のような存在である」

 『ルシファーデス』と名乗った巨大な『デス』は、ブレイゾンと狼虎に向かって厳しい視線を投げかけた。

 ブレイゾンと狼虎は、この巨大な『デス』が放っているオーラの大きさに思わず息を呑んだ。

「な……なんだよこいつ……」

「これほどの悪しきオーラを持つ『デス』がいるなんて……信じられません」

 だが、ブレイゾンは、狼虎は、『デス』を狩る宿命を背負ったイクサバイバーである。相手が『デス』であるならば、たとえどんなに強大な存在であっても、狩らなければならない。

 ブレイゾンはルシファーデスの方を向き、左肩を一回前に回転させてコキリと音を鳴らすと、

「闇より生まれし邪悪な生命いのち、熱き炎で焼き払う。……覚悟はいいな? 殺戮者!!」

と言ってルシファーデスを指差した。

 そして狼虎はブリザーベルエッジの切っ先をルシファーデスに向けると、

「『デス』は法では裁けぬ存在。ならば自分がお前に判決を言い渡す。……死刑だ」

と言い放った。

 ルシファーデスはイクサバイバーのこの決めゼリフを鼻で笑ってのけた。

「お前たちの力では、われを倒すことはできぬ」

「……やってみなけりゃわからねぇだろ!!?」

ブレイゾンはルシファーデスに向かってそう言い返すと、再びブラストエンド・メモリカードをブレイズチャージャー右メモリスロットにセットした。

 そして狼虎は『BLAST END』アイコンをタップし、ブリザーベルにクリスタルエッジを出現させると、左半身ひだりはんみの構えを取った。

 「Blast End!」の機械音とともに、ルシファーデスは光に包まれた。

「ブレイズエクスプロージョン!!」

「クリスタルスラスト!!」

 ブレイゾンのブレイズエクスプロージョンはルシファーデスの胸板を蹴り込み、狼虎のクリスタルスラストはルシファーデスの腹部を刺し貫いた。

 そしてブレイゾンと狼虎はルシファーデスに対して死の宣告を放った。

「爆散」

「閃壊」

 しかし、何も起こらなかった。

 ルシファーデスは、ブレイゾンの必殺技・ブレイズエクスプロージョンと狼虎の必殺技・クリスタルスラストを同時に喰らっても、まったくダメージを受けることなく、魔王としての荘厳なオーラを放ちながら、その場に立っていた。

「……これで終わりか?」

魔王は無力な二人の戦士に向かって問いただした。

 ブレイゾンも、狼虎も、返す言葉がなかった。完璧に必殺技を決めたというのにまったくダメージを受けていないこの怪物を相手に、これ以上どうやって闘えばいいのか、烈人にも殉義にもわからかった。

「では今度は(われ)の番だな」

 ルシファーデスは右手に持った剣――ソード・オブ・ルシファー――を左から右になぎ払った。

「ダークネス・グレイヴ!!!」

 刀身から繰り出された猛烈な剣気をブレイゾンと狼虎はまともに喰らい、アーマーが大爆発を起こした。

「ぐわぁぁぁぁぁぁ……!!!」

 この絶叫が、ブレイゾンと狼虎の最後の言葉となった。

 ダークネス・グレイヴを喰らったブレイゾンと狼虎は、がっくりとその場に膝をついた。

 次の瞬間、ブレイズチャージャーの左メモリスロットからエヴォルチェンジ・メモリカードが強制排出されてブレイゾンの『変進』が解除され、垂水烈人の姿に戻った。そしてスマートセルラーは狼虎チャージャーから地面に落ちて狼虎の『変進』が解除され、藤原殉義の姿に戻った。

 『変進』が解除された二人はそのままゆっくりとうつぶせに倒れた。

 二人の倒れた瞬間、その場に砂ぼこりが舞い上がった。

「これでイクサバイバーは終わりだな」

 ルシファーデスはそうつぶやくと、黒い翼を広げて空高く舞い上がり、その場から飛び去っていった。


 吹きすさぶ風が砂ぼこりを舞い上げ、二人の顔や体は砂まみれになった。

 だがそんな状況に陥っても、二人は身動きひとつしなかった。

 『デス』を狩る者・イクサバイバーは、魔王のような強大な『デス』の前に、完全に敗れ去ったのである。

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