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第11話 ~清草("Marine Blossom", the independent star)~

「私、『ツインパクト』の男女ペア、藤原さんと一緒に出る!!」

 ひとみの突拍子もない発言に、烈人は目を丸くして驚きの声を上げた。

「はぁぁぁぁ??? なに言ってんだ? わけわかんねーよ」

「ヒルーダに興味のないレッドは知らないんでしょうけど、『マリンブロッサム』結成3周年記念DVD『ツインパクト』に出演する男女ペアの募集があったんだよ。ヒルーダに興味のないレッドに頼んだって、どうせ出てくれないんでしょ!? ……だから、私は藤原さんと一緒に出ることに決めたの!」

ひとみは烈人に向かってそう言い放つと、甘えるかのように上目遣いで殉義に懇願した。

「藤原さん。お願いします。一緒に出てくれますよね??」

「わかりました」

殉義はきっぱりと答えた。

「自分なんかでよろしければ、『ツインパクト』出演者募集、ひとみさんのパートナーは自分がやらせていただきます」

 ひとみは満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!! ……じゃあさっそく応募の手続きしてきますね!」

 ひとみはウキウキしながら東西南北新科学研究所へと帰っていった。烈人の横を通り過ぎる瞬間、彼に向かって憎々しげにアカンベーをしながら。


 革命党の生き残り・オオカミデスの毒牙から逃れた『マリンブロッサム』の二人は、ただちにその足でヒルーダ事務所へ向かった。

「清音。草江さえ。何しに来たんだ」

ヒルーダ事務所に現れた清音と草江に対して、太地は冷たく問いかけた。

「サキバサラの全エリアに放送されている番組に、革命党の生き残りの乱入を許すとはどういうことだ!?」

 清音と草江は申し訳なさそうに頭を下げつつ太地に説明した。

「この失態のお詫びと、事後の対応の相談をしに参りました」

「ゲストの三人組が出番前の控室で革命党の生き残りに殺されていたのは、私たちの想定外でした。しかし、番組を壊した革命党は、清音と私が始末しました」

 そこへ、太地の後ろから『Y.(ワイ)E.(イー)S-(エス)55(ゴーゴー)』の三人が姿を現した。

 かなえが、佐奈が、渚が次々に言葉を投げかけていく。

「……会場に現れた革命党の生き残り、総社さんと常盤さんが始末なさったのは一体だけですわよね?」

「あとの二匹はイクサバイバーがしたんすよ」

「ま、あのときたまたま、うちらがFMサキバサラで取材受けてたから、あんたらのラジオが放送事故にならなくて済んだんだけどさ。……感謝しろよ、うちらに」

 太地が渚の言葉を付け足した。

「革命党の生き残りが乱入したとき、機転を利かせて放送の内容を『Y.E.S-55』のインタビューに切り替えたのだ」

太地は清音と草江に向かってそう言うと、『ピュア☆Hearts』の放送を録音していたテープを再生して聞かせてみせた。


――「次は、『笑魂しょうこん)34(サーティフォー)』の皆さんの漫才をお送りします!」

 「『笑魂34』の皆さん、よろしくお願いします!」

 「腐蘭家フランケです」

 「悪岡実オオカミです」

 「怒拉嬉楽ドラキラです」

 ザァァアァァァァ……

 「番組の途中ですが、野外スタジオの放送機器が故障したため、Cスタジオに来ていただいている『Y.E.S-55』のインタビューの様子をお送りいたします」――


「ま、うちらに『ありがとう』くらい言ってくれてもいいんじゃないの? 『セネ』、『トッキー』」

 清音と草江は渚の言葉に素直に従った。

「ありがとう……ございます」

「ま、さすがはインディーからヒルーダのトップメンバーに上がってきただけのことはあるんだけどさ。能登川や香芝とはぜんぜん違うね」

渚は上から目線で清音と草江の行動を評価した。

 だが、すぐに渚は冷たく言い放った。

「でもさ、ま、あんたたちには悪いんだけどさ、あんたらが出てたときより、うちらが出てたときの方が反応よかったんだよね~☆」

 渚の言葉に合わせて、かなえは肩掛けかばんからタブレットを取り出した。

 かなえのタブレットの画面には、FMサキバサラの放送の聴取率が表示されている。

「朝10時、『ピュア☆Hearts』放送開始時点の聴取率は7.5パーセント。歌が終わりDVD『ツインパクト』出演者募集の告知があった直後は11.7パーセント、総社さんと常盤さんが出ていらした時間帯の瞬間最高聴取率を記録しています。その直後のゲストの登場で聴取率は8.2パーセントにまで下がりましたが、わたくしたちのインタビューに放送が切り替わって1分で、聴取率は17.8パーセントになりました。その後も聴取率は安定し、放送終了時の聴取率は20.1パーセントでした」

「サキバサラ随一のラジオパーソナリティを擁する番組より、ボクたちのインタビューの方が注目されたんじゃ、『マリンブロッサム』の立つ瀬はないっすよね」

「……ま、インディー上がりのあんたらがうちらのレベルについていけないのは仕方ないんだけどさ、セネもトッキーもうちらの先輩なんだからさ、ま、もっと頑張ってほしいんだけどさ」

 『Y.E.S-55』の三人は、言いたいことを言うと、そそくさとヒルーダ事務所から出ていった。


 かなえと佐奈と渚の言葉が、清音と草江の胸に突き刺さっていた。

 だが、そんな傷心の二人に、太地の言葉がさらに追い打ちをかける。

「『ピュア☆Hearts』の放送を革命党の生き残りに邪魔され、観客に死傷者を出してしまったのはまぎれもない事実だ。お前たちにはしばらくの間謹慎してもらう。……DVD『ツインパクト』の制作も中止だ」

「待って下さい!!」

清音と草江は同時に声を発していた。

「公開生放送に来て下さったお客様を革命党の生き残りから守れなかったのは、確かに私と清音の責任です」

「ですが、イレギュラーな形でヒルーダに入った草江と私にとって、『ツインパクト』は『マリンブロッサム』3年間の活動の集大成なんです! 私たちがヒルーダの一員として活動してきた証しなんです!」

 清音と草江は太地に向かって深々と頭を下げて頼んだ。

「どうかお願いします! 『ツインパクト』、やらせて下さい!!」


「……下里さん。私たちからもお願いするわ。やらせてあげて下さい」

白いドレスに身を包んだ舞子が、そう言いながら事務所の奥から現れた。

 そして舞子の横には、ヒルーダの最大のスポンサーであり、ヒルーダの事務所があるサキバサラセントラルビルディングのオーナー・三輪明輝良の姿があった。

「マジェスティ! それに三輪さんまで……」

 太地が苦虫を潰したような表情を浮かべる中、明輝良は静かに口を開いた。

「草江と清音をヒルーダに入れたのは僕です。……『サキバサラの夜のマドンナ』と呼ばれ、カリスマ的人気を誇っていた深夜ラジオパーソナリティの草江。この街で最も権威のある歌唱賞である『サキバサラ歌謡グランプリ』を受賞した、圧倒的歌唱力の持ち主である清音。彼女たちがヒルーダに加わることで、ヒルーダの人気は飛躍的にアップしましたよね」

「確かに……三輪さんのおっしゃる通りですが……」

「彼女たちの功績に報いてあげましょう」

「もう一度お願いするわ。やらせてあげて下さい」

 オーナーの明輝良と『女帝エンプレス』の舞子にそこまで言われては、太地も譲歩せざるをえない。

「……わかりました。『マリンブロッサム』の謹慎ならびにDVD『ツインパクト』制作中止は撤回します」

「ありがとうございます!!」

清音と草江は太地と明輝良と舞子に向かって深々と頭を下げると、出演者オーディションの準備をするため事務所から出ていった。

 『マリンブロッサム』の二人が姿を消したのを見届けると、舞子は「三輪さんのところへ行ってきます」と太地に言い残し、明輝良とともにサキバサラセントラルビルディング最上階へ移動した。


「……彼女たちの実力なら、あの程度の『デス』は苦もなく叩き潰してくれると思ったんだが。二人で一匹だけ。あとの二匹はイクサバイバーに始末されたというのが口惜しい」

椅子に深々と腰掛けながら、明輝良は悔しげに言葉を発した。

「ですが、そのおかげで渚たちの実力が本物であることを知らしめることができましたわ。万が一に備えて渚たちをFMサキバサラに行かせたのは正解でしたわね」

明輝良の悔しさをやわらげるかのような柔らかい声で舞子は言った。

「……渚は特別な存在だからな。清音や草江とは違うんだよ」

明輝良は満足げにそう言いながら、机の上に置いてあった水割りのグラスを舞子に突き出した。

 舞子はグラスを受け取ると、左手の小指を噛んで軽く傷をつけ、傷から出てきた血液を一滴水割りの中に垂らした。

 それから二、三秒後、舞子の小指の傷はきれいに修復された。

 そして舞子はうっとりとした笑みを浮かべて明輝良にグラスを渡し、問いかけた。

「でしたらなぜ、清音や草江にもう一度チャンスをお与えになったのですか? ……しかばね博士」

 舞子に『屍博士』と呼ばれた明輝良は、彼女の血液の入った水割りを一気に飲み干して答えた。

「決まってるじゃないか。我々にとって最大の障壁であるイクサバイバーを抹殺するためさ」

 そして一息つくと、明輝良は舞子に笑みを送りながら言った。

「……君が提供してくれる『生命いのちのエキス』はよく効くよ。今ので五年は長生きできそうだ」

 舞子も笑みを浮かべながら、

「これはすべて博士の研究の成果ですわ。私の力じゃありません。……私を今の私にしたのは屍博士ですけどね」

と皮肉っぽい言葉を明輝良に返していた。


 ひとみが殉義をパートナーにしてDVD『ツインパクト』出演者募集に応募してから一週間後。ひとみのところに一次審査通過の連絡が届いた。

 ひとみはさっそく殉義を東西南北新科学研究所に呼び出した。

「藤原さん! やりましたよ! 私たち、一次審査をクリアしました!!」

研究所に現れた殉義に向かって、興奮した感じでひとみは言った。

 烈人は冷めた目でひとみに問いかけた。

「そのくらいでどうして藤原さんを呼ぶ必要あるんだよ?」

 だが、烈人の嫌らしいツッコミにも、今のひとみはまったく動じない。

「二次審査は藤原さんと私のツーショット写真が必要なんだよ!」

ひとみは烈人に向かって憎々しげにそう言いながら、殉義とのツーショット写真用の服に着替えるため自分の部屋へ入っていった。

「藤原さん」

烈人は殉義に声をかけた。

「どうしてヒトミンとペアを組むことをオッケーしたんですか?」

「この企画に『デス』のにおいを感じたのです」

殉義はすぐさま答えた。

「……ひとみさんと自分が最終審査に臨むことになったときは、『マリンブロッサム』の二人が審査員として現れるでしょう。もし彼女たちが『デス』であったとしたら、自分ひとりでは彼女たちを相手にするのは難しいでしょう。ですから、最終審査のときは『付き添い』をお願いします」

 ヒルーダに興味のない烈人のこと、普通なら「イヤです」と答えるところだが、『デス』が絡んでくるとなれば話は別だ。

 烈人は「わかりました」と返事をした。


 東西博士の撮ったひとみと殉義とのツーショット写真はただちに現像され、ひとみはその写真をさっそくDVD『ツインパクト』出演者募集先に送付した。

 そして数日後。ひとみのところに、最終審査の案内が届いた。

 ひとみはもう上機嫌で、さっそく殉義に最終審査の日時と場所をメールした。

「おいヒトミン。まだ出れるって決まったわけじゃないのになに浮かれてんだよ」

 だが烈人の冷や水も、今のひとみにはまったく効果がなかった。

「藤原さんと私が二人一緒に『マリンブロッサム』の前に出る……。それだけで私、十分幸せだわ~☆」

 烈人は今のひとみの言葉にあきれた顔をしたが、すぐに真顔になって言った。

「ヒトミン。最終審査には俺もついていくからな。藤原さんに付き添いを頼まれたから」

「え~っ! レッドも来るのぉ~??」

ひとみは不満そうな顔をして言ったが、すぐに

「でも藤原さんが来いって言うんじゃ仕方ないよなぁ……」

と言いながら、やり場のない怒りを、フグのように膨らませたほっぺたに込めていた。


 最終審査の日がやってきた。

 東西南北新科学研究所に現れた殉義は、新品の白のスーツに身を包み、白いYシャツに白のネクタイという服装をしていた。靴も新品の白い靴である。ワンポイントのアクセントとして、胸ポケットから青いハンカチのようなものが見える。

殉義のその姿は、どこから見てもいわゆる『イケメン俳優』であった。

「うわぁ~っ! 藤原さん超かっこいい!! どっかの誰かさんとは全然違うわ」

よそ行きのドレスに身を包んだひとみは、殉義を褒め称えるとともに、いつもと同じ赤ずくめの服装をしている烈人に冷ややかな目線を送った。

「……主役のヒトミンたちが遅刻したなんての、シャレにならないからな。とっとと行くぞ」

烈人は不満そうにそうぼやきながら通りすがりのタクシーを拾うと、後部座席にひとみと殉義を乗せ、烈人は助手席に乗り込んで、最終審査会場である北西エリア住民ホールへと向かった。

 住民ホール入口で、三人はスタッフの男に声をかけられた。

「『マリンブロッサム』のDVD『ツインパクト』出演者最終審査に来られたのですよね」

「そうですが」

殉義が答える。

「……ご存知だと思うのですが、審査を受けていただくのは男女一組のペアです。三人ではありませんが」

 スタッフの男のその言葉には烈人が答えた。

「それなら気にしなくていいよ。俺はこの二人の付き添いで来ただけだから」

「これは失礼いたしました」

スタッフの男はそう言って頭を下げた。そして、

「最終審査を受けられるお二人は左側の部屋に、付き添いの方は右側の部屋にお入り下さい」

と言った。

「ちょっと待った」

烈人がスタッフの男の言葉に口を挟んだ。

「付き添いは別の部屋ってどういうことだよ。……最終審査は非公開なのか?」

「はい。誠に申し訳ございませんが、最終審査は非公開となっております」

スタッフの男が答える。

「……付き添いの方には、総社清音のミニライヴならびに『マリンブロッサム』が過去に出したDVDをお楽しみいただければと存じます」

 今度はひとみがスタッフの男に尋ねた。

「じゃあ審査員はトッキーだけなの?」

「いいえ。総社清音と常盤草江の『マリンブロッサム』は二人揃って審査を行います。他にはDVDのプロデューサーが審査員となります」

スタッフの男は丁寧にそう答えた。

 殉義は

「ひとみさん。審査会場へ行きましょうか」

と言ってひとみの手を取ると、彼女をエスコートするような感じで左側の部屋へと向かった。

 そのとき、ひとみの首筋辺りが妙に紅くなっているのを、烈人は見逃さなかった。

「ヒトミンは藤原さんのようなタイプが好みなのか。……ま、確かに恋人同士に見えないこともないがな」

 そして烈人はひとつ大きく伸びをすると、

「じゃあ俺は一人さびしく待つことにしますか」

と言って右側の部屋へ入っていった。


 烈人の入った部屋には男ばかりが入っていた。そのほとんど全員が『マリンブロッサム』のファンであり、「早くセネちゃん来ないかな」などとしゃべりながら、清音の来るのを今か今かと待っている。

「……ったく、暑苦しいヲタどもにはついていけねーや」

烈人はそうつぶやくと、両手を頭の後ろで組み、部屋の後ろの壁にもたれかかった。

 数分後。部屋の前方の一段高いステージのような場所に、ヒルーダドレスを着た総社清音が姿を現した。

 その瞬間、部屋にいたファンたちは総立ちになり、「セネちゃーん!!」と清音のニックネームを呼ぶ。

「みなさんこんにちは。総社清音です。……今日は『ツインパクト』出演者最終審査に来て下さってありがとうございます。でも、申し訳ないのですが最終審査は公開できません。そのお詫びといってはなんですが、しばらくの間、私の歌で楽しんでいって下さい!」

 清音の言葉に、ファンたちは声援とも咆哮ともつかぬ声をあげる。

 そして前奏が流れ、清音一人の名前で出している歌『ほしいの。』を清音は歌い始めた。


――私、あなたがほしいの。

 私、すべてがほしいの。

 あなたのことを独り占めしたい

 だから私、あなたを逃がさない


 スポーツ万能 成績優秀

 あなたはパーフェクトなひと

 あなたのそばには いつも女の子が

 あなたのことを ちやほやしてる


 だけど私、これだけは譲れない

 だから私、悪女になってもいい


 私、あなたがほしいの。

 私、すべてがほしいの。

 あなたのことを独り占めしたい

 だから私、あなたを逃がさない――


 「清音」の名前の通りに、澄んだ清らかな歌声が響き渡っている。

「へぇぇ……意外と歌上手じゃん」

 清音の歌声は、ヒルーダに全然興味を持たない烈人をして「上手い」と言わせしむるほどのものであった。

 だが、間奏に入ったところで異変が起こった。

「実は私、今とってもおなかがすいてるんです」

突然、清音がそう言った。

「私の好物は、生きた人間なんです。だから今から、皆さんをいただきます。……私、あなたたちがほしいの。」

清音はそう言うと、心を暗い闇で満たし、細長いスピーカーのような『デス』――ヴォイスデス――に姿を変えてファンを襲い始めた。

 部屋の中はパニック状態に陥った。

「セネちゃんが化け物になったぁぁぁぁ!!」

「助けてくれぇぇぇ!!」

 人々は我先にこの部屋から脱出しようと、出口のドアに群がった。

 しかし、鍵がかかっているのか、ドアは開かない。

「……無駄よ」

既に数人を喰らったヴォイスデスが、逃げようとする人々に絶望を与えるかのように言った。

「このドアは私の意志でロックされているの。……あなたたち全員を私が食べ終わるまで、このドアは開かないわ」

「さて、それはどうかな」

何者かの声が部屋に響き渡った。

「誰!?」

 ヴォイスデスがその声の方に顔を向けると、そこには赤い髪をした、赤い服に身を包んだ男――垂水烈人が立っていた。

「開かないドアならぶち壊すまでのことだ」

烈人はそう言うと、チャージングジャイロを回転させてブレイズチャージャーを起動させた。そして右手にエヴォルチェンジ・メモリカードを持ち、両腕を前に突き出した。

「お前は……! まさか……イクサバイバー!!?」

「大当たりだぜ。『セネちゃん』」

烈人はヴォイスデスの問いかけにそう答えると、

変進エヴォルチェンジ!!」

の発声とともにエヴォルチェンジ・メモリカードをブレイズチャージャーの左メモリスロットにセットした。

 そして「Blaze-on!!」の音声とともに、烈人はブレイゾンへと『変進』した。

 ブレイゾンは、すぐさまブレイズトリガー・メモリカードをブレイズチャージャーの右メモリスロットにセットし、ブレイズトリガーを出現させた。

「お前ら! 危ねぇからちょっとそこをどけ!!」

ブレイゾンはドアの周りに群がっている人々に向かってそう叫ぶや否や、ブレイズトリガーから炎の光弾を連射し、ドアのロックを強引に撃ち破った。

 ドアは大きな音を立てながら外側へと倒れ、人々はこれ幸いとばかりに、ブレイゾンがこじ開けた出口から一斉に逃げ出した。

「ブレイゾン……貴様……」

ヴォイスデスは不快そうな声をあげた。

 ブレイゾンはヴォイスデスの方に向き直ると、左肩を一回前に回転させてコキリと音を鳴らし、

「闇より生まれし邪悪な生命いのち、熱き炎で焼き払う。……覚悟はいいな? 殺戮者!!」

と言ってヴォイスデスを指差した。


 一方、殉義とひとみの入った左側の部屋では、ペアごとに席が用意され、最終審査に臨むペアが仲良く座って審査員の登場を待っていた。

 殉義とひとみも指定された席に座り、審査が始まるのを待っていた。

「あの……藤原さん」

恥ずかしそうに頬をほんのり紅くしながら、ひとみが殉義に声をかけた。

「なんでしょうか」

「今日は本当にありがとうございます。……それと、藤原さんのこと、『殉義さん』って呼んでいいですか?」

 殉義のことを初めて名前で呼んだひとみは、「きゃっ! ……殉義さんのことを名前で呼んじゃったよ」と、完全に恋する乙女モードである。

 そんなひとみに対して、殉義は優しい声をかけた。

「自分のことをどう呼んで下さっても、自分は構いませんよ。……自分の方こそ、今日はありがとうございます。ひとみさんのような素敵な女性と一緒にいられるなんて、自分の仕事の性質上、めったにありませんからね」

「素敵だなんて……。私みたいな、ドジでがさつで注意力散漫な女の子でもいいんですか? 殉義さん」

「ひとみさんがドジでがさつで注意力散漫だなんて、そんなことありません。……烈人君が言ったのですか?」

 頬を赤らめたまま、ひとみは小さくうなずいた。

 殉義はあきれた顔をして言った。

「……烈人君には女性を見る目がないみたいですね。こんなに素敵な女性がいつもそばにいるのに」

「殉義さん。レッドのことを悪く言わないで下さい。レッドは私にとって幼なじみなんです」

ひとみは急に真剣な顔をして殉義にそう言った。

「ごめんなさい。……自分、ひとみさんに対する烈人君の態度が冷たいな、って思ったものですから」

殉義はすかさず詫びた。

「あ、気にしないで下さい。レッドは元々そういう奴なんです。不器用というか無愛想というか」

ひとみは言葉を返した。

 殉義はすかさず言った。

「……ひとみさんは烈人君のことが好きなんですね」

 殉義のこの発言に対し、ひとみは

「違います! そんなこと全然ありません! レッドなんか、殉義さんの足元にも及びません。レッドは単なる幼なじみでしかありません」

と、殉義の「ひとみさんは烈人君のことが好きなんですね」という言葉を全否定した。

 そしてひとみは心の中でつぶやいていた。

(「……今、私が好きなのは殉義さんなんです」)


 DVDのプロデューサーと『マリンブロッサム』の常盤草江が審査会場に姿を現した。

「『ツインパクト』出演者最終審査に来て下さいましてありがとうございます」

草江が審査を受けに来た人たちに向かって言った。

「……ここに来て下さった皆さん全員に出演していただきたい、というのが私の正直な気持ちですが、作品の都合上、ここにいらっしゃる方々の中から、作品にふさわしい方々を選ばせていただきたいと思います。ですが、これだけは言わせて下さい。選ばれた方々が優れていて、選ばれなかった方が劣っている、ということではありません。たまたま、作品のイメージに合うか合わなかったか、ただそれだけのことです。ここにいらっしゃる方々は、どのペアもそれぞれ独自の輝きを持ったすばらしい方々です。出演者に選ばれようが選ばれなかろうが、皆さんそれぞれの場所で、今以上に輝いた生活を送っていただきたいと思います」

 草江の挨拶に対し、最終審査を受ける人々の中から拍手が起こった。

 拍手の鳴り終わるのを待って、草江が再び口を開いた。

「もうすぐ総社清音もここに来ます。清音がここに来たら、最終審査を開始したいと思います」

 だが草江のその言葉があってから数分後、部屋の外が急に騒がしくなった。

 そして最終審査の付き添いで来た人が部屋の扉を開けると、「セネちゃんが突然化け物になって俺たちを襲ってきたんだ。やばいよ。みんなも早く逃げろ!!」と大声で叫んだ。

 審査会場に驚きの声があがった。

 草江は「清音……何やってんのよ」とつぶやくと、心を黒い闇で覆いつくし、蔦の化け物――アイヴィデス――に姿を変えた。

 そしてアイヴィデスは全身に生えている蔦を伸ばすと、人々を絡め取り、人々の生気を吸い始めた。

 アイヴィデスの蔦でジャングル状態になった審査会場に、人々の悲鳴や絶叫が響く。

 そんな中、殉義は冷静に「ひとみさんは早くここから逃げて下さい」とひとみに言った。

 すかさずひとみは「殉義さんはどうするんですか!?」と殉義に問いかける。

 殉義は真剣なまなざしをひとみに向けて言った。

「自分は警察官です。人々を守る義務があります。それに自分はイクサバイバーです。人々を襲う『デス』を狩る使命があります。……自分のことなら心配いりません。『デス』を倒して、必ずひとみさんのところに戻ります」

 殉義はスマートセルラーの『EVOLCHANGE』アイコンをタップするや否や、スマートセルラーを通話するかのように構えた。そして「変進!」とコールすると、狼虎チャージャーにスマートセルラーをセットし、「WolfTigerヴォルフティーゲル」の機械音とともに殉義は狼虎へと『変進』した。

 狼虎は人々を捕らえているアイヴィデスの蔦をブリザーベルエッジで切り裂いていった。

 アイヴィデスの蔦から解放された人々は一目散に出口へと向かって駆け出していく。

 アイヴィデスは蔦を伸ばして出口をふさごうとするが、そこへ狼虎のブリザーベルショットが炸裂し、人々は狼虎がこじ開けてくれた出口から逃げていく。

 そして最終審査会場には狼虎とアイヴィデスだけが残った。

「お前が革命党の生き残りの『デス』を殺したのか?」

 狼虎の問いかけに対し、アイヴィデスは冷たく返答した。

「そうよ。……でも、それがどうしたっていうの!?」

「人々に夢と希望を与えるヒルーダのメンバーが、人々を不安と絶望に陥れる『デス』だったとはな……。絶対に許さん!」

狼虎はそう言いながらブリザーベルエッジの切っ先をアイヴィデスに向けた。

「『デス』は法では裁けぬ存在。ならば自分がお前に判決を言い渡す。……死刑だ」

「死ぬのはお前の方だ! 狼虎!!」

 アイヴィデスの絶叫とともに、蔦が狼虎の四肢と首に絡みついた。

「なっ……!?」

 狼虎に絡みついた蔦は、彼の首を、両腕両足をぐいぐいと締め上げていく。

「体の……自由がきかない……」

 そこへさらに、別の蔦が四方八方から狼虎の体を激しく打ち据える。

 アイヴィデスのこの猛攻の前に、狼虎は意識がだんだん遠のいていった。

(「ひとみさん……」) 

 狼虎の右手からブリザーベルが落ちた。

「これまでのようね。イクサバイバー・狼虎!!」

アイヴィデスの勝ち誇った声が最終審査会場に響き渡った。


(「ひとみさん……」)

 最終審査会場から逃げてきたひとみの耳に、殉義の呼ぶ声が聞こえてきた(ようにひとみは感じた)。

 ひとみは足を止めた。

(「まさか……殉義さんに何かあったんじゃ」)

 ひとみは再び最終審査会場へと駆け戻っていった。

 果たして、ひとみの直感は的中した。

「……殉義さん!!」

 最終審査会場へ戻ってきたひとみの目に、四肢と首を蔦で縛られ、身動きの取れない狼虎の姿が飛び込んできた。

「なんとかしなきゃ。私が……なんとかしなきゃ!」

 ひとみは狼虎の足元にブリザーベルが落ちているのを見つけると、すかさず駆け寄ってブリザーベルを手にした。

「ひ……とみさん……」

狼虎は残されたわずかな力を振り絞るかのようにしてひとみに呼びかけた。

「ブリザーベルは、イクサバイバーとなった自分だから扱えるんです。生身の人間であるひとみさんが使えば、とてつもない反動がひとみさんを襲います。……無茶はやめて下さい」

 しかし、ひとみの気持ちは少しも揺るがなかった。

「このままじゃ殉義さんは『デス』に殺される。それを阻止できるのは私だけしかいない。だったら私が殉義さんを助ける!」

 ひとみは絶叫しながらブリザーベルの引き金を引いた。

「『デス』になったトッキーなんか殉義さんにやられちゃえ!!」

 ブリザーベルショットが発射された反動で、ひとみは部屋の奥の壁まで吹っ飛び、全身を打ち付けられてその場に崩れ落ちた。

 しかし、ひとみの今の一撃は、偶然ではあるがアイヴィデスの蔦の制御器官を撃ち抜いていた。

 蔦の呪縛から開放された狼虎は、すかさずひとみのところに駆け寄った。

 ひとみは気を失っていたが、ケガはないみたいだった。

 狼虎はひとみを静かにその場に座らせると、ダッシュしてブリザーベルを拾い上げた。

「彼女の思いに報いるためにも、一気に決着をつける!」

 狼虎は『BLAST END』アイコンをタップした。

 次の瞬間、「Blast End」の機械音が響き渡り、アイヴィデスは満月の光に照らされたかのように光に包まれて動けなくなった。

 ブリザーベルに出現したクリスタルエッジの切っ先がアイヴィデスを捉えている。

「クリスタルスラスト!!」

 狼虎は体を左半身ひだりはんみから右半身みぎはんみにシフトさせると、クリスタルエッジでアイヴィデスのボディを刺し貫いた。

 そして狼虎はアイヴィデスに背を向けると、「閃壊」という死の宣告を放った。

「これで……終わりだなんて……!!」

 アイヴィデスの凍りついた細胞が、バリーンという高い音をあげて粉々になった。

 狼虎はひとみを抱き上げ、住民ホール入口へ向かった。


 その頃、ブレイゾンはヴォイスデスのスピーカーから発せられる超音波攻撃に苦戦していた。

「ち……ちくしょう……なんなんだこの音は……!!?」

(「これを喰らい続けるとやばいぜ、レッド。この音波はブレイズチャージャーの機能も低下させている」)

 烈人の耳から脳に激痛を与えるとともにブレイゾンのシステムにもダメージを与える超音波攻撃の前に、ブレイゾンは危機一髪の状況であった。

「死んじゃえ! ……死になさい! イクサバイバー!!」

ヴォイスデスの絶叫が響く。

 ブレイゾンは耳を両手でふさぎ、その場にうずくまった。

「やばい。だが……こんなところで……こんな奴に負けたくねぇ……!!」

 烈人の「負けたくない」という意志に呼応するかのように、アーマーの下の烈人の左肩が熱を帯びてきた。

 そしてプツンと何かが切れたかのように、ブレイゾンはゆっくりと立ち上がった。

「!!? どうしたっていうの!?」

ヴォイスデスは驚きの声を上げると、ボリュームを上げて超音波攻撃のレベルを最大に引き上げた。

 しかし、ブレイゾンはそんな攻撃など全然効かないとばかりに、ヴォイスデスの目の前まで近づくと、右のパンチでヴォイスデスのボディのスピーカーを破壊し、左のキックでヴォイスデスを蹴り飛ばして外に叩き出した。

 次の瞬間、ブレイゾンは全身を一回ブルっと震わせた。

「??? 何が……起こったんだ!?」

立ち上がろうとしているヴォイスデスを驚きの目で見据えながら、ブレイゾンはつぶやいた。

(「レッド? お前、今のこと覚えてないのか? ……左肩が熱くなったかと思ったら、プッツン切れたかのようにお前はあの『デス』のスピーカーを壊したんだぞ」)

「俺が……?」

ブレイゾンはそうつぶやきながら左肩に手をやった。

 左肩は、まだ熱を帯びていた。

(「……だけど、今のレッドの攻撃のおかげで厄介な超音波から解放されたんだ。一気にとどめを刺せ!」)

 リスターにうながされるかのように、ブレイゾンはブラストエンド・メモリカードをブレイズチャージャーの右メモリスロットにセットすると、光に包まれたヴォイスデスに向かって必殺の飛び蹴りを放った。

「ブレイズエクスプロージョン!!」

 ブレイゾンが5、4、3、2、1のホログラフを蹴り破るたびに「Five」「Four」「Three」「Two」「One」の音声が響く。

 そしてブレイゾンの蹴りがヒットした瞬間、「Blaze-on!」という一段高い声が響き渡り、ヴォイスデスは十数メートル先へ蹴り飛ばされた。

 ブレイゾンはよろよろと立ち上がろうとするヴォイスデスに背を向け、死の宣告を放った。

「爆散」

 ヴォイスデスは粉々に砕け散った。……死に際に謎の言葉を残して。

「私の超音波攻撃が効かないなんて……。貴様……人間じゃないのか……!!?」


 ブレイゾン、狼虎、意識の戻ったひとみの三人は住民ホール入口に集まっていた。

 ブレイゾンと狼虎は『変進』を解き、烈人と殉義の姿に戻った。

 烈人が殉義に声をかけた。

「『F-Resh!(エフ・レッシュ)』だけでなく『マリンブロッサム』も『デス』だった。……どうやらヒルーダは『デス』の集合体と言ってもおかしくはないみたいですね」

 殉義は烈人の言葉を肯定するかのようにひとつうなずくと、ひとみの方を向き、彼女の手を取って言った。

「ひとみさん。先ほどは失礼しました。……あなたのおかげで自分は『デス』に勝つことができました。ありがとうございます」

 殉義に手を握られたひとみは、興奮のあまり何がなんだかわからない状態になっていた。

 そんな殉義と、熱くなっているひとみに向かって、烈人は嫉妬まじりに「帰るぞ」と声をかけた。

 そして三人は、住民ホールを後にするのであった。


 ちょうどその頃、『Y.E.S-55』の三人は、かなえのタブレットがサキバサラ行政のホストコンピュータをクラッキングしている状況を目の当たりにしていた。

「この程度のセキュリティなんか簡単に解除できますわ」

 かなえはそう言いながら行政のホストコンピュータのセキュリティをあっさりと解除し、住人のデータベースにアクセスした。

 数分後、かなえは笑みを浮かべた。

「ブレイゾンと狼虎の正体、わかりましたわよ」

 かなえの言葉に、渚とタバコを吸っていた佐奈がかなえのタブレットに近づいてきた。

 そしてかなえは、ブレイゾンと狼虎の正体を二人に向かって話すのであった。

「イクサバイバー・ブレイゾン……本名、垂水烈人(タルミ・レツト)。年齢、20歳。住所、北西エリアZ-80地区『東西南北新科学研究所』。職業、東西南北博士の研究助手」

「イクサバイバー・狼虎……本名、藤原殉義(フジワラ・ジュンギ)。年齢、25歳。住所、南東エリアE-5地区『サキバサラ警察署職員寮』307号室。職業、サキバサラ警察署『連続猟奇殺人事件対策班』所属の刑事。階級は警部補」

 渚は満足げに大きくうなずいた。

「ま、これで、うちらがイクサバイバーをぶっ潰す準備は整ったんだけどさ……! やるか、諸君」

 佐奈とかなえは静かにうなずいた。

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