さまざまなご意見がある事はわかります
「う、宇代 向太郎。スキルは【約束された絶対帰宅】です」
「え」
今の声は誰のモノだっただろう。静まり返った広間にシンと響き渡った一文字は、おそらく全員の声を代弁しているものだっただろう。
俺も驚いたよ。呼ばれて、もらったチートが帰宅スキルって。
ここまでの四人の得たスキルを聞く限り、本人の性格とか望んでいる事に強く結びついたスーパーパワーが貰えている様子。その人の本質と言ってもいい。根源……とかいっちゃうと問題あるか。
【約束された絶対帰宅<おうちかえる> :時間も空間も越えて自宅に帰る能力。使用後は|自身を禁帯出とする無限書庫《完全引きこもり》に変化する。即時発動可。】
一回使い切りの上に対召喚防御の完全耐性まで手に入れるとか、前の四人のスキル俺にくれよ。帰らなくていいからさ、チートして凄いですさせてよ。
自分にお似合いの能力とはいえる。だって、仕事終わったらすぐ家に帰りたいじゃんね。ゲームしててもゴロゴロだらだらしてるのでもいい。何もしなくてもいい。家にいるって素敵な事よ。だけどさ、せっかく異世界にきてスキルとかいうワクワクするもの手に入れたのにこれは無いよ。他のがいい。
「……助けて……戴けないだろうか……」
「イヤよ」
真っ白な顔の王様が絞り出すような声で頼み込んだ言葉を、馬曽利さんがぶった切る。
「その、帰れるのかい。ちょっと魔物と戦ってみたかったとは思うけど、命掛けるとか真っ平だし」
九堂さんが確認してくるので、小さく頷く。
「ええと、範囲にも作用するみたいですけど、数珠繋ぎに手をつないでおけば持ち物の扱いで集団を帰還させる事ができるみたいです。強制的に異世界から呼び出して戦わされるっていう案件が増えてきて、クレームを言われることが増えた神様がスキル制の世界観に対して実装する決まりを作ったとか、コメントが書いてあります」
「それ、……真実のようです」
ブラック勤めのおっさんが保証してくれる。
「良かったぁ。期末テスト近いので、直ぐ帰れるならそのほうがいいです。あ、なんか戦争だとかで大変な人たちには悪いですけどぉ、週末には理香子と買い物いくし」
JK、もう他人事になった。早いな、彼女の中では魔王とかの話は既に終わった話か。期末近いなら家勉しとけよ。
でもね。
全てが茶番と化した戦場で、俺はさらに爆弾を投下する。
「今すぐ使う、とは言ってません」
ざわッ
「そうか、我らを助けてくれるのかっ!感謝するぞ勇者殿!」
「え、ちょっと私達のメリットないでしょ?帰りましょうよ」
魔王との戦いにチート戦力の召喚ユニットを投入したい王国側。
危険な事はしたくない日本人側。
申し訳ないが、俺にはこの帰還スキルが即時発動できる時点で危険はない。
そして、他の召喚者と違って、戻る理由も戻りたい目的も、そんなには無いんだ。なぜなら俺は彼女とか友達とかいないし、仕事も変わり映えのしない安月給のルーチンワークだし、趣味はゲームとラノベだから異世界に来れるなら、危険とか面倒とかを避けられるならぜひ冒険ごっこしたい。
そう、召喚者の中で、俺だけがこっちにいたほうがチヤホヤされる。
「せっかく異世界来たんだから、ゴブリン退治したいです」
俺は大きく息を吸い込んだ。
「仲間のピンチに駆けつけたり、盗賊に襲われてるお姫様助けたり、冒険者ギルドに登録して凄いですしたり、迷宮に潜ったり、伝説の剣抜いたり、俺を助けるために仲間が体を盾にしたり、俺が女の子助けるために身代わりになって死にかけるけど涙がポタってなって奇跡が起きたり、ライバルと一時休戦して背中合わせに戦ったり、100倍の敵に立ち向かったり、死んだはずの仲間が実は生きてて助けてくれたり、包囲殲滅したり、スライムに転生したりしたい」
ここまで息継ぎ無し。
「どういう……事だ?」
「凄い!今の彼の言葉は全て全部本心からです。魂の叫びです!いやぁ、そこにシビれるけど憧れない!」
「我々は何をすれば【約束された絶対帰宅】を使わないでいてくれるのだ!」
「仲間って俺らだよな? 俺死ぬの?」
「我が領内に盗賊などいないし、そもそも私に娘はいないぞ、どうするのだ!」
「帰りましょうよー」
さまざまなご意見がある事はわかります。
「俺を接待してください。いや、接待というと語弊があるな。接待プレイで俺に冒険を味あわせてください」
ずっと宇代君のターン!