おうちかえる
短めですがよろしくお願いします。年内に完結しますよ!
ずらりと並ぶ俺たち召喚されし日本人。
小汚いジャージの小デブとか、マッチョとかモデルみたいな人とかJKとかリーマンのおっさんとか、より取り見取り。
大理石みたいな光沢のある石造りの天井の高い広場。壁とか床には重そうな赤い布が掛かってる。
目の前にいるのは、一目で王様とわかる髭と王冠とマントの三冠王。ってか、マジで王様。
「其方たちは偉大なる神の力を借り、この神聖……」
まとめると、悪行の限りを尽くす魔族とその王から人類を救うために、異世界より勇者を招いたらしい。勝手に。
一通りテンプレな説明を聞いたあと、自己紹介をすることになった。ヤバイ。
「俺から行こう。とりあえず名前と手に入れたスキルを共有しようか。俺は九堂辰巳だ。【気功闘法】というスキルを得たようだ」
Tシャツの上からでもわかるただ者ではない体躯。鍛えられてはいるが太くはない、引き締まった肉体はいかにも格闘家という空気をまとっている。
体幹というものなのか立ち方が違うのか、横から力いっぱい押しても動かなそうな重厚な存在感。
古武術が実戦で強い事を証明するとかで、異種格闘の試合で優勝した事で話題になった男だ。
童顔系のイケメンな事と、禁止されていた異種格闘という他流試合を行ったことで破門されて泣き崩れた事とか、そのあとプロレスに勧誘されている事などでネットではバカワイイ属性として扱われている。有名人。
「おお、肉体の力の強化や、遠くに打撃を飛ばす事ができるようになるスキルですな。格闘家の其方が得たならまさしく強獣が牙を得たような物でしょう」
王の隣にいる魔法使いのコスプレしたような爺さん…いや、魔法使いなんだろうな、魔法爺さんが☆5のレア引いたゲーマーみたいな顔で頷いている。当たりか。
「あの、犬養茜です。【癒しの手】という言葉が聞こえてきました。視界のこの辺にアイコンみたいのが見えてます」
ちょこんと背伸びして自分のおでこあたりを指さしている子は、お嬢様学校として有名な学校の制服を着た黒髪ロングさん。で、すごく顔が小さい。髪の毛とか艶っ艶で天使の輪が浮いている。天使なんじゃないだろうか。もちろん天使だろう。可愛すぎる女子高生とか天使じゃないはずがない。
学校でも保健委員ですし、オンラインゲームでもヒーラーとかしてたので回復担当ならできそうです!とか小さくガッツポーズしてる仕草、超あざとい。
「本来、癒しの力は攻撃性の魔術以上の時間と、複数の触媒を必要とするもの。神より授かる癒しのスキルはそれらを不要にすると言い伝えられております。皆様だけでなく我が国にとっても大きく力になってくれるでしょう」
爺さんまた大喜び。周りにいる他の騎士コスプレみたいな人達も、おおっっていう顔してる。よほど追い詰められているのか、怪我人多いみたいだし、損耗激しいんだろうな。大当たりだ。
「馬曽利ひのえよ。【無双】ってなんなの? なんか物凄く力が強くなるとか身体が鉄より硬くなるみたいだけど、私にそういう雑なことさせる気なの?」
モデルやってる人だ。テレビで見たことある。8.5頭身とか言われてるけど身長とか顔の小ささよりショックなのは脚の長さ。となりのおっさんのネクタイピン位まで脚。じろじろ見てたら目が合ったのでサッと目をそらす。二秒以上視線があったら石になりそう。
「いやいや、無双とは人の限界を超える力と言われております。傷つくことも無くなるそうですので、女性の身ならばこそ神が与えてくださったのでは?」
冷や汗をかきながら爺さんがフォローする。後ろで降魔の砦を破る事ができそうですな、なんて話してる人がいる。純粋にパワーがあがるみたいだし、戦略的にも使い道が既にあるみたい。大当たりだな。
「日辻 陽一郎です。【真偽鑑定】というスキルです。ここまでの皆さんの自己紹介に嘘がないということが色とか味のような感覚で理解できています。すごいなこれ、日本に帰ってもこれ使えると嬉しいんだけど」
髪の毛の白いのが混じった眼鏡のおっさん。左手の指輪を見る限りこの中で唯一の既婚者か。この人は前の三人と違って普通…と思わせて一番ヤバイ。スーツについているバッチは超ブラック企業として有名な会社の物だし、魔王とか早く片付けて会社に戻らないととか言ってた。別の意味でヤバイ。
「鑑定系スキルは勇者の力とも言われております。その力で」
「あー、その前にですね」
魔法爺さんのセリフを日辻さんが遮って、爆弾を投下する。
「耳から聞こえる言葉だけではなくて。偽りそのものを感知しているようなんですわ。で、貴方と、そちらの方と、王様ですか。偉い人達なにか嘘ついていますよね。これは勘なんですが、魔王は実在しますか? 戦争の正当性はありますか? そして……戦いが終わったら我々をもとの世界に帰すっていってましたが、本当ですか?」
ざわッ
すげぇ。このおっさん、ラノベの達人か。いきなりド直球ぶち込みやがった。主人公かよ。
「無論だ!魔王は魔族を束ねて我らの国を侵略しておる! これは生存のための聖戦である。元の世界には我が国の最高の魔法の使い手であるグリンボルが確かに行うであろう」
王様がよく響く声でしっかりと宣言。そこにおっさんが迎撃。
「ダウト、ダウト、ダウト」
「ふえっ?!」
王様、可愛い萌えキャラっぽい声を漏らすけど、髭ダンディなんで似合わないこと山のごとし。
「魔王がこちらに攻めてきたのは……侵略ではない。別の理由ですね。でも、その原因にこの国は関わっている。さらに戻す方法はあなたは知らないし、グリンボルさん…ですか、そちらの魔法使いの方も現在は研究中なのでは?」
すげぇすげぇ、イエス/ノーじゃなくて、その根拠になる情報を引っ張ってこれんの、そのスキル? アカシックレコードとか参照してるの? でも手の内を晒さないで行動したほうがよかったんじゃないのかな、日辻さんストロングスタイルなの?
「そ、それは……」
魔法爺さん改めグリンボルさん。真っ青になって脂汗だらだら流してる。脇と背中もしっとりとローブの色が変わってる。
「グリンボル……それは真なのか…」
王様愕然とした表情でヨロヨロと。
「お待ちください!術式に間違いはありません。実際に使用した事がまだないだけで、理論上は可能です!テストを行うには魔力が足りないのです。自然に魔力貯蔵塔に必要な量が貯まるには二年かかるでしょう」
その言葉を聞いて召喚組はおとなしくはしていられない。二年も経ったら学校はどうなる、次の試合は、会社は、ネトゲにログインしないと家が腐るなど、様々な問題があることを告げる。
「自然に貯まるには二年かかります。ですが、魔物の体内に生成される魔石から魔力を抽出すれば、その分早めることができます。また、ダンジョンの最奥にあるオーブなら一つで一年分の魔力になるでしょう」
「真実のようですが……結局は我々を戦わせようということですね」
おっさんの声に、グリンボルさんは深々と頭を下げる。
「帰りの魔力を用意していない件には謝罪しましょう。魔法院の総力を挙げて魔力の蓄積を行いましょう。王国を守るためにその戦力を振るっていただきたい」
選択肢はあるようでない。
王国に協力するのが唯一の方法だとは思いながら、どうにも気に食わない。誰もがそんな顔をしている。
「あ、あの、すいません。盛り上がってるとこ悪いんですけど、俺も自己紹介していいですか?」
王様も騎士も召喚組も、みんな一斉に俺を見る。「空気読めよ」っていう目で俺を見る。ここでそんなことどうでもいじゃんって目で。
でもね?
「う、宇代 向太郎。スキルは【約束された絶対帰宅】です」
「え」
だって、定時で仕事終わったらすぐ帰りたいじゃんね